連載、「源氏物語をRPG風に語ろう」の第三回。

 

「左大臣家の後ろ盾」というパワーアップアイテムであるところの、正妻・葵上(あおいのうえ)。

ところで葵上にぴったりの絵画はないかと探しているのですが、これがなかなか・・

ツンデレのうえ、自分の気持ちを表現しないプリンセス、って、傍から見たら単なる恋愛不感症ってことになってしまって、なかなか絵画になりにくい気がするんですよね~

まあ「正妻」っていうところから、神々の女王にお出ましいただきましょうか・・

共通点は、誰よりも「格の高い女性」であり、浮気性の夫の妻であること。

そしてその夫からは、「妻」としては尊重されるも、それほど愛されていないこと、でしょうか。まあ似てるといえば、似てる?

 

この連載は、なぜか、源氏物語を「勇者・光大冒険」になぞらえてRPG風に語っていく謎のコンセプトです。

できれば、最初からご覧ください!

 

 

 

 

さて、そんなアイテム的にはとっても役立つ妻を得ることができた光源氏ですが、

 

葵上には葵上の事情があります。

そもそも彼女は、今を時めく左大臣家の一の姫。

そういう、「都で最も身分の高い姫」が結婚適齢期の場合、嫁入り先は通常、一つしかありません。

それはもちろん、次代の天皇である「東宮妃」。

それ以外の選択肢があったなんてまさに青天の霹靂!本人もびっくり!!

 

光源氏は帝の息子、とはいえ、いまは臣下となり「源」姓を名乗る身分。

幼いころから「東宮妃」になると思っていたプリンセスにとっては、「えっランクダウンじゃない?!」とも思えるし、

さらに結婚当初の光源氏、十二歳

葵上、十六歳

これは考えるだに辛い。

当時は当たり前のこととはいえ、十二歳で新婚初夜を成し遂げなくちゃいけない光源氏も大変だし、

十六歳にして初めての夜を、十二歳の男子と向かえなくちゃいけない葵上も辛い。

 

しかも、そんな辛い一夜を共にして二人が親密になったかといえば・・

残念なことに、16歳の葵上は、エベレスト級のプライドを誇る超絶ツンデレ属性だったのです。

いや12歳男子と16歳女子の関係がうまくいくとしたら、女子のほうがドジっ子でデレデレの時だけでしょーよ!

エベレスト級のツンツンは、さすがの光源氏でも対処できないよ、12歳だもん!!!

 

こうなってくると勇者・光源氏にとっての葵上は、「お助けアイテム」であると同時に「呪われた装備品」にもなってしまいます。

だって光源氏って、今すごく不安定な立場なわけじゃないですか。

帝の代のお気に入りの息子ではあるけれど、母を亡くしたうえ母方の親戚の身分が足りずに臣下の地位に甘んじることとなり、そしてやっと手に入れた身分が「左大臣の一の姫の夫」という立場。

だけど同時に、その光輝く美しさは自分でも意識しているし、だから自分が「勇者(主人公)」であることは重々承知している。

当然、勇者を支える勇者専用装備「光の剣」ばりの活躍を葵上にも期待していたところでしょう。

ところがこの勇者専用装備が、ツンツン属性。全然いうことを聞かない。

「話が違うだろ!」と、なりますよね。

 

ここに若い二人の不幸なすれ違いが展開されます。

 

葵上 「将来は妃となり、皇子を産んで国母ともなろうとしていたこのわたくしがっ! 臣下に落とされた男の妻にならなくてはならいなんて! しかも、わたくしより4つも下の子供だなんて、情けない・・でっ、でも、なんて美しい子供なの・・これならわたくしだって・・いいえいいえ!わたくしは好きになんてならないんだからっ! でも、彼がわたくしのことを好きだというなら・・すっ、好きになってあげてもいいんだからね!」

 

とか、いろいろツンデレなことを思いつつ、決して口には出せないコミュ障ツンデレ、葵上。

 

光源氏 「誰にでも褒められるし可愛がってもらえる勇者の僕のことを、なんで奥さんになった人だけはちやほやしてくれないんだろう・・やっぱり皇子として生まれながら臣下になんかなっちゃったから、馬鹿にされてるのかな。年上の女の人は、みんな母のように姉のように、僕のことを甘やかして愛してくれるはずなのに・・おかしいなあ」

 

基本的に自己評価が高すぎる、そして他人からの評価も高止まり状態が普通の光源氏。

 

しかも勇者・光源氏、12歳くらい。

平均寿命が40歳~50歳くらいの当時は、当然いまよりも早熟だっただろうから、まさに青春真っ盛り、というかむしろ性欲真っ盛りのお年頃。

妻が全然心を開いてくれないとなれば、当然、別のところに心が向いてしまいます。

 

そして若い二人はあっという間に仮面夫婦に。

 

葵上はさぞ、つらかったと思います。

ツンデレ属性というのはなるべくしてなるもので、というのは、彼女は左大臣家の一の姫として、ツンツンしてても必ず回りがちやほやしてくれたんですよね。

母親は皇女という血筋もあり、そして美しさも兼ね備え、知性やセンスも、次代のお妃として申し分ないものを兼ね備えたパーフェクトな女なのだから、多少ツンツンしててもまわりがかしづいてくれるのが当たり前。

だから、自分の気持ちを素直に表現する方法を知らなかった。

そして当時の人々は、気持ちを表すにはとにかく和歌です。

 

(別の次元の話として、私、和歌を通じたコミュニケーションって素晴らしいと思ってる~。このころだと基本的に万葉集や古今和歌集あたりの有名な和歌は全部暗記してる、というのが貴族のたしなみだし、その共通の知識を前提として、違う和歌を引用したり、一部を重ねたりしながら、31文字に思いのたけを全部ぶっこむ超高等コミュニケーション手段。自分の気持ちをはっきり言えなくても、誰か昔の人が詠んだ歌に思いを重ねればちゃんと通じるのってすごくよくないですか? 私もこの時代の貴族社会に生まれていたかったなあ、って、和歌に関しては、ものすごく思います。

自分の言葉で自分の気持ちを表すのはなかなか難しい、日本語という言語ならではの三十一文字異次元コミュニケーションツール、現代にも復活しないかなあ・・)

 

ところが、葵上の和歌は、源氏物語に一度も登場しない。

異常事態です。

まあもちろん、実際には後朝の歌とかを贈りあっていることは確実なので、小説に登場していないだけで詠んではいるのでしょうけれど、少なくとも読者には届いていないし、ということは光源氏にも届いていないことと同義。

つまり、葵上の気持ちも心も、まったく夫には届いていないのです。

これぞ、コミュニケーション不全。いや、まあまあ現代にもありそうな話ではありますが。

 

というわけで、葵上は光源氏にとって「左大臣家の後ろ盾」というパワーアップをもたらしますが、

「満たされない性欲と承認欲求」という呪いも同時に背負ってしまうことになります。

 

光源氏は、この呪いを解いてくれる(もっと優しくしてくれる)女性を見つけるべく、数々のアドベンチャーに身を投じることになるのです。

 

現時点での勇者・光源氏のステータス

臣下レベル 14

装備:呪われた光の剣(葵上)

獲得アビリティ:「光り輝く美しさ」「帝の寵愛」「左大臣家の後ろ盾」

背負う呪い:「満たされない性欲と承認欲求」←new