源氏物語をRPG風に語ろう、という謎の企画も今回で4回目。

さてさてどうなることやら・・

最初から読みたい、という方は、以前の記事からさかのぼってお読みくださいませ!

 

満たされない性欲と承認欲求、という恐ろしい呪いを背負ってしまった勇者・光源氏。

もう今の世の中で考えてもこれ、相当重い(笑)

 

けれど彼にはそもそも、もう一つのものすごく重い呪いがありました。

それは、「マザコン」。

承認欲求と性欲、そしてマザコン・・?・・あれ??

冷静に考えて、ふつうに、こじらせちゃった現代男性と同じなんじゃないか、という気もしてきましたが、

光源氏のマザコンはなかなか奥が深い。

ドラゴンクエストの主人公は往々にして、勇者であった父親の悲しい過去との対決を迫られたりしていますが、光源氏は絶世の美女であった母親の悲しい過去にとらわれています。

 

そんな彼の呪いの根源こそ、彼を産んで数年でこの世を去った実の母「桐壺更衣(きりつぼのこうい))」。

帝の子供を産んでいる場合、御息所(みやすんどころ)と呼ばれるのが一般的ですが、ここは桐壺更衣で通します。

有名なクリムトの「接吻」ですが、男性は情熱的に接吻しているものの、女性はまるで死んでいるかのよう。

さらにその足は崖っぷち。まさにそんな女性が桐壺。

 

というのはこの桐壺、帝の妃となったのは良かったのですが、父親が大納言どまりでこの世を去り、後宮でのお妃マウンティング争いにあっさりと敗れ去ります。

 

ところが、帝の寵愛はそんなことはお構いなしにいや増すばかり。

後宮の帝王の常として、帝は夜のお相手を指名するのですが、ほかのどんなお妃さまも差し置いて、指名されるのは桐壺ばかり。

カースト下位の更衣(お妃の中では最も位が低い)が夜ごと、帝のお相手をつとめるのだからほかの妃たちからのいじめは壮絶なものとなっていきます。

 

ここ、大事なところなんですけど、多くの源氏物語を初めて読む読者が戸惑うのは、

 

「えっ、そんなの帝の一声でどうにかならないの? 彼女をいじめるな、と、一言いえばいいところなんじゃないの?」

 

というところですよね。

帝王のお気に入りの妃は、楊貴妃ばりにえこ贔屓されて、ほかのお妃のいじめなんて完封できるんじゃないの、と。

 

でもそうはいかないのが藤原氏全盛期後宮の恐ろしさ。

そして、帝という存在の残酷さ。

 

帝は、正妻である右大臣家の一の姫君、弘徽殿女御(こきでんのにょうご)を敵に回すつもりなどないのです。

というか、右大臣家を敵に回すつもりがない。

というか、帝としてあるまじきことなのか、あらまほしきことなのか微妙ですが、このご自分の恋情、執着を、政争に影響させるつもりは全くない。

事実、弘徽殿女御はすでに男の子を生んでいるので、跡継ぎ争いはとりあえずおきません。一番力のあるお妃さまが長男を産んでいるという時点で、とりあえずは安泰。

だけど、桐壺のことは愛している。というかむしろ、とにかく抱きたい。

夜な夜な召される、というのはそういうことですから。

なんなら、昼も夜も桐壺とともに御帳台(ベッド)にこもり、出てこなかったことが問題視されるくらいですから。

相手が嫌がっていようが、身体が弱っていようが、心が病んでいようが、とにかく抱きたい。

女たちからのいじめと、こうなってくるともはやセクハラより悪質な帝の寵愛のせいで心身ともにすり減らし、なんとか実家に帰って休みたいと思っている桐壺を、とにかく、それでも、抱きたい。

こわっ!

桐壺はそれでも光源氏を産み、そしてその後3年でなくなりますが、これはもう女たちから精神的に、そして帝から肉体的に苛まれての過労死ですよね・・。

すごーく言葉を選ばずに言えば、帝にとっては、桐壺の幸せや健康よりも自分の性欲処理のほうが大切だったわけです。ああ怖い。

 

まあ、それほどまでに愛された桐壺更衣自身が幸せだったかどうかは、わたしにはわかりません。

 

そもそも後宮にたくさんいるお妃たちは、「帝の子供を産む」ということに一族すべての栄光を背負って、身分の高い姫は悲壮な覚悟とともに、身分の低い姫はかすかなチャンスに賭けて乗り込んできているわけだから・・まあ・・帝に抱き殺されるのは、妃としての誉れなのでしょう。

でも、後宮という女だらけの世界で、カースト上位の姫君たちにさんざんいびられ、しかも通らなければいけない廊下に汚物をぶちまけられるなどの全然優雅じゃない嫌がらせを耐え忍び、しかも愛して庇護してくれるはずの相手からはただただ性欲をぶつけられたんじゃあなあ・・

 

そしてわれらが勇者・光源氏は、幸薄くも美貌の母のそんな状況とは無縁に、おばあちゃんのお家ですくすくと育っていきます。

母親がすべてを擦り切らして死んでしまうと、彼に残ったのは「帝に愛しつくされ、儚くもこの世を去った美しい母の思い出」のみ。

 

これでも十分、マザコンへのフラグは立ちそうですが、さらに深いマザコンの呪いが幼き日の光源氏に襲い掛かるのです・・

 

勇者・光源氏 幼少期のステータス

皇子レベル 0(実家に力がないため実質的に戦闘力なし)

獲得アビリティ:「光り輝く美しさ」「帝の寵愛」

アイテム:「母の思い出」←NEW