キットレビュー【MENGMODEL 1/9 NinjaH2R】(ただし組まず語り) | Children's Beat

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MENGMODEL発にして初
バイクモデルの嚆矢・1/9 Ninja H2R、上陸…!
なんかこう今年はプラモ積まないって決めてる人間に対して気休めとなる年があってもいいと思う。でもそんな年は一度だってあったためしがないんだ…




正直なところ、このキットに対しての周りの反応は比較的冷静(というかむしろ「ふーん」くらいの反応)なものでしたが、もう…もう…待ってたんだからね!




発売前の情報では、1/9というスケール展開に加え、ブラックメッキ塗装やカーボンパターンをあらかじめプリントしてある他、主なパーツを塗装済みとし、一部パーツに関しては金属素材で用意するという意欲的な内容や、ミリタリーモデルを得意とするモンモデルが初めて挑んだバイク模型という背景もあり、眠っていた購買意欲をビンビンに刺激されてしまいました。べ、別にあんたのこと、嫌いじゃないし?(←テンションがおかしいんだ)



輸入キットということもあって、流通は少し遅れるかなと思っていたら、ほぼアナウンス通りのタイミングで入荷。嬉しい。





オートバイのプラモデルといえば、タミヤをはじめとする国内メーカーのスタンダードスケールとなる1/12、そして一部のタミヤ製品に見られるビッグスケールモデルとなる1/6が知られますが、1/9スケールとなるとちょっと趣が異なります。

タミヤ 1/12 Ninja H2R

かつてはイタリアのプロター(現在はメーカーはイタレリに吸収合併され当時の金型を使って時折製品の再生産がかけられることもある)が同スケールでBSAやカワサキ、それにMVアグスタやドゥカティの新旧車種を発売していた他、ここ数年では日本国内で屈指のガレージキットメーカーとして知られるモデルファクトリーヒロ(MFH)がヴィンセント ブラックシャドウやブラフシューペリアなどのヴィンテージモーターサイクルを、プラキットではなくレジンやホワイトメタルといったマルチマテリアルパッケージで少量生産していたりしますが、前者は設計が古かったり成型技術に難があったり、後者は価格が高額であったり組み上げには高い製作技術が求められるなど、どちらも初心者にとっては敷居が高いものでした。

RROTAR 1/9 Ninja ZX-7R


そこへきてモンモデルのこの意欲作・H2Rは、果たしてバイクプラモデル市場に新たな一石を投じることになるでしょうか。




マーケットには既にタミヤの1/12という「指標」が存在するので、必然的にこのキットが評価基準となります。

定価は税込20,520円。
これはモンモデルが展開する1/9オートバイシリーズの第一弾ということで、今後の展開も期待しつつ内容をみていきたいと思います。



まずはじめに所見を述べてしまうと、このキットは受け手側のスタンスによって評価は真っ二つだろうな、と感じました。






パーツ割りはその殆どがタミヤ製1/12の内容に酷似しており、1/9というサイズならではのエポックを期待して箱を開けると肩透かしをくらうかもしれません。


詳細については後述しますが、このキットにはパーツの一部に彩色を施した「ハイグレード版」と、エッチング等一部マルチマテリアルパーツを上位グレードと共有しつつ、パーツはすべて未塗装の廉価版(価格差は4000円)の2バリエーションが存在します。
画像は廉価版(税込16,200円)のパッケージ

正直なところ、このキットに対してメーカーの創意工夫だとか、組み立ての際にモデラーに「おお、これは」と感じさせるようなエポックメイキングな仕掛けは特に見当たりません。
もちろんまだ組んではいないので、実際に作ったらそういう気持ちになる仕掛けがどこかにあるかもしれないのですが…
だからこのキットを書面通り「タミヤのキットをおっきくしただけじゃないか!」と受け取ってしまう人に対しては、全く訴求力も魅力もない(と言ってしまうと身も蓋もない話だけど)内容に映るかもしれません。






しかしながらこのキットには、あくまでも個人的な感想になりますが、大きな旨味を秘めた存在価値があると思います。



H2Rというバイクのキャラクター上、「実車のメッキ塗装とカーボン地剥き出しというエキセントリックさが特徴のボディパーツが、ユーザーが自身で表現するにはハードルの高いブラックメッキとカーボン調表現をキット状態ですでに再現してある」というのは、このバイクの場合それだけで大きなセールスポイントとなり得ると思います。
自分で塗装で再現するとなると、エアブラシを持たないユーザーにはそれだけで手も足も出ませんから…


決定版といわれるタミヤのキットにしてからがただのプラパーツ一色で成型されており、「カッコいいH2Rがほしいけど、自分ではメッキ塗装もカーボン表現もできないよー」というユーザーに向けての、「じゃあうちのメーカーがそういうのを作ったよ!」という、これは明確なアピールポイントになりえます。


そして、これは少数派かもしれませんが、1/9というビッグスケールゆえ、このキットは極上の「素材」となり得る可能性を秘めていると言えるのです。
1/12スケールでは躊躇してきた、数々の改造工作が、このサイズならば可能となる。

例えばボルト頭の再現が、1/12の場合ただの凹穴であればよかったのが、1/9になることによりプラスネジなのかそれとも六角穴ネジなのかという要素が盛り込めるようになるからです。


かつて手がけた1/12では、例えばステアリングダンパーのローレット加工など、どうしても自作では再現不可能と思えた部分が数多くあって、「ありえない話だけどこれが1/9とか1/6とかで出てくれないかなー」と密かに思ったりもしてました。

その「ありえない話」が現実になったのですから…これは買うしかない、と。





では一緒にキットをみていきましょう。
あんまり売れ筋の商品じゃないと思うので、ちょっと貴重なキットレビューだよー……きっとね…たぶんね…



まずパッケージですが、実車写真があしらわれ、エブロの一連のインジェクションキットシリーズと同じく艶消しとされた仕上げは高級感も感じさせるもの。
なお、モンモデルは中国のメーカーのため、この商品はビーバーコーポレーションを始めとした国内代理店を通じての輸入品となります。ゆえに外箱の潰れや汚れに関してはある程度目を瞑る必要はありそうです。


ではいざ開梱………どきどき。


蓋を取ると中身はこんな感じ。
H2Rのアイデンティティでもある真っ赤なスーパーチャージャーユニットのパーツやトレリス(パイプ)フレームに施されたグリーンの塗装が目を引きます。
さも大切そうにランナー最上段右端に載せられているのは、セールスポイントの一つでもあるブラックメッキ処理された外装パーツが収められたランナー枠。



もう一つのアピールポイントでもある、カーボンプリントが施されたというカウルやダクト類は、箱の左端に化粧箱に収められてセットされます。
こうした心遣いからはさりげないメーカーの良心とともに、パッケージに対する自信のほども伺うことができて期待値が高まります。


中にはスポンジをくりぬいた緩衝材に2段になって納められた、肝入りのパーツ群が鎮座。
アッパーカウルの、通常のバイクでバックミラーが取り付けられる部分にセットされるフィレット(ウィングの目的を果たす空力パーツ)には、左右対称にカーボンの目地がプリントされます。が。



フロントカウルは本来中心部分は縦方向に、そして左右方向は正面から見て「ハの字」方向になるように、面によって目地の方向を変えた凝ったカーボンパターンが刻まれるのですが、このキットでは残念ながらカーボンの目地の向きまでは再現されておらず、同一方向とされます。
しかしながらカーボン独特の質感は非常に雰囲気良く再現されており、細かい点を気にせず完成状態を見てみたいと思わせる魅力ある仕上げとなっています。

ここは実車同様にウレタンクリアーでコートしてテロテロの光沢フィニッシュとしても良し、もちろんこのままセットしてカーボンの異素材感を愉しむも良し。





このキットの白眉となるもう一つの特徴、ブラックメッキパーツはこんな感じ。
黒っぽいメッキ塗装が施され、実車を取材したカナルの記憶と照らし合わせても文句なしの再現度を誇ります。
パーツ表面にヒケも見当たらず、H2Rの大きな魅力でもある銀鏡塗装を、もっとも実車に忠実な状態でディスプレイすることが可能。
これは以前苦労しいしいメッキシルバーNEXTで塗装した身にとっては、感涙ものです。

しかし……



忠実にタミヤキットを参考にした弊害なのか……わざわざアンダーゲート方式まで投入しておきながら、なぜかフロントフェンダーが漢らしさ満点の左右割り構造!
ここまでやっておきながら、なぜここの設計をもっと頑張ってくれなかったんだ…

少なくとも正面からみたらテーパーはかかってないんだから、ここはランナーに対して上方向に抜くとかして、せめて前後割りにしてくれたら…


一方のタンクは見事な1ピース構造だろ!(笑)
頑張ればなんとかできるだろ!



トレリスフレームには、これも実車を模したグリーン塗装がプリペイントとして施されます。
実車ではこの部分はパールグリーンですが、このキットでもそれっぽい色で塗られています。
実物は分厚いウレタンクリアーが吹かれたかっちりした質感なので、ここは手間を惜しまず塗装にこだわると更に完成度が高まりそうです。



ちなみに、タミヤのキットでは抜けてない、ヘッドパイプ直後のトラス部分はこのキットではしっかり抜けているのも地味にポイントが高い。
これだけスペースにキャパシティがあれば、実車同様の各種補機類をここに詰め込めそうです。
(補足:実車のこの部分にはABSブレーキシステム作動用のユニットが搭載されるのだが、タミヤの1/12ではカウルとのクリアランスの問題もあり、実車同様のサイズのユニットを自作してもここに収めるのは至難の技である)


ちなみにタミヤのキットはこちら↓
まぁここ、完成するとほとんど見えなくなるけど…。





エグゾーストパイプとレーシングスタンドのパーツが収められたランナーはメッキコート(こちらのメッキは見慣れたシルバーメッキ)されます。

さすがにエキパイのレインボー焼け(テンパーカラー)表現までは厳しかったか。



エンジンパーツのランナーはガンメタル塗装。
裏面を見ると、元のプラパーツ状態は黒ランナーであることがわかります。
こうしてパーツがランナーに付いたままの状態で実際に貼り合わせた際の精度を知ることはできかねますが、プロターの製品のように成形不良でモールドの一部が欠けたりすることもなく、須らくシャープな造形を見てとることができます。
ランナーの角度を変えて検分してみても、表に出る部分での塗装の吹き漏れなどもなさそうで好印象です。

しかし残念なことに、パーツ点数を抑えるためか、それともタミヤキットを習作としたためか(おそらく理由は後者)、クランクケースカバーなど、組み上げた状態では縦方向となる面にあるボルトヘッド部分が、タミヤ同様簡略化されたモールドとなっている点が…惜しい。
個人的には組みやすさよりも、1/9のスケールメリットを活かしたパーツ割りをしてほしかったなぁ、と。そのために定価がさらに上がったとしても、カナルは買うよ!(でもきっと高すぎて売れない)



モンモデルのこのキットで頑張った点と残念な点が同居してるのがこのランナー。

ちょっとマスキングが甘いながら、自分でマスクすると大変なチェーン、そしてH2Rの塗装でネックとなる星型形状スポークを持つホイールのプリペイント処理は、ユーザーにとっては嬉しいポイントではないでしょうか。



でも…なぜだ……ここまでやっておきながらなぜ……
なんで肝心のフロントフォークアウターとアンダーブラケットが、前後貼り合わせのモナカ設計なんだよぅ!


残念すぎる…

参考:同じ部位のタミヤのランナー↓

このパーツはブラケット部分とフォークアウターを分離して、フォークアウターを金属パーツに置き換えたいところですが…代替え品となるパーツはなさそう…まさか旋盤から削り出す…とか?



2020.1.21.追記事項

上記のフロントフォークパーツですが、このキットのリリースから程なくして、純正ディテールアップパーツセットとしてラインナップされました。

このフォークキット、クオリティはタミヤのそれと変わりません。
問題は非常にコストパフォーマンスが悪いということ。

この内容で定価6,600円はいくらなんでも高過ぎます。しかし背に腹は……というのもまた事実。


他にあと2枚ランナーが入ってますが、まんまタミヤのコピーなので省略します(笑)


クリアーパーツもちゃんと一部塗装済み。
クリアーパーツの透明度も高く歪みも見られません。
1/12のH2Rを作ってた時はスクリーンをバキュームフォームで自作しましたが、1/9スケールだと逆にこのくらい厚みがあったほうがリアリティはあると思います。
リアのストップランプの一部赤塗装部分も、地味に塗り分けを強いられるところがこうして塗装済みなのはまありがたいのです。



箱の一番下には、このパーツたちが収められています。
そうそう、言い忘れましたがこのキットは組み立てに接着剤は使用しないスナップフィットキット(しかしネジは使う)。


リアショックユニットのバネがきちんと彩色されていたり、専用のドライバーも同梱されていたりと、ここら辺にメーカーの良心を窺い知ることができます。


良心といえば、全く予想だにしていなかったものが同梱されていました。
メーカーロゴが誇らしげに印刷された、なんと付属のメッキパーツ磨き用の布!!

天下のタミヤも(1/6シリーズは存じませんが)、ここまではしてくれないぞ。モンモデル万歳。


そしてもうひとつ、素晴らしい出来なのがエッチングのフロントエアダクトのルーバー(の黒塗装仕上げ)、そして0.6mm厚とされたステンレス製前後ブレーキローターパーツ。
ブレーキローターのパッド当たり面はサンドブラスト処理仕上げとされます。
通常のエッチングパーツのようなツルツルの表面処理でないため、モーターツールに咥えて回転させながら、ブレーキパッド痕の擦過表現をせずとも実車に近い質感が表現できるのです。
さらにはブレーキのインナーローターとアウターローターを繋ぐ(構造を持つ)フローティングピンも、厚みを変えてさらにそこの部分はサンドブラスト加工を省いてあるなど、AFVで培ったと思われる金属パーツの豊かな表現に心奪われ……




リムストライプやカウルのデカール、そして一部のボルト頭を再現できるようにエンブレムと同じシートにセットされたインレットマークや、一部パーツ用のカーボンデカールまでが網羅され、キット全体を評価するとかなり充実した内容となっています。


一部の海外メーカーに見られるような不明瞭さが散見されることもある組み立て説明書に関しても、このキットではCGを使用したフルカラー版で製作されており、見やすさは抜群です。




まだシリーズ1作目ということで、おそらく今後も何車種かはラインナップされると予想されますが、このメーカーが今後このタイトルをどう育てたいのかは、二作目以降を見てみないと見えてこないかな、という気持ちはあります。

まだ今作を検分した限りでは、タミヤのキット以下でも以上でもないものに留まっているという印象を受けました。

しかし、それを良い方向に考えるならば、組み立てやすさの面までもがタミヤクオリティのそれに準じているとしたら…それだけでこのキットの価値はボトムアップされるといえるのでは?

それはいつかその時がきて、組み立てる時にまた確かめてみることにしましょう。



とりあえずこいつは用意しました。
やっぱりオートバイ模型にとってチェーンは重要なアピールポイントですから、チェーンの金属化は外せません、などと偉そうなことを書きつつ、実はプロターのZX-7R用に手配しておいたこのチェーンキットを、今回投入する決断をしました。

これとあと、フロントフォークアウターの金属パーツ化の問題がクリアーできた日には、現行モデルのビッグスケールオートバイシリーズでは出色の出来栄えとなるタミヤ1/6アフリカツインを凌ぐ緻密なH2Rを再現することが可能となるかも知れません。


というわけで、苦手なキットレビュー記事をたまにはと思い、書いてみました。




個人的には、このシリーズでいつかMotoGPマシーンが見てみたいと思ってます。
そのためには…このH2Rもそこそこのセールスがないと…ねぇ(笑)