だいぶお休みしてしまいました。
ここ数ヶ月、スマホの画面を長時間眺めていると軽い目眩を覚え、長文を打つのが辛くなるという症状が出るようになっていました。
なので、この記事は1ヶ月近くかけて少しずつ書いてきました。
YZR500は最終のクリアーコート工程でものの見事に失敗し、(精神の)長期休暇からようやく立ち直ったところ。
5月頃から気晴らしにと軽い気持ちで手を出したモンモデルの1/9 H2Rのほうが先に完成しました。
意外と難航した完成までの道のりを記事にまとめましたので、よかったらお付き合いください。
さぁ、H2R。
一言でいえばとにかくゴージャス。
ほとんどが彩色済みのパーツに、カウルにはメッキ加工。
化粧箱に収められたアッパーカウル、それにエアダクトやインナーカウルはカーボンプリント済み。
組み立て説明書は厚手の紙に印刷され、クローズアップ写真もふんだんにあしらわれた、さながらカタログのような趣き。
その他、ブレーキディスクとエアダクト用に用意されたエッチングパーツやカウルの磨き布に至るまで、至れり尽くせりな印象でした。
しかし同社の1/24ハマーの前評判を聞いていたので、こいつはきっと一筋縄ではいかないに違いない…と言い聞かせながら作り進めていきました。
【総評】
定価2万のキットだからこそ、タミヤの1/12に対してなんらかのアドバンテージを期待するのは当然です。
そして単純にその期待感「だけ」を胸にキットに向き合い、プリペイントかつスナップフィットキットならではのイージーアッセンブルを期待して製作に入ると見事に肩透かしを喰らうのです。
キットの材質は、ランナーに表記がないのですが恐らくABS製。
このプリペイントモデルでは感じませんでしたが、通常モデルではかなり離型剤がパーツ表面に残存しているようで、製作前に入念に洗浄したほうが良さそうです。
パーティングラインは目立たない場所に配置されている上、アンダーゲートも要所に採用されているので、組み立ての感触は好感が持てます。
ゲート跡は総じて太めなので、アートナイフ等で丁寧に処理しました。
通常モデルでは豪快にセンターに存在するというエキパイのパーティングラインですが、このプリペイントモデルでは下地処理がなされた後にメッキ加工が行われているようで、組み上げた後もほとんど気になりません。
タイヤとシートに用いられる合成ゴムは経年変化に対する耐性ががやや弱めのようで、購入後1年して組み立てに入った時点で、タイヤ表面に荒れが確認されはじめていました。
気づいたのが組み立て後だったので処理を諦めましたが、UVカットクリアーのような目止め(+表面処理)をしておいたほうが、後々安心かも知れません。
かなり大雑把にまとめると、H2Rで鬼門となるホイールまで含め面倒な部分の塗装は最初から終わっているため、「とにかくデッカイH2Rがほしい!」と思える人は、純粋に組み立て工程を楽しめる分、満足することができると思います。
答えは塗装にあり。
今回はかなりの量の時間を塗装に費やしました。
こんなはずではなかったと言い聞かせながら。
野暮ったい緑色でペイントされたパイプフレームをメタリックに塗り直し、左右割りのメッキフェンダーの合わせ目をなんとかし、モナカ割りのフロントフォークを金属製のDPに入れ替え、エキパイをテンパーカラーで焼き、一体成型のチェーンを可動式のエッチングパーツに変更、カーボンプリント柄のカウルをデカールとウレタンクリアーでやり直し、あーでもないこーでもないと納得いくまで手を入れて、初めて自分だけのH2Rが手にできるのです。
そしてこのキット、スケールは1/9です。
見慣れた1/12のバイクキットと比べると、1/9というスケールはやはり大きい。
この手のキットに共通の問題として、そのまま組むと妙にトイライクな、やや大味な完成品ができあがります。
では、せっかくのプリペイントモデルなのに自分で塗装せねばならず、どこか物足りなさすら感じるのに2万もするこのモンモデルのH2Rはダメキットなのか。
答え:H2Rが好きなら買い!なのです。
このキット、形状の再現度は完璧です。
ランナーを眺めてすぐに気付くのは、このキットは決定版と名高いタミヤの1/12 H2Rを(善くも悪くも)忠実にトレースしていることです。
よってバイクの形状に関しては100%の正解が出ており、組み上がったらなんか似てないんですけどな憂いを感じる心配は皆無。
パーツ同士の合いに関しても、ほぼ合格点を与えることができます。
問題はネジ穴の精度。
指示通りの付属ネジ(径と長さ別に6種のネジが同梱される)で締め込んでいくと、最初からまったく締め込めない(緩い)とか、長さが足りずに固定できないというケースが頻発します。
フレームや足回りはまだなんとかなります。
しかしフルメッキパーツとなる外装関係になると、ここに輪をかけてメッキでネジ穴が埋まっていたりするので、注意する必要があります。
無理をしてドライバーの先端がドリフトしたり、バカになったネジ穴に瞬着を流し込んで固定しようなどと足掻き出すと、想像するだけで恐ろしい結末が待っています。
ひっかき傷や瞬着の白化など、このキットの命ともいえるメッキがダメージを受けてしまうのです。
このアクシデントに一発でも見舞われたが最後、モチベーションが崩壊し2度と立ち上がれないでしょう。
輸入キットのためパーツ請求もおそらく困難。
ゆえに仮組みは慎重かつ確実に行う必要があります。
しかしそれらの苦難を乗り越え、見事完成まで漕ぎ着けた暁には、実車の持つアイデンティティを極めて精密に再現したH2Rが机上に出現することは保証します。
完成したときのサイズ感も含め、H2Rのプラモデルでモデラーが実現させたいことをすべて可能としてくれるキットだと思います。
今回はカナル自身の想いを100%反映させた作品を作り上げることができ、完成後、毎晩余韻に浸っています。幸せ。。
そう、これは本当に美しい作品なのです。
カーボン&銀鏡塗装のカウル、青く焼けたチタンマフラー、心臓に抱いた真っ赤なスーパーチャージャーユニット、そしてそれらを身に纏ったエッジの利いたボディワーク……
これらすべての要素が、H2Rを模型にした際に非常に魅力的で他に類を見ないモチーフであることに、より一層の付加価値を与えているのです。
プリペイントモデルというのは、あまり日本では人気がないように思います。
そりゃモデラーとしては自分で塗りたい人が大半でしょうから……
しかしこのH2Rに限ってはメリットしかないと言ってしまいましょう。
では、いくつか手を加えたうち、主だった部分について書きたいと思います。
【フレームの表現】
このキットで最初に手をつけたのはフレームの塗装です。
実車の色は、光の当たり加減によって黄色くも見えつつ、影となる部分では鮮やかさを保ったまま新緑の深みを感じさせるキャンディグリーン。
大きめのパールフレークを含むことでインパクトある発色を実現しているのですが、このスケールでパイプフレームのような細い対象物を同じレシピで塗装すると、ややオーバーエフェクト気味に感じます。
この独特の風合いを再現するため、まずは輝度が高めのシルバーでベースを作り、次いでクリアーイエロー→クリアーグリーン→蛍光イエローグリーンの順に塗装しました。
下に塗ったクリアーイエローをパイプフレームのハイライトが当たる部分に意図的に残すように、クリアーグリーンをカラーモジュレーションの要領で主に影となる部分を狙ってオーバーコートすることで、擬似的に実物に近い見え方を再現できます。
ここに蛍光色を重ねることで、蓄光された光が下地の色に鮮やかさと深みを加えてくれるので、どのくらい塗り重ねるかで色味の調整が可能です。
フロントフォークにはモンモデル純正DPを投入。
質感は圧倒的ですが、カウルを被せてしまうとほとんど見えません。
H2Rはストリップ状態(カウルを外してフレームが剥き出しの状態のこと)で展示しても非常に立体映えのする模型のため、そうした展示を想定している場合にはマストアイテムとなるでしょう。
アウターチューブはクリアーブラックを薄く吹いて、トーンを落ち着かせました。
インナーチューブにはDLCコートの擬似表現としてハセガワの偏光フィニッシュシートを巻き、フォークレッグにはホイール回転数検知センサーを追加しました。
【チェーン】
チェーンはMFHの可動式に入れ替えました。
治具がないので、組み立てに苦労しましたねー…
チェーンパーツは1/9で1/12と同じパーツ成型をしてしまうと、密度感がガタ落ちになってしまいます。
古のプロターをはじめ、このスケールのバイクモデルには(良し悪しはあれど)1コマずつ組み立てる可動式チェーンが採用されるケースが多かったのですが、このモンモデルのキットはスプロケットと一体成型というイージーアッセンブルを優先した結果なのか(もしくは何も考えていなかったのか)、タミヤの1/12と同じやりかたでパーツ化してきました。
単体で見ると決して悪くは見えないのですが…
まるでベルト駆動のハーレーのような味気のなさよ…
戦車にとっての履帯がそうであるように、バイクモデルにおけるチェーンというのは、それだけで全体の印象を左右するほど重要なパートなのです。
MFHの組み立て式チェーンセットは1/9では現行品で唯一の選択肢といってよく、高価であると同時にきれいに組むのが難しいパーツではありますが、このキットを組むのであればぜひ使用したいセットと思います。
さて、組み立て式のチェーンを作ったことのある方なら「スプロケット(チェーンが噛み合う歯車)はどうしたのか?」と疑問に思うかもしれません。
最初はチェーンと一体成型されたキットパーツからスプロケットだけを切り取って、足りない歯先をプラ材で再生しようと考えました。
しかし、最初からモールドのある部分に組み立てたチェーンを当ててみたところ、まったくと言っていいほどピッチが合いませんでした。
ならば新造するしか…
で。
工作用にいろんな歯数の歯車がアソートされたセットの中から、径がちょうどいいものを2つ選び出し(ドライブとドリブンの前後用)、厚みを薄くスライス、歯先もそこからさらに薄く山型に削り込んでいって、アウターリング部分のみを新造。
中央部は縦方向に、左右の面は対称に斜めに目が入る凝った意匠となっています。
これをカーボンデカールで再現します。
面の分割はタミヤの1/12 H2Rに対応するアク・ステオン製カーボンデカールを参考にしつつ、マスキングテープを型紙にして、汎用のカーボンデカールに写しとっていきました。
使用したデカールはMFHの「カーボンデカール ブラック&シルバー TYPE 2」というもの。
繊維の目の大きさがキットのプリントパターンとほぼ同じで、カウル以外のダクトやインナーカウルはそのまま使用するため、これを選びました。
ぬるま湯どころか冷たい水でも30秒ほどで台紙からずれてくれる他、ドライヤーはもちろんマークソフターにも耐えてくれるため、使用感は抜群です。
カウルを18面に分割し、隙間ができないようにセンター→サイドの順に貼っていきました。
このスケールで繊維の目の角度が左右で違うと、人間の目はすぐに「ズレ」を感じ取ります。
少しでも違和感を感じたら自分の感覚を尊重し、納得いくまでやり直しました。
ラッカークリアー→水研ぎを繰り返してデカールをクリアー層で封じたのち、ウレタンクリアーで塗膜の厚みを一気に稼ぎました。
ウレタンクリアーはフィニッシャーズのGP1を使用。
ウレタンクリアーは使用に際していくつか注意事項があるため、決められた用法・容量を厳守し、正しく使用する必要がありますが、ここぞという場面で効果的に用いれば、圧倒的な光沢感を得られます。
今回は付属のシンナーで希釈することはせず、主剤と硬化剤のみを指定比率で混合、室温で24時間乾燥させたのち、3Mスポンジヤスリ2種(ウルトラ&ミクロ)からのバフレックス3000→タミヤの研磨ペーパー(薄緑→青)、タミヤコンパウンド3種→ハセガワのセラミックコンパウンドと研磨していき、最後にスジボリ堂のガラスコートを塗り込んで完成としました。
タミヤコンパウンドは赤蓋の「荒目」での研磨工程にもっとも時間をかけ、徹底的に磨き上げました。
今回はスケール感を鑑みて、あまりシャープな平面を出すことには拘らず、「ヌメッ」とした肉持ち感を優先して研ぎ出しを行っています。
普通のバイクだとバックミラーが取り付けられる場所に、H2Rは空力パーツである「羽根」を持ちます。
ウイングの角度は、キットのままだとほぼ水平に固定されることになります。
ここは少しだけ上半角を付けて固定することでツラ構えが精悍になります。
具体的にはウイング根元の突起ではなく、受け側の差し込み口の方を少しだけ削り込むことで、強度を確保しつつ角度を変更しました。
画像では確認しにくいですが、エアダクト内には実車よろしくキッチンペーパーを仕込んでエアフィルターも再現してみました。
まだ素材の選定が適切とはいえなかったり、バイク模型のポイントを外した設計も散見されたこのキットですが、じっくり腰を据えて組み上げる楽しみは、他のキットにはないこのモデルだけのものがあると感じました。
後発のH2では、細かい部分でブラッシュアップも見られますので、2台組み上げて並べるのもまた得難い体験になると思います。
今回は最後まで記事をお読みいただき、ありがとうございました。
また近いうち、今度はYZRの完成記事でお会いしましょう。