祈るまえに、恋をして。 -20ページ目

祈るまえに、恋をして。

ときどきぽつりと更新。

$祈るまえに、恋をして。

大阪に出向いたのは
気まぐれに。

興味のあった店が
たまたま兄のいきつけで
その一席があるから
行こうか?と
お誘いをうけてのこと。

大阪の心斎橋で
待ち合わせね、と言われて

夕暮れの御堂筋を
ひとり歩き
兄の姿を探した。

あれれ?どこですか?と
思ったところで
久しぶりに兄の姿を見つけて
小さく小ぶりに手をあげた。

不思議なことに昔から
この兄と待ち合わせる時は
恋人に会うような気分。

大阪マダムに負けない
ちゃーんと
わたしは
おしゃれさんだ。

黒のチェスターコートに
デニムを合わせて現れた彼は
その昔、ファンクラブが
あったという人で
今もなお、すらりと端正で
おされなおっさんになっている。

年をとっていく
エグチヨースケ的
種類の人だ。

この兄にわたしは
小さな頃こそいじめられたが
年頃になったころには
とても可愛がってもらった。

初任給で妹に
ワンピースを買うのが夢と
語った彼は約束通り
わたしを連れて銀座を歩いた。

ことあるごとに私を
連れ歩く兄に
父は真面目に
恋愛感情があるのでは
と危惧したほどだ。笑

大学時代なんて
渋谷に暮らすわたしの部屋に
酔っぱらって訪れ
そのまま一緒のベットで
ぐーすか眠った思い出もある。

「そんな男と付き合うのは
やめなさい」と兄から言われたら
さっさと別れてもいた。

まぁ、立派な
ブラコン。

久しぶりの再会で
こんなにウキウキ
するんだから。

お食事をしながら
仕事のこととか
きしんちゃんの近況報告とか
他愛もないはなしを
笑いながらして

でも肝心のことは
きっと兄も私も話せないまま
お食事がすすむ。

わたしは20代で離婚してから
自分の恋愛に関するアレコレや
生活のアレコレを
兄には話していない。
結果、仕事を辞めたことなども
一切を話していない。
心配かけちゃうからね。

だから当然
今を一緒に生きる
リキシの存在についても
一切話をしていない。

でも、リキシのことは
この兄には報告してもいいかな
と新幹線の中で考えていた。


ホテルのラウンジに場所を移し
最初のコーヒーを飲み干す頃

「これから、定年退職するまで
働くつもりでいるの?」

そう兄が聞いてきた。

そんなビジョンはないなぁ
と答えてると、兄が言う。

「再婚しないの?」

わたしの目が泳ぐ。
ゆっくりゆっくり
兄の視線をはずして
「ちゃんと、いるよ」

とだけ答えた。

あぁ、そうか、良かった。
兄はそう言いながら
何度か頷いて
コーヒーのおかわりを断り
じゃ、もうそろそろ
行こうかと伝票をつかむ。

この兄は妹に『女』を
感じるのが苦手だと
そのむかし言っていたっけ。
新しい年を迎える時は
今年の目標はぁと
設定するもんだと思っていた、ケド。

今年は何にも決めていない。

あえて言うなら
適度にぷらぷらすることぐらい。

こんなに時間が
あるんだから

「習い事とかしなきゃ
もったいないかしら?」
と半ば義務感を伴って
真剣な顔つきで
リキシに尋ねたことがある。

なーんにもしてない自分の
自由とか余裕に
時々罪悪感が
襲ってくるんだもの。

フロントラインに立つ
サラリーマン生活。
スケジュールを埋めるのが大好きで、
時間から時間へと渡り歩き
効率と有効性だけを追求する
“とらわれ”がこの期に及んで
まだ顔を見せるのだ。


「あのさぁ、会社やめて
1年まだたってないでしょう?
なぁぜ君は“なんにもしないっ”
てことを楽しめないの?
この贅沢を楽しみなよ」

と言われ。

わたしの顔に
習い事の徒弟関係は
今はまだ、めんどくせーと
書いていたにちがいない。

「そうねーそうねー」
気持ちが楽になって
この春を迎えた。

なんにもしないって
チョーっしあわせ。



「そんなことより
その体を立て直しなさいよ」

と、言われる通り
12月からの体調は
ベットに横になる機会も多く
痛みで七転八倒するような
夜もあって超低空飛行。

人は肉体に宿っている限り
精神だけを豊かしようたって
出来ないわなぁなどと
つらつら考えていたりした。

目は美しいものを映るようにし、
耳は奏でる音に酔いしれ
鼻は香りを楽しむ
体調を整え、五感を受け止め
人と人との交流を
豊かに楽しめたら
それってしあわせだなぁと
しみじみ思うのだ。

そんなわたしも2月に入って
元気になっている。

体調がいい日は
おいしいチョコレートを
探し歩き

向こうから飛んでくる
カラスの低空飛行に
ナニゴトカ?と観察すれば、
でっかいネズミを
足に掴んだまま
飛んでいるのに
ひぃぃと震えあがり

La Farineのロールケーキ
と焼きたてのフィナンシェを
売り切れ寸前手に入れて。

すぐ後に駆けこんできた男性が
尊大な物言いで言う
「売りきれちゃってるよぉ(怒)」
という言葉を聞きながら
ガッツポーズで
お店を出てきていたりする。


日常は綺麗なことばかりでは
まだないんだけど
味覚中心だけど
五感で受け入れ
生きているのは
確かなことで
それはとっても楽しい時間。

この春
わたしは元気です。
祈るまえに、恋をして。

ぷらぷらと
立春を前に来たのは
奈良 唐招提寺。

リキシがご縁を感じる
鑑真大和上。
この日本の国家たる基本構造に
多大なる影響を与えた偉業たるや
ここに語る必要もないだろう。

その鑑真大和上の御許を訪ねた。

リキシの奈良にまつわる
若き日の思い出を
「根ほり葉ほり」
ほじくっていた。

こーいう時のわたしは
彼の表現いわく
“くっちゃくっちゃ”と
妄想をまじえ
ひとり物語を
えんえん語っているらしい。

そんなわたしも
境内に入れば
なんとなく
言葉少なになり

祈るまえに、恋をして。

祈るまえに、恋をして。

空気が一段と静けさを増す
御廟を前に
お祈りを捧げ
静かにその場を
あとにした。

ここにね、
鑑真和上坐像が
あるんだよ

ここでお茶会があってね。
昔招待されてよく来たなぁ。

ほぉぉぉ。
それはその
年に一度関係者だけが
入れる開山忌舎利会の
唐招提寺献茶式。

ふーんふーん
5年目を迎えたわたしたち。
またまた私が知らない
リキシの姿を見つけて。

「わらしも行きたいぃぃ!」
と言いかけた・・・んが
“わたしもほしい”病は
鑑真和上の前では
はしたないと
言葉を飲んで

「そうなのぉ」と
にこやかに頷いた春の日。

わたしたちのもとにも
新しいお年がやってきた。