
大阪に出向いたのは
気まぐれに。
興味のあった店が
たまたま兄のいきつけで
その一席があるから
行こうか?と
お誘いをうけてのこと。
大阪の心斎橋で
待ち合わせね、と言われて
夕暮れの御堂筋を
ひとり歩き
兄の姿を探した。
あれれ?どこですか?と
思ったところで
久しぶりに兄の姿を見つけて
小さく小ぶりに手をあげた。
不思議なことに昔から
この兄と待ち合わせる時は
恋人に会うような気分。
大阪マダムに負けない
ちゃーんと
わたしは
おしゃれさんだ。
黒のチェスターコートに
デニムを合わせて現れた彼は
その昔、ファンクラブが
あったという人で
今もなお、すらりと端正で
おされなおっさんになっている。
年をとっていく
エグチヨースケ的
種類の人だ。
この兄にわたしは
小さな頃こそいじめられたが
年頃になったころには
とても可愛がってもらった。
初任給で妹に
ワンピースを買うのが夢と
語った彼は約束通り
わたしを連れて銀座を歩いた。
ことあるごとに私を
連れ歩く兄に
父は真面目に
恋愛感情があるのでは
と危惧したほどだ。笑
大学時代なんて
渋谷に暮らすわたしの部屋に
酔っぱらって訪れ
そのまま一緒のベットで
ぐーすか眠った思い出もある。
「そんな男と付き合うのは
やめなさい」と兄から言われたら
さっさと別れてもいた。
まぁ、立派な
ブラコン。
久しぶりの再会で
こんなにウキウキ
するんだから。
お食事をしながら
仕事のこととか
きしんちゃんの近況報告とか
他愛もないはなしを
笑いながらして
でも肝心のことは
きっと兄も私も話せないまま
お食事がすすむ。
わたしは20代で離婚してから
自分の恋愛に関するアレコレや
生活のアレコレを
兄には話していない。
結果、仕事を辞めたことなども
一切を話していない。
心配かけちゃうからね。
だから当然
今を一緒に生きる
リキシの存在についても
一切話をしていない。
でも、リキシのことは
この兄には報告してもいいかな
と新幹線の中で考えていた。
ホテルのラウンジに場所を移し
最初のコーヒーを飲み干す頃
「これから、定年退職するまで
働くつもりでいるの?」
そう兄が聞いてきた。
そんなビジョンはないなぁ
と答えてると、兄が言う。
「再婚しないの?」
わたしの目が泳ぐ。
ゆっくりゆっくり
兄の視線をはずして
「ちゃんと、いるよ」
とだけ答えた。
あぁ、そうか、良かった。
兄はそう言いながら
何度か頷いて
コーヒーのおかわりを断り
じゃ、もうそろそろ
行こうかと伝票をつかむ。
この兄は妹に『女』を
感じるのが苦手だと
そのむかし言っていたっけ。


