お互い
交わることのない
道を歩きはじめたことを
自覚していても
どこかで
わたしは彼を探し
彷徨っていたように思う。
それは東京の、この街の
出社前の地下鉄の階段や
暮れゆく銀座の交差点。
すれちがう彼を想像し
互いにどんな顔をするのか
考えてたりした。
「会いたかった」
そう言うにちがいない自分。
だけどわたしたちの
居場所は、その後
交わることが無かった。
わたしはリキシに出会い
出会った当初は
彼のことでいたくリキシを
苦しめてもきただろう。
リキシは時間をかけて
この呪縛から
わたしを解放した。
彼はもういないでしょ。
君が彼を好きでも
僕は君が好き。
兄を慕って
大阪にひとり旅すると
はじめてリキシに伝えた時
本気にしていなかったのか
二度目に行くよと
具体的に語った時には
驚いていた。
兄にわざわざ会いに行くという
妹の心理は理解できないようだったし
ましてや、今となっては
ひとりの行動がどうしようもなく
苦手なこのわたしが
わざわざ単身大阪まで行くと
言ったからだ。
早々にピカピカのホテルが
リキシによって予約され
新幹線のふかふかシートも
確保された。
けれど。
いたって、会社を辞めてから
ひとりを億劫がる
恐がりのわたしを見るにみかね
「無理でしょ。ひとりは」
そういって、リキシは
大阪の仕事を作って、
夜の大阪便に乗ってくれたのだ。
午前中はミーティングを
入れたからと
朝食後、ホテルを後にした。
チェックアウトまでに
戻るからね。
わたしにはもう
持って歩くあの地図がない。
ただ、この街で迷子にならぬよう
この街で恐くないよう
ひとりでごはんを食べないように
隣を歩く、この人がいる。
もうすぐ着くよ
リキシからのメールが届く。
わたしは隠れて待とうかな
なんて考えて
カーテンにぐるぐる
くるまったりするんだけど。
でも結局ベットで寝たふり
をして彼の到着を待つのだ。
ぼくは君のそばにいるよ。
君が彼を好きでも
僕は君が好き。
その言葉に守られて。

ビジネス街に新しくできた
ホテルの部屋から
階下を望む。
窓の縁に立ち
大阪の碁盤型の街をながめ
行きかう車や
人々の往来をぼんやりみていた。
この大阪の街を
あの人は地図にして
わたしに持たせてくれた。
大学生になったわたしと
社会人になったばかりの彼。
わたしがはじめて
「大阪をひとり旅する」
と言うと、この街で大学生活を
送った彼はとても心配そうに
わたしを見つめた。
しばらくすると
彼の勤める会社の封筒が
わたしの手元に届く。
封筒の中には心斎橋を中心に
とても正確な縮図の
大きな大きな、そうだな
A1サイズくらいの
地図が入っていた。
2次元に落とされた
ストリートには
お店の個性をアイコンにした
イラストが書かれ
たくさんの吹き出しがあって
ここはトンカツがうまいぞ!
とかここのオヤジ大阪名物だぞ!とか。
道頓堀の大たこにはタコの絵。
くいだおれにはくいだおれ人形。
グリコのランナーも
とっても正確に描かれていた。
御堂筋を南北に
ヨーロッパ村や
アメリカ村。
わたしがひとり歩いても
退屈しないように
ごはんがちゃんと食べられるように
そして迷わないように。
恐くなんかないように。
「他の人は心配じゃないけど
君のことは心配」
出張先が消印の封筒に
小さなメモが入っていた。
あの時、わたしは
どこに泊まったんだっけ。
そんなことを覚えていないのに
あの地図は今でも
思い出せる。
青い方眼紙を
メンディングテープで
貼り合わせて
それがボロボロになるまで
わたしの宝物だった。
彼が製図用のデスクにすわり
業務の合間に作った地図を
わたしは握りしめ
大阪の街を歩いた、あの頃。
ランチタイムを迎える
ビジネスマンの姿が
小さく小さく
ホテルの窓から見える。
わたしは、
彼が作った地図を
確かにこの手で持っていたのに
どこかで道に迷ってしまった。
気がつけば
迷子になっていて
長い長い時間を
ひとり歩き続けたようだ。
彼の描いた街を歩きまわり
そしていつしか
その街の果てに着き
もう彼の地図が用を成さないことに
わたしは気がついている。
おげんきですか?
とつぶやいて
窓の縁から離れた。
わたしはホテルの部屋で
ひとり様子良さげに
リキシの帰りを待っている。
わたしには
想い続けた男性がいる。
18歳で出会い
リキシに出会ってもなお
しばらく心の片隅に棲み続け
事あるごとにわたしに
影響してきた男性だ。
このひとは
兄の友人だった。
兄の友人と友人の妹。
高校三年生の夏
兄から友人として紹介され
出会ってすぐ
魅かれあい
帰り路には手をつないでいた。
恋人のようであり
恋人ではなく
片思いのようであり
片想い以上の関係があった。
友人の妹じゃ
まずいよな。
彼はよくそう言っていた。
わたしは彼が
ただただ大好きだった。
大阪で兄と食事しながら
あれは何の話をしていたのか
兄がふいに彼の名前を口にした。
10代の頃出会う友人の話を
していたのだと思う。
あの頃出会って
なんだかあいつ俺を気に入って
よく一緒にいたんだよ。
そう言ってわたしを見た。
兄は私が彼に恋を
していた事を知っている。
私が自暴自棄になった発端であり
私が離婚と言う人生のリセットを
決心した動機であることも
たぶん知っている。
今もなお独身でい続けたのも
彼を待ってのことだと
感じているのだろう。
兄はその渦中にある時
わたしが彼を慕うことを
嫌がっていた。
妹が友達と付き合うってなんかやだよ。
そう言っていい顔をしなかった。
わたしは照れ隠しに
お椀に箸をつけながら
兄が口にした
その彼の名前を
なぞってみる。
あいつとはどうなっているの?
あいつのことはもういいの?
兄の声にならない
つぶやきがあるように
思えて。
もう大丈夫だよ。
元気かな~?
そう言って笑った。
わたしは彼が大好きだった。
だけど交わることのない
パラレルな道を
お互いに歩いている。
想い続けた男性がいる。
18歳で出会い
リキシに出会ってもなお
しばらく心の片隅に棲み続け
事あるごとにわたしに
影響してきた男性だ。
このひとは
兄の友人だった。
兄の友人と友人の妹。
高校三年生の夏
兄から友人として紹介され
出会ってすぐ
魅かれあい
帰り路には手をつないでいた。
恋人のようであり
恋人ではなく
片思いのようであり
片想い以上の関係があった。
友人の妹じゃ
まずいよな。
彼はよくそう言っていた。
わたしは彼が
ただただ大好きだった。
大阪で兄と食事しながら
あれは何の話をしていたのか
兄がふいに彼の名前を口にした。
10代の頃出会う友人の話を
していたのだと思う。
あの頃出会って
なんだかあいつ俺を気に入って
よく一緒にいたんだよ。
そう言ってわたしを見た。
兄は私が彼に恋を
していた事を知っている。
私が自暴自棄になった発端であり
私が離婚と言う人生のリセットを
決心した動機であることも
たぶん知っている。
今もなお独身でい続けたのも
彼を待ってのことだと
感じているのだろう。
兄はその渦中にある時
わたしが彼を慕うことを
嫌がっていた。
妹が友達と付き合うってなんかやだよ。
そう言っていい顔をしなかった。
わたしは照れ隠しに
お椀に箸をつけながら
兄が口にした
その彼の名前を
なぞってみる。
あいつとはどうなっているの?
あいつのことはもういいの?
兄の声にならない
つぶやきがあるように
思えて。
もう大丈夫だよ。
元気かな~?
そう言って笑った。
わたしは彼が大好きだった。
だけど交わることのない
パラレルな道を
お互いに歩いている。