STであれば、誰もが理解している「スピーチチェーン」。

失語、発語失行、構音障害などの言語機能障害のメカニズムを勉強するに当たって、外せないものです。


学校だと、どこの部分が損傷されるかによって出現する言語障害が異なると教わります。

たいていの場合、ざっくりと


言語野(左脳Broca、Welnicke野)の損傷→失語症

発話メカニズム(左脳中心前回)の損傷→発語失行(アナルトリー)

構音運動企画(前頭・中心弁蓋、島前部など)の損傷→口腔顔面失行

構音器官(口、舌、顎、頬など)の麻痺、損傷→構音障害(ディサースリア)


と分かれるでしょう。


これらスピーチチェーンにおいて、最近「発話メカニズム」の部分が脚光を浴びています。

よく知られた発語失行(アナルトリー)だけではなく、

パリラリア、エコラリア、シラリア

といった反響言語、反復言語なども、この部分の障害とされています。


学校では習うことが少ないかも知れませんが、吃音もまた、この部分の障害とされています。


吃音はその研究が遅れてきた背景もあって、未だに構音器官の問題と誤解している方が多いと聞きます。

発話メカニズムの問題とするのか、構音器官の問題とするのかでその障害についての理解がどれ程違ってくるのか、STなら解ると思います。

当然、治療法も違ってきますよね。

とはいえ、確立された治療法はまだありません。…ま、STの分野全般に言えることですけど。


人気のあるSTの分野、高次脳機能障害学会や摂食嚥下リハビリテーション学会は採択される演題数も多く魅力的ですが、吃音などの隠れた分野は専門学会がなく、論文も少ないのが現状です。。。


これから、担い手が増えると良いのですが。

臨床上、廃用症候群に伴う嚥下障害、というのはよくオーダーが入ります。

主科もさまざま、疾患もさまざまで、結構難しい分野ではないでしょうか。


私が経験した、思い出深い廃用の嚥下障害患者さんは消化器外科の患者さんです。

2年半に及ぶ入院、何回にもおよぶオペ、そして2年の絶食(栄養は点滴only)。

出会ったときは精根尽き果てた、といった様子で、痩せており、声も聞き取れないくらい小さく、ADLは全介助でした。

リハビリに対しても、拒否的でした。帰れないこと、治らないこと、食べられないこと、自分でトイレに行けないこと、声が出ないこと、全てのストレスを私にぶつけてきて、物を投げつけられたり、ひどい言葉で罵られたこともありました。


先輩の言語聴覚士と交代で入りながら、理学療法士も交え、リハビリは半年続けました。


はじめは殆どカウンセリング状態。言いたいことを喋ってもらっていました。

声帯は痩せているだけで麻痺が無かったので、そんなこんなで話しているうちに、声が太くなってきました。それに患者さん自身も驚いたのか、家族の励ましもあり、半月後、音声リハや嚥下リハに参加するようになりました。

そこで初めての診察。


ベッドアップで血圧低下があり、サチュレーションも下がってきてしまいます。

酸素はリザーバー、5L。痰が多く、吸引を必要としていました。

自分の舌で唇を舐めることができませんでした。

また、嚊む力も落ちており、ガーゼを10回も噛むと疲れた、といいます。

頸部の可動性は著しく低く、横を向いたり上を向いたりすると痛みがあります。

舌骨は下垂し、固くなっていました。臥位で頸部を挙上することができません。

自分で唾を飲み込むことはできましたが、喉頭の挙上は一横指に及ばず。


通常の嚥下リハに加え、医師、PTと相談しながら段階的に離床を進めました。

起きられるようになったら、OTを加えて手の練習。スプーンを自分で持って、口元まで運ぶ練習。

栄養師さんに相談して、栄養バランス、腸管使用の提案。

STではカウンセリングを続けつつ、音声リハ、嚥下リハのほか、上肢帯と頸部のリラクゼーションと筋トレ、舌骨上下筋のストレッチ、モビライゼーション、氷片嚥下などを段階的に行っていました。


3ヶ月目に固形物(ゼリー)を使った嚥下リハを開始。

消化器外科術後なので、消化器症状の有無を確認しながら通常よりゆっくりと進めました。

途中何回かアクシデントがありましたが、何とか一人で軟らかいおかずにおかゆが食べられるようになるころには、リハ開始から5ヶ月以上経っていました。歩けるようになり、身の回りのことは自分で出来るようになると、退院の話が出ました。


2年近く食べていなくても、胃や腸は受け入れてくれるんだな、と勉強になった患者さんでした。

この方は医師の理解があり、リハビリがうまく進んだ例だと思います。ペースト食で家に帰されてしまう患者さんも多い中、家族との話し合いの場も持て、患者さん本人との関係も良好に保つことができました。


消化器外科は、疾患、手術内容、医師の理解、看護師との連携など、いろいろ難しいような。

もちろん消化器に限ったことではないのですが…

人の顔の筋肉って、複雑です。

小さな筋肉が、実に複雑に配置されています。

そして手足の筋肉と違い、骨よりもむしろ、筋肉や皮膚を起始・停止部位としています。


長らく中枢神経麻痺のリハビリばかり行ってきた私は、顔面麻痺といえば、

とりあえず筋の伸張性、筋力を調べ、運動時の正確性やスピードなどを調べて、

たとえば筋力が落ちてるならレベルに合わせた抵抗運動、構音練習…と、鉄板のプロトコールに沿ったリハビリをしていました。


しかしある日、頭部外傷(脳挫傷&頭蓋骨骨折)で顔面神経麻痺になってしまった若い患者さんが来て。

私の頭はハテナでいっぱいになってしまいました。


外傷で顔面神経麻痺?(Ⅶ以外に麻痺はない)

なんで??

脳実質に麻痺を引き起こしそうな部位の挫傷はナシ。

医者に聞いても、答えは返ってこない。


必死に顔面神経の走行を調べ、神経学的所見をとってみる。


ん?頭蓋骨骨折のライン、顔面神経の走行と重なってる??

包帯が厚くてよくわかんないけど、末梢性麻痺の所見陽性?


患者さんを目の前にし、頭を覆っていた包帯をはずし、聴力をチェック。

耳こすり検査で、「ぜんぜん聞こえないよ」という反応をする。

うーん、やはり聞こえも悪くなってる。

さっそく医師に報告するも、興味ナシのお返事。耳鼻科へコンサルトは期待できなさそうだったので、大学へ来てから初めて、患者さんに純音聴力検査をしてみる。中等度難聴があった。


…末梢性顔面神経麻痺、片側の聴神経も傷ついてる可能性あり、と。


そこまでは良いものの、長らく顔面麻痺といえば上記プロトコールでやってきた私。

リハビリ、はじめは中枢神経麻痺の内容と同じにやってしまいました。


けど、よくよく調べてみると、末梢性顔面麻痺に筋トレは禁忌なんですね…(神経損傷のレベルによるらしいけど、ウチにはその機械も無かった)。

論文を取り寄せて調べてみると、初期に無理な随意運動の強制することは、慢性期にひょっとこ顔(筋の過緊張を引き起こし、顔面の左右非対象が強調されてしまう)を作り上げてしまうという報告ばかり。

とにかく三叉神経からの刺激入力をがんばりなさい、という報告が圧倒的多数だったので、 

気づいてからはストレッチの自己練習指導、歯磨きの指導などなど、リハを90度くらい変えるはめになりました。

勉強不足。。。本気で反省。。。。。


その患者さんは結局、耳鼻科で神経をつなげるオペをされました;;;


勉強になりました。