映画「ビッグウェンズデー」は、監督のジョン・ミリアスと脚本家のデニス・ア・バーグの若き日々を綴った物語である。

彼ら通うビーチには一人のスターが居て、そのスターが兄の様に慕うシェイパーが居て、そして、彼らの親友がそこに居た。
少年だったジョンとデニスは出来る限り、リアルにスクリーンに収めるべく、当時の時代背景を採り入れたそうだ。
「別に本物はジェイコブスなんだからベアーに拘らくても良いんじゃない?」と、旧友に云われた事があった。
確かに、シェイパーであるベアーのモデルとなっているのは紛れ間も無くハップ・ジェイコブスである。
そして、マット、ジャック、リロイの3人もジェイコブスのチーム員だった時代のサーファー達を物語に採り込んでいる。。。
実在するのベアー・サーフボードは、ハワイを拠点に活動するランディー・ラリックを中心に展開されているグローバルレーベルである為、どうしてもサーフボードの味付けがハワイアンテイストになってしまいている様に思える。
例えば、それはロッカーの出し方に始まり、フォーム、ボラン等々・・・
語り始めたら切りがない。
ただ単にベアーのディケールが欲しいのであればハワイアンテイストでも良いのだが、残念がら、ここまでサーフボードに拘ってきた身としてはそれらを受け入れる事は到底出来兼ねない。
これは、ボード自体が乗り易い乗りにくいの問題ではなく、俺のマスターベーションがどうしてもそれを拒むのだ。
そんな想いを馳せ、シールビーチを拠点としているロジャー・ハインツにボードを依頼した事は前回の更新でも綴った通りである。
ロジャーはシェイプキャリアは勿論だが、カリフォリニアでも稀な程ヴィンテージに精通した男でもある。
ロジャーは正に打って付けの男であった。
そして、俺がイメージしていたボード像は映画の冒頭の1962年の夏である事を彼に告げた。
この時代のサーフボードと云ったら紛れもなくPIGオンリーであり、主人公のマットは赤いボードを愛機(劇中ではPIGではない)としていた。

ストリンガーが確認出来ない事からピグメントで色付けられた真紅のボード。
これをコンセプトにロジャーとのやり取りが始まり、完成したのがこちらのPIGである。

ボードに目を移してもらうと解るかと思うが、センターには2インチのバルサがあしらった仕様となっている。
これはロジャーからの提案で、「映画と同じ様に赤いボードはOKだが、この時代のジェイコブスのPIGは2インチのバルサを使用した物が多いよ」とアドバイスをもらった。
確かに、エンドレスサマーの劇中でランス・カーソンが担いでいたPIGやミッキー・ドラが小脇に抱えるPIGにはそれらしきストリンガーが確認出来る。

そんな背景から採用が決定した2インチのバルサストリンガーがこちらである。

この手の10ftオーバーのストリンガーになると長さを足す為に継ぎ接ぎの物が稀に使われる事があるが、ロジャーが厳選したストリンガーに至ってはパーフェクトなストリンガーを使用してくれている。
ボトムはヴィンテージ感溢れるフラットボトムで、あの時代のPIG同様の加速感が得られる様な仕上げが見受けられる仕上がりとなっている。

レールに至っては、前回の更新でも綴ったが今時のピンチ気味のレールではなく、ボリューミーなレールを採用してもらった。

このレール創りがPIG本来のサーフィンを可能にしてくれるのかと思うと、流石の一言に尽きる。
ロジャー自身はベルジーツリーではないが、ジェイコブスのPIGを意識して多くのベルジーツリー達が採り入れていたテールブロックを採り入れてくれた。

そして、圧巻なのが映画のポスターにも登場したご覧のフィンである。

劇中ではBOXフィンが採用されていたのだが、1962年の時点ではBOXフィンはまだ登場していないので歴史沿ったオンフィン仕立てにしてもらっている。

因みに、このフィンはロジャーがハンドクラフトで制作したオリジナルフィンである。
そして、最後はジェイコブスの菱形を参考に考案されたお馴染みのディケール。

映画の時代の文化が好きで、あの時代のサーフスタイルが好きで、サーフィンにのめり込んで行った切っ掛けを作ってくれたディケールは特別な思い入れが心の中で広がって行く。
ロジャーには、この後に別なボードを制作してもらい、そして、3本目を依頼する最中に彼の病が発祥してしまった。
もう、二度と「彼のボードを手にする事は出来ない」と、カリフォルニアの地から友人に電話をすると・・・
「でも、良かったじゃないか!病が発祥する前に2本も作ってもらえて・・・」と。
確かにそうである。
長年、想い描いていたボードを略満足の行くカタチで手に入れた事は奇跡なのかも知れない。
今はロジャーに感謝しかない。
そして、出来る事なら彼の病が治る事を願うばかりです。
keep Surfing!!!