以前、マット・カルヴァーニと食事をした時の事だった・・・
「マットは、今までどんなボードを削って来たの?」と、俺が質問したところ、彼は、その全てを語ってくれた。
「ビング、ジェイコブス、リック、クーパー・デザイン、etc・・・」
「あぁ、ランス・カーソンも削ったよ!」
と、笑みを浮かべながら話してくれた。
俺も彼がどんな経歴を持っているのかは、大よそ把握はしていたが、ランスを削っていた事には少々驚きを隠せなかったので、食入る様に彼に尋ねた。
「ランスを削っていたの?」
「ランスからシェイプを学んだの?」
すると、彼は・・・
「うん、リミテッドを削る時にレールの形状を知りたくてね」
と、正にマットならではの回答が返って来た。
以前にも書かせてもらったが、マットは数々のボードを削って来たのだが、レプリカを削る際には己の癖が出ない様に配慮する様にしているという。
その高度な手裁きはジーン・クーパーのお墨付きでもある。
仮に彼がシャドーに徹したら、恐らく殆どの人がオリジナルシェイプか?マットシェイプか?見分けが付かないのではないだろうか?
そんな、マットが削ったボードが本日紹介するボードである。
20世紀末から21世紀にまたがる最中、ロングボード業界は空前のリミテッドブームに沸きたった。
ビングからはデビット・ヌヒワモデルが!
グレッグ・ノールからはダ・キャットが!
コンからはアグリーが!
ベルジーからはバルサPIGが!
ハーバーからはチーターが!
そして、この波に乗るかの様にリリースされたのが、ジェイコブスのランスカーソン・モデルである。
シェイパーは、勿論、ジェイコブスが後継者として任命したマット・カルヴァー二である。
かなり前置きが長くなったが、紹介させて頂きます。
ジェイコブスのランス・カーソンモデルである!

アウトラインの様を見ると1960年代の完全復刻という訳では無く、後にランス自身によって改良されたスタンダード・ピンテールである事は言うまでもない。
テール形状は、現在、’60sピンテールとしてリリースされている往年のモデルとは異なり、緩やかなラウンドピンテールとなっているのが特徴である。
ランスのシグネチャーには様々なタイプのフィンが存在するのだが、このリミテッドは、その中でも最も普及したこちらのフィンが採用されている。
そして、このボードの最大の特徴となっているのが、このディケールである!
ジェイコブスのディケールを縦に置き換えてデザインされたランス専用のディケールである。



この菱形は、現在、ランス自身も'60sピンテールで使用しているのだが、当然ながらジェイコブスのロゴは入らない。
ランス・カーソンモデルは、当時のジェイコブスのラインアップで最も売れたボードであった為、数千本がリリースされた言われているが、様々なディールが存在する中でランスを被写体とした「この部分」が抜型になっているディケールがオリジナルで存在したかは俺には知る由も無い。
恐らく、このボードはマットがジェイコブスの後継者として拘わった初めてのBIGプロジェクトだったのではないだろうか?


故に、ボードにはジェイコブスの監修サインが入っている。
余談であるが、このボードに付属されるギャランティーには、マットのサインが入っている。

さて、駆け足でボードの紹介して来たが、このボードは俺が所有するボードの中でも非常に想い入れの強いボードで、このボードを入手する為に様々な人脈を駆使した思い出がある。
当時、このボードを買いそびれた俺は血眼になって探した事がある。
国内は勿論の事、海外にもオファーして探してもらった経緯がある。
しかし、言われる事は必ずこうである・・・
「何故、あのボードが欲しい?」
「君はランスのボードも、当時のヴィンテージも持っているではないか!」
「君があのボードを欲しいという気持ちが理解出来ない!」
そう・・・
確かに、ランス本人に何本も削って貰って、かつ、ヴィンテージも所有しているのだから意味の無い事かも知れないが、このボードはマットが削り、ジェイコブスが監修したランスモデルなのである。
ビッグウェンズデーのモデルとなったランスとジェイコブスが拘わり、マット・カルヴァー二が削ったこのボードは俺にとっては「特別」以外の何物でもないのである。
Keep Surfing!