タイラー・ハジキアン | Viva '60s SurfStyle!!!

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1960年代のカリフォルニアサーフスタイルに心を奪われた男の独り言。

先週の更新でロビン・キーガルのPIGを紹介した際に「ショートボードの影響を受けなかったらロングボードはどの様な進化を遂げていたか?」というフレーズを活用した訳だが、同じようなテーマを持ってボードと向き合うシェイパーがいるので、今日はそのシェイパーの事を少しだけ書き綴ってみたいと思う。


そのシェイパーの名はタイラー・ハジキアン。
言わずと知れたハップ・ジェイコブスの直系の愛弟子である。
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そんなタイラーが日本のマーケットに登場する様になったのは1990年代の後半辺りからではないだろうか?
ジェイコブスの下でシェイプスキルを上げ、悲願のシグネチャーをリリースした後に自身のレーベルを立ち上げた男である。
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タイラーを日本のマーケットに根付かせたのは紛れもなく池田潤さんであり、俺も世田谷にあった潤さんの店舗には随分と足を運ばせてもらった。


そんなタイラーを一躍メジャーにしたのが、枡田拓治プロがプロデュースするタイフーンレーベルではないだろうか?
当時、日本のロングボード業界の注目を一身集めたマイク・ディッフェンダッファーとのコラボに続いてのコラボレーションは、若きタイラーを一気にスターダムに押し上げたと言っても過言ではないであろう。


当時のタイラーの主たるボードは、時代を象徴するかの様な‘60sスタイルの好いとこ取りをした、後にスタンダードと言われるボードであった。
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このスタンダードというボードは、非常に癖が無く、誰にでも気軽にクラシックスタイルが楽しめる夢の様なボードで、微妙な進化と変化を遂げながらリリースされた続けたボードで、先のタイフーンコラボでも採用されているタイラーレーベルの初期の代表作と言っても過言ではないであろう。
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そんなタイラーがメディアに頻繁に登場する様になって、自身のシェイプコンセプトを発する様になった。
そのコンセプトこそが、「ショートボードの影響を受けない・・・」であった。
しかし、俺がこれまでタイラーのボードを見て来た経験からすると、彼のボードは「ショートボードの影響を受けない・・・」というコンセプトとは少々違っている様な気がしてならない。


先週に触れたロビン・キーガルには明確に「それ」が伝わって来たのだが、どちらかというとタイラーが創るボードは「忘れ去られたヴィンテージの再現」という感じではないだろうか?


タイラーのボードが日本のマーケットに登場し始めたあの時代・・・
クラシックボードは、いや、本格的なヴィンテージレプリカの様なボードは、まだ日本のマーケットには殆ど無かったような気がする。
実際に1990年代にエムズがNALUに出していた広告に登場するベルジーのボードも、殆どがモダン系のボードばかりであった事からも判る。
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仮にあったとしても、それは名ばかりのレプリカで、10オンスのボランや高密度のフォーム等は極僅かなスペシャルエディション級のボードにしか採用されていなかった。
現に、その時代に俺が「吊るし」で購入したランス・カーソンのボードも今の様な高密度のフォームは使用しておらず、ライトウェイトな物が主であった。


タイラーのボードは、そんな乾き切ったマーケットに「本物」の水を差し掛けた事によって、本物志向の多くのファンを魅了したのではないだろうか?
その結果、当時破格であった35万円前後のボードでも入荷待ちの状態となったのであろう。


タイラーの創るボードは時代が忘れていた「本物」を蘇らせただけでなく、数々の名品にスパイスを加え、ヴィンテージを知らない世代のロングボーダー達にそれらを伝える役割をも齎してくれたのだ。


代表作であるジークはデューイ・ウェーバーのパフォーマー。
ウイングノーズは言わずと知れたコンのウィングノーズ。
777はフィンとレール形状からも判る様にハンセンの50/50。
ポイントはベルジーのエッグ(ダブルエンダー)。
リドラーはジェイコブスの422。
Z-CHIPはその名の通りマリブチップ。
ダブルステップデッキはイエーターのスプーン。
ダブルデュースはPIG。
そして、ノーズライダーはビングのデビット・ヌヒワ。
また、ジェイコブス時代のシグネチャーに至っては、ランス・カーソンのシグネチャーのレプリカとなっている。
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と、書き綴ってみて改めて思ったのだが、きっと、タイラーは忘れさられていた数々の名品を気軽に触れてもらう事を願って、これらにスポットを当てたのではないだろうか?
実際に、リドラーの存在を知った後に422を知った人もたくさんいるだろうし、ジークや777においても同様なのではないだろうか?


確かに、バルサでの彼のライディングを見ると「ショートボードの影響を受けない・・・」という事が当てはまってしまう様にも思えるが、あれに限ってはタイラーが上手過ぎるからであると俺は思っている。


そんな数々の名品にスポットを当て続けたタイラーに知人が「君が一番削りたいボードは何だ?」、「君が一番削りたいボードを創って欲しい!」と問うた時には、タイラーは即答で「ノーズライダー!」と答えたそうだ。
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この回答からして、恐らくタイラー自身が掲げる最高傑作はノーズライダーなんだと俺は察してしまった。
考えてみれば、、タイラーの傍には常にノーズライダーが在った様な気がする。
ノーズライダーを手放してからノーズライダーを創るのではなく、新しいノーズライダーを創ったから古いノーズライダーを手放すといった感じだったと思う。


実際に俺が譲り受けたノーズライダーも新しいノーズライダーが出来たからこそ、「乗ってくれないか?」に繋がったんだと思う。
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正直な所、タイラーは日本のマーケットにおいては既に熟成したボードメーカーであると思う。
また、現地で大幅な値上げをした事や、ディストリビューターが存在しないことを考えると今後の日本おいては以前の様にスポットが当たる事は考え難いのは寂しいに尽きる。


タイラーのボードは、そのどれもが甲乙が付け難い程完成度が高く、一概にどれが良いのかは評し難い。
ダブルデュース(PIG)に至っては、ハリボテだった他のモダンPIGを改めるかの様なナローなヴィンテージ形状であった。
422にヒンソンのストレッチノーズを採用したリドラーも斬新だったし、ジェイコブス監修の下で完成させたZ-チップも素晴らしいに尽きる。
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そんな数々の名品の中、俺がタイラーのボードで傑作と思えるのは、やはり、ノーズライダーとスタンダードになってしまう。
これは恐らく、最初に乗ったのがスタンダードだった事や譲り受けたノーズライダーの影響が多分にあるからだと思う。


長文に渡ってタイラーの事を綴って来たが、彼の削るボードはドナルド・タカヤマのボードと同じ様に「クラシックとは何ぞや!」を教えてくれる数少ないジャンルのボードだと思う。
もし、未体験の方がいれば一度はその領域に足を踏み入れても良いのではないだろうか?
CAでの大幅な値上げの影響の為、国内で値頃な新品の入手は現実的で無いとしても、根気よく探せばきっと上質のusedに巡り合えると思います。


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