「ショートボード革命が無かったらロングボードは如何様に進化していただろうか?」
一昔前のロングボード雑誌には、こんなフレーズを多々見受けられた。
今となっては、このフレーズは多くのロングボードを削るシェイパーの思想の様なものになっていて、各シェイパーのコンセプトにもなっている様に思える。
しかし、実際にこのフレーズを真っ当に反映させているシェイパーは非常に少なく、殆どのシェイパーがヴィンテージの掛け合わせの様なボードか?若しくはヴィンテージに多少のアレンジを加えた物ばかりが目立つ気がしてならない。
こんな事に気付くのも、これまでに様々なロングボードを見て、触って、そして、乗って来たからなのかも知れない。
同じテーマを掲げながらも過去のデザインの掛け合わせになっているシェイパーがいる一方で、明確にそれを反映させているシェイパーもいる。
その代表格こそが、今回紹介するボードをシェイプしてくれた稀代の天才と謳われているロビン・キーガルである。
ロビンも、他のシェイパー同様に「ショートボードの影響を受けなかったらロングボードはどの様な進化を遂げていたか?」をテーマにしていると以前、サーフマガジンで読んだ事があるのだが、実際に彼のボードに乗ってみると見事にそれらが反映されているから不思議なものだ。
彼のデザインするシェイプは、正直、理解に苦しむ物が多すぎる。
そう、これこそが彼の真骨頂なのではないだろうか?
要は俺の様な素人が簡単に答えを見出してしまっている段階で、それは過去のボードの掛け合わせなのだと思う。
同じ様な思想やテーマを掲げている多くのシェイパーは、「アウトラインは○○のビンテージを参考にしていて、レールは○○、そして、テール、ノーズ、ロッカーは○○・・・」といった具合に過去の産物を参考にしている為に全て答えが見えてしまっている様に思えてならない。
ヴィンテージの影響を強く受けたと言ってしまえばそれまでだが、これでは「ショートボードの影響を・・・」と言うテーマとは少々違っているのではないかと思う。
そんなシェイパーが多い中、ロビンの削るボードにはいつも理解に苦しむ。
「何故?こんな事をするんだろう?」
「何故?こうしないのだろう?」
それを一番感じたのがこのスムースオペレーターだった。

ロビンが思い描くPIGタイプのボードである。
確かに、アウトラインはPIGなのだが、これがどうしてPIGなのかは本当に理解に苦しんだ。
しかし、その後に読んだサーフマガジンの記事を思い返すと「彼がヴィンテージレプリカを造っている訳では無い」事に気付いた。
このスムースオペレーターというPIGタイプのボードは、正にショートボードの影響を受けないでPIGが進化したら「こうなった!」という彼の解釈の表れなのだ。
ロビンはアレックス・ノスト共々、早い段階でPIGの可能性を見出した一人と言われている。
それは、この写真に写っている少年と同じ様に、恐らく一世代前の人達が使わなくなって放置してあったPIGを譲り受け、それらに乗り続ける事によってPIGの進化と可能性を見出していったのではないだろうか?

その様な彼の経験から誕生したスムースオペレーターは俺が理解出来る代物では無かったという事である。
しかし、そんな彼が「ヴィンテージレプリカを造ったら一体どんなボードになのるか?」と興味を持ち始めた事から今回のボードの話が始まった。
勿論、これにはシーコングの田中さんの協力が無ければ実現する事は不可能な為、お願いした際に「難題だ・・・」と少々溜息を付かれていたのだが、きっと、これは長きに渡ってロビン・キーガルを見て来た田中さんだからこそ、「レプリカ」には難色を示したのではないだろうか?
断られる事を覚悟でお願いしたロビンへのヴィンテージレプリカなのだが、「とりあえず、頼んでみます」と田中さんが受理してくれ時には、正直、嬉しさを通り越してただ驚きに呆然としてしまった。
受理をしてくれた背景には、若しかしたら、田中さん自身も「ロビンの新しい境地を見たかったのかも知れない?」と感じてしまった程であった。
そして、数か月の歳月が流れ、遂に1本のPIGが完成した。
しかし、そのボードは田中さんが俺に紹介するのを躊躇った内容のボードになっていた様だ。
これは田中さんが、俺がロビンに対してどんなPIGを求めているかを十二分に解ってくれていたからだと思う。
確かに、そのPIGは非常に魅力的だったが、ロビンの思想がかなり反映された仕様になっていた事もあり、今回彼に望んだのは「レプリカ」であった事から、そのボードはキャンセルさせて頂き、今一度お願いする事となった。
そして、再び数か月の時を隔て1本のPIGが完成した。
この完成にはロビン自身も満足だった様で、田中さんも「正直、ロビンがこういうボードを削るとは思いもしなかった!」と驚きを隠さなかった程であった。
元々このボードは、カリフォルニアに移住した元店長へ依頼した事から始まり、その際には「無理だと思います」と言われ、ロビンの来日のパーティーで元店長共々直談判をし、そして、田中さんのバックアップを得てロビンが俺の我儘を聞き入れてくれた末に完成したのだから、その想いも一際大きなものである事は言うまでも無いと思います。
前置きがかなり長くなってしまったが、紹介させて頂きます。
ロビン・キーガルがベルジーのPIGを意識して創り上げたPIGである!

如何であろう?
ナローノーズのバランスといい、テール寄りに齎させられたボリュームといい、パーフェクトな仕上がりではないだろうか?
ストリンガーはロビンのボードでは余り見受けられる事の無い2インチのバルサになっている。

しかも、10ftという長さにも拘らず、継ぎ接ぎの無いバルサストリンガーを用いている所に彼のクラフトマンとしての拘りを強く感じざる得ない。
そして、そのバルサに添う様に彼のサインが入っている。

律儀にも俺の名前を入れてくれている。
そのバルサストリンガーを覆う様にデッキパッチが施されている。
そう・・・
また、このウッドフィンにおいて、ロビンの拘りを非常に感じたのが下の画像である。
数々のシェイパーが、いや、ボードメーカーがこれまで様々なウッド製のハームーンをリリースして来た訳だが、正直、この厚みの部分に手を施して来た物のは数える程しか見たことが無い。

実は、今回のボードをよりスペシャルな物へとした要素の一つして、この彼ならではなのウェーブパッチがある事だったりする。
テーマが「レプリカ」だけに、最初はヴィンテージに良く見受けられる菱形のパッチになる事を想定していたのだが、ここに彼の「らしさ」があった事は非常に好感が持てた仕様だった。
そして、このボードの最大の彼「らしさ」が伝わって来たのが、この部分のピンテールである!
俺のイメージでは100%スクエアテールで来るのかと思っていたが、やはり、彼はクラフトマンである前に「サーファーなのだ」と感じた仕様であった。

また、彼は「レプリカ」造る上でも常に自身のテーマである「ショートボードの影響・・・」を忘れていない証がこの仕様だったのではないだろうか?
そして、フィンは勿論PIGならではのウッド製のハーフムーン!
ピンテールとの相性も抜群に映えて見えるのは俺だけであろうか?

実は余り知られていないのだが、ロビン・キーガルという人物は、かなりのヴィンテージコレクターらしいのだ。
これまで数々のヴィンテージを触れて来た彼ならではの造り込みが、このフィンの厚みである。

ヴィンテージでは当たり前だった仕様が、時と共に失われて行ったのをロビンは見事に汲み上げてくれたのだ。
今回はいつも以上に長文になってしまったが、このボードには関しては俺の悲願みたいな事が絡んでいたので、ご容赦頂ければ幸いです。
そんな悲願のボードの進水式だが、稲村ケ崎で世話になた行岡豪さんの話ではボラン巻のボードは3ヶ月位は寝かした方が良いと教えられたので、梅雨が明ける前あたりには行いたいと思っている。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。
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