「カミ」でなくて「セミ」 | JOKER.松永暢史のブログ

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元大学教授の紹介でもう一人の元大学教授を紹介された。

この人は、歴史学と考古学と人類学の専門家で、もともと理系出身のため、DNAや遺跡の年代測定など科学的な方法論と文献学的な研究を「昇華」せられた方であるらしく、手渡された著書には、『一般歴史学の考古学的人類学的考察』とあった。

ある夏の夕方のことである。

彼が、目の前に広葉樹林が広がる長野の山荘のテラスで、夕方入浴後、何一つ余分な環境音がない中、徐々に林の中に広がって行く蜩(ひぐらし)の声のどうしようもないほどのその音の重なりに耳を傾け続けていると、そこに「カミ」が現れた。いや彼は正確に語った。「カミらしきもの」が現れた。

「現れた」と言っても、姿が現れたのではない。「現象した」と言えばそれまでであるが、それは確実に存在すると思われる他の何かの総体のようなものであった。

密かに元教授は思った。「なるほど『ブラフマン』とは上手いことを言ったものだな」。

その「ブラフマン」は問いかけた。

—オマエは誰じゃ?

元教授はぐっと腹を決めて答えようとするが、「元教授」としか答えようのない自分に唖然として絶句してしまう。

あたりはいよいよ蜩の声が深い。

再びカミの声がとどく。

—オマエは誰じゃ?

しかたがないので、

「あなたをカミらしき存在と認識してその相手をしている自分です」と答えると、「カミ」は無言の答えの後、尋ねた。

—では、そのオマエの最も望むことは何か?

人の好い元大学教授は、心の中で悶絶七転八倒して、困り果てた。

なぜなら、その心に浮かんだ答えが、「カミさんにもっと感じ良くして欲しい」と言う極めて世俗的なことだったからである。

蜩の声が強くなる。

さらに意識が覚醒する。

彼は答えた。

「望むことは何もない。今このこころがここにあるだけ。いかなる雑念も不要である」。

するとカミは消えた。そして戻って来なかった。

断るまでもないが、このブログは「冗談」で書かれている。