蓮實重彦記者会見 | JOKER.松永暢史のブログ

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「全く喜んではおりません。はた迷惑な話だと思っております」。
前にも書いた蓮實重彦『伯爵夫人』は、単行本になる前に三島由紀夫賞の受賞が決定してしまった。これについての記者会見の態度が悪いと言う批判記事が出ているが、的外れの愚かなことである。
多くの方もご存知の通り、芥川賞が文芸春秋社の主宰する文学賞ならば、三島由紀夫賞は新潮社が主宰する文学賞である。
だからこれは明らかに大ベストセラーを狙う出版社の営業戦略のための記者会見である。
先ずそのことに触れなければ「ジャーナリズム」の意味がない。
蓮實氏の「お答えできない」「申し上げられません」「全くありません」などの否定の言葉は否定の言葉そのものとして心地よく意味を発する。何もかも分かっている男がマジで「芸」でやっているのである。
作品の内容と作家の体験との関係に触れられると、
「バカな質問をするのはやめていただけますか」。
物語を具体的にどのように構想したのかの質問には、
「私を不機嫌にさせる限りの質問ですのでお答えいたしません」。
これはかなりオモロい。
質問はツマラナイが解答はオモロイ。
「学者」ではなくて「作家」としてのインタビューなのだから「公人」として謹直に振る舞うよりも「自由人」としてやりたいように演ずるのが「自然」というものである。また芥川賞会見同様、本を売るためのものなのであるから、オモロければそれで結構なはずである。
「選考委員の方が、言わば蓮實を選ぶという暴挙に出られたわけであり、その暴挙そのものは非常に迷惑な話だと思っております」。
自身の作品についても、「相対的に優れたものでしかない」と極めて冷静。
「情熱やパッションなど全くなく、もっぱら知的操作のみ」。
「ボヴァリー夫人論に費やした労力の100分の1も費やしておりません」。
「あの程度のものならいつでも書けます」。
彼は全て正直に語っていると思う。
自身の情熱と人生時間をかけた研究が全く黙殺され、言わばその結果の悔しさから、そこで獲得したレトリックで誰もが興味を持たざるを得ないことを選んで小説化した。これは明らかになかばふざけてやっていることである。だから、「あの程度」という表現が出るのである。
『ボヴァリー夫人』のような練りに練った文学の結晶とは比べ物にならないとでも言いたいのである。
でも本を売りたい出版社が彼をすでに商品である「作家」扱いしている。
この辺は比べちゃ悪いが筆者も充分な経験者だからよく分かる。
ともあれ今後死後も80歳でエロ小説を書いてしかも文学賞を受賞した元東大総長と言うレッテルで海外の文化人と接しなければならないのである。
人ごとながらこんなに可笑しくて名誉なことはまずないと思う。
キヨハラのこともマスゾエのことも全く無視しているが、ハスミには引っかかる自分に新潮社の「お客」を感じてしまう。
でも発売開始はなおもあと1ヶ月後。
じらし戦術はやめて、とっとと印刷せんかい!