吉見俊哉著『「文系学部廃止」の衝撃』(集英社新書)を読んだ。
先ず、鈴木寛同様、マスメディアが文科省通知を読み間違って報道していることを指摘し、文系学部の統廃合はすでに長らく議題に上っている事項であることを確認し、その上で文系と理系の違いを多観点から深く考察する。
その上でこれからの大学のあるべき姿について、広範な知識を活用して解説する。
驚くほどのアタマの良さと筆力である。
すでに国立大学の予算の90%は理系に投入されているとも言う。理系と異なり、文系研究は「個人商店」であり、グループで研究を進めたり他の分野との交流する素養が弱いのでそもそも研究資金を獲得しにくいとのこと。
大学を研究と教育の両方の機関としてもっと見直す必要があるということ、そしてもしそうできなければ大学が生き残れなくなることも示している。また、合間に自身の学生指導経験やその心構えが記されていて興味深い。研究の仕方についても述べられている。これからの学問は「二刀流」であるべきと説く。
この人は誰かと言うと、東京大学情報学環教授で副学長にして大学総合教育研究センター長を務める人である。『大学とは何か』の著者でもある。
「情報学環」とは、東京大学大学院内部に設置された研究科以外の教育研究目的組織で教員によって構成され、これと対になって院生によって構成される「学際情報学府」があり、社会人、海外留学性も参加して新教育システムを構築しようとしている。
調べると、「東京大学情報学環教育部」は「新聞研究所」をその母体にしており、新聞研究が教育研究に結びついていることがまことに興味深い。
日本テレビで活躍した大橋巨泉氏が早稲田大学政経学部新聞学科出身であったこと、長らく読売新聞主筆にして社主を務める渡邊恒雄氏が東京大学新聞研究所出身であること、慶応大学政策メディア研究科教授兼東京大学公共政策大学院教授の鈴木寛氏も「情報」を専門とすること、そしてもう一人、将来の東大学長候補の吉見俊哉氏も東京大学新聞研究所出身であることは単なる「偶然」ではないだろう。
ともあれ、賽は投げられた。これから「大学改革」が本格的に進行する。
教育の方向性を確認して行く意味で、その「中枢」で活動する人の書いたものを読むことはとても参考になる。
読者にご一読をお勧めしたい。
蛇足だが、You-Tubeで動画を見ると、この人は明らかに「多動症」であった。