- すべては音楽から生まれる (PHP新書 497)/茂木 健一郎
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すべては音楽から生まれる -脳とシューベルト- 茂木健一郎 著
なぜ音楽は人を感動させるのか?ただの音の連なりの何に人は惹かれるのか?
これは昔から強く疑問に思っていた事で、その答えを知りたくて「脳と音楽」に関連する本も何冊か読みました。その中で様々な発見がありましたがコアの部分については納得のいく明確な回答がなかなか見あたりませんでした。
この本は有名な脳科学者の茂木健一郎氏が自らの経験から書いた「音楽」というものの有り様に迫る思考を辿ります。この方の論説には少々抽象的な部分も多いのかな?とも感じます。脳内で生じている現象を全て説明するには今の科学力では力不足ということでしょう。
従って本書で語られる論には具体的なエビデンスがあるわけではなく(・・・と私は思ってますが)、あくまでも著者自らが体験する中で感じた一つの考え方にすぎないと思います。が、この本で語られる内容、数々の言葉には私を「はっ」とさせるものが多かったことも事実です。
本書の中に現れる何気ないフレーズ、例えば”「旋律」は「戦慄」と同じ音である”、という感覚。良いですね、この言葉。・・・肌で感じられます。
茂木氏の語る音楽論は「音楽」=「生きる」=「人生そのもの」=「生命原理」に至る、という構造を中心に語られます。生きることの根底にある「リズム」。思考の根底にある「リズム」。全てのものにはリズムがある。ニューロンとシナプスの間で脳内物質が受け渡される時にも当然リズムがある。人間のからだ自体が実はそのようなリズムに支配され全体がシンフォニーを奏でることで思考が成り立つ。
茂木氏は副題にあるとおり、何百年たっても残っているものにあるはずの「価値」という点からもクラッシックを中心に話を進めて行きますが、本質的に音楽に対峙するときはジャンルを排除しています。これも好感が持てる理由の一つです。
本書の中で一番印象的なエピソードは茂木氏がある日、車のラジオから聞こえてきた、それまで何の興味も無かった「ちあきなおみ」の歌と邂逅する場面です。
聞こえてくる音楽に浸るうちやがて彼はこう思います。
「ああ、俺は<ちあきなおみ>で、生きていけるな」・・・自分の中に見晴らしのいい空き地が一つ増えたような発見。厳密に言えば、その空き地は<ちあきなおみ>そのもではなく、<ちあきなおみ>に心地よさを感じることができる<初対面の自分>なのである。
・・・ジャンルを超えて<ちあきなおみ>が私の脳を刺激したように、先入感に縛られずむき出しの姿で「音楽」と対面できれば新たな航路の発見につながる。恐れることはない。飛び込んでみればいい。きっと音楽は受け止めてくれるはずだ。
ここで語られる驚きと聴き手としてのあり方。曲がりなりにも音楽を愛する者である限りこういう姿勢や考え方は非常に大切なことであると感じます。せっかく手の届くところにある新たな宝をみすみす逃すことはないですからね。それぞれが自分とシンクロする音楽と出会い、そして飛び込み感じるということ。
また、「音楽を聴くこと」、「ライブを聴くこと」という行為が実は完全に「能動的」な行為であることも語られます。
音楽を聴こうとする時、それは単なる受け身の行為ではなく、既にその対峙しようとする姿勢が完全に能動的なものである、という話にはちょっと嬉しくなりました。音楽を聴くという行為が決して消極的なものではなく能動的な体験であるということの素晴らしさ。
耳から入った音の振動を再構築して「音楽」という形で理解しているのは確かに我々の「脳」の働きゆえです。従って「脳」と切り離して音楽を考える事は難しい。
かなり読みやすい本だと思いますので気が向いた時にはお勧めします。
そう言えばこの本の中で紹介した音楽をCDのシリーズとして出す予定もあるようです。・・・著者の体験は極めてパーソナルなものだと思うので、どのような音楽に感動するのかは人によって千差万別。従ってこれは出版社サイドがちょっと乗りすぎなのかな~とも思います(笑)