The Division Bell / Pink Floyd | 音楽見聞録

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The Division Bell/Pink Floyd
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 思うにピンク・フロイドはアルバム「アニマルズ」の頃から少々分裂し始めていたのではないかと感じる。

 大作「ウォール」発表後にバンドへの貢献度の低さという理由からまずKeyのリチャード・ライトがクビになる。しかし、その後発表された「ファイナル・カット」はもはやロジャーの単なるソロと化している。詞の世界もそれこそパーソナルなものだし、ギルモアのギターも間奏以外ではほとんど聞く事が出来ず、それが却ってタイトル曲や「フレッチャーズ・メモリアル・ホーム」での間奏の異常なまでの集中力に繋がっているような印象も受ける。(この2曲の間奏は本当に素晴らしい。突き抜けている。ギターを自由に弾かせてもらえないフラストレーションが一気に爆発したかのようなそれは逆説的だがアルバムの聞き所とも言える。)
 こうして一度空中分解したフロイドがギルモアを中心に再始動したのは1987年のこと。バンド名使用を巡ってロジャー側と争いがあったものの(結局は人数の勝利か?)新生フロイド最初のアルバム「鬱」が無事発表される。
 但し、ニック・メイスンとリチャード・ライトのクレジットはあるものの実際は演奏を差し替えられてしまったり音楽的な貢献度はかなり低く、これまた考えようによっては今度はギルモアのソロ・アルバムに近い内容。
 ロジャーのいないフロイドを認めない人もいたし、ギルモアがフロイドらしさを演じているようなどこかぎこちなさが残るアルバムではあった。

 ・・・が、しかし続いて行われた開き直ったかのようなツアーがとにか~く凄かった。2部構成のそれは過去のフロイド曲をふんだんに盛り込み、ステージ機材の多さも相俟って正にスペクタクル・ショーの様相!
 この時の来日公演は深く記憶に残っている。レーザー光線がギターにあたり、ギルモアが「狂ったダイアモンド」の初めの一音をチョーキングする。も~う、この音だけで鳥肌が立ってしまい正気を失った人は私以外にもたくさんいたはずだ。私も武道館と代々木、2回見てしまった。
 残念ながら機材がトラック60台分にまで膨れあがったという「対」ツアーでは来日してくれなかった。
 で、ワールド・ツアーでの疲弊をいやすにはあまりに長い6年半というインターバルを経て発表されたのがこのアルバム「The Division Bell」邦題は「対(TSUI)」。
 実は発表当時、このアルバムはそれほど熱心に聞くことが無かったが、あらためて聞き直してみると完成度の高い優れたアルバム、という印象を強く持つようになった。
 ライトのキーボードもメイスンのドラムもしっかり存在感を持ちプレイされ、ライトは作曲にも積極的に参加、前作の「鬱」をはるかにしのぐバンドとしてフロイドらしいアルバムとなっている。
 
 特筆すべきはやはりギルモアのギターの音。もう素晴らしすぎる。決して速弾きするわけでもなくブルース・ルーツのプレイではあるが、音の端々の処理まで感情がこもっており大切に弾かれている事がわかる。音のため方・切り方、音が消えゆく刹那にかけられる絶妙なアーミング等、最早ストラト使いの名人芸である。

 ロジャーの書く曲はもちろん素晴らしいし、これまでの名作と呼ばれるアルバムのコンセプトのかなりの部分も彼の手によるものだったのだろう。

 しかし、音楽的な部分ではギルモアの貢献度は世間で思われているよりずっと大きかったのではないだろうか?
「対」はそれを証明する良いアルバムだと思う。英米共にヒットチャートの上位にいたのも決してライブの評判だけではないだろう。(この時のNYでの2回分のチケット10万人分は37分間で売り切れたとのこと)

 ロジャー・フロイドを愛している人にこそ聞いて欲しい名盤。是非、拘りを捨てて対峙して欲しい。収録曲もとにかく完成度が高い。コンセプトの無さ(と言い切ってしまうことはできないが)は楽曲の良さで十分にカバーできている。

 久々にライトがヴォーカルをとる曲でアルバム「狂気」等でおなじみのディック・パリーがSAXを吹いているが、この入れ方だけはNG!かな。こんな安っぽいAOR風の使い方ではなくもっと効果的に吹けるはずなのにねえ・・・

 この後フロイドは沈黙。ギルモアのソロ・アルバム発表もあり、もうフロイド再始動は無いかもしれない。ギルモア自身も語っているようにフロイドとして活動する時に必要なエネルギーは半端じゃないらしいから。