砂の器 | 音楽見聞録

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砂の器 デジタルリマスター版/丹波哲郎
まずは名作。未見の方は是非一度は見るべき。

 原作は言わずと知れた松本清張の推理小説だが、脚本を担当した橋本忍と山田洋次はこれを一度バラバラに解体し、3時間弱の映画の世界に収まるよう実に見事に再構成している。再構成する中で思い切って原作で縦軸として存在する「ヌーボーグループ」なる新進気鋭の芸術家集団の存在をばっさり切り落とし、音楽家 和賀一人に焦点を絞っている。これが見事に軸となり原作よりも物語がぶれることなく進んで行く。また原作での登場人物を遠慮なく切り落とし最低限必要な人物だけに絞りきっている。これはなかなか難しい作業だと思うがこの思い切りの良さが作品のわかりやすさにもつながっている。

 和賀自身のキャラクターも原作より余程強烈なイメージで迫ってくる。


 はっきり言って少々散漫な印象を残す原作よりもこの映画は数段優れている。原作を凌ぐ希有な例とも言える。

 また原作では現代音楽家だった和賀を映画ではクラシック畑の人間として描いている。これも全てが収束していく事にイメージの上で役立っている。


 従って、監督の野村芳太郎や日本の四季折々の風景を実に丹念に撮影したカメラワークも見事だが、この映画の完成度の高さは何と言っても脚本の充実によるところが大きいと思う。


 一つだけ辻褄が合わない所とすれば、原作では理由のあった、秋田の亀田に現れた不審人物についてが後のエピソードに繋がらずに宙に浮いてしまっているところか。ただこれさえも2人の刑事の人間性を表現するために必要な時間だと思えばそれはそれで成功している。原作では森田健作が演じた刑事の性格自体はあまり伝わってこない。


 何と言っても終盤の旅の場面が圧巻。要所要所にカットで入る丹波氏演じる刑事の台詞まわしが絶妙なタイミング。ちょっと大げさで叙情味ばかりを追求した音楽かな?と思うがこの映画には合っている。


 交錯しない人の思いの切なさ。同じ心を持っているはずなのにベクトルが異なるためにそれが相まみえる事がない、正に宿命とも言えるそれぞれの心情。これらを見事に表現した映画である。やっぱり名作だな。