Farewell to Eirinn/Dolores Keane & John Faulkner | 音楽見聞録

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Dolores Keane & John Faulkner
Farewell to Eirinn

 ディ・ダ・ナンで有名なドロレス・ケーンとジョン・フォークナーによる1980年録音のアルバム。「さらばアイルランド」。このアルバムはアイリッシュ・トラッドの掛け値なしに素晴らしい作品。なかなか入手しづらい盤になってしまっているようで非常に残念です。


 ドロレス&ジョンはこのアルバム以外にも数枚の作品を発表していますが、本アルバムは「エミグラント・バラッド」と呼ばれるいわゆる移民の歌を集めた作品で、その中でも最高傑作ではないかと思う。


 1840年に起こったアイルランド全土を襲ったじゃがいもの「胴枯れ病」。このため仕事を失った農民たちが「新大陸アメリカへさえ行けばなんとかなる」という一縷の望みをいだき多くが移民して行くことになる。

 移民船はみな老朽船で大西洋を渡った内その5分の1は途中で沈んでしまったと言う。又、アメリカへ行ったところでそんなうまい話があるはずもなく、搾取される側へ回るだけの彼ら。


 そんな彼らがおかれた状況の中、故郷に思いを馳せ歌った故郷の旋律を持った歌たちがこれら「移民の歌」である。


 とにかく重い。これは非常に重くそして限りなく切ない音楽である。曲はVOのみか、或いはVOとギター、ブズーキ(ギターに似たギリシャに起源を持つ楽器)、パイプのバッキング程度だけで演奏されるごくごくシンプルなものばかり。


 歌詞だって、「俺の名前は○○、故郷は○○、○○から船に乗ってやっとの思いでアメリカへ来た。でも、来てみりゃ仕事などない。施しを求めて歩くアイルランドの子供達がいるだけ・・・故郷にいることがどんなに素晴らしい事だったか・・・」と淡々と貧乏親爺の身の上話が語られるパターンのものが多い。

 だが、これらは事実なのである。彼らのおかれた過酷な状況である。どうしても語らずにいられない人々の思いなのである。

 だから大袈裟な表現などなくとも切々と聴き手に訴えかけてくるのだろう。

 それを歌うドロレスやジョンの歌声がこれまた素晴らしい。なんて素朴で力強い歌声なのだろうか・・・


 彼らの苦しさや故郷への思いの大きさを考えるととてもBGMとして聞き流せるような曲はない。


 そして、ここまでシンプルで根底から心揺さぶる音楽はそうはないだろう。


 ところでこの移民船というのはそのほとんどがリバプールから出航したらしい。リバプールから世界へ向けて出発したのはビートルズやタイタニックだけでは無かったということか。