アガサ・クリスティーさんの「無実はさいなむ(Ordeal by Innocence)」(小笠原豊樹訳)を読みました
クリスティの自薦ベスト10に含まれている作品で、ポアロもミスマープルも登場しません
本作の探偵役は、南極探検隊に所属していた地理学者キャルガリ
彼は、2年前に慈善家で大富豪のレイチェルが殺害された事件について重大な事実に関与していながら、交通事故による一時的な記憶喪失とその直後の南極行きのせいで、そのことを警察に届け出ることができませんでした
レイチェルは自宅で火かき棒によって後頭部を殴打されて死亡していたのですが、犯人とおぼしき養子のジャッコは、事件当時自動車に乗せてもらって移動中だったというアリバイを主張します
その自動車を運転していたのがキャルガリだったのです
南極から戻ってその事件を知ったキャルガリでしたが、すでにジャッコは犯人として有罪判決を受けて、刑務所で肺炎にかかって死んでしまっていました
自分がジャッコのアリバイを証明すれば、彼の名誉を回復できると考えたキャルガリは、「なんでもっと早く明らかにしてくれなかったのか」と責められることを覚悟しながら、おそるおそるレイチェルの遺族の下に向かいます
ところが、皆の反応は「余計なことをしてくれるな!」というものでした
犯行の状況から、ジャッコが犯人でなかったら、そのとき家にいた他の者が犯人ということになるからです
皆がお互いに疑心暗鬼になっていくという感情の描写が、さすがクリスティです
昔の殺人を掘り起こすという設定もクリスティ好みの流れ
ジャッコの生来的な邪悪さを生かした真相もきれいにはまっています
また、ordealとは「試練」という意味ですが、邦題はそこがうまく訳されていますね
↓スレッズの方もよろしくお願いします