アダム・オファロン・プライスさんの「ホテル・ネバーシンク(HOTEL NEVERSINK)」(青木純子訳)を読みました
20世紀の初めころから大立者ジョージ・フォーリーが建設を始めた「フォーリーハウス」は、まるでサグラダファミリアのようにとどまるところを知らずに拡張工事が続いていましたが、1931年にフォーリーが経済的に破綻して屋根から「跳躍」した後に、ポーランド辺りから移民してきたユダヤ人シコルスキーが買い取ってホテルを開業します
本作は、そこから世紀をまたいで語られるホテル・ネバーシンクの興亡記です
まず、シコルスキー一家が成功するまでの極貧ぶりがすごい
アメリカに移ってもなかなかうまくいかず、ホテルの成功は人生を諦めかけたときに転がり込んできました
ホテルのあるキャッツキルはニューヨーク州にあるのですが、ここは実際に裕福な人々が別荘地にするような地域らしく(「ユダヤのアルプス」の異名があったとか)、ネバーシンクも大統領が訪れるようになるほどうまくいくようになります
しかし、1950年に発生した宿泊客の子どもの失踪事件がホテルに暗い影を落とし、その後時代とともに経営はだんだんうまくいかなくなっていくのです
そのような流れを様々な人物によって語らせていくのですが、それらは極めて良質な短編のような形式になっており、小説を読む楽しみを存分に味あわせてくれました
最後に明かされる子どもの失踪事件の謎はちょっとがっかりするレベルだったのですが、そんなことは本作の価値には全く影響しません
長い時間が経過していく中で、様々な人物が壊れたり再生したりしていく様子やホテル自体が栄華を極めるところから最期を迎える過程がパッチワークのように巧みに描かれており、ものすごく満足しました