八割の熱 | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

蒸気機関物語―それぞれの幸福―52

 

 

第三十一話 八割の熱

 

ワットが見つけた、見えない無駄

 

結は、台所で湯を沸かしながら、火を

止めるのを少し遅らせました。

 

やかんの口から出る蒸気が、窓ガラスに

当たって白く曇る。

 

その曇りを指でなぞると、すぐに水滴に

なりました。

 

蒸気は、冷たいものに触れると水へ戻る。

 

そんなことは、誰でも知っています。

 

冬の日、息が白くなる。

 

ふたを取った鍋から湯気が出る。

 

浴室の鏡が曇る。

 

温泉の湯気が、冷たい夜気のなかで濃くなる。

 

けれど、ワットはこの当たり前の変化を

、蒸気機関の大きな損失として見た。

 

結は、やかんの火を止めました。

 

「熱は、どこへ行ったんだろう」

 

蒸気が水へ戻るとき、熱は消えるわけ

ではない。

 

周囲へ渡される。

 

冷たい窓を温める。

 

空気を温める。

 

手を近づければ、指先を温める。

 

蒸気機関のなかでは、シリンダーの壁を

温める。

 

そして、次の瞬間には、そのシリンダーを

冷やすために冷水が入る。

 

温める。

冷やす。

温める。

冷やす。

 

ニューコメン機関は、その繰り返しで働いていた。

*

ワットは、机の前に立っている。

 

小さな模型は、今日も動いたり、止まったり

している。

 

火を入れる。

蒸気を送る。

シリンダーが温まる。

 

冷水を入れる。

蒸気が凝縮する。

シリンダーが冷える。

次の蒸気を入れる。

 

蒸気の一部が、冷たい壁に触れた瞬間に水に

なる。

 

新しい蒸気が、まだ力を出していないのに

失われる。

 

ワットは、量を測り始めた。

 

どれだけの蒸気が必要なのか。

 

一往復のために、どれだけの水を使うのか。

 

シリンダーを温め直すために、どれだけの火が

要るのか。

 

結は、この「測る」という時間を想像しました。

 

ひらめきの話では、発明者は散歩の途中で

突然答えを思いつくことになりがちです。

 

木の葉が落ちる。

お風呂に入る。

雷を見る。

 

そして、世界を変える言葉を叫ぶ。

 

けれど、実際には、測る時間がある。

 

水を量る。

温度を比べる。

蒸気の量を考える。

同じことを繰り返す。

 

結果が合わなければ、またやり直す。

 

計算する。

また試す。

 

ワットが見つけたのは、最初から「八割」

という美しい数字だったわけではないでしょう。

 

まず、何かがおかしいと感じた。

 

模型が期待どおりに働かない。

 

蒸気を使いすぎている。

 

火を焚いているのに、力が出ない。

 

その「おかしい」を、量として確かめようとした。

 

そして、蒸気の多くが、仕事をする前に

失われていることを知った。

 

結はノートに、大きく書きました。

 

蒸気の多くは、
水を上げるためではなく、


冷えたシリンダーを温め直すために使われて

いた。

 

 

ご精読ありがとうございました。

 

懐中温泉