湯冷めする機関 | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

蒸気機関物語―それぞれの幸福―51

 

 

蒸気は、力を出す前に失われる。

 

そして、シリンダーをもう一度温めなければ

ならない。

 

また冷やす。

また温める。

 

また冷やす。

また温める。

 

結は、ここで少し手を止めました。

 

「毎回、同じ部屋を温めて、同じ部屋を冷や

している」

 

これが、ワットに見えた大きな無駄だった

のかもしれません。

 

火は、せっかく水を蒸気に変える。

 

蒸気は、せっかくシリンダーへ来る。

 

しかし、冷えた壁に触れた蒸気は、働く前

に水へ戻る。

 

水を上げるための機械が、まず自分自身を

温め直すことに、多くの火を使っている。

 

結は、温泉宿の朝を思い出しました。

 

湯から上がったあと、冷えた脱衣所へ出る。

 

身体が冷える。

また湯へ入る。

 

温まる。

また外へ出れば、冷える。

 

何度も繰り返せば、疲れる。

 

「機関も、毎回、湯冷めしていたんだ」

 

結はそう書いてから、少し笑いました。

 

もちろん、機関は身体ではない。

 

湯冷めするわけではない。

 

けれど、熱を保てず、また熱を受け、また

冷やされるという意味では、似ているように

思えました。

 

ワットは、すぐに答えへ着いたわけではない。

 

しかし、壊れた模型を直す仕事は、彼に一つ

の問いを残した。

 

なぜ、蒸気機関は、こんなに火を必要とするのか。

 

なぜ、蒸気は、働く前に消えてしまうのか。

 

その問いは、机の上の小さな模型から

始まった。

 

けれど、やがて炭鉱の大きな梁、工場の

動力、町の煤煙、世界中の石炭の消費に

まで続いていく。

 

結は、そこまで書いてから、線を引きました。

 

未来を知っているのは、結だけです。

 

若いワットは、まだ知らない。

 

自分が何を見つけるのか。

 

どれほど長く、その問題に悩むのか。

 

誰と出会うのか。

 

何を失い、何を得るのか。

 

いま彼の前にあるのは、ただ一台の、

うまく動かない小さな機関です。

 

そして、その機関は、もう一度、かすかに

梁を動かします。

 

上がる。

下がる。

そこで止まる。

 

ワットは、止まった梁を見ている。

 

結は、次の頁に題を書きました。

 

八割の熱
――ワットが見つけた、見えない無駄

 

1763年から1764年の冬、グラスゴー

大学のジョン・アンダーソンは、何度も

不調を起こしていたニューコメン機関

模型の修理をワットへ依頼しました。

 

ワットは後年、当初は「単に機械職人

として」修理に取り組んだが、やがて

設計上の根本的な改良の必要を認

識したと回想しています。

 

模型は現在もグラスゴー大学の管理下

にあり、ワットの分離凝縮器の発想へ

つながった重要な資料と位置づけ

られています。

 
ご精読ありがとうございました。
 
懐中温泉