幸福という題 | 「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

「中年の危機」に陥った、ごく普通の50代男性が、3日・2週間・1ヶ月の3段階で人生をやり直す、潜在意識活用システム 真「幸せの時間」

潜在意識の働きで、あなたは「スーパーなあなた」になるのです。そのための素材・方法も実はあなたの手元にすでに多くあります。ここでは、あなたがそれを見出し、活用するお手伝いをいたします。胎児(あなた)は、胎児(あなた)の夢により進化します。

懐中温泉です、

 

蒸気機関物語―それぞれの幸福―9

 

 

結は、机の上に置いた湯のみを見つめ

ました。

 

湯はもうぬるくなっていましたが、

ほんの少しだけ湯気が立っていました。

 

発明が成功したら、幸福なのだろうか。

 

名前が後世に残ったら、幸福なの

だろうか。

 

財産を得たら。名誉を受けたら。

 

大勢の人に必要とされたら。

 

それなら、歴史に名を残さなかった

坑夫は、幸福ではなかったのだろうか。

 

機関小屋で火を見張った人は。

 

管から水が漏れていないか確かめた

人は。

 

雨の日も、夜の寒さのなかでも、同じ

弁を開け閉めした人は。

 

結は、ノートの新しい頁に、こう書きました。

 

成功と幸福は、同じではない。

 

書いてから、さらにその下へ書きました。

 

失敗と不幸も、同じではない。

 

この二つの文は、何か大切なことの

入口のように見えました。

 

たとえば、ある発明者が、長い年月を

かけて機械を作ったとします。

 

機械は動いた。

 

人々はそれを使った。

 

けれど、その人は借金を抱えていたかも

しれない。

 

家族に会う時間を失ったかもしれない。

 

自分の考えを横取りされるのではないか

と、毎晩おびえていたかもしれない。

 

反対に、ある人の機械は思うように

売れなかったとします。

 

発明は、もっと後の時代になって、別の

人の改良のなかに吸収されてしまった

かもしれない。

 

それでも、その人が何かを考え、手を

動かし、誰かと話し、朝の光のなかで

「もう一度、試してみよう」と思えたなら。

 

その時間まで、不幸だったと決めて

よいのだろうか。

 

結には、分かりませんでした。

 

分からないからこそ、「幸福」という

言葉を使いたいと思ったのです。

 

歴史の本には、よく「成功した」

「失敗した」と書かれています。

 

特許を得た。

 

工場を建てた。

 

資金を失った。

 

事業が破綻した。

 

機械が普及した。

 

後の技術者に影響を与えた。

 

どれも必要な言葉です。

 

けれど、それだけでは、人が夜に

何を考え、朝に何を恐れ、それでも

何を望んだのかまでは分かりません。

 

結は机の引き出しから、いつも持ち

歩いている小さな鉛筆を取り出しました。

 

鉛筆の先を削りながら、父のことを

思いました。

 

父は、何かを直すとき、決して急ぎ

ませんでした。

 

古い時計でも、壊れた棚でも、まず

手に取って、少し黙って眺めて

いました。

 

「直るかどうかより、どこが困っている

のかを見ないと」

 

父は、そんなふうに言っていた気が

します。

 

結は、蒸気機関の発明者たちも、

まず「どこが困っているのか」を

見たのではないかと思いました。

 

坑道に水がたまる。

 

人が降りられない。

 

石炭が掘れない。

 

火が届かない。

 

水を上げられない。

 

その困りごとの前で、ある人は、火を

使おうと考えた。

 

ある人は、蒸気を閉じ込めようと考えた。

 

ある人は、蒸気を冷やして、空気の力

を呼び出そうと考えた。

 

その一人一人が、幸福を目指していた

とは限りません。

 

たぶん、最初はただ困っていた。

 

あるいは、誰かを助けたかった。

自分の腕を試したかった。

 

人より先に行きたかった。

 

家族を養いたかった。

 

名を残したかった。

 

好奇心に負けた。

 

理由は、一つではないでしょう。

 

 
ご精読ありがとうございました。
 
懐中温泉