懐中温泉です、
想像してください。
もしもあなたがあなたの望むようになることを
自由に想像できたとしたら。
「え?なんか言葉が重なっていませんか?」
「想像することを想像するんですか?」
ちょっと戸惑われるかもしれません。
想像しなさい、と言われても、自分が想像する
ものがどの程度詳細に想像できていることに
なっているのか。
どうも自信が持てない。
自分の思い描く想像とはそもそも想像と呼べる
ものなのだろうか。
自分がアン・シャーリーのように自由に想像できる
とはとても思えない。
ありうることです。
それはしかし、案外あなたの置かれている環境が
とくに物質的にごく十分に恵まれていて、苛酷な
環境のもとで想像力を働かせる必要がそもそも
なくてすんだ、とみなすこともできそうです。
必要は発明の母
必要がなければ、あえてエネルギーを消費して、
能力を発揮するまでもない
これもまたありえます。
私は元来想像力をはたらかせるのがそれほど
得意ではないと自分では思っていました。
イメージングの際にもどこか飛躍が許されない、
という感覚を抱いていました。
いや、今でもそれほどその感覚は変わっている
とは思えない。
ただ、今回、アン・シャーリー、すなわちモンゴメリ
の名作『赤毛のアン』の主人公と同じ屋根裏部屋
に滞在することになって、これまでとは違った角度
から見るようになっています。
出張で1週間イギリスに来ることになり、もともと
宿代は日本の倍の感じでしたが、昨今の物価高と
為替レートの関係で、ひょっとすると3倍以上という
のを覚悟していました。
ところが、少し早めに探し出したということもある
でしょうが、かつてこういう価格で、出張手当を
オーバーせずにすませていたな、という程度の宿が
見つかりました。
自分で調理できるようにスタジオ・フラットで探して
いて、そのカテゴリーで見つかったのです。
繁華街の道路近くで屋根裏部屋でした。
屋根裏部屋で、道路沿いということでかなりの格安
なのだろう。
1週間だし、と即決しました。
そして、日本から出航し、長旅ではありましたが、
全体としてスムーズに宿まで到着し、最初は戸惑い
がある、キーボックスからの鍵の取り出しもスムーズ
にいっています。
夏のため、日が長く、明るい中で一連の滞在準備も
終わり、食事をして、イギリスに来ると飲んでいる
サイダー(リンゴ酒)を飲み、眠くもなりましたので
ベッドに身を横たえました。
ふと、外で大声で話す男女の声が聞こえてきました。
酒場などで大声で話し、哄笑するたぐいの声です。
最初日本語かと思いましたが、英語で、どの国や
地域でも同じ人種がいて、同じような話し方、
同じように笑うものだな、と。
それがずっと続いています。
あとでわかりましたが、道路に面してピザ屋があり、
その裏の空間を隔てて、宿の屋根裏である自分の
部屋があります。
天窓はカーテンもなく、明かりが射し込んでいる。
大きな話し声の応酬が続いている。
これから1週間こんな感じだったら眠れずに過ごす
ことになるのではないだろうか。
路上で大声で話す、たぶん酔っ払いの人間は、
いくらでも出てくるだろうし。
と、以前見た、夢でよかった、という仙台に引っ越した
先が喫煙可能な居酒屋の一角で仕切りもないまま
ある空間を借りることになり荷物も届いている
その情景がくっきりと浮かんできました。
寝たままの状態でいます。
朝の6時まで開いています、とその居酒屋の従業員
に言われて絶望している情景が浮かんできて、あれと
くらべれば、仕切りはあるし、タバコの煙もないし、
天窓も、クッションで覆いを作れる、と思い直しました。
過去の夢の記憶が呼び戻され、現実の状況の方が
ずっと条件がよいとわかったのです。
ほどなく、その話をしている大きな声もやみ、静かに
なり、ふたたび眠り、朝はきちんと眠れたという
状態で起きることができました。
記憶を呼び戻すことで、現実の状態との比較をする
それができるほどに鮮明にイメージが感覚とともに
復元できる。
これはもしかするとアン・シャーリーとはちがうかも
しれませんが、一種の想像力の働かせ方とも
言えそうです。
今回の屋根裏部屋での滞在は、アン・シャーリー
のように過ごせるでしょう。
過去の記憶にさかのぼることで、想像力を働かせる。
試みる価値はありそうです。
あなたはいかがでしょうか。