宇宙暦796年(帝国暦487年)4月19日。
 イゼルローン要塞、午前8時・・・。


 「全く・・・。ゼークト閣下は、シュトックハウゼン閣下の何を知っていると言うんだ??もう・・・気になって仕方がない!」
 レンドルフ大尉が吼えていた。

 「それに、こいつは俺の進退問題にもなりそうだしなぁ・・・ううう」

 レンドルフは昨日の事を思い出して身震いをすると、がっくりと肩を落とす。
 イゼルローン要塞中央司令室の、おしゃべりとお祭り好きな3人のオペレーター衆は、翌日もその話
題で盛り上がっていた。
 「おい、大丈夫か?まぁ、俺も気になっているけどな。それに、気になりだすと・・・」
 昨日のレンドルフの様子を思い出し、同情するシェーラー大尉。
 「・・・なんだ。気になって眠れないと言うつもりか?」
 ノイマン大尉は、コーヒーを啜りながらのんびりと笑い、横から口を出した。
 「眠れない・・・。まぁ、そんな感じだな。・・・でも、そういう卿だって気になっているのだろうが?」
 シェーラーに突っ込まれたノイマンは肩を竦めた。
 「・・・まぁな。いつもながらにゼークト閣下には脱帽だったな。それにしても、あの子供2人がシュ
トックハウゼン閣下の子供だったとは驚いたな。ゼークト閣下が言い出した時は・・・いやはや・・・って思ったからな
 「・・・そういや、卿はあの時、確か舌を出していたよな?」
 「う・・・まぁな」と、シェーラーに突っ込まれて苦笑するノイマン。
 「俺は、あの時、生きた心地がしなかった。だけど、孫と言っても遜色ない感じだし。特に次女はど
う見たって8歳か9歳ぐらいだろう?長男だって、10歳ぐらいにしか見えなかったし。俺・・・一瞬、もしかしたら、この先、もっと危険な前線に送られるのではないか・・・と思った」
 レンドルフはげっそりしている。
 「・・・前線って。イゼルローン要塞だって最前線だぞ?」
 シェーラーに突っ込まれたが、レンドルフは溜息を付くだけで反論する元気すらないようだった。
 「・・・お陰で食欲すらわかない。今朝は何も食べてない」
 それだけを言うのがやっとだった。
 「・・・気持ちは分かるよ。・・・確かにあれは焦るよ、本当に」
 レンドルフに同情するシェーラー。
 「うーん・・・しかし、ゼークト閣下ではないが、子供があの年なら・・・。本当に頑張ったんだろうなぁ
、閣下も・・・。計算すると、40歳前後で2人も仕込んだって事になるだろう?全く・・・参ったな」
 ノイマンが指折り数えながら言い、それを聞いたレンドルフはまた溜息を付いて、コーヒーを啜った

 初期欲は無いが、コーヒーばかり飲んでいる。
 お陰で胃が痛くなりそうだ。
 そして彼は、シュトックハウゼンが、あの妻相手に頑張っている姿を想像して、思わず、身震いをし
た。
 ・・・何と言うイメージを頭に構築したのか~!!
 自分自身の頭の回路に吐き気をもよおすレンドルフ・・・。
 「・・・仕込んだ・・・か。露骨な表現と言うか何と言うか・・・。でも、考えたら笑えるよ・・・やっぱり・・・」
 寝不足気味のシェーラーは大あくびをしながら呟いて、眠気覚ましの2杯目のコーヒーに手を出した

 ノイマンも、「・・・そう、閣下は頑張った訳だ・・・」と、コーヒーを啜りながら頷いていた。


 要塞内の至る所で、この話は囁かれた。
 ゼークトが部下を激しく殴り倒して意識不明の重体にさせただの、シュトックハウゼンの頭がまた禿
げただの、訳の分からない尾ひれがついて、誇張されて伝えられたが、誰にも“秘密”は分からなかった。
 そのまま2日が経過したが、その2日目の夕食時に、その噂の“秘密”が暴露される事になったので
ある・・・。


 司令官は、普通、自室で食事を取る事が多い。
 幼年学校生の従卒が食事の度に給仕として就く。
 だが、1人での食事は味気ないとか言って、駐留艦隊司令官のゼークト大将は、時々部下達と共に、
士官食堂に顔を出す。
 これは、将兵達にとってはいい迷惑だった。
 ところが、部下との交流を図る事は、良い司令官の務めであるとゼークトは思い込んでいるのであっ
た。
 この彼の行動に対して、誰も歯向かう事が出来なかったのである。
 この日も、突然現れたゼークトに対して、居並ぶ、尉官や佐官の者達は驚いて、食器を載せたトレー
を持ったまま固まってしまった。
 その場にたまたま居合わせたレンドルフ達も、「おい、おい・・・」と、互いに顔を見合わせてしまっ
た。
 「うわ・・・。何でここに来るんだ?閣下達が来ると、緊張で食った気がしなくなる。せっかくの楽し
みが台無しだ・・・」
 戦場では、“食べる事”は楽しみの1つなのだ。
 煙たい上官と一緒に食事をするなど、御免こうむりたい。
 シェーラーは嫌そうな顔で小さく呟き、レンドルフはやや上を向き、ノイマンも僅かに苦笑した。
 しかし、状況を呪いたくなったのは、彼等の着いたテーブルの向かいに、その一行が着いた事だった

 だが、ゼークトが来たからといって、席を変えるなんて事も出来そうに無い・・・黙って食べるしかな
さそうだった。
 しかも、シェーラーの向かいに座ったのは、義眼のオーベルシュタイン大佐だ。
 苦手なタイプの人物が目の前にいる・・・。
 彼は情けない顔で隣のノイマンに救いを求めようとしたが、ノイマンはまた苦笑して肩を竦めただけ

 シェーラーは溜息を付いて諦めた・・・。
 
 「ところで閣下・・・。例のシュトックハウゼン閣下の秘密ですが、今や、要塞内の話題を独占してい
るのをご存知ですか?皆、ゼークト閣下の方が凄く強いなどと言っているのですよ」
 食事も中盤に差しかかった時、クインシュルツ中佐がゼークトに声を掛けた。
 彼の右頬に残る青黒い痣は、一昨日、暴れるゼークトを止めようとして、モロにパンチを食らった時
の勲章である。
 ゼークトは、食事にはあまり手を付けずに、ザウアー・クラウトをつまみにして、ウィスキーをスト
レートで飲んでいる。
 どうやら、天敵であるシュトックハウゼンをギャフンと言わせた事で、すこぶる機嫌が良いらしいの
だ。
 いや、多くの将兵の集まるこの場所で秘密を暴露するつもりなのでは・・・と、3人は感じていた。
 「もぐらの事が話題に上るのは癪だが、あいつがマルガレーテをブス呼ばわりするのが悪いのだ。彼
女は・・・」
 ゼークトはギリギリと歯軋りをした。
 「・・・ええ、閣下の亡くなられた奥方は本当にお美しい方ですよね。前にお写真を見せて頂いた時は
、シュトックハウゼン閣下がおっしゃられるのとは丸っきり違っていたので・・・。本当に今回のはひどいとしか言いようが・・・」
 どうやら、クインシュルツ中佐は、ゼークトの亡き妻の写真を見た事があるようであった。
 だからという訳ではないだろうが、頬の痛みなんて何のその、一生懸命にゼークトをヨイショするの
が涙ぐましい。
 それを受けて、バルスハウト中佐も急に、「本当に、美人薄命という言葉がそのまま当てはまるよう
な方ですよね・・・」などとお追従。
 それを聞くなり、ゼークトはグラスを一気に空けた。
 「そうなのだ・・・。マルガレーテの死は俺にとっての古傷で、辛く悲しい話なのに、奴と来たら・・・。
くそう~!!もぐらのくせに~!!ええい!思い出しても腹が立つ」
 ゼークトは、悔しげに唇を噛んだ。
 「大体な、あいつは男ばかりの兄弟で、奴は三男なんだが・・・。あの家の長男は病気で急逝してな。
その為に次男、奴の双子の兄が嫡男になったが、娘が1人いるだけだ。しかもその娘は病気にかかって子供が望めない。それで、あいつの親父・・・シュトックハウゼン男爵は、あいつが恥ずかしさも省みずに超超超~頑張って儲けた男児をそれはそれは喜んだらしくてな。男爵は生まれた孫に名前を付けた。何でもあの家では、家長である男爵が名前を付ける伝統があるそうだ。ところがな・・・」
 ここまで一気にまくし立てて、ゼークトは息を付いた。
 そして、部下がグラスに注いだウィスキーにゆっくりと口を付けた。
 普段はさっさと食事を終えるオペレーター3人衆だったが、ゼークトの話が気になって仕方が無い。
 話がシュトックハウゼンの事だったので、3人は普段は殆ど食べないデザートの盛り合わせなどを持
って来た。
 そして、それを、ちまちまと食べながら聞き耳を立てる作戦に出た。
 特にノイマンなどは、甘い物が苦手だというのに、他の2人と一緒に話が聞きたいが為に、苦痛の表
情を浮かべて、ブラック・コーヒーを何杯も飲みながら、果敢にデザートのザッハトルテとバウムクーヘンに取り組んでいる。
 「男爵はな、15年ほど前に体調を崩されたらしい。今は全快されているらしいが、その時に、息子
達に男児がいない事を悲観されていたそうだ。・・・それが原因かどうか分からんが、少々ボケてこられたらしくて、これが、奴の生まれた息子ににとんでもない名前を命名したんだ。エーリクから聞いたんだから間違いないだろうが、これが事実だと知った時は、さすがに俺も度肝を抜かれたものだ。・・・この時ばかりは、多少は奴に同情をした。呆れてな」
 ・・・エーリク!!?
 ゼークトの口から、「エーリク」という名前を聞いた途端、ノイマンはコーヒーを咽そうになった。
 やっぱり、シュトックハウゼン閣下の双子の兄の、エーリク・フォン・シュトックハウゼンとゼークト
は知り合いだったのだ・・・。

 「家業からなのか、男爵は海釣りが趣味らしいのだ。その影響でエーリクも釣りをするそうだが・・・。まぁ、そんな事はどうでもいいが、何ともぐらの息子に『ボニート』と名付けたのだ」
 それを聞いた瞬間に、クインシュルツ中佐、バウスハウト中佐は、お互いに奇妙な顔をして見合わせ
た。
 「あの、閣下・・・本当にその名前なのですか?」
 あまりの衝撃だった・・・。
 聞き間違えたのではないか・・・と思いながら、クインシュルツ中佐はゼークトに恐る恐る聞いた。
 普段は殆ど表情を変えない義眼のオーベルシュタインですら、名前を聞いた瞬間に、眉根を寄せたほ
どた。
 「間違いなものか。エーリクは奴の兄だからな。しかも・・・長女の息子、つまり、奴の孫・・・。男爵にとっ
てはひ孫になるのだが、これには、『ドルシュ』と名付けたと言うのだ。ここまで来ると、男爵がボケたと噂されるのも仕方が無い気がしてくるな。・・・馬鹿者だろうが?そうは思わんか?」
 「・・・確かに尋常ではないですね・・・」
 クインシュルツが大口を開けると、ゼークトは豪快に笑った。
 バウスハウトは大きく頷いて、「それにしても・・・驚きました。凄い名前ですね」と生真面目に答え
た。
 「だがな。名前なんてどうでもいい。俺が腹が立つのは、男爵家にとっての待望の男児だから、未来
の男爵位を継ぐのは奴と、男爵が勝手に決めてしまった事なんだ。エーリクからすると面白いはずはない。エーリクの方が兄なのに病気の娘が1人だから、後を継がす訳にはいかないと男爵が言ったんだそうだ。まぁ、仕方が無いが、家名を潰す訳にもいくまいからな」
 「でも、大抵、後を継ぐのは長子と決まっているのではないでしょうか?女性で爵位を持つものもい
るはずですが・・・」
 「・・・遺言がなければ、そうなるかもしれない。・・・何と男爵は正式な効力を発揮する遺言を既に作っ
ていて、それには奴への爵位譲渡が書かれているんだそうだ。長男は病気で没しているし、エーリクの子は女性でしかも病の身。だから、男児を儲けた三男の奴が将来男爵になると言うのだ・・・!少しでも男爵位を継げればエーリクも納得するはずだが、遺言書のお陰でそれは消えてしまったらしい」
 同じ三男同士なのに、シュトックハウゼンが男爵になるのが相当頭に来ているらしいゼークトはギリ
ギリと歯軋りをした。
 「もぐらはわざとらしく父親に取り入って、爵位を自分に・・・と狙っていたのだ。・・・そうでなければ
、父親が奴に爵位を譲るとの遺言を書く訳がない。奴が無理やり書かせたのかもしれないだろうが?兄弟なのにやる事が汚いと、エーリクがひどく怒っていた。・・・馬鹿馬鹿しい話だがな」
 「・・・凄い話ですね・・・」
 クインシュルツも、バウスハウトも爵位のない下級貴族の出身で、爵位を巡っての身内同士の争いな
どなかったので肩を竦めていた。
 「エーリクは、父に取り入るもぐらのそういう態度が気に入らんらしい。息子が生まれてから、それ
まで休暇があっても帰りもしなかった実家に頻繁に顔を出すのだそうだ。・・・そして、ここでも写真などを見せて浮かれているそうだ。その態度・・・最低だろう?しかし、息子や孫があの名前では・・・な。成人して宮廷に伺候する時分には、こんな変な名前では物笑いのタネを振りまくだけだろうよ。全く、あやつの気が知れぬわ。さて・・・と、もう戻るとするか」
 一気に話し終えたゼークト。
 無造作にナプキンで口の周りを拭うと、さっさと席を立って、出口に向かって歩き出した。
 それを合図に部下達も慌てて席を立ち、一行はゼークトの後について、慌しく士官食堂を後にしたの
であった・・・。


 士官食堂に居合わせた人々は、ゼークト一行が嵐の如く去ると、あちらこちらで大きく咳き込んだり、息を吐いたり・・・と、急にざわめき始めた。
 苦労の末に、皿にいっぱい盛っていたデザートを完食したノイマンが、レンドルフを突っついた。
 「なぁ・・・俺達も、そろそろ持ち場に戻らないと・・・」
 「あ・・・そうだな」
 3人は慌てて食器類を下げ場まで持って行く。
 今日は夜勤だし、急いで中央司令室に戻らないと不味いのだ。

 「うーん・・・それにしても・・・。俺、暫くの間、『ボニート』と『ドルシュ』が食えなくなりそうだ・・・
 レンドルフが溜息混じりに呟いた。
 「俺もだ・・・。まったくとんでもないネーミングをするものだな・・・。俺はまともな親だった事を感謝
する。イザークなんてありきたりだけど、ドルシュとかだったら、絶対にグレているかもしれない・・・
 レンドルフの意見に同意するシェーラー。
 「・・・同感だな。今までは、カール・フォン・ノイマンなんて、つまらない名前だと思っていたが、こ
れが、『フォレッレ』なんて名前だったりしたら、きっと死にたくなっているだろうな・・・」
 「うわ・・・それは最悪だ。・・・俺もハインリッヒなんて平凡な名前じゃなくて、これが・・・『カーヴィ
アル』なんて名前だったりしたら、恥ずかしくて泣き喚いているかもしれない・・・」
 レンドルフがとんでもない名前を言い出したので、シェーラーの笑いは止まらなくなった。
 「ぷっくくくく・・・。2人とも笑わせないでくれ。腹が痛くなってきた。俺、カーヴィアルを食う
のは好きだが、それが自分や卿の名前だったらイヤだな。今度、カーヴィアルを見たら笑いそうだ・・・
 笑い過ぎで、シェーラーは涙目になっている。
 「本当だ。卿を食っているみたいで後味悪くなりそうだ・・・」
 ノイマンがクスクスと笑いながら言うので、レンドルフは口を尖らせた。
 「後味悪いはないだろ・・・」
 その言い方がおかしかったので、3人は、また顔を見合わせてクスクス笑いを漏らしていた。
 「・・・おい、何を笑っている?」
 声を掛けて来たのは、シュトックハウゼンの副官のゼーゼマン中佐だ。
 3人は慌てて顔を引き締める。
 「・・・あの・・・中佐。シュトックハウゼン閣下は?」と、意を決して聞いてみるレンドルフ。
 「ん?閣下はもうお休みになられたが・・・」
 どうやら、1時間も前に就寝したらしい。
 「そうですか・・・。あの・・・怒らないで聞いて下さいね。実はですね・・・」
 レンドルフはそう前置きをすると、ゼーゼマンに、士官食堂での一件を語ったのだった・・・。
 どうせ自分達が言い触らさなくても、明日の朝には、士官食堂発の、最新ニュースとしての“噂”が要塞内に広まる
に決まっているのだ。
 
 レンドルフから事のあらましを聞き終わったゼーゼマン中佐は、こめかみを押さえて、大きく息を吐
いた。
 「何と言うか・・・。卿はどう思う?」
 傍らにいたレムラー中佐に意見を乞うてみたが、レムラーは思いっきり顔を顰<しか>めた。
 「どうと言われましても・・・。これでは明日の朝には、この話で持ちきりになるのは必至でしょうな
。どうも、頭が痛くなる話ばかりが続いて・・・」
 その意見に、ゼーゼマンは頷いた。
 「全くだ・・・」
 今夜の間に、一気に要塞内に広まるであろう噂。
 この手の話は、疾風<はやて>の勢いで広まるのが常なのだ。
 「明日、閣下のご機嫌は・・・ふう・・・」

 ゼーゼマンはシュトックハウゼンが激怒するであろう事を考えて、苦虫を潰したような顔をした。
 多分・・・怒りのとばっちりをまともにかぶるのは、シュトックハウゼンの副官であるゼーゼマンなの
だ。
 それが分るからこそ、頭痛がする。

 「全く・・・。ゼークト閣下も困ったお方だ。いらぬ事で波風立てられるのだからな。・・・いいか、卿等。明日はその話をするの禁ずる。ただでさえ、このところのやり合いで閣下の機嫌は悪かったのに、これでは、ますます悪くなられてしまうではないか。家族写真が届いて上機嫌だった閣下をあそこまでいたぶった上に、更にとは・・・!!全くゼークト閣下も何と言う理不尽な事をなさるのであろうか・・・。これ以上、閣下の神経を逆撫でする事もなかろう。・・・おい、他の者も話さないようにな!」
 3人と、その場にいた他の将兵達も、無駄な努力だとは思いつつ、明日の早朝からシュトックハウゼ
ンの最大級の怒りの被害を最も被る事になりそうなゼーゼマンに同情し、神妙な顔で頷いたのであった


 翌朝のシュトックハウゼンは、不機嫌色で染められた、分厚い衣を幾重にも身にまとっていた。
 「う~・・・ゼークトの奴を呪ってやりたい・・・」
 歯軋りしながら呟く姿は異様であったが、かと言って、ゼークトの所に出向いて、文句を言う気力は
無いようだった。
 ・・・プライドが許さなかったのだ。
 「くっそぅ~!!何か、あいつをコテンパンにしてやれるような良い方法はないものかな・・・。おい
、ゼーゼマン。卿は何か良い方法を知らんか?そうだな・・・奴がすぐにでも病気にでもなって退役してしまいそうな、即効性の高い呪いの方法なんかがあれば最高に良いのだが・・・」


 (仕返しでもするつもりなのか・・・?)


 ゼーゼマンは呆れたが、呪いの方法など全く知らないし、解決策を何も思いつかなかった。

 ブツブツと口の中で呪詛を言葉を呟くシュトックハウゼンに、ゼーゼマンは深呼吸をした後に意を決して進言を試みる。

 「閣下・・・ゼークト閣下に仕返しをなさるおつもりなのですか?」
 「ふん、当たり前だ。奴をギャフンと言わせないと、気が晴れない!この怒りを奴にぶつけたい!」
 「・・・ですが、言いたい者には言わせて置けば良いではありませんか?怒ったところで血圧が上がる
だけで、何も良い事はありません。取るに足らぬ者のたわごとだと思って放って置けば良いと考えます。閣下は、ゼークト閣下と比べて、精神的にも立派な大人なのですから、子供のたわごとだとお思いになられて、聞き流して置けば良いのです。小官が思うに、これは、ゼークト閣下のひがみであろうと思いますし・・・」
 「・・・ひがみ?」
 意外な言葉に、シュトックハウゼンは思わず聞き直した。
 「そうです。閣下は男爵家の三男であられますが、今のままだと兄君に代わって爵位を継がれるご様
子とか。正式なご遺言状があるのでしょう?そして、閣下のご子息が爵位を継ぐ可能性が高いではありませんか。そうなれば、宮廷での閣下の注目度も上がりましょう。一方ゼークト閣下も男爵家の三男であられますが、こちらは、奥方もお子様もいらっしゃいません。・・・となれば、兄君やそのご子息達に不測の事態でも起こらぬ限り、到底、爵位は望めません。勿論、宮廷に伺候する事も出来ない訳ですから、これは、絶対にゼークト閣下のひがみなのです」
 ゼーゼマンは一気にまくし立てた。
 「あぁ、そうだ。奴の2人の兄には子供がそれぞれ3人ずついて・・・。長男のところは3人とも男だ
ったな・・・」
 「・・・それならば、長い眼で見ましたら、やはり閣下の方がゼークト閣下に比べられて断然、貴族社
会においては優位ではありませんか。そう・・・『負けるが勝ち』の精神だと思われますが・・・」
 たとえ今は負けたように見えていたとしても、長い目で見たら、決して負けてはいないのだ・・・。
 シュトックハウゼン閣下の方がゼークトに比べて立派な大人なのだ・・・と、ゼーゼマンは必死に力説
した。
 それを聞いて、シュトックハウゼンは、そういうのもか・・・と、少しばかり冷静さを取り戻し、漸く
怒りを静めたのであった。
 「ふむ・・・なるほどな。卿の言にも一理あるな。私の方が、ゼークトに比べて大人・・・か。それは、ま
ぁ、そうだろうな。・・・うん、確かにその通りだ」
 元来、根が単純なシュトックハウゼンは大きく頷いた。
 
 そして、シュットックハウゼンは、その後はその話題には決して触れようとはしなかったので、レン
ドルフ達、オペレーター3人衆も、決して口外しないように心に決めたのであった。
 ・・・少なくとも自分達の口からは。



Das Ende



 シュトックハウゼン&ゼークトの帝国漫才第3弾です。
 オリジナルのキャラは、レンドルフ、シェーラー、ノイマン、ゼーゼマン、クインシュルツ、バルス
ハウト・・・。
 オリジナルばかりですが、ご了承下さい。
 因みにレムラー中佐は原作にも登場致します・・・アニメでは変な髪形でした。
 でも、DVD化される時にさすがにその髪型をスタッフも不味いと思っていたのでしょう・・・顔も描き直
されていて、別人28号になっていました!
 元ネタは・・・もうお分かりでしょうか??
 長女は24歳、長男11歳、次女9歳、孫3歳で、妻の名はフローネ・・・あ、怪しい!
 さて、『ボニート』はカツオです。
 『ドルシュ』はタラの稚魚です。(そう・・・稚魚というのが、この場合、激ツボです!)
 『フォレッレ』はマスで、『カーヴィアル』はキャビアの事ですが、鮭の卵のイクラの事も、カーヴ
ィアルらしいです。
 こうなったら『穴子』は・・・と思ったのですが、さすがに、これは辞書には載っていませんでした。
 でも、どうしても必要な名前がドイツ語の辞書に出ていたので私、とっても感動しています~!!
 しかし・・・タラの稚魚はビックリしました。
 シュトックハウゼン&ゼークトの帝国オヤヂコンビは、私の中では最強であり、不滅なのです~!!
 さて、遺言では男爵位はシュトックハウゼン大将の物・・・ですが、ここで1つ問題が発生します。

 彼は同盟軍の捕虜になってしまうのです。 

 なので、エーリクが後を継いで、その後は・・・トーマ・フォン・シュトックハウゼンの息子に家督が譲られ・・・という事になるかもしれません。

 または、ヤンとキルヒアイスが顔を合わす事になった例の「捕虜交換式」で、釈放され、オーディンに戻るかもしれません。

 その場合は、爵位はトーマ・フォン・シュトックハウゼンになる可能性が。
 あくまで順調に行けば・・・ですが、さて・・・どうなる事やら・・・。
 娘の子は、考えてみたらば、姓は『シュトックハウゼン』ではないはずなので・・・そう、イソノでは
なく、フグタですものね・・・爆!
 やっぱり、後を継ぐのはボニート君なのでしょうか・・・好奇心旺盛ですが、頭が悪いという噂も・・・え
??

 それから、私は原作を読んだ時に感じたのは、シュトックハウゼンは気が弱いって事です。

 シュトックハウゼンのこの性格のお陰で、中央司令室の面々は、イゼルローン要塞攻防戦(帝国にとっては攻防戦でしょう)で薔薇の騎士<ローゼンリッター>連隊に踏み込まれた時、命を落とさずに済んだのではなかろうか?と。

 だって、レムラー中佐がシェーンコップ達に銃を向けた時、即座に「降参する!」って白旗揚げちゃったもんね、シュトックハウゼン。

 司令官が即、白旗だから、少なくとも、中央司令室にいた部下達は無駄死にしないで済んだ・・・訳です。

 この辺りが、好戦的なゼークトと違うんですね。

 2人の立場が逆だったら、また違った歴史があったのではないかと愚考します。
 さて、このシリーズ・・・まだまだ・・・ネタはございます!!






 


 宇宙暦796年(帝国暦487年)4月18日・・・。
 その日は早朝から、イゼルローン要塞の司令官のシュトックハウゼン大将は最大級に上機嫌だった。
 要塞中央司令室でも、それこそ、通路でも、部下達に必要以上に笑顔を振りまいていたのだ。
 普段はこんな笑顔を見る機会などないから実に不気味であった。
 
 「おい・・・今日の閣下って何だか変じゃないか?一体なにがあったのだろう?」
 ノイマン大尉は、シェーラー大尉にそっと声をかける。
 データ処理の為に端末と睨めっこをしているシェラー。
 「・・・さぁ。でも、確かに変だな。異様にニコニコしている点が不気味だ。・・・何であんなに笑っているんだろう?」
 端末から視線は外さないが、シェ-ラーは不安そうな声を出した。
 一般的に考えたら、司令官が機嫌が良いのは逆よりもありがたい話だ。
 だが、普段が普段だから、笑顔のバーゲン・セールみたいで、気味が悪いったらありゃしない。
 「閣下は皆に写真らしき物を見せているぞ」
 レンドルフ大尉がそう言いながらやって来て、2人の斜め後ろの席にゆっくりと腰を下ろした。
 コーヒーが入った紙コップを3つ持っていて、黙って2人に差し出す。
 「ダンケ!・・・で、写真だって?」
 意外な言葉に、ノイマンは受け取ったコーヒーを一口だけ啜って首を傾げた。
 「・・・それが、俺にも良く分からないんだが、家族のホログラフィーを見せているらしいんだ」
 データ処理に余念が無かったシェーラーは、家族写真と聞いて、漸く端末から視線を外した。
 「でも、なんで家族写真なんだ?」と、顔を顰<しか>めて小さな声で呟いたシェーラー。
 漸く紙コップを手にし、コーヒーを一口啜った。
 「・・・確かにな。何でそんな物を見せてるんだ?」
 ノイマンも怪訝そうだ。
 ・・・意味がサッパリ分からない。
 「それが・・・閣下は意外と愛妻家らしい・・・という噂で」とレンドルフ。
 「愛妻家ね・・・。一体誰から聞いたんだ、そんな話・・・」と、目を丸くするシェーラー。
 「いつだったかな・・・。前にシュレンハイム少将閣下が言ってたんだ。閣下はオーディンから家族写真が届くと、中央司令室勤務の部下達に必ず皆に見せているって・・・。それで見た者にその感想を聞くんだそうだ。俺達もここへの赴任は最近だから、その現場を見た事はないのだが・・・」
 レンドルフは苦笑しながら言った。
 レンドルフとシェーラーは、ノイマンよりも2か月前に、このイゼルローン要塞に赴任したばかりだったのだ。
 「なんで感想を聞くんだ・・・?そんなのを愛妻家って言うか?・・・単なる押し付けではないか・・・」
 厭そうな顔のシェーラーに、ノイマンは苦笑いを浮かべる。
 「まぁ、なんだ・・・。閣下が俺達に写真を見せてくれたら、『素晴らしいご家族ですね』とか言って、思いっきり褒めちぎるしかないだろうな」
 「・・・歯の浮くようなお世辞を言わねばならん訳か・・・」
 レンドルフは身震いした。
 本当に見目の良い家族ならいいが、不細工な集団だったらどうしよう・・・そんな事が頭をよぎる。
 「まぁ、どちらにせよ、褒めるしかないだろうな。俺的には、機嫌が良い閣下を怒らせる必要はないと思う訳だ。・・・そうだろう?」
 ノイマンがのんびりと言う。
 「・・・それはそうだが・・・」
 シェーラーが小声で呟いた時に、3人の近くにホログラフィー・カードを手にした最上級の笑顔を貼り付けたシュトックハウゼンが現れたのだった。
 3人は互いに顔を見合わせて、慌てて口を噤んだ。
 “噂”が“現実”になった瞬間であった。


 シュトックハウゼンの家族写真・・・。
 暖炉のある居間らしき場所で、安楽椅子に彼の妻のフローネが座り、その妻の右横に、妻に良く似た娘夫婦が立っている。
 左横には10歳前後と思われる男の子と女の子が立っていて、女の子は赤いリボンと鈴を付けた真っ白な猫を抱いていた。
 妻のフローネの膝には、3歳ぐらいの男の子が座っていた。
 シュトックハウゼンはやや貧相だが、彼の妻はふくよかで、年のわりには中々の美人であった。
 レンドルフ達は、不細工な家族でなかった事に心から安堵した。
 これならばお世辞ではなく、本当の事を言えばいいのだから。
 そして、『理想的なご家族ですね』とか、『とても可愛らしいお孫さんですね』、『奥様は美人ですね』などと、シュトックハウゼンが喜びそうな言葉を、次から次へと投げかけた。
 3人が褒めちぎる度に、シュトックハウゼンは、「そうだろう、そうだろう」と嬉しそうに笑って頬が緩みっぱなしだ。
 しかも、ノイマンが、「閣下、このような美しい方を娶られるとは素晴らしいです。閣下は若い頃から美男子であられたのでしょうね」などと褒めたのがよほど嬉しかったのか、シュトックハウゼンは、「ほう。卿は中々見所があるな」などと言いだし、急に神妙な顔つきになった。
 「卿らも早く結婚した方が良いぞ。・・・家族とは本当に良いものだ。何処かの誰かさんは、昔の記憶を後生大事に抱えているようだが、記憶というものは、年を取れば取るほど、薄れてゆく。その為、とかく美化される傾向にあるものだ。・・・どんなにひどいブスであっても、美しかったと思い込むようになってしまうのだ。それを、ロマンチストだと言う者もいるが、そんなものは、私に言わせれば、馬鹿者のたわごとでしかない。そうだとは思わんか?」
 何処かの誰かさん・・・。
 それは、シュトックハウゼンと同じ大将である、イゼルローン駐留艦隊司令官のゼークト大将の事を意味していた。
 彼の亡くなった夫人を「ひどいブス」呼ばわり・・・。
 3人はやや呆れたが顔には出さなかった。


 シュトックハウゼンが執務室に引き取ると、3人は互いの顔を見合わせ、大きく息を吐いた。
 勿論、他のオペレーターや警備兵達も同様だった。
 「俺達は要塞内の勤務だからシュトックハウゼン閣下を支持するけど・・・。いつもながら、シュトックハウゼン閣下は、ゼークト閣下には容赦がないな・・・。俺はいっぺんに肝が冷えた」
 レンドルフはそう言って、紙コップの中に半分ほど残っていたコーヒーを一気に流し込んだ。
 「そういや・・・どら息子の中に、妙に暗い感じの人がいたな。・・・確か、大佐だったと思うが」とノイマン。
 「あ・・・それって義眼の?」とシェーラー。
 「あぁ、どら息子の中では異色な存在だ。この間、急に瞳が赤く輝いて驚いたのなんのって・・・」
 その光を思い出したレンドルフは身震いする。 
 「義眼は・・・光コンピュータの寿命が短いんだ」
 「なに・・・あの大佐と知り合いなのか?」
 ノイマンは首を振る。
 「いや・・・そうじゃなくて。俺も従兄弟が戦傷を受けて、片目が義眼になったんだ。性能は凄く良いのにすぐ壊れて困るとこぼしていたんだ。まぁ、あの大佐の場合は両目とも義眼だからな・・・」
 「堅苦しそうだろう、あの大佐。・・・俺は苦手だな」
 シェーラーが言うと、他の2人も大きく頷いた。
 
 翌日・・・。
 駐留艦隊が小規模な演習を要塞付近で行う事になり、その計画書を持って、中央司令室にゼークト大将が現れた。
 彼の顔を見るのが大嫌いなシュトックハウゼン大将は、これを面白く思っているはずがない。
 「この時期に演習とは馬鹿馬鹿しいが、馬鹿な者ほど身体を動かしたがるものだからな。だが、実戦で駐留艦隊が使い物にならぬと困るもの事実だ。・・・ま、せいぜい、演習に励む事だな」
 そう言って、ゼークトを挑発する。
 「馬鹿とは何だ、馬鹿とは!!」
 シュトックハウゼンが、「馬鹿」をことさら強調して言った為、冷静を装おうとしていたゼークトは大失敗し、鐘馗様の如く怒り狂った。
 「あぁ、煩い!・・・大声で喚くなと前から言っているのに。状況判断をしろ、状況判断を!卿の怒鳴り声のお陰で、耳と頭が変になりそうだ。全く、卿には学習能力というものが備わっていないのか?」
 明らかに小馬鹿にした声を出すシュトックハウゼン。
 「ふん・・・余計なお世話だ。聞くところによると、また家族の写真を見せびらかしているらしいな。卿こそ馬鹿丸出しではないか・・・」
 鼻を鳴らしながら笑うゼークトが反撃を試みる。
 「別に卿には関係がなかろう?」
 家族の事を馬鹿にされるのが何よりも嫌いなシュトックハウゼンは、ゼークトを思いっきり睨<ね>めつけた。
 「確かに関係はないな・・・。だが、卿の家族の写真なんぞを喜んで見る部下がおろうはずがない。部下は卿の地位故に嫌でも文句一つ言えないのだぞ。あぁ・・・実に気の毒ではないか。毎回、家族写真を見せられる者の身になってみろ。卿こそ学習能力が欠如しているのではないのか?・・・あぁ、そうだ。もぐらの脳は確か、人間以下であったな・・・」
 シュトックハウゼンは更にゼークトを睨み付けたが、まだ幾分か理性が残っていたので、怒鳴りはしなかった。
 代わりにゼークトが怒りそうな言葉を一気にまくし立てた。
 「・・・そう言えば、卿には家族がいなかったな。亡くなった奥方が大事で、未だに再婚せず・・・か。自分に自信がないから再婚せんのだろう?・・・いや、卿のようながさつな男と結婚したがる女はいるはずもないか。・・・と言う事は、卿の亡くなった奥方はよほど目と頭が悪かったのだな。おまけにブスでは救いようがない。全く以って卿にはお似合いだった訳だ。更に気の毒なのは、卿が奥方の精気を吸い取った事だろうよ。新婚早々に亡くなるとは・・・ご愁傷様、チーン!!」
 「・・・何のつもりだ!!そのご愁傷様とか、チーンというのは!!それにマルガレーテがブスではないのは卿も知っているではないか!!」
 拳を振り上げて暴れるゼークトに、さすがに不味いと思った彼の部下が組み付いて慌てて止めに入る。
 だが運悪く、拳はその部下の右頬を直撃。
 「うげっ・・・」という情けない言葉を発すると、彼はそのまま床にうずくまってしまった。
 「やれやれ・・・」
 その光景を目の当たりにしたシュトックハウゼンは溜息を付いた。
 ゼークトと一緒に中央司令室に来ていたオーベルシュタイン大佐は、司令官よりも離れた場所にいた為に、全くとばっちりを受けなかった。
 彼はうずくまったままの同僚と、馬鹿騒ぎを起こしている2人の大将に絶対零度の冷たい視線を向けた。

 「とにかく・・・。家族の写真を見せびらかすなど、大馬鹿者のする事だ。ちゃんと学習するのだな」
 シュトックハウゼンの行為を、ゼークトは鼻を鳴らしながら笑った。
 「う・・・うちの孫はとても可愛いんだ!だから写真を見せた。それを愚弄する気か、卿は!!」
 呆れるほどの馬鹿振りを発揮するシュトックハウゼンに、ゼークトは大きな溜息を付いた。
 「・・・全く・・・まだ、分からんのか。呆れた奴だな。家族の写真?孫?あぁ、確かに可愛かろうよ。だがな、卿はその写真で笑いものになっている事に、もっと思いを馳せるべきなのだ。それに気付かんとは卿も哀れな男だな」
 「・・・どういう意味だ?」
 ゼークトの意味深な物言いに、一瞬怯むシュトックハウゼン。
 ・・・またしても分が悪そうだ。
 「やれやれ・・・。これだけ言ってもまだ分からんとは・・・」と、ゼークトは大袈裟に首を振った。
 そして、思いっきりせせら笑う。
 「いやはや・・・馬鹿につける薬は無いとは、よく言ったものだな・・・」
 「おい!!誰が馬鹿なのだ、誰が!!」と、やや大きめな声をあげるシュトックハウゼン。
 「・・・誰が馬鹿って、シュトックハウゼン・・・卿しかおるまいが。自覚が無いとは本当に気の毒で哀れそのものではないか・・・。さて・・・と、ここにいる皆さんは例の写真を見たのだろう?・・・ん、どうかな?」
 中央司令室にいた者が全員ゼークトを凝視していた。
 それは、いつもの言い争いとは様相が異なっていたからだった。
 皆、慌てて視線を逸らす。
 余計な事には関わりあいたくない。
 ゼークトはそんな事にはお構いなくオペレーター席にやって来て、いきなり、レンドルフに「・・・卿は奴の家族写真を見たか?」と声をかける。
 前の席にいたノイマンとシェーラーは息を飲んで振り返った。
 「は・・・はい、見ましたが・・・」
 レンドルフは、何で俺に聞くんだよぉ・・・と、内心腹立たしく思いながらも、正直に『見た』と答えた。
 正直に答えなければならないような異様な空気を、ゼークトがその身にまとっていたからだ。
 「そうか・・・。では聞くが、誰が写っていたのだ?」
 嘘を言っても仕方がない。
 ゼークトの質問の意図が分からないが、写真を思い出して語った。
 「ふむ・・・では、その写真には子供が3人写っていたのだな?」
 「はい、写っていましたが・・・。3人ともシュトックハウゼン閣下のお孫さんなのでしょう?」
 レンドルフが答えると、ゼークトは待ってました!!とばかりに、大きく手を叩いて豪快に笑い出した。
 「ブハハハハ!これは愉快!実に愉快ではないか!確かに1番小さい子はもぐらの孫だが、残りの2人は、そら、そこに立っているもぐらの子供なのだ。まぁ・・・普通は子供とは思わないがな」
 「そ・・・それは・・・」
 レンドルフは大口を開けたまま飛び上がってしまった・・・あの小さな子供達が閣下の子供だって~!?
 レンドルフは最悪な状況に置かれた自分を一瞬にして悟って、さぁ~っと顔が青ざめてゆくのを感じていた。
 “墓穴を掘る”とはまさにこの事・・・。
 そして、付近にいた者達も同様に顔面蒼白になってしまい、レンドルフに同情した・・・。
 シェーラーは端末を睨み付けたままゴクリと息を飲み、ノイマンはそっぽを向いて小さく舌を出した。
 不幸中の幸いだったのは、レンドルフ自身が、ゼークトが来るのと同時に遮音力場のスイッチを入れていた事だ。
 そのお陰で、その辺り一帯で繰り広げられた音声が、シュトックハウゼンの耳に届かずに済んだ。


 「全く・・・卿は、演習の件でここに来たのだろうが」と、苛立たしげなシュトックハウゼン。
 ゼークトは、「ふん、全く短気な奴だ・・・」と低く呟いて、漸くオペレーター席から離れた。
 「・・・卿は、あそこで何を話していたのだ!」
 「ほう・・・もぐらでも気にする事があるのか。いやなに・・・大した事ではない」とにこやかなゼークト。
 今回もシュトックハウゼンの馬鹿をギャフンと言わす事が出来そうだと、上機嫌になっていた。
 「・・・何をにやけているのだ?それに私はもぐらではない!余計な事を言っておらんだろうな?」
 ゼークトに疑り深い目を向けるシュトックハウゼン。
 「卿も疑り深い。・・・まぁ、何だ。卿の幕僚が勘違いをしていたから、キチンと正しい事を教えてやったのだ」
 「・・・正しい事だと・・・」
 表情が俄かに硬くなるシュトックハウゼン。
 「卿の娘はいいとして、長男と次女な。・・・どう見ても、偉く年が離れている。長男と次女はそれほど離れてはいないが、長女と長男・・・あれは、どう見ても15歳は離れている。間に子供がいれば違和感がないが、明らかに離れているから、卿の幕僚達はあの2人を卿の孫だと思っていたらしい。・・・オーディンに戻れた時に、卿は年甲斐もなく頑張ってしまった訳だ・・・」
 ゼークトは一気にまくしててから微笑んだが、シュトックハウゼンは目を剥いて激怒した。
 「が・・・頑張ってしまった・・・とは何だ~!!」
 恥ずかしさで真っ赤な茹ダコと化したシュトックハウゼンは、プルプルと小刻みに震えた。
 「い・・・いくらなんでも、言って良い事と悪い事があるぞ!卿は私を愚弄して楽しいのか!!」
 「楽しいかだと?楽しいに決まっているではないか。情けないもぐらの面を見るのは至上の喜びだからな」
 「な!!なんだと~!」
 「それにな・・・俺は卿がひた隠しにしている秘密も知っているのだがな・・・。そうそう、おとなげなく幕僚を責めたりするなよ。幕僚には非はない・・・全ては卿が悪いのだ。身から出た錆だな」
 「おい・・・秘密だと・・・!?卿は私の一体何を知っていると言うのだ~!!」
 明らかに動揺した様子のシュトックハウゼン。
 「さぁな・・・何の事だったかな?」
 ゼークトは、すっ呆けた事を言うと、ドスドスドスドス・・・と音を立てて中央司令室を後にした。
 呆然とゼークトの背を見つめるシュトックハウゼン。
 ブルブルとその身を震わせ、拳を握り締めていた。

 ゼークトがシュトックハウゼンの秘密を握っているらしい・・・。
 そういう噂話は、中央司令室にいた将兵達によって伝えられ、その日の内に、一気に要塞内を駆け巡った・・・。



後編へ





 「昨日の閣下達・・・凄かったんだって?」


 つい最近、首都星オーディンからの異動で、イゼルローン要塞に赴任して来たノイマン大尉がレンドルフ大尉にそっと声を掛けてきた。
 ノイマンは、レンドルフ大尉やシェーラー大尉とは士官学校時代の同期で、3人は昔から仲が良かった。
 「あぁ・・・もう、本当に凄かったぞ。皆、ピリピリして、笑っていいかどうか悩むほどだった。そうか。卿は夜勤明けで、昨日の朝はいなかったからな。・・・なぁ、あれは凄かったよな」
 そう言って、斜め前の席でしきりに端末を叩いているシェーラー大尉に声を掛けるレンドルフ。
 「あぁ・・・あれ?頭に毛が1本だけってヤツか・・・。もう、想像して苦しくて仕方なかったな・・・」
 シェーラーは端末を打つ手を休めて大きく頷いた。
 「・・・あ、そうだ。卿等は知ってるか?シュトックハウゼン閣下は、双子なんだそうだ」
 ノイマンが、紙コップのコーヒーを不味そうな顔をで啜りながら、実にのんびりと切り出す。
 「・・・え?双子!?」
 意外な言葉にレンドルフは大声を出してしまった。
 自分の声の大きさに驚いてしまった彼は、周りをキョロキョロ見渡して、急に声を潜めた。
 「・・・それは本当の話なのか?」
 レンドルフは信じられなさそうにノイマンの顔を見る。
 「あぁ、嘘ではないぞ」
 ノイマンは大仰に頷く。
 「双子・・・か。一卵性、二卵性のどちらだ?」
 シェーラー大尉も小声で聞いてきた。
 もう、端末なんかそっちのけだ。
 「・・・確か一卵性だったかと」
 「うわ・・・あの顔がこの世に2人もいるのか?これはきついな。勘弁してくれ・・・って感じだ」
 身震いしながら、とんでもなく大声を出してしまったシェーラーの口を、ノイマンが大慌てで押さえ込む。
 「馬鹿。大声を出すな・・・」
 「済まん・・・」
 きまり悪そうに頭を掻くシェーラー。
 「・・・一卵性なら、二人とも似ている・・・という事だな?」と、レンドルフ。
 「うん・・・似ていると言えば似ているし、違うと言えば違うし・・・」
 ノイマンは曖昧に言う。
 レンドルフは、「おい・・・。それはどういう意味だ?」」と、彼の身体を思い切り揺さぶった。
 「まぁ、まぁ・・・そう興奮するな。エーリク・フォン・シュトックハウゼンというのが閣下の兄上になる。シュトックハウゼン男爵家は大手の水産会社なんだ。タイやサザエ等の魚介類や、ワカメやノリ等の海藻類とかを手広く扱っている。社名は『シュトックハウゼン水産』と言って、お父上の男爵が会長で、兄上が社長なのだ」
 「へぇ・・・妙に詳しいな」
 レンドルフが言うと、ノイマンは頭を掻いた。
 「俺も、実家が小さな食品会社を経営しているからな。俺は三男だし、いわゆる冷や飯食いだから自主的に軍に入ったんだが、うちに企業年鑑や紳士録当があって、『シュトックハウゼン水産』の社長も載っていたから、実家に帰省の際にその写真を見たんだ。ちょうどここへ赴任する直前だったから、上官の実家の話だし、一応見ておこうと思い立ってな」
 「へぇ・・・なるほどな」
 シェーラーが妙に感心したように言う。
 「それで・・・。その社長である兄上だが、髪が・・・凄く薄いんだ」
 「凄く薄い・・・ね。どの程度だ?」
 レンドルフは、昨日のゼークトの言葉を思い出していた。
 頭のてっぺんに毛が1本・・・あれはかなり強烈だったからだ。
 「・・・ん、どう言えばいいのかな。それが・・・頭の側面は辛うじて髪があるけれど、頭頂部・・・つまり、てっぺんがツルツルで、細い髪の毛が申し訳なさそうに2本だけひょろり・・・とあって・・・」
 「・・・てっぺんに2本だけ!?」
 レンドルフとシェーラーは同時に叫んでしまい、お互いに顔を見合わせると、慌てて口を押さえた。
 だが、時既に遅し・・・で、他の同僚達が一斉に3人を鋭い目で睨む。
 だが、それを咎めだてする者はいなかった。
 ・・・というのも、皆、昨日のあの光景を知っていたからだ。
 それに、今現在、シュトックハウゼンがこの場に不在だったのが幸いして、3人は大きく息を付いた。
 あまりの衝撃的事実。
 もう、頭の中にイメージ画像を構築するのも恐ろしく、心臓は破裂寸前でバクバクしていた。
 「・・・という事は・・・。ゼークト閣下は知っていたのか、その話を・・・」
 荒くなった息を整えながら、レンドルフが呟いた。
 「企業年鑑に写真が載っているぐらいだし、シュトックハウゼン閣下とゼークト閣下は士官学校での同期だったのだろう?・・・確か、家柄も男爵家で似たようなものだと聞いた事があるからな。それなら、シュトックハウゼン閣下に、双子の兄弟がいる事だって、案外知っているのではないか?」
 ノイマンの言にシェーラーが頷く。
 「・・・そうか。あ・・・だから、『予言』だった訳だ。・・・うーん、双子とはな。同じようにハゲてしまう可能性は大って訳だな?その、企業年鑑を見たくなって来た・・・」
 「うちにだってあるぐらいだし、電子版もあるから、多分、ネットで検索かければすぐに見付かるだろうな・・・」とノイマン。
 「・・・だな。よ~し!俺、今から調べて出力してみる・・・」
 端末に向き合うと、非常に嬉しそうにキーを叩くシェーラー。
 彼は、昔から、こういう行動は素早いのだ。
 「・・・怖いモノ見たさってヤツだな」
 シェーラーを見ながらレンドルフは笑いを漏らす。
 「・・・とか言って、俺が情報を出したら、卿だって見るんだろうが?本当は興味津々のくせに」
 「まぁな。あ・・・シュトックハウゼン水産は、海藻等も扱っていると言っていたよな、ノイマン?」
 「・・・ん?そうだが。それがどうかしたのか、レンドルフ?」
 「確か・・・海藻は髪に良いとか言われてないか?立体テレビ<ソリヴィジョン>のM等で、地肌を清潔に保つ保湿成分の海藻エキス配合とか、そういうの見た事があるぞ?」
 「あ・・・そうだ。海藻の成分が入ったシャンプーやトリートメントは多い。俺も使っている」
 シェーラーが言うと、「・・・卿もか。実は俺も使ってるんだ」と、レンドルフも同意した。
 「・・・確かに、海藻の成分は髪に良いとは昔から言われているが、自分のところで海藻を扱っていて、あそこまで行ってしまうとなると・・・これはもう、はっきり言って無駄かもしれない・・・」
 「うわ・・・それはキツイな・・・」
 レンドルフが情けない声で呟いたので、シェーラーもノイマンもクスクス笑いが止まらなくなってしまった・・・。

 「あ・・・企業年鑑のデータの読み込みに成功・・・」
 シェーラーの呟きに、2人は慌てて端末に駆け寄る。
 「・・・シュトックハウゼン水産・・・と。出た!これは・・・」
 画面を見た瞬間に3人は固まってしまった。
 いや、厳密にはノイマン以外の2人だが。
 シュトックハウゼンに良く似た顔立ちの男が椅子に座っている写真だが、本当に、頭頂部に2本だけ、申し訳なさそうに毛が生えていた・・・。
 「・・・こんなデータを呼び出して、俺は後悔したくなった・・・」
 シェーラーは呟いて、「データを消すぞ。履歴もキレイにないと・・・」と、あえぎながら端末を操作した。

 そして、レンドルフもこめかみを押さえながら、「俺も・・・今から、絶対に髪の毛には気をつける・・・」と大きく息を吐いた。



Das Ende



 帝国の馬鹿オヤジのコンビのシュトックハウゼン&ゼークト。
 この2人の壮絶(?)な舌戦を描いた、「MANZAI★BANZAI」の後日談です。

 トーマとくれば、エーリクだよね・・・という訳で、お名前をちょいと拝借。
 あ・・・萩尾望都の不朽の名作少女マンガの「トーマの心臓」です。
 何しろ、トーマとエーリクは双子ではないけど、かなり似ているという設定ですので。
 因みに私は「トーマの心臓」のキャラではユリスモールが苦手で、兄貴肌のオスカーのファンでした。(確か、校長先生はミュラーという名前でした・・・)
 そして、双子の兄とくれば、あの人の双子の兄しかいない訳でして、これが頭のてっぺんに毛が2本な訳でして・・・。<波平さんの双子の兄の海平さんです!!
 ノイマン大尉は、オーベルシュタインと同じ時期に、オーディンからイゼルローン要塞に赴任して来たとお考え下さい。
 オーベルシュタインが駐留艦隊でノイマンが要塞守備兵。
 つまり、オーベルシュタインは「どら息子」の部下で、3人は「宇宙もぐら」の部下と言う事になります。
 余談ですが、シュトックハウゼン役の永井一郎さんには弟さんがおられます。
 永井二郎さんという人で、今は退任していると思いますが、某上場会社の役員をしておられました。
 私の主人の勤め先が、その会社と取引関係にありまして、ある日、その会社へ行った際に目にした社内報に永井二郎さんが載っていて。
 思わず、「波平さんの人と一文字違いだ」って言ったら、そこの会社の人が「常務は永井一郎さんの弟なんですよ」って。
 その話を家に帰ってから興奮して話してくれましたが、私もビックリしました。
 永井さん自身は、京都大学の仏文科を卒業して、大手広告代理店の電通を経てから、元々やりたかった演技の道に進まれたのは前から知っていましたが、弟がいたとは知りませんでした・・・。
 顔出しで永井さんがある番組に出た際、主人は「あ~弟と似ているかも!!」と言っていました。
 年をとってくると、兄弟って似てきたりしますよね・・・。
 昔は似ていなかった兄弟では、「ルパン三世」で銭形警部役の納谷悟朗さんと、弟の納谷六朗さんが、最近、お姿が似て来たように思います。
 声は、違うんですけどね^^@(それでも、昔よりは似てきた・・・)

 更に余談。

 最近聞いたのですが、やはり主人の勤め先と取引関係にあるドイツの会社の日本法人の営業の方の名前が、「ルビンスキー」と言うのだそうで、主人は「あの、ハゲを思い出しちゃった」とか言っていました。

 まぁ、リアルなルビンスキーさんは、暑苦しいハゲではなく、とてもダンディな方だそうです★