「昨日の閣下達・・・凄かったんだって?」


 つい最近、首都星オーディンからの異動で、イゼルローン要塞に赴任して来たノイマン大尉がレンドルフ大尉にそっと声を掛けてきた。
 ノイマンは、レンドルフ大尉やシェーラー大尉とは士官学校時代の同期で、3人は昔から仲が良かった。
 「あぁ・・・もう、本当に凄かったぞ。皆、ピリピリして、笑っていいかどうか悩むほどだった。そうか。卿は夜勤明けで、昨日の朝はいなかったからな。・・・なぁ、あれは凄かったよな」
 そう言って、斜め前の席でしきりに端末を叩いているシェーラー大尉に声を掛けるレンドルフ。
 「あぁ・・・あれ?頭に毛が1本だけってヤツか・・・。もう、想像して苦しくて仕方なかったな・・・」
 シェーラーは端末を打つ手を休めて大きく頷いた。
 「・・・あ、そうだ。卿等は知ってるか?シュトックハウゼン閣下は、双子なんだそうだ」
 ノイマンが、紙コップのコーヒーを不味そうな顔をで啜りながら、実にのんびりと切り出す。
 「・・・え?双子!?」
 意外な言葉にレンドルフは大声を出してしまった。
 自分の声の大きさに驚いてしまった彼は、周りをキョロキョロ見渡して、急に声を潜めた。
 「・・・それは本当の話なのか?」
 レンドルフは信じられなさそうにノイマンの顔を見る。
 「あぁ、嘘ではないぞ」
 ノイマンは大仰に頷く。
 「双子・・・か。一卵性、二卵性のどちらだ?」
 シェーラー大尉も小声で聞いてきた。
 もう、端末なんかそっちのけだ。
 「・・・確か一卵性だったかと」
 「うわ・・・あの顔がこの世に2人もいるのか?これはきついな。勘弁してくれ・・・って感じだ」
 身震いしながら、とんでもなく大声を出してしまったシェーラーの口を、ノイマンが大慌てで押さえ込む。
 「馬鹿。大声を出すな・・・」
 「済まん・・・」
 きまり悪そうに頭を掻くシェーラー。
 「・・・一卵性なら、二人とも似ている・・・という事だな?」と、レンドルフ。
 「うん・・・似ていると言えば似ているし、違うと言えば違うし・・・」
 ノイマンは曖昧に言う。
 レンドルフは、「おい・・・。それはどういう意味だ?」」と、彼の身体を思い切り揺さぶった。
 「まぁ、まぁ・・・そう興奮するな。エーリク・フォン・シュトックハウゼンというのが閣下の兄上になる。シュトックハウゼン男爵家は大手の水産会社なんだ。タイやサザエ等の魚介類や、ワカメやノリ等の海藻類とかを手広く扱っている。社名は『シュトックハウゼン水産』と言って、お父上の男爵が会長で、兄上が社長なのだ」
 「へぇ・・・妙に詳しいな」
 レンドルフが言うと、ノイマンは頭を掻いた。
 「俺も、実家が小さな食品会社を経営しているからな。俺は三男だし、いわゆる冷や飯食いだから自主的に軍に入ったんだが、うちに企業年鑑や紳士録当があって、『シュトックハウゼン水産』の社長も載っていたから、実家に帰省の際にその写真を見たんだ。ちょうどここへ赴任する直前だったから、上官の実家の話だし、一応見ておこうと思い立ってな」
 「へぇ・・・なるほどな」
 シェーラーが妙に感心したように言う。
 「それで・・・。その社長である兄上だが、髪が・・・凄く薄いんだ」
 「凄く薄い・・・ね。どの程度だ?」
 レンドルフは、昨日のゼークトの言葉を思い出していた。
 頭のてっぺんに毛が1本・・・あれはかなり強烈だったからだ。
 「・・・ん、どう言えばいいのかな。それが・・・頭の側面は辛うじて髪があるけれど、頭頂部・・・つまり、てっぺんがツルツルで、細い髪の毛が申し訳なさそうに2本だけひょろり・・・とあって・・・」
 「・・・てっぺんに2本だけ!?」
 レンドルフとシェーラーは同時に叫んでしまい、お互いに顔を見合わせると、慌てて口を押さえた。
 だが、時既に遅し・・・で、他の同僚達が一斉に3人を鋭い目で睨む。
 だが、それを咎めだてする者はいなかった。
 ・・・というのも、皆、昨日のあの光景を知っていたからだ。
 それに、今現在、シュトックハウゼンがこの場に不在だったのが幸いして、3人は大きく息を付いた。
 あまりの衝撃的事実。
 もう、頭の中にイメージ画像を構築するのも恐ろしく、心臓は破裂寸前でバクバクしていた。
 「・・・という事は・・・。ゼークト閣下は知っていたのか、その話を・・・」
 荒くなった息を整えながら、レンドルフが呟いた。
 「企業年鑑に写真が載っているぐらいだし、シュトックハウゼン閣下とゼークト閣下は士官学校での同期だったのだろう?・・・確か、家柄も男爵家で似たようなものだと聞いた事があるからな。それなら、シュトックハウゼン閣下に、双子の兄弟がいる事だって、案外知っているのではないか?」
 ノイマンの言にシェーラーが頷く。
 「・・・そうか。あ・・・だから、『予言』だった訳だ。・・・うーん、双子とはな。同じようにハゲてしまう可能性は大って訳だな?その、企業年鑑を見たくなって来た・・・」
 「うちにだってあるぐらいだし、電子版もあるから、多分、ネットで検索かければすぐに見付かるだろうな・・・」とノイマン。
 「・・・だな。よ~し!俺、今から調べて出力してみる・・・」
 端末に向き合うと、非常に嬉しそうにキーを叩くシェーラー。
 彼は、昔から、こういう行動は素早いのだ。
 「・・・怖いモノ見たさってヤツだな」
 シェーラーを見ながらレンドルフは笑いを漏らす。
 「・・・とか言って、俺が情報を出したら、卿だって見るんだろうが?本当は興味津々のくせに」
 「まぁな。あ・・・シュトックハウゼン水産は、海藻等も扱っていると言っていたよな、ノイマン?」
 「・・・ん?そうだが。それがどうかしたのか、レンドルフ?」
 「確か・・・海藻は髪に良いとか言われてないか?立体テレビ<ソリヴィジョン>のM等で、地肌を清潔に保つ保湿成分の海藻エキス配合とか、そういうの見た事があるぞ?」
 「あ・・・そうだ。海藻の成分が入ったシャンプーやトリートメントは多い。俺も使っている」
 シェーラーが言うと、「・・・卿もか。実は俺も使ってるんだ」と、レンドルフも同意した。
 「・・・確かに、海藻の成分は髪に良いとは昔から言われているが、自分のところで海藻を扱っていて、あそこまで行ってしまうとなると・・・これはもう、はっきり言って無駄かもしれない・・・」
 「うわ・・・それはキツイな・・・」
 レンドルフが情けない声で呟いたので、シェーラーもノイマンもクスクス笑いが止まらなくなってしまった・・・。

 「あ・・・企業年鑑のデータの読み込みに成功・・・」
 シェーラーの呟きに、2人は慌てて端末に駆け寄る。
 「・・・シュトックハウゼン水産・・・と。出た!これは・・・」
 画面を見た瞬間に3人は固まってしまった。
 いや、厳密にはノイマン以外の2人だが。
 シュトックハウゼンに良く似た顔立ちの男が椅子に座っている写真だが、本当に、頭頂部に2本だけ、申し訳なさそうに毛が生えていた・・・。
 「・・・こんなデータを呼び出して、俺は後悔したくなった・・・」
 シェーラーは呟いて、「データを消すぞ。履歴もキレイにないと・・・」と、あえぎながら端末を操作した。

 そして、レンドルフもこめかみを押さえながら、「俺も・・・今から、絶対に髪の毛には気をつける・・・」と大きく息を吐いた。



Das Ende



 帝国の馬鹿オヤジのコンビのシュトックハウゼン&ゼークト。
 この2人の壮絶(?)な舌戦を描いた、「MANZAI★BANZAI」の後日談です。

 トーマとくれば、エーリクだよね・・・という訳で、お名前をちょいと拝借。
 あ・・・萩尾望都の不朽の名作少女マンガの「トーマの心臓」です。
 何しろ、トーマとエーリクは双子ではないけど、かなり似ているという設定ですので。
 因みに私は「トーマの心臓」のキャラではユリスモールが苦手で、兄貴肌のオスカーのファンでした。(確か、校長先生はミュラーという名前でした・・・)
 そして、双子の兄とくれば、あの人の双子の兄しかいない訳でして、これが頭のてっぺんに毛が2本な訳でして・・・。<波平さんの双子の兄の海平さんです!!
 ノイマン大尉は、オーベルシュタインと同じ時期に、オーディンからイゼルローン要塞に赴任して来たとお考え下さい。
 オーベルシュタインが駐留艦隊でノイマンが要塞守備兵。
 つまり、オーベルシュタインは「どら息子」の部下で、3人は「宇宙もぐら」の部下と言う事になります。
 余談ですが、シュトックハウゼン役の永井一郎さんには弟さんがおられます。
 永井二郎さんという人で、今は退任していると思いますが、某上場会社の役員をしておられました。
 私の主人の勤め先が、その会社と取引関係にありまして、ある日、その会社へ行った際に目にした社内報に永井二郎さんが載っていて。
 思わず、「波平さんの人と一文字違いだ」って言ったら、そこの会社の人が「常務は永井一郎さんの弟なんですよ」って。
 その話を家に帰ってから興奮して話してくれましたが、私もビックリしました。
 永井さん自身は、京都大学の仏文科を卒業して、大手広告代理店の電通を経てから、元々やりたかった演技の道に進まれたのは前から知っていましたが、弟がいたとは知りませんでした・・・。
 顔出しで永井さんがある番組に出た際、主人は「あ~弟と似ているかも!!」と言っていました。
 年をとってくると、兄弟って似てきたりしますよね・・・。
 昔は似ていなかった兄弟では、「ルパン三世」で銭形警部役の納谷悟朗さんと、弟の納谷六朗さんが、最近、お姿が似て来たように思います。
 声は、違うんですけどね^^@(それでも、昔よりは似てきた・・・)

 更に余談。

 最近聞いたのですが、やはり主人の勤め先と取引関係にあるドイツの会社の日本法人の営業の方の名前が、「ルビンスキー」と言うのだそうで、主人は「あの、ハゲを思い出しちゃった」とか言っていました。

 まぁ、リアルなルビンスキーさんは、暑苦しいハゲではなく、とてもダンディな方だそうです★