帝国の貴族でも、門閥だの権門と呼ばれる貴族達は、本邸の他に、幾つもの別邸や山荘、荘園だのを所有し、色々な所に不動産があった
 そして、平民には想像もつかない趣味をもつ者も多い。
 彼等が蒐集した美術品の取り扱いについては、芸術家提督として名高いメックリンガ-提督に一任されていた。
 だが、貴族の各屋敷の調査については憲兵隊の管轄だった為、憲兵総監のケスラーの配下の者達は綿密に作られたリストに従って、主を
失って空き家状態になっている屋敷の調査を行っていた。


 フロイデン地方・・・。
 ラインハルトの姉で、グリューネワルト伯爵夫人も住んでいるこの地方には、昔から貴族の主有する山荘が数多くある。
 ただ、やや険しい感にある北側にある伯爵夫人の山荘とは逆に、殆どの山荘はなだらかな南側に集中していた。
 南側の裾野は碧く輝く大きな湖に面しており、風光明媚な景勝地だったので、昔から貴族達は挙ってここに山荘を構えたのである。
 そして・・・このフロイデンの南側の山荘で悲劇は起きたのである。


 シュリッツェン伯爵の山荘は、フロイデンの南側の中腹部にあった。
 門閥系ではなかったが、伯爵はかなりの資産家だった。
 だが、資産家と言うだけでは、貴族社会での地位は低い。
 貴族社会では、門閥系に属する事がステータスであり、それによって貴族の地位が左右される。
 その為、この内戦を好機と捉えた伯爵は、リップシュタット戦役時にブラウンシュヴァイク公にいち早く忠誠を誓い、貴族連合軍の一員
となったのだ。
 だが、そんな伯爵の思いとは裏腹に、貴族連合軍はリヒテンラーデ&ローエングラム陣営の前に敗れ去り、戦争の終結を前に伯爵はガイ
エスブルグ要塞にて自害したらしい。
 彼は自分の家族をガイエスブルク要塞に伴っており、その時に家族も後を追うように自害したそうだ。
 伯爵の細かい資産は不明だったが、屋敷や荘園、山荘等の固定資産は、そのままの形でオーディン内に残されていたのである。
 
 この日、この地方を調査したのは5小隊。
 シュリッツェン伯爵の山荘の調査を行ったのは、アーフベルデ中佐の隊であった。

 山荘の門は重厚な造りの硬い鉄であったが、ブラスターのエネルギーを最大にして焼き切った。
 誰も手入れをしないと短期間でこうも荒れてしまうものなのか・・・。
 ひっそりと静まり返った表庭、中庭ともに、元は上品な庭園であっただろう場所に、丈の高い雑草がびっしりと生い茂っていた。
 重厚な樫材の扉を開けた時も埃っぽくて薄暗く、ちょっとしたっとした幽霊屋敷のようで、居並んだ隊員達もその荒れた様相に思わずご
くりと唾を飲んだ。
 だいぶ、誇りっぽかったが、玄関フロアは最高級の大理石が敷き詰められており、贅を尽くしたクリスタル製のシャンデリアや、古代の
甲冑等が飾られていた。
 探査の結果、爆発物などは無いようだったので、隊員達は、そのまま邸内の奥深くに入り込んだ。
 山荘と言っても、下手な平民の家屋よりは豪華な造りで、溜め息が出るほどの贅沢振りである。


 5分後、先陣として一番奥にまで入り込んでいたカーヴェル大尉の凄まじい金切り声が屋敷内に響き渡る。
 そして、間髪入れずに銃声がそれに被った。
 3つ隣の部屋で調度品を検分していたアーフベルデ中佐以下、他の隊員達は血相を変えて現場に急行したが、そこには信じられない光景
が待ち受けていた。

 ブラスターを握り締めたまま既に事切れているカーヴェル大尉。
 喉を一気に噛み切られたのか、夥しい血が大尉の身体の下のペルシア風の絨毯を染め上げていた。
 そして、暗闇の中で妖しく光る瞳。
 狼でも犬でもない・・・低く震える唸り声。
 そこには獣が2頭いた・・・コヨーテだった。
 黄金の首輪を付けていたので、野生のコヨーテではなく、『ここで』飼われていたモノに違いない。
 飢えているのか、瞳が異常にギラついている。
 2頭の内、カーヴェルの喉を噛み切った1頭はブラスターで頭を打ち抜かれて既に死んでいた。
 残るもう1頭は、死んだ仲間に寄り添いながら、後から入ってきた他の隊員達に威嚇の牙を向けて唸っていた。
 だが、飢えている為なのか、コヨーテにしては身体は細くふらついていて、瞳のギラつきとは対照的に立っているのがやっと・・・という感
じである。


 「これは・・・コヨーテか?」
 アーフベルデは、動物図鑑でしか見た事がないコヨーテが、こんな場所にいる事に驚きを隠せなかった。
 「コヨーテですか・・・。貴族ってのは・・・ペットまで凄いんですね。隊長どうしましょう、射殺しますか?」

 幾人もの隊員が獣を押さえ付け、隊長であるアーフベルデに確認を取る。
 アーフベルデがコヨーテにブラスターの銃口を向けた途端、部下の1人が走り出てそれを制した。


 「何事だ!!」
 「それが中佐・・・」
 部下のロックヴァイト大尉の説明を聞いて、アーフベルデは「ふん・・・」とだけ呟いて、ホルダーにブラスターを戻す。
 「中佐。いいんですか?」
 他の隊員達はロックヴァイトに非難めいた目を向けたが、アーフベルデは首を横に振った。
 「カーヴェルの死の原因はこいつだから本当は殺してやりたい気分だが、コヨーテってのは貴重な野生動物だ。絶滅の危機にあるので一級
保護の対象になっているとロックヴァイトが言うが、それは私も聞いた事がある。・・・貴重な種故に、勝手に殺してはならんそうだ。この1頭はしょうがないとしても、こっちの1頭は・・・一応は捕獲して、然るべき部署に引き渡した方が良さそうだ。おい、そのまま押さえ込んでおけ!」
 「絶滅に瀕した種・・・。何だってそんな貴重な種をペットに・・・」
 「そこが貴族の奢りなんだろうよ・・・。取り合えず捕獲する。・・・誰か、睡眠薬入りのエサを作ってくれ。こいつに食べさせる!」 
 
 麻酔銃で撃つ方法が望ましいのだが、あいにくと麻酔自体を用意していなかった。
 アーフベルデは、軍用ジープに積んであった食料に睡眠薬を混ぜた物を持って来させて、もう1頭のコヨーテの目の前に置いた。
 するとどうだろう。
 先ほどまで警戒心の塊だったコヨーテが緊張を解き、穏かな表情でクンクンと鼻を鳴らして食べ始めたのだ。
 「人に馴れていますね・・・」
 野生のコヨーテなら、睡眠薬入りの危ないエサ等にすぐに食いつくはずが無い。
 人に飼われていたからこそ、人から与えられたエサに対しての抵抗感が全くないのだ。
 アーフベルデは「いい気なものだ・・・」と目の前のコヨーテを睨み付けた。
 「野生を馴らしたんだな・・・しかし、こんな所で飼うなんてどうかしている。資料によると、シュリッツェン伯爵は絵画収集が趣味の大人
しい人物とあるが・・・他にもこんなペットがいたら困るな」
 「他とは?」
 「熊とかライオン、毒蛇とか毒蜘蛛とか・・・要するに凶暴かつ、毒のあるヤツだ。あぁ、ここだけの話ではないから、別行動の他の隊にも
至急連絡しろ!」
 睡眠薬が効いて、すっかり眠り込んだコヨーテを横目にアーフベルデは命令した。


 1時間後、屋敷内の全ての調査を終え、アーフベルデ隊はカーヴェル大尉の遺体を収容してフロイデンを後にした。
 ジープの荷台に取り付けられた簡易檻にはコヨーテが入れられた。
 やがて睡眠薬の切れたコヨーテは時おり折の中で低く啼いたが、暴れる事もなくしゃがんでおり、隊員たちはホッとしていた。


 事件が起こった約5分後に最初の連絡を受けたブレンターノ中将は、事の重大さに血相をを変えてケスラーの元に走り、ケスラーも事件を重く受け止めた。
 カーヴェルの死因は、コヨーテの不意打ちを受けて頚動脈を噛み切られた為の死であった。
 そしてコヨーテよりも数秒遅く亡くなっていた事がその後の調べで分かった。
 殆ど即死に近い死であったが、咄嗟にブラスターを抜き放って2頭の内の1頭を撃ち殺していたという事になる。


 「慎重に進めていたのに・・・。とうとう死者が出てしまいましたな」
 ブレンターノは苦虫を潰したような表情である。
 「コヨーテか。予想外だ」
 そう答えながら、貴族の馬鹿げた趣味の為に出た人的損害の大きさに、ケスラーは頭痛を覚えていた。


 「それで、コヨーテはどうなったのだ。・・・生き残った方のだ」

 「アーフベルデの話では、近隣の動物園に一旦運んだのだそうです。しかし、そこで殺処分とされました。いくら貴重な種であっても、これを生かしたままでは、カーヴェルの遺族も黙ってはいないでしょうし。ただ・・・貴重な種である為、動物園では骨格標本にするそうですが」
 「・・・そうだろうな。それで、遺族へはどう説明を・・・」
 「ありまのままを。ただ、他の兵士を守って亡くなった・・・と付け加えておきました。彼の名誉の為にも」
 
 ブレンターノが報告書を置いて出て行った後、ケスラーは再び大きな息を吐いた。
 実は1時間ほど前にも、クラップファレル地方の貴族の屋敷の調査に行った隊から、マリエンシェーダー男爵家の別邸で、毒蛇と毒蠍、
毒蜘蛛を繁殖させていた秘密部屋を発見したとの報告も受けていたのだ。
 そちらからは被害報告はなかったものの一抹の不安を覚え、爆発物探査機以外に万が一の為にも血清やドクターが必要になりそうだと頭
痛を感じたケスラーであった。




Das Ende




 変わった性癖を持った貴族・・・銀河英雄伝説の中では、ゴールデンバウム王朝第14代皇帝のアウグスト2世の話が有名でしょうか。
 アウグスト2世は、「流血帝」という異名まであって、物凄い拷問や処刑をしていたと、原作には書かれています。
 その際に使われた拷問道具の中にあったのが「アウグストの注射器」というシロモノ。
 これは、ダイヤモンド製の微細な針を眼球に突き刺して、眼底から脳を損傷させて、拷問相手を狂死させる・・・と言うのだけど、想像した
だけで目が痛くなる・・・いや、脳ミソが痛い・・・。
 そして、現実に、貴族の中には変な趣味を持った人がいそうです。
 例えば屋敷を忍者屋敷のように隠し扉とか、穴があったり・・・とか。
 平民では考え付かない事を、金を湯水のように使ってやっていそうです。
 実際、そういった話を聞きます。
 若い女性を殺してその生き血を浴びたりしていたハンガリー貴族のエリザベート・バートリとか、本当に有名ですよね。
 あまりにも残虐なので控えますが、本当に凄い人だったようです。
 動物にしてもそう・・・怪しげなモノを飼っていても不思議じゃない気がして、この物語は生まれました・・・。 
 それからこの話は、「プラスチック爆弾」を先に読んでから読んで頂きたいです。
 ・・・2つの話は、別々にも読めますが、実は繋がっているので。
 全く別のお題を繋げてしまう・・・他にも幾つかそういうのを試みてみましたが、まさか、「プラスチック爆弾」と「コヨーテ」が繋がると
は・・・。
 きっと、お題の作成者もビックリ・・・じゃないかな??
 なお、コルトマイヤー伯爵、シュリッツェン伯爵、マリエンシェーダー男爵、カーヴェル大尉、ロックヴァルト大尉、アーフベルデ中佐
はオリジナルキャラです。
 ・・・オリジナルのキャラばかりで申し訳ありませんが、何となく、憲兵隊の仕事ぶりを取材するテレビクルーか、新聞記者にでもなった気
分を味わいながら書かせて頂きました。<憲兵隊24時!みたいなヤツです・・・^^@





 



 リップシュタット戦役以降・・・。
 家人が死亡、または行方不明となった上に、法定相続人もなく、国庫に接収される事になった元貴族の館や土地、有価証券類、また彼らの蒐集していた美術品等の数は膨大であった。


 多少の取りこぼしはあったものの・・・。
 ローエングラム公の部下達は、皆真面目に勤務に精励したので、それらの資産の詳細・・・今まで表立っていなかった貴族達の資産等が明らかにされつつある。
 一応、美術品は『芸術家提督』として名高いメックリンガーの管轄下に入り、貴族連合軍に属する貴族の屋敷や荘園等の資産調査に関しては、憲兵総監であるケスラーの管轄となった。
 そう・・・憲兵隊が中心となって、そこに“危険”がないかを厳重な警備の元に調査していたのだった。


 『調査には爆発物処理班を必ず連れて行け』


 ケスラーが部下達にそう命じると、彼等は皆、一様に怪訝そうな表情をした。
 その為、ケスラーはやや苦笑雑じりに部下達にこう説明したのだ。


 『・・・貴族の考えは我々とは異なる所にあるらしい。なまじ、資産があるからこそ、かえってややこしい事態にも遭遇するだろう。何も無い方がありがたいが、念には念を入れて調査を行うように。貴族の中には、その昔、万人には理解不能な、仕掛けだらけの屋敷を作って楽しんだ狂人もいたらしい。そういう意味でも、細心の注意を払うのを忘れてはならない』


 かつて、ケスラーと知己のあった、子爵家の当主でもあったグリンメルスハウゼン提督の残した機密文書・・・。
 現在、ローエングラム公の密命でケスラーが憲兵総監室の金庫にて、声門コードやら、網膜パターンやら、様々なロックを五つもかけて厳重に保管しているあの日記。
 そこには、そうした貴族の裏の悪癖が事細かく記されており、ローエングラム公から、機密文書に目を通す事を許されていたケスラーは貴族の悪癖を知っていたのだ。


 市内や郊外にある貴族の館の殆どは、ごく普通の・・・と言っても、一般市民には、目の眩む様な豪華絢爛な館であった。
 だが、本邸ではない、“別邸”にこそ、“貴族の隠れた趣味”が色濃く出ていた。
 やがて、ケスラーが懸念した通り、万人が考え付かないような猟奇的な趣味の屋敷がごろごろと出て来たのである。
 それも、両手の指を使って数えてもまだ足りぬほどの・・・。
 しかもその殆どが、リスト上では、温厚で人畜無害だと思われていた貴族達であり、その事が余計にケスラーを疲れさせたのだった。


 屋敷内の大広間に、何の為なのか、怖ろしく巨大な落とし穴が幾つも設えてあった屋敷。
 ギロチンや“鉄の処女”を始めとする、古今東西の拷問道具をコレクションしている屋敷。
 女性用の下着が全ての部屋にディスプレーされ、きわどいポーズの女性の裸体の人形が並べられている屋敷。
 ビッシリと針を埋め込まれた裸の女性のマネキンと、裸の幼女のリアルな人形がが所狭しと並べ立てられた屋敷。
 動物の内臓のホルマリン漬けが数万種類もコレクションされた屋敷・・・。


地下室に厳重な隠し扉があり、うら若い女性の、目を背けたくなるような剥製が何体も展示されたおぞましい部屋まで見つかった・・・それらは、行方不明事件として迷宮入りしてた少女達の成れの果てかもしれず、これらは、後日改めて憲兵隊にて再調査を要するものであった。


 ・・・こうして、一般庶民には理解し難い屋敷が次から次へと見つかったのである。


 そして、幾つもの爆発物が仕込まれた不気味な屋敷が発見された。
 爆発物が貴族の間で流行ったという話は聞いた事がなかったので、個人の性癖によるものだと推察されたが、実に奇怪な屋敷であった。
 コルトマイヤー伯爵家の別邸に踏み込んだ兵士の話では、屋敷中の至る所でかなり強烈なアーモンド臭が漂っていたそうだ。
 最初は、アーモンドそのものの臭いかとも思われたのだが、実はそうではなかった。
 爆発物処理班の持参した機械に凄まじい反応が出て、臭いの主が爆発物であると確認されてから、全員で爆弾処理に取りかかった。
 尤も、仕掛けられていた爆弾の殆どは信管が抜かれた状態の、巧妙に作られたダミーだった。
 どうやら、ここの屋敷の当主は、古い爆弾のコレクターらしかったが、比較的新しい物も含まれており、軍務省の関係者でなければ手に入れられないほどの高性能の爆弾も含まれていた。
 また、伯爵の寝室だと思われる室内のベッドのサイドボードに置かれていた爆弾も、高性能の本物のプラスチック爆弾だった。
 しかも、一見すると爆弾だとは分からない形。
 それは優しげな天使の像の形をしていたのである。
 一体、何の為に自分の寝室に爆弾を仕掛けていたのか、常人には理解に苦しむ所業だった。


 ブレンターノ中将から、毎日のように理解しがたい報告を受けたケスラーは溜め息をを付いた。


 「全くもって呆れた話だな。・・・貴族の屋敷は警戒していて正解だったか」


 書類にサインをしながらケスラーは大きく息を吐いた。
 自分ですらこれだけ疲れるのだから、他の者なら、とうに倒れていてもおかしくないとさえ思った。

 「本当に困った話です。こうも次々と怪しい館に出会うと神経が磨り減りますな。隊員の中には頭痛薬や胃薬が手放せない者もいるようです」
 最近、憲兵隊が買っている常備薬の胃薬と頭痛薬の減りが早いというのだ。
 「・・・まぁ、薬ぐらいならな。人的犠牲者が出なくてなによりだ。しかし・・・門閥貴族とは度し難い存在だったのだな。呆れて物も言えんぞ」
 「本当にそうですな、閣下。明日は、オーディン郊外のフロイデン地方及び、クラップファレル地方の貴族の屋敷を中心に一斉に調査の予定です」


 ブレンターノから手渡された書類に目を落としてケスラーは頷いた。
 しかし、フロイデンのシュリッツェン伯爵の山荘で、翌日、誰も予想し得ない悲劇が起こったのだった・・・。



続 く


 

 いきなり『続く』と出て、何!!?でしょうが、これの続きは、『コヨーテ』にて!
 ・・・我ながら面白い試みです。
 これはケスラーの話というよりは、殆ど憲兵隊の話ですね・・・続きである「コヨーテ」もそうです。
 因みに、これは100のお題と言う、100個あるお題を使って、小説やら漫画やら、ポエムなんかを書く・・・ってヤツです。
 したがって、銀河英雄伝説では書きづらいお題なんかもあったりします。
 「プラスチック爆弾」や「コヨーテ」なんかはいいのですが、「イトーヨーカドー」とか「熱海」なんてお題もありまして、全てを銀河英雄伝説で書けるのだろうか?と、私を散々悩ませてくれました。
 因みに100のお題は、色々な人がお題を考えて配布していたりして、物書き(小説やイラスト等)さんには好評だったりします。
 お題に合わせて話を考えればいいのですから。
 でもねぇ・・・それでも、難しかったです。
 自分で続き物にしよう!!って書いたわりには、書きにくくって、他の話にすれば良かったかな・・・なんて。
 大体・・・タイトルの『プラスチック爆弾』がなんなのか分からず。
 やっぱり女性ですから、爆弾とかって得意じゃないです・・・。←普通そうだろ・・・うさけさん。
 製造方法だって知りませんし、はっきり言って良く分かりません。←知ってたらヤバイだろ、うさけさん。
 こういうモノにやたら詳しい女ってのもヘンでしょ?←当たり前だろ、うさけさん。
 白状すると、ケスラー(憲兵隊)が書きたかっただけなんです、それも、とっても真面目な話が・・・。
 コルトマイヤーやシュリッツェンはオリジナルのキャラです・・・エンクロ等で調べたりしないようにww
 では、お次の解説は「コヨーテ」で★

 「プラスチック爆弾」の後に、「コヨーテ」を読んで頂けると助かります。 





 宇宙暦799年1月18日。


 全ての出港準備が整い、戦艦ユリシ-ズも住み慣れたヤン艦隊の家・・・イゼルローン要塞を後にした。


 「・・・今、帝国軍から攻撃されて沈んじゃったりしたら、大勢の民間人が乗っている手前最悪ですよね・・・」
 通信士官のブライアン少尉が、手元のモニターを見ながら呟いた。
 「おい・・・そういう事を言うのはやめろ。ユリシーズが幸運の女神でなくなるなんて最悪だぞ、やっぱり・・・」と身震いするキャメロン中尉。
 帝国軍からの攻撃に備えて、砲術士官のキャメロン中尉は各砲塔の担当者と連絡を取り合っていた。

 その為、あまり軽口を叩かず、ピリピリと緊張しているようだった。

 だが、懸念された、帝国軍からの攻撃は起こらなかった。
 危険宙域から脱し、何とか自由惑星同盟軍の制空圏内に入ったクルー達はホッと胸を撫で下ろしたのだった。


 ユリシーズに乗り込んだ総勢1200人の乳児と幼児、その母親達、そして妊婦達。
 キャメロン中尉とブライアン少尉は予め作成してあった書類を元に、艦内に設えられた何箇所かの部屋に彼女等を割り振った。
 部屋には2段式の簡易ベッドが詰め込まれており、各室内には簡易シャワール-ムも設置し、1日につき、1人10分~20分で使用可能だった。
 乳児達の昼寝のスペ-スは、予定通り派手な飾り付けをされた会議室とフィットネス・ジムが割り振られた。
 ジムは、フィットネス関係の器具類全てを片付けられ、会議室と同じようなふかふかしたオレンジ色の絨毯を敷き詰められている。
 その為、普段の兵士達の鍛錬の為の汗臭さは微塵も感じられない。
 当初は大丈夫かと心配されていた壁を埋め尽くしたフィールズの絵は、幼児や母親達にかなり好評であった。
 
 昼寝は、それぞれの部屋に100人ずつ、3交代制で行われる事になった。
 ・・・実際に見るとその光景は圧巻であった。
 一概に乳児と言っても、月齢によって仕草、運動量ともに異なる。
 医者や看護婦達は、乳児の月齢に合わせて昼寝の位置を決めねばならず、結局、これには何人かの子供好きのクルーが借り出された。
 赤ん坊と言っても、生後3ヶ月と8ヶ月では全く違う。
 漸く目が開いたばかりで寝返りを打つのもまま成らない乳児と、ハイハイも出来る活発に動くようになった乳児は、隣り合わせに寝かせられないのだ。
 誤って隣り合わせに寝かせた為に、8ヶ月の子が3ヶ月の子の上に乗ってしまい、下敷きになった子が窒息死してしまう・・・という事故は、人類が宇宙で生活するようになった現代でも、しょっちゅう起きているのだ。
 ・・・特に戦争による慢性的な人員不足と保育施設不足から、民間の無認可の託児所で多発しているのが現状だ。
 「幸運」と名高いユリシ-ズの艦内でそんな事故が起こされては、後々のイメージダウンにもなりかねないと、クルー達も慎重にならざるを得なかった。
 そして、乗り込んだ民間人が医者を除いて殆どが女性だった為に、ユリシーズのクルー達は涙ぐましいほど気を使った。
 事故を防ぐ為に、用がない限り女性達には接触しない。
 また女性達に声を掛ける時でも決して大声を張り上げず、笑顔を絶やさない・・・といった、細心の注意を心掛けたのである。
 巨体で、「ごついおじさん」と見られている艦長のニルソン中佐ですら、必死に笑顔を貼り付けていたのである。


 女性達と赤ん坊の詰める各部屋には、女性兵士を配して連絡係とした。
 艦内で供される調理一切を取り仕切る炊事班の兵士達は、通常の食事を作るだけではなく、何と、大量のミルクと、離乳食、そして、甘い物が好きな子供や女性達の為に、手作りの菓子まで作る羽目になった。
 それは、先頃行われた研修の成果の顕れであった。
 「厨房設備が1ヶ所だけだから、目まぐるしいったらないですよね・・・」
 「菓子なんぞを艦内で作ろうとは・・・!」
 炊事班の兵士達達は半分、自暴自棄になりながら囁き交わした。
 最初は菓子類は既製品で間に合わそうとしたのだが、乳児によってはアレルギーがある子もいるし、安全性の問題から、手作りの方が喜ばれるとフィールズが力説した事もあるし、習得しておけば、今後役立つ事もあるかもしれないと炊事班のクルー達も考えたのだ。
 人手不足と場所不足で、女性達や幼児達は士官食堂に入りきれない。
 その為、女性兵士を中心とした各部署から緊急に召集された「配給係」が、ミルクや離乳食、大人用の食事をワゴンに乗せて、幾度となく、厨房と部屋を往復する事になったのだった。


 たった1ヶ所の厨房は朝から休まる事無く稼動し、炊事班から増員要請まで出たが、適当な人材がいない為、それは却下されてしまい、炊事班はクタクタである。
 仕事なので仕方がない事とは言え、600人以上もいる赤ん坊達の離乳食や、幼児向けのケーキやクッキー等を焼く羽目になろうとは!
 今後のスキルアップも踏まえた上で料理の研修に参加したのであるが、炊事班の面々は最大級の苦労を背負い込む事になり、今更ながらに後悔していた。
 ハイネセンへの到着を指折り数えながら、もう、泣き出したい気分であった。

 戦艦ユリシーズある限り、自分達の扱いは変わらないのではないか・・・と、全てのクルー達は悲観的になりそうだった。
 ・・・とは言うものの、何度戦場に出ても必ず生還するユリシーズの存在は、将来を悲観して暗く沈みがちな、同盟軍の将兵達の士気を高めているのも事実だったので、皆、口には出さずに、耐え忍んでいた・・・。


 「・・・なんか、この辺臭いませんか?」
 ブライアン少尉が鼻をヒクヒクさせると、キャメロン中尉は、「何が臭うって?」と怪訝そうな表情を浮かべる。
 「・・・あ、その・・・ミルク臭いと言うか・・・」
 「そりゃぁ、大量にミルクを消費する赤ん坊がいるんだぜ?皆、一斉に授乳するらしいから。空調が効いていても、なんせ600人もいるんだからな。こればっかりは仕方が無いと思うぞ」とキャメロン。
 そして付け加える。
 「だけどな、ミルクならまだいい。この間、タイミング悪くおむつ替えの時に娯楽室に行ったら。その・・・なんと言うか・・・」
 「もしかしたら・・・ウンチ臭かったんですか?」と、思いっきり顔を顰<しか>めるブライアン少尉。
 「・・・うわ・・・お前、それ露骨だぞ・・・。でも、まぁ、そうなんだよ・・・。なんせあの部屋にはオマルがあるし・・・。衛生面ではちゃんと気を使っているって衛生兵は言うんだけど、あの臭いは何とかならないものかな・・・」
 「あの時の汚水と比べたらどうですかね・・・」
 「・・・おい、どういう基準で・・・。どっちもどっちだなぁ。あ・・・でも、今のほうがマシだな、絶対に。命の危険がないからな。・・・だろ?」
 「まぁ・・・確かにその通りですが」
 「それに臭いとか煩いとか言っても、考えたてみたら、俺達にだってそういう時期があった訳だしな・・・。気にしても始まらないか。・・・とにかく、仕事、仕事で気を紛らわすっきゃないな」
 「・・・同感です」
 ブライアン少尉は首肯した。
 こうして、ユリシーズのクルー達は、耳をつんざくような大音量の泣き声と、凄まじい臭いの中で、ハイネセンまでの4週間を過ごす事になったが、最後まで笑顔を絶やさなかったのである。
 たった4週間の間に、クルー達は乳幼児の扱いが同盟軍きって上手くなった。
 そして定時連絡の際、他の艦隊から、「哨戒部隊改め保父部隊」とからかわれて、ますます、ひがみっぽくなってしまった。


 さて、お客樣である女性達や医者、看護婦達は、クルーのそんな苦悩や努力等を殆ど理解していなかった。
 クルー達を捕まえて、例のトイレの話を聞きかがる人達が多かったのだ。
 これが美人だったりすると、結局、クルー達は、ニコニコと微笑みを貼り付けて、面白おかしく話す羽目になる。
 ・・・心の中では、何でこうなるんだよ・・・と、苦悩の涙を浮かべたが。
 1週間もすると、泣いてばかりいた子供達も艦内の様子に慣れてきたのか、泣き出す割合も減ってきたのだが、ここで新たな問題が発生した。
 ・・・子供以上に、大人が飽き出したのである。


 「艦長・・・兵士達の話では、女性達が、どの辺りのトイレが壊されたのか見たいと言っているそうで・・・」と、苦虫を潰したような表情のエダ大尉。
 「はぁ・・・トイレ?」

 ニルソンは溜め息をついた。

 「何だかなぁ・・・って感じだな、副長」

 投げやりな感じのニルソンに対して、エダ大尉は苦笑しながらも話を続けた。

 「それも1人や2人ではないそうで、実際に小官も聞かれた事がありまして。それで、小官としても何とかしたいと思うのですが・・・」
 「何とかと言っても・・・あれは実際にはトイレが壊れたのではなくて、汚水処理システムの破損だろうが。・・・見ても楽しいものじゃないぞ?」
 ニルソンはまた溜め息をつく。

 この航海中、何度溜め息をつけばいいのだろう・・・と漠然と考えた。
 「ええ、厳密にはトイレではない・・・と説明しているのですが、それでも見たいという意見が多くて・・・」

 エダ大尉は「説明するのも楽じゃないんですよね」と苦笑した。
 「そうか、そんなにあそこが見たいのか・・・。それじゃぁ、アンケートでも取ってみるか、副長。それで、半数以上が見たいと言うなら、汚水処理システムの見学ツアーをやってみてもいい」
 「え、見学ツアー・・・ですか?」
 「ふん。どうせ暇だしな。・・・自棄糞と言うか、もう、どうでもよくなった気分だ。旅行会社のキャッチコピーではないが、『素晴らしく楽しい宙の旅を』って訳だ。暇つぶし・・・いや、軍への見聞を広めてもらえるのなら、艦内見学ツアーってのも捨てたもんじゃないかもしれん・・・」
 「じゃぁ・・・早急にアンケートを取ります」

 艦長も軟化したな・・・と感じたエダ大尉は、その日のうちにアンケートを作成し、翌日、データ持参で艦橋へやって来た。


 「どうだ、副長?成果はあったのか?」
 「はい、アンケートの結果ですが、どうやら・・・艦内を見学したい人は意外と多いようです。しかも、この艦で見たい所のトップは・・・やはり「トイレ」となっておりまして。・・・やはり、例の被弾箇所が人気になっているようです。他に見たい所は・・・機関室、艦載機の格納庫などですね。・・・勿論、艦橋というのもありまして、艦長に会いたいと書かれておりました・・・」
 その瞬間にニルソンは喜んでいいのかどうか、複雑な表情を浮かべる。
 エダ大尉は、データの収まったディスクをニルソンに手渡した。
 アンケート結果をモニターで確認しながら、ニルソンは何やら考え込む。
 「・・・それから、小官に1つ妙案があるのですが。・・・艦長、お聞き頂けますか?」と声を顰<ひそ>めるエダ大尉。
 「何だ、副長?」
 ニルソンは画面から顔を離して、エダ大尉に視線を移した。

 「・・・なるほど・・・それは、確かに妙案かもしれんな・・・」
 聞き終わったニルソンは、顎にゆっくりと手を当てた。
 「本当はこんな案は不本意なのですが、ツアーの参加者には楽しんで頂けると思うのです。ですから、見学コースのメニューには是非あれを・・・」
 「・・・そうだろうな。じゃぁ、いくつかの小グループに分けて案内させる事にしよう。案内係は、キャメロン中尉とブライアン少尉・・・がいいかな。・・・おい、済まんが、2人とも来てくれ」
 2人は自分のシートから立ち上がった。


 ニルソンからツアー要項を見せられて互いに顔を見合わせた。
 「見学ツアーですか」とキャメロン中尉。
 「本気ですか?」とブライアン少尉。
 「仕方あるまい。まずメニュー1として、オーソドックスに艦内見学をする。機関室、艦載機の格納庫、後部砲塔、そして汚水処理システムの4箇所を回る。次にメニュー2として、PCルームでこいつを見せる・・・と。まぁ、今回のツアーの目玉になるだろうな。・・・で、メニュー3として、最後に艦橋の見学。私がツアー参加者に適当に挨拶する。それでこのツアーは終了だ。貴官達は、まぁ、ツアー・コンダクターといったところだな」とニルソン。
 「・・・分かりました。命令とあらば・・・。でも、ツアー参加者の割り振りはどうやって決めるのですか?」とキャメロン中尉。
 「それは小官がやります」と、横から口を挟んだのはエダ大尉。
 元々、このツアーに至るまでの話をニルソンに振ったのは自分であり、その責任の重大性を感じていたのである。
 「そうか。では頼むぞ、副長。それと貴官達もガイド役は大変かもしれないが、宜しく頼む。3人に一任するので、相談しあって話を進めてくれ」
 「・・・了解しました」と3人は敬礼した。


 2日後から、キャメロン中尉&ブライアン少尉は、まるで団体旅行の添乗員よろしく、黄色い旗を振りながら、「ユリシ-ズ艦内特別見学ツアー」を敢行する事になった。
 まずは機関室の見学。
 機関室の幾つもある制御パネルに、「目が回りそうなくらい沢山あるのね~!」と女性達の歓声が響く。
 そして、彼女達が普段は目にする事のない・・・いや、これから先も多分目にしないだろうと思う・・・エンジン出力を制御するパネルを見せる。
 ツアーに合わせて一時的に速度を落とし停止するユリシーズ。
 そして、このツアー参加中に一気に速度を上げMAXの状態、つまり「急速前進」にする・・・なんて事もやって見せたら、もう大歓声が沸き起こる。
 速度の上げ下げなんてのは見慣れた光景で、キャメロン達には全く面白くもないが、部外者には確かに物珍しいらしい。
 機関室でのエンジン体験(?)の後、普段、殆ど生で目にする事のないスパルタニアンの格納庫に移動。
 ここでも女性達は大歓声を上げるのだった。
 「わぁ!凄くおっきいのね~!ねえ、あなたはこれに乗らないの?」
 そう聞かれたブライアン少尉が、「乗りません。専任のパイロットがいますから」と答えると、「じゃぁ、あなたは普段は何をしているの?」と聞き返された。
 「・・・小官は通信士官です。普段は艦橋での勤務です」
 「ふーん。じゃぁ、あなたは?」
 急に自分に水が向けられた事を知ったキャメロン中尉は面食らいながらも、「あ・・・小官は砲術士官です」と答える。
 すると、「じゃぁ、あなたは大砲を撃っているの?」と聞かれ、彼は慌ててかぶりを振った。
 「いえ、小官は直接砲塔でミサイル等を撃ってはいません。ブライアン少尉と同様に、普段は艦橋での勤務です。艦橋から各砲塔に指示を出すのが小官の仕事でして・・・」
 キャメロン中尉はにこやかに微笑んだが、女性達は彼の話なんか、話半分も聞いてはいない。
 もう次の質問を投げかけてきた。
 「ねぇ、ここにパイロットの方々はいないの?是非とも、お話を伺いたいわ」
 「今は戦闘態勢ではありません。それにここは同盟軍の制空圏ですから」
 キャメロン中尉がそう答えると、女性達は「ねえ、パイロットの方々にもお話をお伺いしたわよねぇ」と騒ぎ出した。
 しかし、ツアー内容に「パイロットとの懇親会」はないと、2人が説明すると、女性達は不承不承納得してくれた。

 その後で、後部砲塔のミサイル発射のシートを見学・・・。
 ツアー参加者全員がシートに座ってみる。
 女性達が座る席だけ、あらかじめミサイル類にロックをかけて、発射出来ないようにしておいた。
 それでも危ないので、計器類には一切手を触れさせないが、女性達は、滅多に座れない所に座れて嬉しそうだった。
 それが一通り終わったところで、「ここが・・・汚水の被害が一番多かった所なんです」とキャメロン中尉が説明をすると、全員が頷きながら、目を皿のようにして室内を見回す。
 砲術士官なので、キャメロン中尉は何とも言えない気分になった。
 艦橋で各砲塔に指示を与えたりしているのは自分だから。


 次は、件の汚水処理システムの見学である。
 「ここの・・・ここからここまでが被弾しまして・・・汚水が漏れてしまったんです。何度も言いますが、この艦のトイレが壊された訳ではありません。しかしながら刺激の強い臭いだったので、まるで、掃除を全くしていないトイレの中に閉じ込められたような状態でした。今は部品も交換されて完璧に直っていますので、もう、大丈夫ですが。まぁ、被弾しても、沈まなかっただけマシでした。・・・あの戦いでは、同盟軍の大多数の艦艇は一瞬にして爆沈・・・というのが多かったので、本当に幸運だったんですよね、我が艦は・・・」
 ブライアン少尉が一気に説明すると、皆、シーン・・・となってしまった。
 一瞬にして爆沈と聞いて、ニコニコと笑える訳がない。
 爆沈=戦死である。
 宇宙ではちょっとした被弾でも、飛躍的に死に近くなる。
 街中で軽い交通事故に遭うのとは違うのだ。
 その場の空気が凍り付いたのを察したキャメロン中尉は、さすがにこれは不味い・・・と思い、つとめて明るい声を出した。
 「あ・・・と、それからですね。皆さんの為に、艦長の裁量で・・・秘蔵映像をお見せ出来る事になりました。滅多に見られない貴重な物ですので、こちらへどうぞお越し下さい・・・」と、慌ててPCルームにツアー参加者を案内する。
 そこで目にした映像は、当時、上への報告の為に撮影された艦内の映像であった。
 ミサイル発射シートは、シートの上まで汚水まみれである。
 流れ出した汚水の一部は機関室をも浸食した。
 何とか排水を試みる機関室の面々の映像など、艦内のライブラリに保管されていた貴重な(?)映像を、初めて一般に初公開したのである・・・しかも女性達にだ。
 因みにこの映像を撮影したのは、当時少尉だったキャメロン中尉である。
 汚水のせいで、砲塔の計器や機関部分に多少の異常が出ていたからだった。
 皆、物珍しい映像に釘付け。
 楽しそうに笑っているが、添乗員の2人は、(艦長も自虐的な事をするよな・・・)と、半ば呆れながら、その映像をぼんやりと見ていた。
 その後、ツアー参加者は艦橋へ赴いた。
 緊張の余り声がややひっくり返った感のある、艦長のニルソン中佐の挨拶を聞いて、自分達の宿泊場所へ移動し、これでツアーは終了である。

 このツアーは概ね好評で、参加希望をしていなかった人達も次々と参加を表明した為、ハイネセン到着までの間に、何回も行われる事になった。
 見学者に人気だったのはやはり例の秘蔵映像だった・・・。
 クルー達は映像を見た女性達から、「本当に大変だったんですね」と声を掛けられる度に、何とも言えない気分になり、ハイネセン到着が4週間もかかる事を呪わずにはいられなかった。


 因みに、そんな中で唯一、終始、「心から」ニコニコしていた人物がいる。
 ・・・航法士官のフィールズ中尉である。
 彼の妻はイゼルローンで出産し、生後2ヶ月の双子の女の子がいるのだ。
 名前はエミリーとジョディ。
 愛する妻子がユリシーズに乗っているのだ。
 まさか宇宙で、しかも戦艦という特殊な職場にいながら、毎日のように妻子の様子を確認出来るのだ。
 今までは絶対にあり得ない事だったから、フィールズは天にも上る嬉しさで、顔が緩みっぱなしであった。
 おまけに、どこで調達したものか、可愛らしいピンクのウサギのアップリケが2つも付いたエプロンを身につけていた。

 どこでそんなエプロンを見つけたのかキャメロンが問うと、「小官のお手製だ。結構、様になっているだろ?」と、自慢されてしまい、キャメロンもブライアンも、フィールズの手先の器用さに驚きを禁じえなかった。
 そして、フィールズは、保父さんよろしく、アヒルのガラガラなどを持って、積極的に赤ん坊達の世話をしていたのである。
 また彼が描いて、艦内に貼られている沢山の絵は子供達に好評で、更に、親達への受けも良かった。
 ハイネセンへの航海の間も、幼児達にせがまれるままに、色々と描いてやったのだが、幼児達から羨望の眼差しで見られた上に、「動物の絵のおじさん」と親しげに呼ばれてまんざらでもない様子である。
 それを、同僚達は思いっきりからかったが、彼は一向に意に介した様子も見せず、むしろ、からかわれているのを自ら楽しんでいるようだった。

 乳児達や幼児達にすっかりなつかれてしまったフィールズ中尉は、それですっかり気を良くしてしてしまった。


 彼は、宇宙暦802年以降、自由惑星同盟が消滅してバーラト星系だけに自治が認められたハイネセンで、妻と2人で保育士の資格を取って託児所を開く。
 そして、かつての同僚達をも巻き込んで、元気に保育士として働く道を選んだのだった・・・。



 THE END



 3部作終了です。

 ・・・ダラダラと長いだけですが、同盟のマイナーなキャラでコメディを・・・がテーマでだったりします。
 幾多の困難を乗り切ったにもかかわらず、いつも物笑いタネにされる戦艦ユリシーズとクルー達を描いてみたかったんですね。
 ・・・ちょっとお気の毒ですが、ユリシーズは本当になごみ系ですね~!
 キャメロン、ブライアンは全くのオリキャラです。
 エダ大尉、フィールズ中尉は原作にも登場します。(フィールズの子供と奥さんは私の設定です)
 あと、戦艦「ヒスパニオラ」のギブスン大佐も原作には出て来ます。(J・ギブスン大佐として、原作の3巻に登場してます)
 ただし、ギブスン大佐達とユリシーズの絡みは原作には全く出て来ないんですけどね。
 そこはそれ・・・哨戒艦隊(別働隊ですが)だもの・・・ってな訳で出しました。
 ギブスン大佐はね、ガイエスブルグ要塞がワープアウトしてきた時に、最初に接触した哨戒艦隊を率いていました。
 ところが、アニメの方では、その役は何と、ユリシーズになってしまい、結果的に、ギブスン大佐の出番はなくなってしまいました。
 あまりに可哀想なので、ギブスン大佐達が、ガイエスブルグ要塞に遭遇した時の話を二次小説も書いてしまいました。
 こちらは「遭遇~ガイエスブルグ要塞と哨戒艦隊~」という話なのですが、機会を見て、いつかUPしたいと思います。


 さて、ニルソン中佐が凄く苦労されたであろう「箱船作戦」は私的には、トイレの一件以上に想像力を書きたてられるモノでした。
 因みにこの話を描こうと思ったきっかけは・・・海上自衛隊の巡洋艦に体験乗艦(体験航海とは違います。あくまで乗るだけ)と言うか、見学した事でした。
 一般の人が多数訪れるので、艦内のいたる場所に案内板が出来ていて、勿論、立ち入り禁止区画もありましたが、その日だけ特別に取り付けられたプレートの順路に沿って進めば、ある程度の見学が出来る仕組みで、艦内の食堂、シャワールーム、居住区などを見て回われました。
 艦橋に行った際、説明してくれた方(あ~あ・・・階級でも覚えておけば良かったな)の話では、その巡洋艦には、艦長席とは別に司令官席があるとの事で、確かに艦橋の中でもちょっと高めの所に席が設えてありました。
 ここに座ったら、帝国軍なら「ファイエル!」で、同盟軍なら「ファイヤー!」だな・・・とお馬鹿な妄想を致しました・・・。
 レーダーなんかもあってね、もう、眺めているだけで妄想モードまっしぐらな感じ。
 司令席かぁ・・・ヤン提督ぅ~などと、頭の中には妄想の嵐が吹き荒れ、ビッテンフェルトなら艦橋で茹でたフランクフルター・ブルスト(フランクフルト・ソーセージね)を豪快にかじりそう・・・とか妄想。
 まぁ、妄想はそれだけにとどまらず、私はこの巡洋艦のトイレにも行ってみたんです・・・。

 私、普段はトイレが遠くて、トイレに行きたくなって困るって事はないのですが、この時はもう我慢出来なくて・・・艦内のトイレに直行でした!
 ・・で、行ってビックリ!
 洋式のトイレなんですが、水を流す時に、横に大きなバルブって言うかハンドルみたいなのが付いていて、それを回して水を流す仕組み。
 これが・・・結構重たいんです。
 毎回、用を足した後で毎回、毎回、うんしょ!うんしょ!と回すのか!!って、かなりの衝撃でした。
 そして、ユリシーズの話が書けるなぁ・・・って。←単純ですww
 こうして私の頭の中に・・・トイレを壊された戦艦の話が出来上がり・・・ある夏の日の横須賀での妄想でした^^@


 あと、ユリシーズの話とは関係ありませんが、妄想と言えば、とある陸自の夏祭りに行った時の話もひとつ・・・。
 埼玉県の朝霞市に朝霞駐屯地がありまして、毎年7月にイベントをやってます。
 朝霞基地は教育機関を兼ねているのですが、ここに入ると外に滅多に出られない為、基地内にちょっとしたゲーセンやら、ちょっとした飲み屋や床屋やらあって、あとは日用品を売っているところもあるんです。
 前は夏祭りの際は、一般人も立ち入りOKだったのですが、911以降、テロ警戒の為に、一般人は祭り会場のグランド以外は完全に立ち入り禁止になってしまいました。
 ここは、いわゆる『酒保』で・・・米軍風に言うと『PX(Post Exchange)』なんですけど、制服用のシャツから、迷彩服まで、ホントに色んな物を売ってました・・・。
 祭りの模擬店の殆どは隊員の方がやっていて、ステージでアイドルが歌ったり、お笑い芸人がショーをやったり。
 ・・で、ステージに近い席にわりとお偉いさん達の席があって、もう、皆さん、酔っ払いのおじさんと化していまして、階級を見たらば、皆、佐官クラスの方・・あぁ、エリートさんだな・・・と。
 下の階級の人達は大変です。
 食べ物を運んだり、お酒運んだり、お酌したり、あれこれ言いつけられて走り回ってました・・・これまたネタとして使えそうでした。
 ここ数年は忙しくて夏祭りには行っていないのですが、昔、練馬基地に知り合いの方がいて、この人と夏祭りに参加した際、自分の同期が、朝霞基地のお偉いさんに付いているって言っていて、思わず、私の頭の中には、副官とか、従卒と言った言葉が、グルングルンしていました・・・。
 確か、朝霞基地のトップは陸将補とかだったと思うので、勝手に妄想して・・・萌えてましたですね。
 会場内で貰ったうちわが凄くて、表は迷彩柄に『祭』と、でっかく入っていて、裏は白地に黒文字で、『陸上自衛隊朝霞駐屯地』って入ってます・・・ナンとも使いづらい・・・。
 そうそう、朝霞基地では・・・観閲式も見ました。
 軍事パレードなんて普通の人は見ないでしょうから、空挺部隊が空から・・・なんて、結構衝撃的でした。
 主人は会社命令(?)で、毎年、富士の演習見学に行っていますね。(会社に自衛隊OBを採用している関係で招待されるんですって)


 陸・海・・・と来たので、空の話もしましょう。
 私の知り合いで、戦闘機のパイロットだった方がいます。
 千歳に最も長くいたそうで、場所が場所だけに、冷戦時は対ソ連関係で、もう、頻繁にスクランブルかかって出撃していたらしいです。
 F15も好きだったけど、ファントムが大好きだったそうです。
 その方は、昇進後は教官をされていたのですが、最終的には二等空佐だったという事ですから、いわゆる中佐ですね・・・やはり、エリートさんです。
 何でも成層圏ギリギリの所まで一気に上昇し、あと一歩で宇宙!と言う所まで行くと、空が一気に暗くなってそれはそれは幻想的だそうです。
 ただ、そこに行く為には相当なGがかかるので、普通の人はちょっとダメだろうね・・・との事。
 あと、戦闘機のコクピットはかなり狭いので、物凄く長身とか、横に物凄い大柄な人にはパイロットは無理だって言っていました。
 全ての計器が使えないと言う設定の有視界飛行の訓練の話とか、結構面白かったのですが、何せ専門用語がいっぱい出て来たので、さすがにパロディ小説に生かすのは無理でしたが、ポプランやコーネフ、撃墜王時代のケンプも似たような訓練したんだろうな・・・とか、やっぱり妄想だけはしましたですね。


 さて・・・話を戻しましょう。
 一番元気だったフィールズ中尉は、彼なりの理由があったんですね・・・。
 怪しい人ですが、悪気はないんですよね、きっと・・・。
 艦長のニルソン中佐をとことん追い詰めてしまいましたが、ユリシーズはヒューベリオンが沈んだ後のヤンの旗艦となったし、ヤンの死後も艦は残ったので、これはやっぱり幸運の艦なのかもしれません。
 老朽化が進んでも、解体を免れて、ヤンの最後の旗艦として博物館辺りに展示される道がありそうです。

 そういう意味では、レダⅡも展示の道に進んだりして・・・こちらは、負の遺産として。
 そして・・・自分で書いてなんだけど、被弾直後の秘蔵映像があれば私だって見たいよ・・・と、本気で思っちゃいました・・・爆!