リップシュタット戦役以降・・・。
家人が死亡、または行方不明となった上に、法定相続人もなく、国庫に接収される事になった元貴族の館や土地、有価証券類、また彼らの蒐集していた美術品等の数は膨大であった。
多少の取りこぼしはあったものの・・・。
ローエングラム公の部下達は、皆真面目に勤務に精励したので、それらの資産の詳細・・・今まで表立っていなかった貴族達の資産等が明らかにされつつある。
一応、美術品は『芸術家提督』として名高いメックリンガーの管轄下に入り、貴族連合軍に属する貴族の屋敷や荘園等の資産調査に関しては、憲兵総監であるケスラーの管轄となった。
そう・・・憲兵隊が中心となって、そこに“危険”がないかを厳重な警備の元に調査していたのだった。
『調査には爆発物処理班を必ず連れて行け』
ケスラーが部下達にそう命じると、彼等は皆、一様に怪訝そうな表情をした。
その為、ケスラーはやや苦笑雑じりに部下達にこう説明したのだ。
『・・・貴族の考えは我々とは異なる所にあるらしい。なまじ、資産があるからこそ、かえってややこしい事態にも遭遇するだろう。何も無い方がありがたいが、念には念を入れて調査を行うように。貴族の中には、その昔、万人には理解不能な、仕掛けだらけの屋敷を作って楽しんだ狂人もいたらしい。そういう意味でも、細心の注意を払うのを忘れてはならない』
かつて、ケスラーと知己のあった、子爵家の当主でもあったグリンメルスハウゼン提督の残した機密文書・・・。
現在、ローエングラム公の密命でケスラーが憲兵総監室の金庫にて、声門コードやら、網膜パターンやら、様々なロックを五つもかけて厳重に保管しているあの日記。
そこには、そうした貴族の裏の悪癖が事細かく記されており、ローエングラム公から、機密文書に目を通す事を許されていたケスラーは貴族の悪癖を知っていたのだ。
市内や郊外にある貴族の館の殆どは、ごく普通の・・・と言っても、一般市民には、目の眩む様な豪華絢爛な館であった。
だが、本邸ではない、“別邸”にこそ、“貴族の隠れた趣味”が色濃く出ていた。
やがて、ケスラーが懸念した通り、万人が考え付かないような猟奇的な趣味の屋敷がごろごろと出て来たのである。
それも、両手の指を使って数えてもまだ足りぬほどの・・・。
しかもその殆どが、リスト上では、温厚で人畜無害だと思われていた貴族達であり、その事が余計にケスラーを疲れさせたのだった。
屋敷内の大広間に、何の為なのか、怖ろしく巨大な落とし穴が幾つも設えてあった屋敷。
ギロチンや“鉄の処女”を始めとする、古今東西の拷問道具をコレクションしている屋敷。
女性用の下着が全ての部屋にディスプレーされ、きわどいポーズの女性の裸体の人形が並べられている屋敷。
ビッシリと針を埋め込まれた裸の女性のマネキンと、裸の幼女のリアルな人形がが所狭しと並べ立てられた屋敷。
動物の内臓のホルマリン漬けが数万種類もコレクションされた屋敷・・・。
地下室に厳重な隠し扉があり、うら若い女性の、目を背けたくなるような剥製が何体も展示されたおぞましい部屋まで見つかった・・・それらは、行方不明事件として迷宮入りしてた少女達の成れの果てかもしれず、これらは、後日改めて憲兵隊にて再調査を要するものであった。
・・・こうして、一般庶民には理解し難い屋敷が次から次へと見つかったのである。
そして、幾つもの爆発物が仕込まれた不気味な屋敷が発見された。
爆発物が貴族の間で流行ったという話は聞いた事がなかったので、個人の性癖によるものだと推察されたが、実に奇怪な屋敷であった。
コルトマイヤー伯爵家の別邸に踏み込んだ兵士の話では、屋敷中の至る所でかなり強烈なアーモンド臭が漂っていたそうだ。
最初は、アーモンドそのものの臭いかとも思われたのだが、実はそうではなかった。
爆発物処理班の持参した機械に凄まじい反応が出て、臭いの主が爆発物であると確認されてから、全員で爆弾処理に取りかかった。
尤も、仕掛けられていた爆弾の殆どは信管が抜かれた状態の、巧妙に作られたダミーだった。
どうやら、ここの屋敷の当主は、古い爆弾のコレクターらしかったが、比較的新しい物も含まれており、軍務省の関係者でなければ手に入れられないほどの高性能の爆弾も含まれていた。
また、伯爵の寝室だと思われる室内のベッドのサイドボードに置かれていた爆弾も、高性能の本物のプラスチック爆弾だった。
しかも、一見すると爆弾だとは分からない形。
それは優しげな天使の像の形をしていたのである。
一体、何の為に自分の寝室に爆弾を仕掛けていたのか、常人には理解に苦しむ所業だった。
ブレンターノ中将から、毎日のように理解しがたい報告を受けたケスラーは溜め息をを付いた。
「全くもって呆れた話だな。・・・貴族の屋敷は警戒していて正解だったか」
書類にサインをしながらケスラーは大きく息を吐いた。
自分ですらこれだけ疲れるのだから、他の者なら、とうに倒れていてもおかしくないとさえ思った。
「本当に困った話です。こうも次々と怪しい館に出会うと神経が磨り減りますな。隊員の中には頭痛薬や胃薬が手放せない者もいるようです」
最近、憲兵隊が買っている常備薬の胃薬と頭痛薬の減りが早いというのだ。
「・・・まぁ、薬ぐらいならな。人的犠牲者が出なくてなによりだ。しかし・・・門閥貴族とは度し難い存在だったのだな。呆れて物も言えんぞ」
「本当にそうですな、閣下。明日は、オーディン郊外のフロイデン地方及び、クラップファレル地方の貴族の屋敷を中心に一斉に調査の予定です」
ブレンターノから手渡された書類に目を落としてケスラーは頷いた。
しかし、フロイデンのシュリッツェン伯爵の山荘で、翌日、誰も予想し得ない悲劇が起こったのだった・・・。
続 く
いきなり『続く』と出て、何!!?でしょうが、これの続きは、『コヨーテ』にて!
・・・我ながら面白い試みです。
これはケスラーの話というよりは、殆ど憲兵隊の話ですね・・・続きである「コヨーテ」もそうです。
因みに、これは100のお題と言う、100個あるお題を使って、小説やら漫画やら、ポエムなんかを書く・・・ってヤツです。
したがって、銀河英雄伝説では書きづらいお題なんかもあったりします。
「プラスチック爆弾」や「コヨーテ」なんかはいいのですが、「イトーヨーカドー」とか「熱海」なんてお題もありまして、全てを銀河英雄伝説で書けるのだろうか?と、私を散々悩ませてくれました。
因みに100のお題は、色々な人がお題を考えて配布していたりして、物書き(小説やイラスト等)さんには好評だったりします。
お題に合わせて話を考えればいいのですから。
でもねぇ・・・それでも、難しかったです。
自分で続き物にしよう!!って書いたわりには、書きにくくって、他の話にすれば良かったかな・・・なんて。
大体・・・タイトルの『プラスチック爆弾』がなんなのか分からず。
やっぱり女性ですから、爆弾とかって得意じゃないです・・・。←普通そうだろ・・・うさけさん。
製造方法だって知りませんし、はっきり言って良く分かりません。←知ってたらヤバイだろ、うさけさん。
こういうモノにやたら詳しい女ってのもヘンでしょ?←当たり前だろ、うさけさん。
白状すると、ケスラー(憲兵隊)が書きたかっただけなんです、それも、とっても真面目な話が・・・。
コルトマイヤーやシュリッツェンはオリジナルのキャラです・・・エンクロ等で調べたりしないようにww
では、お次の解説は「コヨーテ」で★
「プラスチック爆弾」の後に、「コヨーテ」を読んで頂けると助かります。