次の駅で、僕は降りなければならない。
これもまた、当たり前でいつも通りのことだ。
彼女は僕の方に頭を載せ、相変わらず眠っている。
いよいよこの特別な時間とも決別しなければならない。
それは大袈裟に言えば、彼女との決別でもあった。
電車は徐々にスピードを落とす。
僕の肩に彼女の存在がのしかかる。
このまま降りずに、行けるところまで行ってしまおうか。
彼女が目を覚ますまで、このままずっと。
しかし、残酷な揺れが僕の体を通して彼女に伝わる。
電車はいよいよホームに滑り込み、時速は絶望的に遅くなる。
僕は選択を迫られる。
このままか、立ち上がるか。
しかし、僕が悩むまでもなく、彼女は目を覚ましてしまった。
地下鉄の窓は鏡のように僕たちを映す。
鏡面越しに見る彼女はうつむいているが、それでも均整のとれた顎のラインは美しかった。
横目で見る彼女の顔は、肩まで伸びたストレートの髪で大半が隠されていたが、形のいい鼻やわずかに開いた唇は、それだけで魅力的だった。
おそらく一回りは年齢差があるだろう。
それでも僕は初恋のように胸を高鳴らせていた。
しかし、この幸せな時間にも必ず終わりが来ることもわかっていた。
ただ、せめてできる限り長くと、駅に着く度に願っていた。
正直に言うと、たまたま座った席の隣にかわいい娘が居たわけではない。
電車に乗り込んだ際、すぐに目に留まったかわいい娘の隣に、僕が座ったというだけだ。
だからそこには運命的なものは無い。
唯一は、彼女が僕の日常にたまたま紛れ込んだことだけだ。
とにかく、僕は美少女とわずかに肩を触れ合わせながら、いつもの電車に揺られている。
彼女はまだ高校生らしく、グレーの制服を着て、膝の上に黒い革鞄を載せて眠っていた。
進行方向側に座っていた僕は、ブレーキの度に彼女の重さを、温もりを感じ、ささやかな幸せを噛みしめていた。