訊いてみると、彼女は17歳だった。
僕とは一回り以上も離れている。
それでも、僕は諦めきれなくて彼女との共通の話題を探そうとする。
なかなかそれは見つからなかったけど、僕は彼女を質問責めにし、彼女も嫌な顔一つせず答えてくれた。
それでも、楽しい時間には終わりが来る。
僕の引き延ばし工作も、さすがに限界になった頃、彼女は「そう言えば、クリーニング代は?」
いよいよ、その時は来た。
僕は用意していた言葉を、ゆっくりと伝えた。
「実はクリーニングには出してないんだ。今日、呼び出したのは、ただちよりちゃんに会いたかったから」
「私に?」
「うん。一目惚れしちゃったんだ。あの日、あのホームで」
「よだれで?」
「そう。よだれで」
なんだこの会話は。
僕が事前にイメージしていたものと、少しずつ離れていく。
「あたし、沢口さんから見たら子供でしょ?」
やんわりとした拒絶の言葉に感じられ、僕の目の前は暗くなる。
「素敵。すごく文学的ですね。でも、沢口さんは嫌いなんですね、自分の名前」
「信じないかもしれないけど、好きだよ。ただ、恥ずかしい」
僕は彼女に嘘はつけないようだ。
これまで人には名前はコンプレックスだと話してきた。
その発言を、周りが求めている気がしていたからだ。
けれど、真実は今彼女に言った通りだ。
愛情を美しいと言い切る両親に敬意を払っているし、それは僕に力を与えてくれる言葉であるから。
ただ、これも素直に言ったことだが、やはり気恥ずかしいのも事実だ。
今の時代、正面から愛を語るのはやはり恥ずかしい。
いや、この歳になったからだろう。
よくも悪くも、僕は大人になってしまったのだ。
いよいよ追い詰められて、僕は観念した。
勿論、嘘をつく事もできただろう。
クリーニング代を受け取って、それでお別れなら、名前なんか出鱈目でもかまわない。
けれど素直に本当の名前を彼女に教えたのは、今日限りで終わることを良しとしない、僕の願いと意志からだった。
「愛美(まなみ)」
「え?」
「…」
「まなみさんていうんですか?かわいいっ。どんな字?」
「愛情の愛に美しい…」
僕は下を向き、顔を上げられなかった。