近年、低侵襲手術として腹腔鏡下手術、ロボット支援手術が世界中で拡大しています。ただ、低侵襲手術とは裏腹に、医原性尿路損傷は増加している?と感じられる泌尿器科の先生方もいらっしゃるのではないでしょうか?
Campbellには、開腹手術に比べ、腹腔鏡手術での医原性尿路損傷は増えていると記載があり、文献的にも、増加していると考えてよさそうです。
近年は、腹腔鏡手術をトレーニングすることなく、ロボット支援手術が普及し、開腹や腹腔鏡手術ができない、トレーニングを受ける機会がないなど問題も多く、医原性尿路損傷の修復術を学べない可能性が高くなっていることも背景にあるのではと感じています。
亀田総合病院を訪れる方の中には、
「婦人科の術後は癒着が強く、手術ができない」「尿管が短くて届かない」
「永久腎瘻」または「腎臓を摘出」と言われて受診される方が非常に多いです。
医原性尿路損傷の修復術は「泌尿器科医が泌尿器科医たる技術の一つ」だと思います。前立腺全摘や膀胱全摘はトレーニングを受ければ、当然できるようになりますし、ロボット支援手術なら取れて当然で、誰でもできることです。プロとして手術を行うからには修復術については最低でも知っておくべきものです。
泌尿器科医が頼られるのは、「医原性尿路損傷をしっかりと修復できるかどうか」だと思っています。
自分だったら、尿路修復もできない先生に「手術をして欲しい」と思います? 泌尿器科手術で尿管損傷(尿管狭窄など)が起こったら、「症状なければ放置」「腎瘻」や「永久ステント留置」あるいは「腎摘」とかにしますか?
腎盂尿管移行部狭窄症なら「ロボット支援腎盂形成術」を喜んで施行し、医原性に起こる「水腎症」の治療は「手がない」と言うのは「がっかり」です。
【医原性尿路損傷の発症原因、そのリスク】
医原性尿路損傷の発生は、50%以上が婦人科手術によるもので、1)
そもそも、医原性の尿管損傷が発見されるのは、約70%が手術後に発見されます。2)
術中に尿管損傷がわかれば、再入院、腎瘻、敗血症、急性腎障害、瘻孔形成、死亡などのリスクが下がると報告されています。3)
よって、術後に発見されるときには身体的にも精神的にもシビアな状況から泌尿器科医は携わり、「嫌な仕事」に分類分けされることでしょう。小言も言いたくなるでしょうし、医療行為の一つ一つが重くなります。自分がやったわけでもないのに、医療不信の目が向けられつつ、診療をすることも大変です。仮に手術を行っても100%ではない可能性もあります。手を付けたくない、できるだけ穏便に、と対応したくなります。腎瘻などの管理が嫌だとなれば、合併症のない「腎摘」と言うのは納まりが良いと感じますが、腎がん手術は腎部分切除の技を競い合い、そんな腫瘍まで部分切除!と称賛の声を耳にするほど、腎機能温存を目指していますよね。
ですから、医原性尿管損傷を修復するのは術後に行うのが、約70%あると心得ておくと良いと思います。そして、修復術の方法や時期などを検討します。
【術後合併症時の一時的な尿路変更】
1. 尿管ステント
2. 腎瘻
のこの2つです。修復術まで腹腔内が落ち着くまで、尿路を確保する必要があります。
腎機能を温存するのは言うまでもありません。尿管の損傷が全周性に及ばない場合は尿管ステントで自然軽快することもあります。
【医原性尿路損傷の発見が遅れる理由】
医原性尿路損傷の発見が遅れる原因は、腹腔鏡下手術で約11倍のリスクがあるとしている報告があります。4)
【泌尿器科医が知っておくべき、尿路再建術】
1. Ritch Gregor法
2. Psoas hitch 法
3. Boari Flap法
4. 回腸尿管
は最低限知っておくべき修復術です。
出来る出来ないは別として、修復術の提案ができないのは問題だと思います。婦人科医に「損傷しないように手術してもらうのが先でしょ」とか声が聞こえてきそうですが、大きな子宮筋腫や、内膜症の癒着、帝王切開での癒着など「やむを得ない合併症」もあり、泌尿器科医は進んで修復術を勉強し、備えておくと良いと思います。
【参考文献】
1)Management of iatrogenic ureteral injury.
Burks FN, et al. Ther Adv Urol. 2014.
2)A review of laparoscopic ureteral injury in pelvic surgery.
Ostrzenski A, et al. Obstet Gynecol Surv. 2003.
3)Complications of Recognized and Unrecognized Iatrogenic Ureteral Injury at Time of Hysterectomy: A Population Based Analysis. Blackwell RH, Kirshenbaum EJ, Shah AS, Kuo PC, Gupta GN, Turk TMT.J Urol. 2018 Jun;199(6):1540-1545
4)Morbidity and predictors of delayed recognition of iatrogenic ureteric injuries.
Locke JA, Neu S, Herschorn S.Can Urol Assoc J. 2021 Aug 26