ジャッジング考 | 羽生結弦さんの見つめる先を見ていたい

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羽生結弦選手を敬愛しています。羽生さんを応援する素敵ブログ様方を日々の心の糧にしている、ソチ落ち主婦のブログです。(横浜在住)

今日もまだ、早稲田のe-style book、羽生くんのロングインタビューの関連の話題です。

羽生くんが如何に頭の回転が速く、当意即妙の受け答えをするかは、昨日の記事でも紹介させていただきました。


ものすごく内容の濃いインタビューで、話題も多岐に渡ったのですが、
中でも私が気になった点をご紹介しますね。

西村教授が、技術点のAI採点が実現したら人間のジャッジはいらなくなるのでは、と水を向けた時の羽生くんの回答。
芸術点でもAI採点の可能性があることを示唆したのです。↓


芸術と言っても、ある程度正しい形が存在している。

例えば、ジャンプのプラス項目とマイナス項目は、音楽との調和や空中姿勢の美しさ、曲がりや歪みの程度を基準に決められます。

この基準に従うと真っすぐですごく綺麗なジャンプなら芸術的と言えるのではないかと考えられます。

AIなどの技術で何もバイアスが掛かっていない状態で採点できれば、目指すべき方向がしっかり見えてくるんじゃないかと思います。

そうすれば、スポーツでありながらも、芸術面も客観的に評価できる世界になり得るのではないか。
(e-style bookより一部抜粋)

卒論では、主に技術点採点のAI導入を研究していましたが、芸術点の採点にまで応用を考えていらしたとは!

羽生くんが如何に客観的で公正なジャッジングを望んでいるかが、伝わってくるくだりです。


羽生くんは、「何もバイアスが掛かっていない状態で採点できれば」と口にしたけれど、これは取りも直さず、技術点のみならず芸術点にも「バイアスが掛かっている」ことを羽生くん自身が感じているからではないかしら。

バイアスとは、語源は「偏り」。「バイアスがかかる」とは、「評価者が持つ先入観や偏見などが影響して、(公正でない)偏った評価がなされる」という事。


採点競技にとって公正で正確な判定は、そのスポーツの未来を育む必要不可欠な要素です。

なのに、毎回試合の度に疑惑が囁かれる、フィギュアスケートのジャッジング。

実際に、先月末、世界フィギュア選手権のジャッジ1名が自国選手に極めて有利な不正採点をしたと糾弾され処分を受けていましたね。


このフィギュア界のジャッジング問題について、私は先月、とても興味深いご考察を目にしました。


それは、私がいつも拝読させていただいている『惑星ハニューへようこそ』のHP管理者「Nympheaさまのお言葉で、DOIの「マスカレイド」をネットでご覧になってのご考察の中の一文でした。


この演技を見て改めて思ったのは、羽生君のスケートはもはや競技やスポーツの域を遥かに超えていて、フィギュアスケートの狭い世界だけを見てきたジャッジが評価するのは無理、ということです。

言ってみれば、吹奏楽しかやったことのない人にチャイコフスキーのピアノコンチェルトを審査させるようなものです。

各国連盟の付度とかそういうことはひとまず置いておいたとしても、そもそもジャッジ達のレベルが羽生結弦に全く追いついていないのです。

陸上のクラシックバレエやモダンバレエと違って、氷上でスケート靴を履いて演じるからこういう動き、こういうポーズは無理、という境界を彼は完全に取り払ってしまいました。

ジャンプを跳ばないといけないから、氷上だから、スケート靴を履いているからというフィギュアスケート特有の制限がもはや彼にはありません。他の選手がジャンプを跳ぶためにクロスオーバーでスピードを出すところも、彼は独創的なトランジションに変えてしまう。

最初から最後までどこを切り取っても美しく、ただ滑っている(漕いでいる)ところが一箇所もなく、どの瞬間も音楽と完全にコネクトしています。それどころか余りにも音に溶け込んでいて彼自身がその四肢で音楽を奏でているような錯覚すら覚えるのです。

羽生君がスケート界に現れてから、私達はフィギュアスケートでここまで出来るのか、スポーツでありながらここまで芸術性を極めることが出来るのか、というスポーツが芸術に昇華する過程を見せてもらっているのです。

(2021.7.12「マスカレイド再演」の記事より一部引用させていただきました)


羽生くんの演技の芸術性に関して、全文完全に同意です。


そして、ハッとさせられたのは、

「吹奏楽しかやったことのない人にチャイコフスキーのピアノコンチェルトを審査させるようなもの」

このくだりです。

「ジャッジはそもそもレベル不足」(勉強不足?感性不足?)という考察です。

私は、いままで漠然と、ジャッジは忖度して恣意的に採点を操作しているのだと考えて、羽生くんが過小評価されるたびに辛く感じていたものです。

その原因が、(もちろんバイアスも存在するとは思いますが) ジャッジの"未熟さ"が多いに関わっていたとは!「腑に落ちた」とはこの事です。


とはいえ、これは、恣意的採点より、更に深刻な問題かもしれません。

単なる陰謀論ではなく、評価スキルの問題もあるとなれば、心を悔い改めれば改善解決するというわけではないから。まして「感性」を問いだしたら、競技を超越してしまいます。

せめて、努力して採点技術だけでもなんとか追いついて欲しいものです。


↑管理者様はイタリア在住です。他国のファンの方々の素晴らしい考察もご紹介してくださっています。



一方、羽生くんは、「ジャッジの負担の多さ」を、卒論執筆の動機の一つに挙げていました。


現在フィギュアスケートは高難度化が著しく進んでおり、そのために審判員がわずか1秒以内に行われるジャンプを正解に判断することは至難となってきている。

またジャンプの評価基準は明記されているものの曖昧な部分が多く、その試合の審判員の裁量に委ねられている部分が大きい。

さらにジャンプの難易度だけでなく、評価するために判断する項目はプラス項目が6つ、マイナス項目は20項目もある。

もちろんジャンプだけではなく、スピン、ステップ、そして、技以外の部分でも評価をしなくてはならない。

(中略)

したがって審判員の負担は計り知れない。さらに毎年ルールが改正されているため、審判員は常に最新の基準をその度に覚え、当たり前のように12秒程度の時間で全ての要素に対して評価していかなくてはならない。

(中略)

現状ではジャンプの高難度化が進んでいるからこそ、評価基準がなおざりになっていることを感じる。

特にジャンプの離氷の評価は非常に曖昧で、審判員の裁量に完全に委ねられているように感じる。(卒業論文より一部抜粋)

「正確にジャッジングしたくても仕事量が多すぎて無理でしょ」という視点です。

確かに、ジャンプやスピンやステップなど、各要素に対して1〜2秒で26項目も判断し、それがショートプログラムで7要素分(合わせれば182項目)、フリースケーティングで12要素分(同312項目)にも及びます。それを更に10〜30人の参加選手分、立て続けに肉眼で瞬間チェックし続けるとなったら、…常人には無理難題な要求に違いありません。


専門職でも困難な要求でしょうに、フィギュアスケートのジャッジは全員ボランティアで、他に本業を持っていらっしゃる方々ばかりなのですから推して知るべし、です。


いつまでもジャッジの専門職を置かず、無料のボランティアに頼る現状で、果たして本当に正確&公正なジャッジが可能か否か、ISU(国際スケート連盟)にはわかりそうなものですけど。


だから、良く囁かれる「ジャッジは直近のナショナル大会の採点に引かれやすい」という推察も、俄然、信憑性を帯びてしまうのです。

例えば、ある人物が自身の採点評価技術に不安を抱えたまま国際的な大会に駆り出されるとしたら、どうするでしょう?自分の目に自信が持てないなら事前に資料やデータに頼ろうとするでしょうね。

例えるならば、受験勉強の際に、答えを自力で解けず参考書とか過去問題集に頼ることと同じですね。

試合ごとのジャッジは11人。

各人のスキルは様々でしょうから、ヒントだけ貰う人もいれば、答えを丸写ししてしまう人もいるかもしれません。


かくして、国際大会の採点も、各国の国内大会の採点に相似したものになる。

よく言われていることですが、米国と露国は爆盛り採点で選手を激励して送り出し、一方、日本は羽生くん始め一部の選手に辛口採点を与えて送り出しています。ショボーン

それがそのまま、国際大会にまで持ち込まれる理不尽な構図。プンプン


「(2回転すら跳べず)自力で正確な採点をする技術を持たないジャッジ達が、高難度4回転を複数回跳ぶトップスケーター達を採点評価する」

イコール

「吹奏楽部員にオーケストラを審査させるようなもの」


確かに、Nympheaさまの例えは、考えれば考えるほど、的を射ていらっしゃいます。


もちろん、ISUも、コーチ達もこの点は重々承知の上で、…棚上げしていますね。プンプン
選手達も分かっています。ただ現役の間は、ISUに物申すなんてハードルが高過ぎます。でもスウェーデンのマヨロフさんのように、ISUにAIの導入を提唱してくださる選手OBもでてきました。

 

 ↓ホークアイシステム(審判補助システム)とは

↑どの競技も「公平性の担保」を確保するために必死で努力しているのです。
フィギュアスケートだけ、いつまでもアナログな評価方法にしがみついていては、未来は見通せないのではないでしょうか。


羽生くんも論文を発表することで、このジャッジング問題解消に向けて一石を投じています。

羽生くんは、e-style のインタビュー内で、今後もAI導入について研究を続けて行きたい旨、表明していました。将来的には、指導者になる可能性にも言及していらっしゃいましたねおねがい


こうして見ると、
今回のロングインタビューは、羽生くん自身の未来とフィギュアスケートの未来、本当に様々なことを示唆してくださる実に貴重な内容だったなぁと気付かされます。

羽生くんもまた、教授との会話を通して、新たな気づきを見つけられたに違いありませんね。




今日も羽生くんが健康でありますよう。
新プログラムの準備も順調に進んでいますよう。心からお祈りしています。




画像や記事は感謝してお借りしました。


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