意思決定会計について | 『売れプロ!』ブログ -「売れる」「稼げる」中小企業診断士に-

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こんにちは、中小企業診断士の平井浩です。
前回は管理会計の中で、予算管理について書かせていただきました。
管理会計業務における更にもう一つのテーマ、意思決定会計について今回は記述させていただきます。

意思決定会計は、経営の意思決定を支援するために行われる管理会計業務のひとつで、戦略管理会計と呼ばれることもあります。
これから始める可能性のある投資やサービスの開始・変更などについて、経営者や管理者が決定を下すための情報を用意することが目的です。外部の利害関係者に提示する財務会計とは異なり、組織内でのみ利用されます。

意思決定会計は、組織ごとに任意で行われるため、公的に明確な基準やルールがある訳ではありません(この点が財務会計とは異なります)。しかし、経営者が意思決定を行う基礎資料として、正確でタイムリーな会計情報が必要です。
過去から現在までの会計情報を整備し、有効活用し、課題を洗い出すことで、客観的な視点を持つことができるため、適切な経営判断が行えるようになるでしょう。

意思決定会計には、レベル別に大きく分けて3つの種類が存在します。
■業務的意思決定
業務的意思決定は、日々の業務で頻繁に発生する意思決定を指します。具体的には、日常業務の進め方や現場の従業員の管理にまつわる決定を行うのが特徴です。

■管理的意思決定
管理的意思決定は、主に部長や課長といった中間管理職によって行われるものです。日々の業務内容や人員配置などの意思決定が行われます。管理的意思決定を行うのは中間管理職と先ほど述べましたが、彼らは部門長であることが多く、自らが所管する部門単位での意思決定に資するデータを欲します。このため各部門ごとの会計データを使用し、部門単位での意思決定をする傾向にあります。

■戦略的意思決定
戦略的意思決定はもっとも高度な経営判断で、企業の将来を大きく左右するものです。そのため、経営者や経営幹部などによって決定が行われます。
具体的には、新しい事業領域や海外への進出、M&Aについてなど、企業の将来に関わる重大な決定が行われるのが特徴です。戦略的意思決定では、新規のアクションについて検討するため、当然ながら前例や参考にできる情報があまりなく、他社事例も収集しにくいです。金額も多くなる傾向にあるため、慎重に決定を下すことが求められます。

企業の経営方針についての判断を下す際は、代替案の中から最適なものを選ぶための判断材料が必要です。そのためには、「差額収益分析」を用いて、特定の案件を採用した場合と採用しなかった場合の収益や原価の差を計測します。
この差額収益分析に必要な概念として、差額収益(原価)・機会原価・埋没原価の3つがあります。ここでは、具体例を交えつつそれぞれの特徴について解説します。

■差額収益・差額原価
差額収益とは、採用した代替案と採用しなかった代替案の収益の差を指します。たとえば、A案とB案のどちらを採用するか検討するとしましょう。
A案を採用したときの収益が1000万円、B案を採用したときの収益が500万円になるとした場合、差額収益は500万円となります。一方差額原価は、それぞれの案における原価の違いを示します。A案にかかる費用が700万円、B案にかかる費用が100万円の場合、差額原価は600万円です。

差額収益である500万円から差額原価である600万円を引くことで、得られる利益の差額を求めることができます。この場合、差額利益がマイナス100万円となります。今回の事例では、A案の場合、収益はB案の2倍も獲得できるのですが、原価がB案より7倍も掛かってしまいます。結果的にB案を採用した方が多くの利益を得られることが分かります。

■機会原価
「機会原価」とは、諸代替案のうち一つを受け入れ、他を断念した結果、失われる最大の利益です。採用されなかった選択肢が複数ある場合、もっとも多く利益を得られるものと考えます。分かりやすく言うと、逃がした利益を原価(機会原価)と考えます。

■埋没原価
埋没原価は、どの案を採用した場合でも変化が生じない費用のことです。どの案を採用した場合でも同様に発生するオフィス賃貸料や人件費がある場合、これらは埋没原価になります。既に購入済みの設備も該当します。埋没原価は選択肢に関係なく掛かってくるため、今後の意思決定に影響せず、判断材料としては含めません。
しかし実際には、しばしば心理的影響を与えるファクターとなるので注意が必要です。「すでにM&Aに10億円投じているから、今さら引き返せない」といった議論はしばしば見受けられます。これは埋没原価を判断材料に含めてしまっている例です。

ここからは、意思決定会計を行う際の手順について見ていきます。
■課題の発見・情報収集
意思決定会計の第一歩は、課題の特定と情報収集です。この段階では、組織の現状分析と市場環境の調査が行われます。効果的な意思決定のためには、日ごろから関連する財務データや業界の動向、競合他社の情報など、幅広い情報源からのデータを収集しておくことが大切です。財務データを例に取ると、会計データを収集する段階から、将来使用する場面をイメージし、組織や製品ごとのフラグをデータに付加しておきます。こうして必要な単位での集計がしやすいように、予め準備しておきます。前提としてビジネスの理解が大切なことは言うまでもありません。

■代替案の作成・比較・決定
情報収集時に準備したデータを基に、代替案の作成を行います。戦略シナリオを複数用意し、それぞれに合わせた代替案を用意したら、差額収益分析によって比較を行い、最終的な意思決定を下します。最大の利益をもたらす案が選択されるのが原則ですが、組織の中長期的に適合しているかどうかも含めて、慎重に検討する必要があります。
またプランは数値化しておくことが重要です。数値化が不十分な場合、結果の検証が曖昧になってしまいます。

■結果の検証
最後に、結果レビューを行います。選択したプランを実行後、一定期間が経過したら、その案が適切であったのか、前提条件に間違いが無かったのかを分析し、継続・中止・軌道修正の必要性を検討します。
前段でも書きましたが、プランを数値化しておくことで、結果の検証もやりやすくなります。

以上のように、管理会計の一分野である意思決定会計は、企業の目標達成に向けた具体的な行動計画を立てるのに役立ちます。財務会計と違い、意思決定会計は必須ではありませんが、効果的な経営戦略を策定し、その効果を測定するために、ぜひ導入すべきものと考えます。
また、差額収益(原価)・機会原価・埋没原価などの概念は一般には馴染みが薄いものかもしれませんが、合理的な意思決定のために知っておくと便利なツールです。
 

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