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こんにちは。売れプロ12期生の伊藤きよ枝です。
2023年度から、全ての上場企業に、有価証券報告書の中で人的資本に関する情報を記載することが義務付けられました。一方で、近年、各社の統合報告書では自社の強みや経営ビジョンなどについて広く社会に公表する企業が増えています。
統合報告書の優れたものには、各企業の人材育成方針や社内環境整備方針も詳細に掲載されており、人事戦略の宝庫とも言えます。
今回のブログでは、経営戦略と連動した人材戦略をどう実践するかを取りまとめた「人材版伊藤レポート」、「人材版伊藤レポート2.0」で有名な伊藤邦雄氏が、自身が登壇するセミナーで、2023年度に発表された統合報告書の中で「興味深い」と取り上げた企業の事例のうち、２つの企業と、その「興味深いポイント」をご紹介します。
１．荏原製作所の「技術元素表」
荏原製作所では、スキルを元素記号のように一覧にして公表し、かつ社員に紐づけています。
組織活性化のためには、多様な人材の交流が奨励されます。
特に製造関係では、イノベーション技術は単体で成り立つのではなく、様々な技術が組み合わされて生まれる場合が多いです。
荏原製作所のように、カンパニーの集合から成る大きな企業グループで、グループ横断的な会議を行う際、誰がどのようなバックグラウンドがあるか、どんな知識や経験を持つのかを表す共通の「元素記号」を作り共有しておけば、「この人はインフラカンパニーの企画系」「この人はエネルギーカンパニーのマテリアル系」「この人はカンパニー横断系の化学物質専門だ」と一目でわかります。メンバーの技術的な背景が分かれば、発言を理解しやすくなり、 より質の高い議論につながり、技術の共有が進み、シナジーも期待できるようになります。
これを製造業以外の企業で取り入れると、例えば、その企業で社員に求めるスキルを記号化して、社員個人にバッジとして紐づけ、社内名簿や対外的な資料で公開すると、自分により多くの元素記号がつくように、スキル習得へのモチベーションが上がる効果が期待できます。
引用：荏原グループ 統合報告書2023
２．メルカリの「自由演技」展開
企業情報開示のガイドラインや法的な基準に則った報告を、アイススケートになぞらえて“規定演技”と呼び、また一方で、企業が独自に創造力を働かせて、より幅広くサステナビリティに関する情報を開示できる統合報告書を“自由演技”と呼ぶことがあります。
プライム市場の34％、スタンダード市場の69％、グロース市場の70％の企業が、女性管理職比率や男性育休取得率の目標の設定しか記載していないなど、情報開示ガイドラインに沿わない、すなわち規定演技に達していない企業も多いです。
伊藤氏は、メルカリは「規定演技」を「自由演技」として詳細に展開している、と高く評価しています
例えば、有価証券報告書内で、男女賃金格差が37.5%あり、そのうち役割・等級や職種などの差に起因しない『説明できない格差』が7％あると認めた上、格差の要素分析を行っています。
その上で、入社時年収の男女差であることが判明すると、2023年8月には、『説明できない格差』を解消するために、個別の報酬調整を実施し、結果として『説明できない格差』を2.5%まで減少させた、とこまやかに報告しています。
また、メルカリはこの開示と格差是正の課程で、全社員向けの集会で説明を行うことも行ったと記載されています。
これも、人事施策の透明性を担保し、社員の納得を得る方法として、他企業でも応用できる施策と言えます。
「人的資本の開示元年」と言われた２０２３年度も、あと２か月少しで終わり、多くの企業では「開示２年目」に入ります。
開示の度合いや内容が充実していき、どういう人事戦略がどのように企業の成長に貢献していくかが明らかになれば、その中から中小企業への提案に取り入れることが出来るアイデアも、より幅と深さが増していきます。
開示元年にはまわりの様子をうかがっていた企業が多い中、今回開示の質の差が明らかになりました。2年目の開示がどう変わるか、引き続き注目していきたいです。
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