人生100歳時代。迫る「人生のマルチステージ化」と新たな働き方 -なにをどう準備したらよいのか? | 『売れプロ!』ブログ -「売れる」「稼げる」中小企業診断士に-

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 大学で都市社会学と組織論に関わっている前山です。

 今日は、社会がドラスティックに変化して長寿化するなかで、働き方の新たな状況が現われていることについて、これまでいくつかの領域から提起されている先進の研究成果を基に、お話させていただきたく思います

 

(1)  日本、先進国、世界中で人生が伸びている!

 

 ロンドンビジネススクールの教授リンダ・グラットン(人材論、組織論)とアンドリュー・スコット(経済学)が、『ライフシフト 100年時代の人生戦略』を刊行して、世界的なベストセラーとなった(原題 The 100-Year Life   Living and Working in an Age of Longevity)。世界の人口は先進国を筆頭に、世界的に長寿化している。2007年にアメリカやイタリア、フランスで生まれた子どもたちの50%は104歳まで生きると推計されており、実に日本の子どもにいたってはその50%が107歳まで生きると推計されている。子どもの死亡率の低下や、中高年の慢性疾患への対策が進んだことが大きい。グラットンらは、今後、世界的に、平均寿命が110歳以上になるポテンシャルがあるとも見積もっている。

 

(2)65歳以上の人のポテンシャルの高さ;さらに長寿化してゆく!  

 

65歳以上で進む脳の深化と適応力

 65歳以上の人たちの脳についての研究も進んできている。人工知能の研究者 黒川伊保子は、人間の出力性能最大期は、なんと、56歳から84歳に至る期間だとする。「脳は、それまでとは違うものを発見し、この世の深淵に触れて暮らすことになる」。56歳までは、膨大な数の情報・体験にかかわった回路のなかから、要らないことについての回路を捨てて、成功回路に信号が行きやすくなる。文脈に基づきながら本質の回路に近づき、判断に迷わなくなる。実に、56歳をへて60代となると、「存在の真理が腹に落ちる」「あらゆる事象の意味を知る」ようになって、いわば文脈依存を超えて一番のポイント・本質を触るようになる、ということだ。いわゆる「長老」の奥深い理解力と判断はそれにかかわるものであろう。

 かつては高齢化率が低かったので、「体験豊かなおじいちゃん、おばあちゃん」程度にしか受け止められなかったのであるが、実にこのような脳の発達メカニズムがあるということになる。

  高齢・障害者雇用支援機構の「70歳雇用にむけた高齢者の体力等に関する調査研究結果(平成20年~平成21年度)」が興味深い。下記のグラフは、労働適応能力指標(WAI)を年代ごとに比較したものである。興味深いことに、50歳代の間、「そこそこ」(moderate)と「劣っている」(poor)が増えているのだが、対して60以上では、労働適応力が「良い」(good)と「優れている」(excellent)が増えるのである。まさに、「60歳代では労働適応が優れている者が増加」である。ポイント、コツ、やりかたをつかんだ60歳代のありかたがよく表れていて、黒川氏の説明ととても良く符合している。高齢者の脳と適応能力は深化している!

 

  表 「60歳代では労働適応が優れている者が増加」

  (典拠:高齢・障害者雇用支援機構「70歳雇用にむけた高齢者の体力等に関する

       調査研究結果(平成20年~平成21年度)」,P.8)

 

 

「3ステージ」から「マルチステージ」の生き方へ

  他方で、人生100年時代となると、ライフステージの在り方が変わってくる。かつて、平均寿命が50歳や60歳だったときには、成長期(教育)、生産年齢期(仕事)、余生期(引退)という3ステージで生きてきた。けれども、60歳でリタイヤしたとすると、残りの人生40年以上にもなる。「ステージの生き方の耐用年数が切れていることは明らかだ。」さて、そうすると、人生100年時代の生き方・働き方としては、かつてのように20代でうけた技術的教育が60歳までもつように(時代遅れとならないように)配慮すればよかった状況とは大きく変わって、時代状況・労働市場の変化に対応するために、人生の途中で時間を割いて新しいスキルの取得に投資して、新しいステージや働きにつくことが求められる。いわば、何度も、状況に応じて、仕事やライフステージを新たにする「マルチステージ」の生き方をすることとなる。

 

 

(3)人事制度をめぐる戦いが始まる。

 

「マルチステージ」動向に、既存の日本型一斉画一雇用のシステムが障害になる可能性

  これら柔軟でマルチステージを歩む年配の方々が増えることは、多くの人が多くの選択肢を手にして、ずっと柔軟な生き方ができるようになるとされる。仕事、娯楽、キャリア、家庭、お金、健康を、70歳でも、80歳でも、90歳でも、主体的に、主導的に人生の長い期間にわたって楽しむことができるというわけだ。

 

 けれども、他方で、このように脳・適応力ともに進化した年配の方々が増加したときに、それに雇用や採用はどうその方々をいかせるだろうか? そもそも適応できるのだろうか?

 実は、大変に困った問題も壁として現れることとなる。特に、教育機関の就職支援と、企業の採用活動にとっては、大変に頭の痛い話となる。グラットンは、「同世代が一斉進行して人生のステージを進む仕組みに深刻な軋みが生じる」とする。これはどういうことかというと、これまで「教育」機関は、小中高-大学と、年齢で一斉の成長と到達を保証し、社会に送り出すシステムであったのであり、企業や自治体などの採用側も、保証されたもの(生徒・学生)をそれとしてこれまた画一的な形で採用し長年雇用するという、予測可能性の高い状況であった。(「リクルートスーツ」に身を包んだ「新卒」採用がまさにそれである。)それに対して、マルチステージの生き方がメジャーな状況になると、その画一的・一斉雇用の状況が不可になる。そのなかで優秀な人材の獲得を理解する企業は、その変化に対応して方針を改めることが得策だと考えるが、しかしそういう企業は一握りに留まると考えられている。

 

「日本型の慣行雇用」も限界。「日本式『ジョブ型』」のみでも中途半端

 すこし、日本の企業の状況を見てみよう。特にここでは、「日本型の雇用慣行」が障害になるのではないかと捉えられている。年功的賃金、長時間労働、副業禁止という「日本型の雇用慣行」のそのままでは、まさに人生マルチステージ時代の雇用労務には対応できない。

 ちなみに、これまでの日本型の雇用慣行」に対して、「ジョブ型」の雇用形態が求められるとする企業や関連団体が増えてきている。けれども、よく考えると、アメリカでいうジョブ型とはどうも雰囲気が違う。

実は、一見米国のジョブ型の雇用方式と近いように見受けられるが、米国でのジョブ型雇用は、職務記述書(ジョブディスクリプション)の内容を基に採用するものであって、採用後は何十年働いても給与は増加しないし、また昇進もない、といったものである。米国の知人たちは、企業勤めであれ、大学勤めであれ、「この職種だと昇給も20年も30年も全くないんだ」とボヤいて、また「NPO活動でもしようかな」とか「転職しようかな」とかぶつぶついう人たちも多い。日本の場合、「成果主義」の一形態として考えられている節があり、正確に言うと「日本式『ジョブ型』」とでも名付けられるものということになる。(下記)。

 

 

雇用形態

特色

評価

昇給

類型

訓練

職能等級制度(メンバーシップ型))

終身雇用の年功序列

成果主義

昇給あり

ゼネラリスト型

企業内

職務等級制度(米国のJOB型)

職務記述書;給与額固定

成果主義ではない

昇給なし

スペシャリスト型

地域公的機関での職業訓練・資格取得

役割等級制度(日本式ジョブ型)

年功序列なし

成果主義

昇給あり

スペシャリスト型

表 メンバーシップ型・ジョブ型の内実(奥田 2022を基に、論者作成)

 

 つまり、どうも、「日本式『ジョブ型』」の導入は、職能等級制度(メンバーシップ型))だった雇用状況に、成果主義を前面にだしつつ、年功序列を排除しようといったものであろう。ここで、次の点を確認しておきたい。日本の雇用・人事で課題となるのは、日本式ジョブ型が進展したとしても、それをだれが育成するのか?という問いが大きな課題となろう。

(なお、自治体・大学・関連団体がフォーメーションを組んで「求人求職の実効的マッチング」や「面談支援型の公的起業支援」をおこなうことについての、社会政策で必要なありかたについては、米国のタスクフォースを話題として、前回お話したのでそちらをご覧いただきたい。→2022年1月20日「大学生の就労・離職調査から - 学卒就労者と就職先機関との意識のずれ」のブログ記事)

 

 

日本の企業の力強いチャレンジ

ここでヒントとなる企業の試みが、まだ一部ではあるものの、なされてきていることがうれしい。企業内での副業やベンチャーを進めるところ、副業を認めるところが出てきている。例えば社内ベンチャーとして著名なのが、リクルートホールディングスの新規事業コンテスト「Ring」の試みであり、これまで、「ゼクシィ」「TOWN WORK」「HOT PEPPER」「R25」といった事業を生み出してきている。また、大手広告代理店の博報堂では、応募から事業化まで1年近い期間を費やして行われる「AD+BENTURE」と呼ばれる社内ベンチャー制度を導入しており、20近い新規事業を生み出してきている。社内ベンチャーを機に、主導したスタッフの人が自らの会社を立ち上げる場合も相応にある。

また、「長寿社会に一矢報いる」とばかりに80歳、90歳でも雇用を継続するのが、

ホームセンターDCMカーマである。カーマを率いた鏡味順一郎氏(名誉会長)のもとで、優秀な人材を退職で失いたくないと、「高齢社会に一矢報いる」べく、70歳でも80歳でも高齢者雇用に力を入れてきた。人が「マルチステージ」のなかで生き、働く時代社会となるにあたって、大変に心強いトライである。

 

 

(4)厳しい時代状況で中小企業診断士のますます増加する社会的意味

 

 ここまで、より長寿化する世界、また日本における高齢者の、生き方の「マルチステージ」化と、それに相応じて見えてきた脳・適応力の深化を見た。そして、それに社会の諸組織が採用や雇用のうえで、どう対応し生かしてゆくことができるのかを考えた。

この状況のなかで、そしてそれのみならず、インフレ、パンデミック、グローバル化、恐慌など思わぬことが起きる厳しい時代社会の中で、企業とりわけ中小企業のかじ取りは厳しさを増してゆく。特に先に触れた「人事制度をめぐる戦い」が始まりつつある今、持続可能な利益循環を確保しながら、あるべき人事・組織の好転をすすめてもらうことが、都市圏、地方をふくめて日本社会にとって極めて大切なことである。労務、税務の専門家とともに、そしてとりわけ企業のマネジメントアドバイスする、中小企業診断士の社会的働きはさらに大きくなると考えられる。とくに中小企業診断士として活躍される方々は、企業活動、各種の産業支援、また自分自身でリスキリングの経験を持つ方が多く、包括的な視点を持つ方が多い。この「売れプロ」塾はその最たるもので、活躍される方が多い。このような時代、中小企業診断士の社会的な働きは、ますます大きく期待される。

 

 

                      【参考文献】

・リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット『ライフシフト 100年時代の人生戦略』東洋経済新報社

    (Gratton, L., & Scott, A. J., The 100-year life: Living and working in an age of longevity, Bloomsbury Publishing,2016)

・高齢・障害者雇用支援機構の「70歳雇用にむけた高齢者の体力等に関する調査研究結果(平成20年~平成21年度)」

・黒川伊保子、『成熟脳』新潮文庫、平成30年

・奥田貫「日本流ジョブ型雇用 何が問題か」『習慣東洋経済』2022年1月15日号

・前山総一郎「大学生の就労・離職調査から - 学卒就労者と就職先機関との意識のずれ」(2022年1月20日 売れプロブログ)