ためらいの残色

空の色は 夏の青さを残して
もう
十月になるというのにね
きっと
海の色は 空の青さを映して
*
小さな砂浜へと続く小径
波の音と海の青を期待しながら
砂まじりのなだらかな坂道を下りてゆく
両側に点在する民宿は暦どおり
既に人影もまばらで
二階の窓には夏を仕舞い込もうと
疲れ気味の夏布団が並んでいる
庭先では高く旋回するトンビよりも呑気に
宿の主人らしき人が屋根を見上げている

波音が迫り 浜へと抜ける
最後の照葉樹のトンネルに
ヒガンバナが咲いていた
秋には見慣れた花なのに
出会う度にいつも感じる
この花の唐突さと近寄り難さは何ゆえだろう
枝も葉も無い すっと伸びたその立ち姿か
何かに喩えることを拒むような花の形かその色か
辻の地蔵に出会ったように
そのまま通り過ぎることはためらわれ
けれど直視することも無作法に思われて
うつむき加減に息を潜めて
木洩れ陽の緑陰を抜けた

予想通り
海は青くて
浜辺にはひとりきり
打ち寄せられたボールは
拾っても
放る相手もいない
気配を感じて振り返れば
そこには
風に揺れる草花だけ
なんとなく
はずかしく
砂を払って 坂道を上った

もう一日 お休みでしょうか?
穏やかな休日を
「 ピラビタール 」 森田童子
※ 悲しい時は ほほをよせて 淋しい時は 胸を合わせて・・・
ある風景

今朝
秋の日を浴びながら
泣いているひとを見ました
無造作に束ねた長い髪を肩に流して
指に絡めたり解いたりしながら
泣いていました
目の前を過ぎる視線を憚ることもなく
泣いていました
いまだ
夏服の
鮮やかな色合いも
サンダルの爪の赤も
秋の日に
少し
褪せているように見えました
私は
それを 美しいと思いました

どれほどの
深い悲しみか
絶望的な悩みなのか
非情なる裏切りにあったのか
涙の訳を知る由もありませんが
肩を震わせる慟哭に
加担することも負担することもなく
ただ
その姿を
美しいと私は思いました
*
*
*
そう言えば
悲しみにも悩みにも
時には 裏切りにさえ
「美」 は
存するのだと
空っぽになった自分を見ている
もうひとりの自分が呟いて
それに
黙って
肯いたのも
いつかの
秋の日だったかも知れません
「 恋をした 」 Chara
※ 恋をした。そして泣きました・・・
青い船で

大魚ジェラワットが
列島をすり抜けた朝
空は塗り直したばかりの壁のように青く
日射しは硝子の欠片でも含んでいるかのように
キラキラとまばゆく研ぎ澄まされた
大魚の尾びれのひと跳ねは
濁り淀んだ空気を一掃してしまい
木々の梢も 建物の角も
きりりと
その輪郭を際立たせて
まるで
なにもかもが新しく生まれたように
*
台風一過
朝の空気と光が 明らかに違いましたね
これも自然の持つ浄化作用でしょうか
私達が 壊して 汚した
水を
空気を
甦らせる
大いなるチカラ
この星は
暗い大海に浮かぶ 一艘の船
その船底を踏み抜かないようにしたいものです

「地球の客」
谷川俊太郎
躾の悪い子供のように
ろくな挨拶もせず
青空の扉をあけ
大地の座敷に上がりこんだ
私たち草の客
木々の客
鳥たちの客
水の客
したり顔で
出されたご馳走に
舌つづみを打ち
景色を誉めたたえ
いつの間にか
主人になったつもり
文明のなんという無作法
だがもう立ち去るには
遅すぎる
死は育むから
新しいいのちを
私たちの死後の朝
その朝の鳥たちのさえずり
波の響き
遠い歌声
風のそよぎ
聞こえるだろうか
いま

文明のなんという無作法・・・
「 青い船で 」 松任谷由実
※ 月をよぎる雲の色も 波のしぶきさえも 二度と同じ姿はない 永遠の万華鏡・・・