2020年COVID-19爆発 -5ページ目

2020年COVID-19爆発か(4)

 始めのうち皆タカをくくっていた新型コロナ僅か一ヶ月でイタリアで

急激な感染を示しました。2月21日の死者1名から5000名近くまで

増え、その後も増え続けた。アメリカでは2月29日の死者1名から38

00名まで増えたのです。

 ワクチンがないのでこのままだと100年前のスペイン風邪位まで増

えそうです。コロナウイルスだからそれほど広がらないだろうと言う

経験が裏目に出ました。問題はこれを政治的にかいけつしよyとした

ことです。勿論医学的には動いているのですが時間がかかります

(1年~2年と言われています)。

 政治的にやろうとすると人の接触を止めればよいので、今各国は

それをやっています。しかしそのために経済に影響が出て、世界経

済は落ち込んでいます。

 

 日本に限ると経済は二の次にした政策で何とか蔓延を止めようと

しています。まだ結果は出ていません。このやり方は人命第一、経

済はその次というやり方です。勿論正しいのです。

 

 ここでは、ワクチンができるまでの2年間をどうしのぐかという観点

から話を作りたいと思います。ワクチンがないので人命は失われま

す。後は経済をどうするかです。今はそんなこと考えるな人命だと

言うことですが、経済で死ぬ人もいます。その対応を考えます。

 

 

2020年COVID-19爆発か(3)

 さて、イタリアとアメリカの患者数の増加は眼を見張るものが

ありました。特にアメリカは人口が3億人と多いだけに患者数死

者数ともに爆発的に増えて行きました。ヨーロッパはイタリア、

スペイン、フランス、イギリス共人口がそれほどじゃないのでア

メリカ程は目立ちません。ドイツは同じですが、死者が少ない

のが際立ちます。いずれも欧米は犠牲者が多いと言えます。

 

 さて、日本は早く始まった割に感染者、死者共少ないです。

韓国も死者が少ないです。中国は始まりなだけに多いですが

止まりました(これを疑う人もいますが…)。つまり北東アジア

は総じて少ないと言えます。

 

 この原因はまだ確言されていません。私の予想では食べ物

に拠るでしょう。ウイルス病がよく起きるので、伝統的に選ば

れているのです。遺伝子によるとは証拠がないと言ってはいけ

ないでしょう。

 

 今日の新聞で世界で感染者264万人、死者18万人、勿論

検査で確認された数ですから、死者がかろうじて分析に使え

ます。数式で予想も出ているようですが、式と結果を現実と照

らして合っているものを使うしかないでしょう。そのうえで対策を

講じればいいのですがまだ確定版はありません。ウイルスの

生活史が分らないからです。

 

 次はそれを考えましょう。

2020年COVID19爆発か(2)

 さてCOVIDー19とは新型コロナ感染症のことです。初めて聞いたの

は2020年1月中旬で、中国で流行っているということでした。蝙蝠の持

つウイルスが人に感染したという話でした。そして中国の感染者が日

に日に増加しているということでした。大変だね、という思いでした。コ

ウモリなど食べるからだ、という思いがありました。

 

 誰も余り気にはしていなかったようです。やがて、1月15日に日本で

も見つかったと言う話がありました。中国から来た人が移したんだろう

と言うことでした。肺炎になるらしいということで、移らないようにしよう

という程度でした。2月5日になってダイヤモンドプリンセス号という豪

華客船から感染者が出たということで2月19日まで日本に係留されま

した。潜伏期間が2週間ということでこの期間になったのですが、この

船からは結局700人もの感染者が出ました。

 

 しかし余り病気が広まる気配がなかったので何となくどうなるかな

という気分でいたところ2月20日過ぎからイタリアで流行が始まり、

あれよあれよという間に感染者が増え29日には千人を超えました。

スペインでも患者が増え、ヨーロッパでどんどん増えました。3月11

日にはパンデミック宣言がされ3月14日にはイタリアで2万人を越

え、遂にアメリカも増え始めました。

 

 

 

2020年COVID19爆発か

 3年間忙しくて何も書けなかったが、遂にこの日が来た。経緯を書く

と、2019年12月上旬、中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染

症(COVID19と命名)が2020年1月になり日本でも見つかったのです

。(15日の新聞)始め動物から感染したと思われていたのですが、2

0日になってヒトヒト感染が明らかになりました。しかし患者数が中

国以外は少ないことと感染しても8割は軽症であるとの報道もあり、

高齢者と基礎疾患のある人以外は余り気にしなくてもよいという雰

囲気でした。

 

 この病気は肺炎を引き起こすということでした。暫くの間はそれほど

蔓延もせず、皆大したことはないだろう、そのうち終息するだろうと言

う気分でいました。

 

 ところがそれがイタリアで急速に拡大してからスペイン、ドイツ、フラ

ンス、イギリスと広がり、日本でも大騒ぎになりはじめました。そして遂

にアメリカでも流行り始めると日本の新聞は大騒ぎになり、3月11日

パンデミック宣言がなされるに及んで、蜂の巣をつついたような騒ぎ

になりました。

 

 日本では2月27日に政府が3月2日からの全国の学校の休校を決め

ました。この時はまだ死者が数人しかいなかったのですが、。すべて

はこの日から狂い始めました。今もまだ、というかそれ以上に事態は

悪くなり進行中です。様々な思惑があるでしょうが、これからそれを書

いていきたいと思います。

2017年政治の時代

 さて、総選挙始まりました。17時が締め切りらしいのでどうなりますか。総理の我儘で始まった選挙ですが、始まったからには勝手に動いてゆきます。私の勝手な推測では、これほど国民の期待感のない選挙も珍しいです。自民が勝つとどうなるのか、希望が勝つとどうなるのか…どうにもならないでしょう。今回問題にされなかったもっと違うことが問題になるだけでしょう。少子化をどうするのか、経済をどうするのか、地方をどうするのか全く誰も具体的提案をしていません。消費税をどうするのか、何に使うのかはその後の話です。憲法をどうするのかも後の話です。必要に迫られていないのに考えろと言っても誰も自分の都合しか考えないでしょう。北朝鮮の敵はアメリカであり日本でも韓国でもありません。政治の腐敗は情実から始まります。そこを正すこと以外今回の選挙の目的はありません。随分高くつきましたが、もし選挙結果が将来に希望を持たせるものであればいいのかなーと思う次第です。

20171010

 

 いよいよ明日は総選挙の公示である22日までの12日間の戦いが始まる。どんな戦略で戦うのだろう。自民は経済の更なる活性化、北朝鮮と絡めて憲法の改正、希望の準備不足、エネルギ政策などを訴えるのだろう。希望は安倍内閣のえこひいき疑惑が一番で、他に経済政策の失敗、国民不在を訴えるのだろう。今や革新は影が薄くなったがかろうじて立憲民主が安保反対をいう。今すぐどうこうする問題はないので、お互いに足を引っ張り合いそうである。この選挙でうんざりする選挙民が増えなければいいのだが、増えることだろう。やはり、ことは信義と経済である。総理、神戸製鋼、日産と信義にもとる事例が続いているだけに問題となるだろう。経済はGDPが5年で50兆円増えたが、ドルで見ると5年で1兆ドル減らしている。この分は企業の内部留保になっているわけだがここにきちんとメスを入れれるのか問題だと思う。いずれにしろ選挙民の良識が問われるところではある。どうなりますか。

20171009

 

  今回の選挙、安倍首相はどこで演説するかという日程を事前に明かさないそうだ。どこに現れるか分らない。まるで忍者である。安倍忍者と呼んでおこう。「帰れ」とか平気で言える雰囲気が生まれているのだ。周りの人が注意することもないということである。そうなると小池くのいちはどうかという話になる。まくしたてるでもなく穏やかに話すのは総理の絶叫調を意識してのことか。民進はカラスのようにかーかー泣くだけである。この鞍馬天狗の世界が22日まで続くのか新たなストーリーが現れるのか、こうなると公約どころではない。そもそも選挙する対立点が総理個人の人格以外に何もないから、原発、憲法、消費税と今すぐ決める必要のない誰も分らない話に入っていくのであろう。経済、少子化、高齢化について具体案を出すべきなのに。やはり任期一杯議論して選挙すべきだったとしか思えない。なんで選挙なんか始めたんだろう。

20171008

 

 まだ公示も行われていないのにもはや選挙は終盤風である。今日のネットでは希望の首相指名として石破氏が上がっていて、不謹慎だという評が出ていたが、これが正解だろう。問題は自民ではなく総理にあるのだから、自民は暴走を止められなかったペナルティとして100議席減らし総理は代るという筋書きを立てている人がいるのだ。確かに尤もである。そしてさっさと経済の立て直しにかかるのがよいと思う。問題は現実がこの通りに動くかである。この筋書きでは困る人が様々機略をめぐらしてくるだろうなー。しかし、希望が余計な動きに惑わされなけければそうなりそうである。やはり民進の残党がどう動くかがカギである。前原と言う人が小池さんに出馬を促したという記事が散見されるが、これが事実なら彼は信用できない。恐らく他にも危ない提案をしそうである。一つでも真に受けたら希望は危ない。彼は既に北斗の拳なのだと分っているだろうか。

20171007

 

  今回の選挙の特徴としては実質的争点が全くないということがあります。憲法は先の話だし、消費税は不透明だし(上げるかどうかすら)、北朝鮮はアメリカの問題だし、経済はいいという割にはよくないし(ドルで計算すると4年前から下がったまま。円で計算すると上がっている。)、後は総理が逃げ切るか、捕まるかという捕りもの的興味だけ。捕まえる係が民進ではなく希望だというのが目新しいところでしょうか。その所為か中傷合戦だけは活発になってきました。皆さん投票先はほとんどもう決めているので、選挙戦で失言などの失敗をしなければ国民の素直な感情が分ることでしょう。何を主張しても無駄という雰囲気の中で夢を語っても、怒っても大勢に変化はなさそうです。さて総理はどうしてこんな選挙を選んだのか。結論から言えば勝っても負けても満足できるからでしょう。勝てば歴代日本一の総理になれるし、負ければ国民の知恵を自慢できる。こういう個人の問題に巻き込まれた我々は否応なく投票せざるを得ません。早く新しい政策を実施してほしいものです。

20171006

 

 やはり三体問題はむずかしい。自民・希望・民進という三体です。1週間前には自民・希望の二つで強と理想だったものが、失敗政党民進が入ったために希望は失敗理想ということになり規模は大きくなったもののインパクトは小さくなりました。候補者が100名増えた効果と、質の下がった効果の兼ね合いです。ほおっておけばじり貧の民進としては賭けに出たのでしょうが、ここで希望が下手に動けば敵を利することになります。民進がいないと思って内部を固めるしかないです。それで何人当選するのかが問題で100人なら希望は勝利です。民進の50人が入れば150人となって総理は辞めるでしょう。もともとkん回の選挙が総理進に選挙なのでそれで十分で、自民は特に過半数を割らなくてもいいのです。自民はする必要のない選挙を総理の意向で始めたので総理さえ辞めれば今回の選挙の意味はあったことになります。希望の代表小池さんに選挙に出るよう言うものがおりますが、これは完全に陰謀です。出たらその瞬間希望は負けtことになるというのが私の観測です.   

20171005

 

  流石にこのテーマ、見に来る人も少ない。それをいいことに勝手なことを書いていくことにしよう。どうせ半年もすれば合っていたかどうかは分るのだから。それにしてもニュースでは小池都知事の出馬が取りざたされている。今回の選挙の性質からしてそれはあり得ない。現総理に対する信任投票なので、新総理を選ぶ場ではないというのが私の考えです。自民党がこんな選挙をよくやる気になったなと思うが総理に「今なら勝つよ」と言われて何も言えなかったのだろう。総理から言わせればこの選挙で勝てばそれは自民党の勝利ではなく安倍政権の勝利ということになります。これだけのかけもり問題を起こしながら勝ったということは自分に対する絶対的な信頼があるということです。今までは親と自民党のおかげだったのが自分の努力で勝ち取ったことになり、今までもっていたコンプレックスを全て吹き飛ばしてくれます。アメリカのように大統領制になってもやっていけるということになります。さて結果はどうなるのかは明日考えましょう。   

20171004

 

 さて、今回の総選挙は思わぬ副産物を生んでしまいました。民進党の解体です。きっと前原さんも民進党の行く末については苦慮していたのでしょう。一度失敗した政党は二度と表舞台に立つことはありません。惰性で持っている政党ですから自然に落ちていきます。そこで看板の掛け替えを図ったのでしょう。希望の党もいい迷惑ですが受け入れました。確かに立候補者は増えます。今回の選挙が総理の信任投票であることを考えると勝ち負けだけがすべてで政策論争は取って付けなのです。しかし、動けば必ず隙が出ます。そこは付け込まれるでしょう。現に踏み絵とか選別とか批判が出ています。この件では動いているのは民進党デあって希望の党ではないのでしょう。争点はただ一つ「今の総理を認めるか」だけです。これってよく考えるとアメリカの大統領選挙そのものですね。この深層心理分析は明日。

20171003

 

  さて今回の選挙の争点は何でしょうか。昨日書いた様に、「今の総理を辞めさせるか。」ということの筈です。しかしそのためには選挙で自民党が負けなければいけないという構図にしてしまいました。私のように今の自民党には大問題が一つある。それは総理であると思うと自民党は負けないといけないということになってしまいます。それが都議会議員選挙での都民の考えだったはずです。しかし自民党は動けないでいます。今総理を除名すれば確実に自民党は勝つのに。メディアにほ今回の選挙の争点が出ていますが、すべて泥縄です。選挙するからには争点が要るということから後付けしたのでしょう。確かに総理の信任選挙のみというのでは寂しいのでしょう。今回の選挙で問われるのは日本人の倫理感です。争点になっていないだけに世の動きがよく分るでしょう。確かに倫理観をしっかりしてから経済の立て直しに向かおうという暗黙の意思は日本を救うかもしrません。

20171002

 

 日本の経済が思うように伸びなくなってから二十年、おかしいと言われ出してから十年、日本銀行が政策を転換してから五年、様々な手が打たれ、思うように結果が出ずに今日に至りました。今までどうでもよかった政治がついに俎上に乗ることになりました。事は思わぬ方向から始まった。総理が起こした問題がどうにもうまく取り扱えなくなり、いつまでも埒が明かない状況についに衆議院が解散され総選挙がおこなわれることになったんです。これが単なるイベントなのか日本の回復に繋がるのかは将にこれからの国民の対応次第であるが「政治の時代」になったのは間違いないと思います。二十年来の課題がこれで動けばいいのだがと願うものです。今回のことだけで言えば総選挙は必要ではありませんでした。問題とされた総理が辞めるか、自民党が東京都議会議員の選挙での大敗北を理由に総理を除名すれば何の問題もなかったのです。そうならなかったのは時代が「政治の時代」を望んだからと言えば言えるような気がします。私などからみると大きな変化より着々と変えていく方がよいような気がしますが、日本の病状は思ったより重くこのやり方がいいということかもしれません。いずれにしろ暫くは様子を見てゆきたいと思います。

20171001

 

 

 

 

薬円台公園俳徊物語2

昨日、今日と日差しが強く木漏れ日が心地良い。地面を見ると僅かに点々と日の光が差している。頭上では鳥の声がするのは、恐らく私に対する警戒音であろう。一昨日まではなかったのにアジサイに花芽が付いた。全体としては変わり映えがしないのに、少しずつ進んでいる。ふと日本はどの方向に…などと考える。ニュースを見ている限り来年の今頃は大変なことになりそうである。それはさておき、気温が上がり、流石に上着を着る気分ではなく芝生に早くも生えた雑草の丈が芝生より大きくなったのを見ながら、樹の多い公園を歩く。ところで、地下では「あー、いました。開いているシャッターのところです。仕掛けがばれています。」「なにー、シャッターは閉まっているんじゃないのか。」「いや、一か所だけ三次元映像にしていたんです。そこから逃げて行きました。」「だから、しっかり見張れと言っただろう。」イノブーは自分が樹液酒を飲んで油断していたことも忘れかっかと怒っている。四人は一階から城門まで来た。何故か門が開いている。「もしかして、王様が金のバラを家来に持たせたんじゃないのかしら。」ターニャはふとそんな気がした。「だとしたら、僕達の作戦は無駄だったことになるね。」パリスも心配そうである。「でも、王女には代えられないよ。とにかく一旦戻ろう。」パークはバラの花を渡しても王女を助ける方がいいような気がした。その時城の上のバルコニーでファンファーレが鳴った。イノブーが出てきた。「ターニャ王女、ようこそ。あなたと三人の勇敢な騎士をこのキングスゲイト城にご招待します。是非一緒に祝っていって下さい。今日は日本の桜と並び称されるファンタジーのバラの記念日なんです。世界最高のバラをお見せしましょう。どうぞお入り下さい。」門のところにはいつの間にか黒い帽子に赤い肩掛けの門番が立っている。「あれだ、あの金のバラが手に入ったということだ。何と調子のいい奴らだろう。」ガートンは呆れたように言った。2016.4.13


もう、パーカーなどを着ていては、歩くと暑いほどの陽気になってきている。公園のつつじは余りぱっとしないうちに終わってしまった。かといって、アジサイは背は伸び葉も茂っているがまだ花芽が出ていない。梅雨になるのを待っているのだろう。人があっちでもこっちでも、騒いでいるのに植物は淡々と日程をこなしている。この驚くべき安定性。地下ではイノブー達は木の下で樹液酒を飲み始めた。下に陣取ってターニャ達を見張るつもりらしい。「このライオンはいかにも生きているように見えるね、よくこんな物を作ったものだ。」「始めて見たときは腰が抜けました。上の奴らも濁流が流れ、ライオンがうろついているんじゃ、手も足も出ないでしょう。」「それにしてもこの樹液酒は美味しいね。」「全て前の国王が作ったのです。前の国王にカンパーイ。」勝手に騒いで飲んでいる。しかしその間に四人はあの網を使って順番に木から下り始めた。投影機の画像の所為で彼らの姿も地上からはよく見えないのだ。「さー、ターニャ、ゆっくりとあのシャッターのところまで行って。」四人がシャッターを抜けようとしたころ木の下ではまだ騒いでいる。「時々は、巡回しろよ。あいつら油断できないから。」「おーい、下にはいいワインもあるぞ、飲みたけりゃ、降りてこいよ。」「あれ、いませんよ。木の上から花びらが落ちてくるのでよく見えないんですけど。」「何だと、おい、飲んでいる場合じゃない。探すんだ」大騒ぎになっている。


桜も終わり、今は新緑が輝いている。花が少ない公園よりはむしろ個人の庭の方が色取り取りの花が人目を引いている。鳥は子育てしているのか、鳩、雀が顔を出してパンをねだっている。声だけで顔を見せない野鳥は飛びまわって虫を食べているのだろう。さて地下では城の二階に閉じ込められた四人は木の上に登った。まずパークとガートンが登って先程の網を使ってターニャを引き上げた。最後にパリスが登って来たので四人はうろから下の様子を見た。桜の花は風に散り、時折うろから噴き出してくる。「すてき、あの花びらを飾って踊りたい。」ターニャはのんきなことを言っている。「あと少し経てばバラの花も咲く。バラの花を髪に飾ってはどうだい。」パリスが調子よく言う。「そうそう、こっちの国は何と言ってもバラの花だからね。香りもいいし。」ガートンも続ける。「でもあの花ビラの軽さがいいわ。」そんなことを言っている間にイノブー達は仲間を連れて木の下に押し掛けてきた。「おい、もうこれ以上逃げられないぞ。いつまでも木の上にいるがいい。金のバラが手に入ったらすぐ解放してやるからな。」木の上から見ると下には濁流が流れ、ライオンはいるし、若者が剣を振りまわしている。三次元投影機だとは思うのだが降りる気にはなれない。いきなりライオンが登って来た。「きゃー、ライオンが。」「大丈夫だよ。本当のライオンは高いところ登れないから。」パリスが落ち着いて言う。確かにその通りだ。上まで上がって来たライオンは大きな口で噛みつくが痛くもなんともない。その時木のうろから風と共に桜の花びらが吹きあがって来た。「おお、こりゃ凄い。桜の花びらがいつの間にかなくなると思ったらこんなところに降り注いでいたんだね。」そして下を見ると濁流もライオンも消えている。おまけにさっき閉まった筈のシャッターが一か所開いているのが見えた。三次元映像が桜の花びらで遮られて消えたのだ。「おい、あそこから出られるぞ。下からはまだ分らないらしい。今のうちに行こう。」さて公園では桜の半びらは奇麗に片付けられ新緑の下で鳥達が餌を啄んでいた。<新緑に雀素早し声立てず>2016.5.9


2016.5.11



今日は風が少し寒い。それでも、模型ラジコンカーで遊ぶ若者がいる。広い広場を目いっぱい使って走らせている。かなり速い速度である。さて地下では二階の天井まで届く樹木の上から木のうろを見たターニャとガートンはそこに桜の花が木一杯に咲くのを見た。バラのように一本一本個性があるのではなく、同じ花がこれでもかというほど大量に咲いているのを見て驚いたようである。そして二階から降りようとした時三次元投影機で作ったのであろうか、ライオンが上がってくるのを見て思わず戻ってしまった。そしてイノブーの作戦で螺旋階段への出口は閉じられてしまった。果たしてターニャ、パーク、パリス、ガートンの四人は無事に王の城へ帰れるのだろうか。そして身代金代わりに狙われた黄金のバラは乳母wれウに済むのか。地上と地下の世界はどのように繋がり薬園台公園では何が起きるのか。それらの謎を残したままこの俳徊物語は幕を閉じるのだが、また季節が再開を許すようなら是非第二幕として開いてみたいものである。薬園台公園にお付き合い頂いた方々まことに有難うございました。日本中の公園でこのような不思議が人知れず、知る人ぞ知る形で起こっていることでしょう。是非あなたの周りの公園にもこのような不思議がないか行って見てください。もしありましたら、ぜひご連絡下さい。そして日本の公園文化が更に発展するように、そこで見た、感じた話しを公園ごとに蓄えてゆきましょう。誰かが何時か話しを読んで公園に行きたくなるように。

<不思議とは思いにありす花の園>2016.4.24


公園を散歩して明日で一カ月、続けてきた俳徊物語も桜の咲く頃から始まって、もうつつじの咲くところまで来た。タンポポなどは今日は綿毛になっている。チョイと摘んでみると細い繊維がしっかりと(頑丈とは言えないが)構造を作っている。大した物である。こうしてつくづくと綿毛など見たことは一度もなかった。小さいから気にならないがこれが直径1mもあったなら相当な見ものだろう。人口規模が丁度良いのだろうかいつも人がいて、多すぎることもない。子供が来て親が来て、犬が来て飼い主が来る。疲れた老人がうつろに腰かけ、むさ苦しい人も来る。ボールで遊び、走り回っている。毎日現れて観察する人もいるが発見するのは自然の移ろいくらいで、新発見はない。設備は十分にとは言えないがそれでも何かと使われている。ここでは事件も起きないだろうが奇跡も起きないような、安定した日常のちょっとしたお楽しみがある。現代社会はデジタルになったが、この公園もデジタルに傾いているので安心である。アナログな「もしかしたら」が無いこの風景は私のような、アナログな川の畔で走り回った人から見れば安心である。いきなり穴に落ちたり、変な虫がいたり、猫柳が生えていたりせず、ときめくよりは楽しめるこの公園はあとは何時でも座れる奇麗なベンチさえあれば言うこと無しである。無理を言うなら園の端にあるD51がゆっくりと園を一周してくれればよいのだが。樹上で鳴く鳥の姿が見えればもっとよいのだがなどと勝手な空想を巡らす一ヶ月であった。地下の事は明日にしてまずは<でごいちの動く桜を夢に見る>2016.4.23


夕方、五時半を過ぎてもまだ明るいので子供たちが遊んでいる。そして犬を連れたおじさん、おばさん達がよく通る。プールは七月から八月しか開放しないと書いてある。あとの十カ月がもったいないような気がする。しかしそこを何かやるとすると様々な条件を考えなければならず、そこまで公園に凝った人はいなかったのだろう。公園設計という考えが無いのでやむを得ないところではある。つつじが花の数も花芽の数も増えている。地味ではあるが一気に咲くつもりなのだろう。今日は砂場に一番人が多い。ブランコに乗ったり滑り台を滑ったりしている、平和な公園風景である。地下では下でパークとパリスが割る物を蹴散らして待っているが、ターニャとガートンが中々木から下りてこない。「どうしたんだ、降りてきても大丈夫だ。」二人は木のうろを覗いている。「木の中にピンクの花が見えるんだよ。凄いよ。同じ色の花がぞっくりと咲いている。一本の木に花が雲のように掛かっている。」そう言いながら二人は木から下りてきた。「それはもしかして桜の花ではないのか。」パークは訊いた。「よく分らない。とにかく、早く一階に出よう。これ以上ここにいると危険そうだ。」ガートンは螺旋階段に向かった。すると下からライオンが上がってくるのが見えた。「あれも三次元投影機か。とにかく戻ろう。」一階に出るのを躊躇していると螺旋階段の入口が閉まって行く。どうやら閉じ込められたらしい。ところで公園では。<白つつじ暗き木陰を明るくす>2016.4.22


昼前の公園は犬や赤ん坊を連れた奥さんや自転車に一杯物を詰めた所在無げな人と工事の人くらいしかいない。たまに若者が通る。一匹のモンシロチョウが蒲公英を渡り歩くがまだ元気がない。風がある所為で幼児用プールの水面を波紋が盛んに走る。さざ波の面が微妙に光を反射させて風に合わせてなめらかに走る。風が舞う所為か走る方向がくるくる変わって面白い。オタマジャクシが居る筈だが金網でよく見えない。つつじの花芽が急に増えている。夏に向けて全てが予定通りか。さて、地下ではターニャが絡まった網はイノブーの方に引かれてゆく。「よーし、一丁上がり。残念だったな。金のバラが来るまでは帰す訳にはいかないんだよ。」パークは流れが実際には無いことが分ったので水の中に入って行くがふらふらする。映像情報は理性で分っていても影響があるのだ。するとパリスが剣を抜いてイノブーに切りかかって行くのが見えた。イノブーは一瞬びっくりしたような顔をしてかろうじて避けた。その時樹木の上から滝のように流れが落ちてきて、網は滝登りのように上がって行く。パークが見ると木の上にはあの首棘野郎が網をひっぱっているのだ。どうやら樹木は本物らしい。「木の上なら任してくれ。」そう言ってガートンが枝に手を掛けて登って行く。パークは茨銃で援護した。ガートンが飛びかかると綱を持ったまま下へ落ちたので、ターニャは枝の上に上がってしまった。パークはターニャをガートンに任せて更に銃を撃つと棘は首棘野郎の体中に刺さり栗みたいになって転がって行ってしまい、それを見てイノブーも逃げてしまった。さて公園では<さざ波の輝き踊る水面かな>2016.4.21



夕方だったせいもあって子供達、母親が大勢出ている。改めてこの地域は子育て地域であることを実感する。今の日本には珍しいのかも。それだったならもう少し鉄棒とかブランコとかあってもよさそうだが、危ない物は撤去したのかもしれない。事故でも起きればすぐ訴えられそうな世の中である。幼児用プールが金網で囲まれているのもそう言う深い考えがあってのことだろう。それにしては西端の女人の像はどういうことかと思ったりもする。大人用ということか。さて地下では「こら、勝手に入ったな。許さんぞ。」と叫ぶイノブー。水の中を泳ぐでもないのにこちらに進んでくる。流れはかなり急である。「人を誘拐しておいて、何て言い草だ。王女は連れて帰るよ。」とパリスは言う物の、水の勢いに進めないでいる。パークは思い切って流れの中に飛び込んだ。何と流れがない。「おいパリス、流れは偽物だぞ。」「分ったわ、それ三次元投影機よ。完成してたんだわ。」「なんだい、それは。」「レーザー光線で空間の分子に画像を映写するの。本物そっくりに見えるのよ。」その時流れの向こうの方から大きな網が飛んできてターニャはそれに絡め取られてしまった。さて公園では早くもつつじの白い花が咲き始めた。確かに昨日までは咲いていなかったのに。植物も季節に間に合わせようと必死に働いているのだろう。<夕陽伸び子等遊びおりつつじ咲く>2016.4.20



晴天で樹木の上の葉が輝いている。公園内の上下水道工事の影響か噴水が普段の半分ほどの高さまでしか上がっていない。タンポポがあっちでもこっちでも頑張って咲いている。樹木の名前の確定は思ったより難しそうである。木肌が同じでも葉が違うのがある。芝生の緑は更に濃くなってきた。烏が木の下を歩いている。まさかここに巣を作ろうとしているのではないだろうなと疑う。巣を作られると厄介なことになりそうである。駆除するなら早めがいいなと思いながら歩く。さて地下では、銃眼に茨の棘を打ち込んだら急に静かになってしまった。兵隊達も動かなくなった。頭に大量の棘が刺さった若者がよろよろと出てきた。見ると首の所にもまだ大きい棘が一つ刺さっている。あの若者である四人は。パリスが剣を向けると転げるように逃げて行ってしまった。四人は螺旋階段を駆け降りた。二階はまた巨大な樹木が天井までつかえている。「あれ、こんなところじゃないわよ。おかしいわね。」ターニャが驚いたように言った。「気を付けないと危ないな。」パークも警戒している。その時急に大量の水が押し寄せてきた。四人は思わず後ずさった。その水の中をイノブーがこちらに向かってくる。さて公園では<タンポポの黄色明るき子等の声>2016.4.19



公園の樹木の種類を知ろうと思って樹木の写真を撮る。幹の感じをインターネットで調べれば名前が分るかと思う。桜とかケヤキとかスダジイとかそれ程種類はなさそうである。ここのところむしろ周りの家にある乙女椿が大量に花を付けてそれが木の下に落下しているのが目立つ。公園はひっそりとしている。地下ではグレートハウンドの攻撃に曝されているが、茨銃が利かない代わり手で払えば払えるほどの小さな犬である。その時いきなりパリスが剣を抜いて犬に切りつけた。「本当に大きいのもいるぞ、気を付けて。」「そう、近くに来ても小さくならないのは危ないわよ。」ターニャが答えている。「とにかく次の階段に行こう。」ガードンが茨銃で撃ちながら進んでいく。慣れて来るに従ってだんだん当たるようになってきたのだった。螺旋階段を下りると、芝生が続いていて向こうの方から兵隊が攻めてくる赤い制服と、茶色い熊の毛の帽子で歓声を挙げては銃を撃って来る。「危ないぞ、木の陰に隠れて。」パークが叫ぶ。今度の弾は実弾のようである。木にあたると木の皮がめくれて飛んでいく。兵隊たちは近くまで来ると消えてしまい弾丸だけが飛んでくる。「大人しく降参しろ、手を挙げて出てこい。」イノブーが叫んでいる。「これはどうしようもないね。兵隊は大丈夫そうだが弾丸が危ないね。」パークは作戦を考えた。「弾の飛んでくるのは一か所だけよ。そこを攻撃して。」ターニャが陰から指差している。パークとパリスは茨銃を構え棘をありったけその銃眼を目指して打ちこんだ。ゴワッという音が聞こえたかと思うと静かになった。さて地上では<新緑に空少しずつ狭くなり>2016.4.17 



この公園は樹木公園であろう。というより、自然に樹木があって、そこに野球グラウンドを作り、幼児用プールを作りそれ以上余り考えられていないようである。折角薬円台とあるのだから薬園を作ればよさそうだが手が掛かるのだろう。あと舞台(ステージ)が全く使用されていない。やはり薬園台高校演劇部かと思うがどうだろう。プールも夏以外全く使用されないが噴水をしつらえて夏以外も使えるようにし、現在の噴水は花壇、薬園にすべきだなど勝手なことを思いついたりする。さて地下ではイノブーが突進してくるのを身をかわして避けるとイノブーは壁に向かって行ったかと思うと急に消えてしまった。「さあ、今のうちに逃げましょう。このお城は螺旋階段になっているの。」ターニャが外側の壁を押すと壁の間から螺旋階段が現れた。四人は階段を下りていく。「ここから三階に入るのよ。反対側に抜けないと二階に下りられないの。」「この部屋は何だい。やけに大きい部屋だね。」「気を付けて。ここは遠近法が利かないの。」その時いきなり隣りの部屋との間のドアが開いて、犬が飛び込んできた。「うわ、もの凄い大きい犬だ。グレートハウンドか。」確かに敏捷で獰猛な大型のグレートハウンドが襲いかかってきたのだ。「避けて、よければいいの。」「これでも食らえ。」パークは茨銃を打った。しかし当たらない。確かにあたっている筈なのにその犬は更に襲い掛かってくるのだ。パークはかろうじて避けた。しかし近くまで来た犬はそれほど大きくない。だから当たらないのだ。「この部屋は逆遠近法なのよ。遠くにいるときは大きくても近くに来ると本当の大きさになるの。でも気を付けてね。」 一方地上では<地震なく木の枝揺るる春の風>2016.4.16


人も余り居ず、晴れた日の公園は花がなければ木しか見る物がない。太い木で直径九十センチほどのが四本ある。高さはせいぜい十四メートルか。水は一回では十メートルまでしか上がらない筈だから、途中に水溜があって、二、三段に分けて上げているのか。噴水ももう少し高くまで水を上げてほしいと思いながら歩く。気分はいいのは、樹木の出す酸素が木の下に降りてくる所為か。太い木の本数を数えたら結構多くて、二十数本数えた所で止める。木が地面に対して上下対称だとすると公園の地下にもこういう根が広がって栄養を吸収しているのだろうなどと想像をめぐらす。地下ではターニャの移転で隣の部屋に移動した四人はその部屋にあった茨銃を持ち、棘避けスーツを身に付けた。丁度準備が終わった時イノブーがモグラ兵十人程を連れて入ってきた。「居たぞ。ここだ。」「おとなしくしろ。」威勢はいいが、手には茨の棘を何個か持っているだけである。茨銃を打ちまくるとモグラたちはあっという間に壁の隅から逃げて行ってしまった。人の余り居ない公園では<巨樹ありて癒しの気あり春の風>2016.4.15



雨上がりのせいで公園の至る所に水溜りがある。昔はよくあった水溜りだが最近は舗装のせいで道ではまず見当たらない。鳩が来て水を飲んでいるのが自然な様子を感じさせる。その一方で樹木は山にあるような魅力は無い。ただズーンと立っているだけで、いつまでも見ていたくなるような魅力がないのはやはり変化がないからだろう。毎年枝を払い、手を入れて何の個性もない樹木にしているのかと思うと我々もそうだなあと思ってしまう。さて、下では、五角形の部屋から愈々脱出の時だ。そのときいきなりドアが開いてイノブーと剣を持った若者が入ってきた。「いつの間に入り込んだんだ。」「何だと、それはこっちのセリフだ。勝手に人の城を奪って置いて今度は誘拐か。」パリスと、イノブーは相手を怒鳴りつけた。パリスが剣で切り付けると悪者二人は慌てて出て行ってしまった。「今のうちに逃げましょう。きっと仲間を連れてくるわ。」ターニャは先程パリスの触っていた壁をとんと叩くと壁が回転して隣の部屋に繋がった。「さあ、移りましょう。部屋が変わっていれば時間が稼げるわ。」三人は隣の部屋に移動した。壁がまた元に戻ってくる。雨上がりの公園では<ぬかるみに鳩の憩える花一つ>2016.4.14


この公園の巨木は船橋市で出している資料に四本載っている。どれなのか調べてみようと思う。噴水の周りなど去年の落葉がまだ残っていて、秋かとさえ思えるようである。落ちた花びらも無くなり、落葉が目立って見える。土管の工事が公園の中まで入ってきた。もしかしたら幼児用プールの排水を良くするのかもしれないと思い、工事の人に聞くが、よく分らないとのこと。おいおい分ってくるだろう。この公園には人物像が二つあるのだがどういう意味合いで作られたのだろう。老人も多いのだから老人の像も欲しい物である。さて、地下はどうなっているのだろう。「この部屋は一体どうなっているのだろう。」「五角形の部屋だ。」「そう、正五角形じゃないけどね。」ターニャが言う。「余り驚いていないけど、来たことがあるの。」「ええ、私は元々ここに住んでいたのよ。このお城は上から見ると正五角形で部屋が各階に五つあるのよ。ああ、よく隠れん坊したわ。あのイノブーに奪われてから大分経つけど。」「イノブーがここを奪ったの。」「そう変な魔法を使うのよ。それでお父様は追い出されちゃったの。でもその魔法のせいでここのバラは皆巨大茨になっちゃったけど。」「そうか、それで茨や草が妙な動きをするんだね。」パークは合点がいった。「さて見つからないうちに逃げ出そうか。」パリスが部屋の壁を触りながら言った。では公園へ戻って、<老人が巨木見上げる春の午後>2016.4.13







薬円台公園俳徊物語

午前十時、公園の周りは健康な老人達が速足で歩いている。最近ビッグデータとか言っているがこの時間全国でどれだけの老人が歩いているか調べたら面白いかも。六十五歳以上三千三百万人中今何人歩いているのだろう。一割として三百三十万人か。相当のエネルギーが無駄になっているような気がする。それで世の中上手く行っているのかもしれない。新緑が晴れの空に清々しい。<新緑に老人酸素満ち足れり>

ところで地下では。一番身の軽いガードンがまず登って行った。いつもバラを扱っているだけあって慣れたものである。棘を利用して棘には引っ掛れないように登って行く。そして上に着いたと思うとすぐ消えてしまった。暫くして王女の部屋の窓が開きガードンが顔を覗かせた。縄梯子を下ろしてきたのでパリスとパークはすかさずそれを上って最上階の部屋に入った。2016.4.12


午後5時、屋台は影も形もなし。商店街の提灯だけがもう電気が付いて風にゆらゆら揺れている。奇麗に掃除してあり狐につままれたようである。桜は終わったということだろう。秋の様な落葉の中に桜の花びらが春の名残を残す。少し寒いが新緑の出番である。藤の木がかなり痛めつけられている。誰かが登ろうとして幹を引っ掻いたのだろうか。木がもう少し物が言えたなら面白かろうにと思う。地下に行ってみよう。パリスが全力で走ると茨もそれだけ勢いを増し草を巻き込んで門の下を通って中に戻ってくる。「大丈夫か、ガードン。」パークは小声で言った。物音一つしない。確かに草の束は門の中に入ったようである。ぎりぎりとどこかで音がする。端の方で門柱とくっつくあたりが少し動いた。パリスが戻ってきて剣を差し込んだ。パークも手伝って思いっきり捩じると板が微かにたわんだのですガードンがすかさず茨を挿む。三人はやっとのことで中に入ることが出来た。城壁は高くそびえ立っている。「王女だ。一番上の階にいる。」「そうか、幽閉されてしまったのだな。」「一番上まで上がろう。」三人は城壁を守るように茂っている茨の木を登ることにした。一方公園は<藤の木をな、恨みそと春の風>2016.4.11


女が「もう満開終わっちゃったわね。」などと言っている。桜は既に葉が目立ち始めている。公園は毎日同じようだが微妙に違う。今日は小さい桜の木の下でシートを敷いている客が目立つ。工事で黒い土がむき出しのところに花びらが舞い落ちる姿を眺めるとあたかも雪の様で思わず目を止めてしまう。子供が遊びに行ったものか、お母さんがシートの番をのんびりとしている。樹木を見ると二抱えはありそうな木もあり近寄って手を回して見たりする。ここのところ鳥がよく鳴いているのは巣作りなのだろうが姿が見えないのが残念。さて地下では三人は門の前に佇んでいる。周りには茨と草地が広がっている。どうやって中に入ったものか。「駄目だね。確かにイノブーの言う通りだ。入れそうにない。」「一度引き上げて戦略を立てよう。この城にかどわかされたのは分っているのだから。」パリスが戻ろうとして掛け出した。その時、草と茨が門の下に潜り込んでいくのが見えた。「パリス止まって。」パリスは止まった。「もう一度走って遠ざかってくれ。」パークが低い声で言った。パリスが駆けると草と茨が門の下に潜り込む。「そうか、先ほどの走ると草が反対向きに動くのがまだ続いているんだ。」「草と茨の扱いは慣れているから俺達が行きましょう。」庭守乃ガードンが言った。パークが合図をしてパリスが走りガードンは草を撒きつけて茨と共に門の下に入って行った。地上では<新緑の声なりさえずり鳥の影>2016.4.10


落ちた花びらの量が更に増え、段差のあるところに重なって積っている。花を惜しむかの様に(土曜日でもあるし)人がいて、屋台も九台開いている。水なし池の水は消え、一面に花びらで覆われてあたかも水に浮かんでいるようである。桜の後を狙うようにタンポポが繁殖し始めている。日差しが強くなる中樹木の緑が目立ってきた。一体ここの樹木の名前は何と言うのだろう、今度調べてみようと思う。さて誘拐された王女は広場の端にあるお城に連れて行かれた。セントラルパレス茨の城である。ここのバラは棘が大きく、一度絡みつかれると外すのが厄介である。おまけに花は小さく茶色で王女たちのバラ園とは比べるべくもない。「門を閉めましょう。厄介な連中がここまで追ってきたようです。」イノブーが言う。「折角目くらましをしたのに残念。こうなったら金のバラを手に入れるまで王女を返す訳にはいかない。門を閉めろー。」そうしている間にもパーク達は広場を追い掛けてきた。「走っても走っても着かない。よっぽど遠いね。ここの草地は普通の草じゃないね。」「どうやら、俺達が走ると草地は反対に走るらしい。だから着かないんだ。」「後ろ向きに走ろう。」三人は後ろ向きになって走った。やがて城の門が見えてきた。もう閉まりかけている。よっぽど頑丈な木でできている。三人が門に着いた時は丁度しまった時だった。「おーっと、残念だね。この門は絶対にこじ開けられないよ。」イノブーはそう言うと夕裕と中に入って行った。さて恐らく今年最後の花見を控えた公園は<鳥のなく声花の木に響く>2016.4.9




 天候が良くはないがかといって悪くもない。曇天の中意外にも桜は木によっては更にびっしりと咲き揃っている。その贅沢さに写真に撮る人も多い。ついでのように屋台が2軒開いている。ふと、桜の散り際が悪いなと思う。その所為か何種類かの鳥が、ピー、キーと鳴き交わしている。鳥にとっては花の蜜は良いご馳走なのだろう。人出も減ったし安心して飲みに来たのだろう。野球グラウンドの芝生が早くも新しい緑を輝かしている。健康遊具で子どもたちが遊んでいる。もう新学期が始まる。次の休みにはまた人が戻ってきそうである。地下ではバラの園遊会が開かれている。王様が豊かなバラの香りを人々に振り撒くのだ。「素晴らしいバラね。世の中にこんな素敵な花があるのかしら。色だって全部揃っているわ。」「香りも素晴らしい。若返りそうだわ。」「おや、お嬢様、バラの花の精かと思いましたよ。」「まあ、あなたの棘は柔らかそうね。」そんなことを言いながらみな浮かれている。「こちらのお花見だね。桜の圧倒的な量感を見たら胆をつぶすだろうな。」パークは思うのだった。公園ではまだ鳥が鳴き交わしている。<花の香や鳥のみ飲みに訪れし>2016.4.5


屋台が1つも開いていない。雨の事もあり花見は終わったのだろう。公園のあちこちに散った花びらが、特に水溜りの周りに囲うように見られる。しかし人間のご都合を他所に桜の花は特に公園の周囲で賑わっている。特に296号線に出る通りと野球グラウンドの周囲は昨日よりも素晴らしい。グラウンドは今芝生を張り替えているので入れないが、来年は中から座って周り一面の桜を見たいほどに丈の揃った木がずらりと並んでいる。知ってか知らずか鳥たちが花の間で騒いでいる。日常に戻った公園は子どもが何人かと、ちょっとした晴れ間にベンチに座る人の物である。一方地下では、桜ではなく金のバラを狙って悪者たちが愈々行動を開始した。パークは王女に案内されて宮殿に入った。「お父様、この方が小鹿をあのバラの棘の攻撃から助けてくれたの。」「おう、有難う、何といったかな。」「パークと言います。」「そうか、あのバラの棘にはいつもひどい目にあっているのだ。昔はこのあたりはバラが支配していたようだから、我々の支配に代わって怒っているのだろう。」「それに、ついでに隠れていたイノブーまで追い出してくれたの。」「それは、重ね重ね有難う、あなたにはここで王女を守ってもらおうかな。」「まあ、お父様、そんな勝手なことを言って。ごめんなさい。」王女は恥ずかしそうにお辞儀をした。その時僕は守って上げてもいいなという気がした。折角来たこの架空の国、少しは活躍してみたかったのだ。さて公園は喧騒も一瞬で消え <散りぬるは花か人かと思いけり>2016.4.4.




昼前、外に出ると空気が昨日と違って暖かいし風もない。おっ、これはと思って公園に向かうと人の出が良い。花は、勿論満開、今まで見えなかった花も木という木に付いている。シンクロナイズドブロッサムか。野球グラウンドの周り薬園台小学校の校庭296号線に出る道全て咲きまくっている。花見は団体もいるが日曜ということで親子が多い。屋台は数えていくと12台、ついに、多分最大値でしょう。今日を盛りと頑張っているのは花と同じか。四阿にもいつもと全く違うタイプの客が上品に座っている。お花見一色である。さて、フィクションは。落ちてきた枝を棒で払うと枝はビィーンとしなってバラの茂みに飛び込んでいく。「ぎゃー。」という声がして丸い動物が逃げていく。「まあ、イノブーの悪戯なのね。有難う、パーク。」王女ターニャは微笑んだ。「可哀そうなことをした、なんであんなところにいたのだろう。」「忍び込んだのよ、金のバラを狙って、悪者たちが時々入ってくるの。」その時どやどやと何人かの庭守達がやってきた。さて今日はこの辺で。<花と人 気持ち揃うと思いけり>2016.4.3


肌寒い中、公園に向かう。歩く人も少ない、やはりなと思いながら、1,2,3数えていくと何と屋台は十一台、今までの最高である。花見客は寒い所為かそこそこである。タンポポも顔を引っ込めてしまった。公園の木の肌の荒れが目立つ。苔が生えている気も多い。養生になっているのだろうか。チェンソーで公園の周りの木の枝、と言ってもかなり太い、を切っている。切られて落ちるときの音が如何にも重そうである。よく倒れた木の下敷きに…という記事を見るが、思ったより重いのだろうなと合点する。やはり華のない公園、せめて噴水は二十メートルまで上げてほしい。折角舞台も有るので、これも使ってほしい。さてフィクションは「あなたは誰。」「私はパーク・ツリーと言います。それよりもここは何処なのですか。」「私の家の庭、バラ園になっているの。鹿やりすも遊びに来るわよ。」「そうか僕の方は子どもが良く来るね。ボール遊びなんかしているよ。」その時いきなり木の枝が落ちてきた。「危ない。」思わず僕は落ちていた棒で払った。さて今日は桜も余り開きそうにない。

<読み比べ桜と屋台風の日に>2016.4.2


愈々桜も佳境の満開へと突っ走っている。今日は屋台は10台に増え、花見客も集まってきている。部活の練習後らしき女生徒が木に五、六人取り付いて登ったりしているのは一興。如何にも浮かれ気分である。この土日に向かって更に加熱しそうである。花はやはり八分のまま。明日からは四月浮かれ気分になる暖かさである。そう言えばこの公園、樹木に全く名前が付いていない。名前で愛でるわけではないのだが、少し寂しい。さてフィクションの世界ではトンネルを進んでいくとドアがある。開けると王宮のバラ園である。桜も奇麗だがバラも美しい。背の高いバラの陰で何かが騒いでいる。小鹿だ。可哀そうに、毛がバラの茨に絡まって動けないでいる。桜に比べて何と面倒な。放っておくわけにもいかず助けに行く。絡まっているバラの棘を何とか外すと小鹿は逃げもせず血の滲んだ手のひらを舐めてくれる。そこに現れた王女様「有難う。よかったわね。」と小鹿に話し掛ける。「私はターニャ・シルバーソン。助かったわ。」どうやらこのバラ園で一緒に遊んでいたらしい。さて今日は桜で <咲くらむか佐倉の桜いとおしき>2016.3.31


さて今日は、と思って出ると、何と屋台が八台になっている。花も八分咲きか、場所によってばらつきがある。土曜日は満開か、気温にも依るが微妙なところである。タンポポ始め他の花も出てきた。水無し池の新緑はもう立派な葉になっている。つらつら見ていくと樹木の幹に小ぶりの椎茸様の茸が付いている。健康遊具にも客が来ている。D51のところの碑文には習志野の名前の由来が書いてある。なかなか由緒あるものなのだ。さてフィクションだが、台座の石を左に九十度回転させて北へ向けて押すと像が動いて下にぽっかりと入口が姿を現す。階段が出来ているので下りていくとどうしたはずみか台座の石が元に戻っていく。不思議と中は明るい。どうやら戦時中に作られてらしく、防空壕のようでもある。明るいのは植物の根があちこちに出ていて葉から集められた光を放出している所為の様である。木の幹が光ファイバーになっているのだろうか。<屋台見て桜の出来を推し量る>2016.3.30


晴天の朝である。今まで書かなかったが、この公園には幼児用プールというか、徒渉池がある。今は鍵がかかっていて入れないようになっているが、夏には公開される。水だけは張ってあるので、オタマジャクシなどが昔はいた。そう言えば水無し池に蒲公英がいきなり四つほど咲いている。作業員が何人か木の枝の剪定の相談などしている。噴水は止まっている。そう毎日流しては大変なのだろう。野球グラウンドは芝生を張ったので七月まで使用禁止と書いてある。この一面の芝生に寝転んでみたいものである。さてここに地下への入口を作るなら何処がいいか考える。見つかりにくいところで分りやすいところと言えば。定めし公園西の端女人像の台座のところか。

<蒲公英の色でひと際にぎわいぬ>2016.3.29

 月曜の昼過ぎ、さすがに人もほとんどいないし花見客もいないが、桜はお構いなく五分咲きというところか。四阿には人が一人座っている。それだけなのに噴水が出ているのは妙である。誰が餌をやるのか鳩がいる。桜のように小さくコブシのように白い花が高木に満開に付いている。自然の知恵か。この公園さっぱりとしていて秘密が無いので、勝手に秘密を作ろう。実は公園に地下への入口があって、開けることができる。それは…。(フィクションです。お間違いなく。)<あまもよい見る人もなき桜かな>2016.3.28


 薄曇である。屋台は変わらす、花見客は四組に増えている。昨日の鳥だろうか、頭の黒い、襟元の白い手のひらほどの鳥が歩いている。野球グラウンドの中にも一羽、トトトツイッというリズムで歩いている。周りを見渡すと桜の花の領域が広がっている。全体ではは三分というところか。噴水の横の少女像のが椿の花ビラで飾られている。剪定されていない椿は葉の中に花が隠れていて、下にいくつかの花が落ちている。それを集めて飾ったのかも。今日は健康遊具に老人と母子が付いている。よかった。D51が開放されていたので入ってみる。水無し池の周りの低木が輝く新緑の葉を付けて何とは無しに期待が高まる。池の中にはアヤメの葉も伸び始めている。ふと、この公園秘密がないなーと思う。D51の隣の石碑の後ろで学生が何やら本を開いている。<グラウンドついばむ鳥のあらわるる>2016.3.27


今日は昨日の桜を楽しみに行ってみる。何と既に屋台が出ているのが遠くからも見える。近付くと4台も出ている。桜の花は、確かに昨日より三倍も咲いている。早くもひと組の花見客がブルーシートに。そこだけ昨日はなかった桜の花が何枝か纏まって咲いている。 流石に見る人はよく見ているものだ。そういえば風の刺し感が昨日より弱い。商店会が照明は十時までと書いている。不意にツィーピツィーピという鳥の声がする。何という鳥だろう。寒い時によく聞く声だ。園内歩いてゆくと昨日よりきれいな気がする。健康遊具はまだしていない。藤棚の下には何人か。これから花見か。噴水の前の広場に出ると空が明るい。そうだまだ木の葉がない所為だと気付く。<一日で桜の景色花増える>2016.3.26



 何か急に余裕ができて、時間を自由に使えるようになった。近くの薬円台公園を日々俳徊しながら自然の様子など観察することとしよう。物語なので時には想像も入るかもしれないが、ご勘弁を。まずは西の端に足を向けると桜が既に何輪か綻んでいる。4,5輪というところか。3月末に近く陽光が呼ぶのだろう。女人の像を見ないで回っていくとこぶしが咲いている。花弁は散り敷いているのが見られる。白いので雪の名残のようでもある。尤もここでは雪も積もらなかったが。池の周りはことさらに明るく新緑の芽が出てきている。樹木の中ひとがを歩くと木肌があちこちい傷んでいるが元気そうである。前にサルノコシカケが生え、すぐに子供たちに駆除された木も元気である。公園整備が進んでいるらしく、新しい健康遊器具が6つ広場に備わっている。今は誰も取りついている人はいない。砂場をめぐって噴水広場に出ると子供たちがボールを蹴り藤棚の下のベンチには親か若者か一人腰掛けている。噴水は30年前から変わり映えがしない。ふと、高さ20メートルのパイプを立ててそこから水を落とせば2秒で下に落ちる。見ればすっきりするかもなどと思いつく。一回転して東に向かえば蒸気機関車D51が置いてある。30年前から変わらず置かれている。この間一度も動いたことがない。それも凄いなとふと思う。向かいの野球グラウンドは工事中である。どうやら土を入れ替えたらしい。周りの疎林の中にコブシではない、小ぶりの白い花をつけた細い木がある。何の木だろう。これで一周だ。たいして広くもない。今日はこれで、また変化をかければよいのだが    <コブシあり桜の花も咲き始む> 2016.3.25















長く続いた桜であるが遂にお別れの時が来た。花びらの落下が引きも切らず、子供が空中で掴もうとして走り回っている。見ればあちこちで落ちるのだが掴もうと思うと意外と取れない。昨日の舞台を点検。使いこなすのは大変そうである。落ちた花びらは場所によっては絨毯のように敷き詰められている。清掃の方がごみ袋に三つほぼ花びらだけの桃色の袋を片付けている。何とか花びらだけを集めて撒けば相当に面白そうである。公園は今日も子供達、親子連れが多い。結局この辺はかなり子供が多いということか。この土日天気が良く風がなければ花吹雪が楽しめそうである。王女の誘拐騒ぎはどうなったのだろう。パークはニンフの像に抱きつくようにして回し始めた。公園の像とは少し勝手が違う。庭守と青年は呆れたように見ているだけである。少しずつ像が回転するのを見て二人も手伝ってくれた。やがて押すと像は動いて地下への道が開いた。「行ってみよう。ここから逃げたとすれば行先は桜の公園だ。」三人はどんどん進んでいく。ところどころにバラの枝が折れて落ちている。「大事にしてないね。バラの花というものはいつでも大切にしなければいけないのだ。」青年はそう言うと枝をそっと取って壁の凹みに差した。この青年先程は無茶をしたもののなかなか洗練された紳士である。その時「これは。これはあのバラの棘ではないか。」庭守が叫んだ。しゃがんで拾い上げたよ下は正にあの首に刺さった棘の様である。「ああ、そうだこの先の尖った形はあの棘だ。あの男が落として行ったんだ。急ごう。」青年は確認して言った。「そう言えばあなたのお名前を伺っていませんね。私はパークです。」「申し遅れました。私はパリスと言います、宜しく。」「私はガードンと言います。」庭守も名乗った。そして三人は地下道を抜けて木の間から大きな広場へ出た。端の方にお城が経っている。「セントラルパレスですね。」「います。城に向かって走っています。それと、前の方をイノブーが王女を抱えて逃げていきます。」ところで公園に戻ると桜はいよいよ身震いするかのように花びらを落としている。<花びらでマント飾りし屋台かな>2016.4.8



朝から雨である。こんな日に公園に行くなど考えられないのだが、これを書いている関係で行ってみる。果たせるかな訪れる者皆無、屋台も物は3台あるが人がおらずシートが掛けてある。雨は殆ど降っていない。犬の散歩の女の人が一人、いた。花弁は適当に落ちているが風がない所為か殆ど木に着いたままである。広場をまた犬連れ婦人が二人、犬連れ老人が一人歩いている。確かに犬は我慢できないんだろう。すっかり落ち着いた公園、池には雨の水か少し溜まっている。アヤメの葉が先を覗かせる。張り出した桜の花びらが池に浮かんでいる。華やかで寂しい感じが雨である。そう言えばこの公園には舞台みたいな物があるが、未だ何かに使われたのを見たことがない。薬園台高校演劇部にでも使って欲しいものである。雨の公園人がいないなりに勝手なことを思いつくものである。さて地下は、水漏れしていないだろうか。「誘拐された。どうしましょう。」お付きの者は慌てふためいている。「あの若者を探しましょう。きっと仕組んだに違いない。」「そうか、そうか騒ぎを起こして其の隙に。」庭守の一人が叫んだ。「私の所為か。あの男は見たことがある。捕まえて白状させましょう。」若者はすぐに駆け出した。庭守とパークも続いた。空は晴れているのに何処からか微かに雨が落ちてくる。「きっと、あっちですよ行ってみましょう。」三人が走っていくと、前をあの棘を首に付けた男が逃げている。「待て―、王女を返せ。」しかし男は待つどころかどんどん走って行ってしまう。バラの花壇の中を赤いバラ、オレンジ色のバラ、黄色のバラとあちこちで曲がりながら逃げてゆくそして緑のバラのところを過ぎたとき男が急に見えなくなった。「あれっ、どこだ、消えたぞ。」「また曲がってみましょう。」庭守が言う。すると紫のバラのところに出てしまった。「おかしい、いない。」「青のバラを飛ばしました。戻りましょう。」若者が言う。三人は慌てて戻ると曲がり角のところにはニンフの像があるばかりである。「青いバラは無いんです。」庭守が困ったように言う。」「この辺りから霧雨が落ちていないか。」パークは像を見てふと思った。自分がここに来た時のことを思い出した。「この像を回して見よう。」さて雨の公園の池に水が溜まってきたようである。<雨降りてアヤメここぞと背を伸ばす>2016.4.7


子供達が始業式を前にして最後の遊びに余念がない。雨も風もないので桜は頑張って咲いている。前の花が散らないのに後から咲いてくるものだから豪華な花の座布団が木の上に。その上に座りたいようである。仙人なら座れるだろうし、仙女なら並んで座れそうである。下では子供達が走り回るばかりである。地下の世界へ戻ってみよう。「きゃー。」いきなりご婦人が悲鳴を上げている。見るとドレスの裾が茨に引っ掛っている。まただ。話をしながら良く見ないで歩くとバラの棘に捕まるのだ。「もう、根こそぎ切ってしまって。」その声に応えるように若者が剣を抜いてバラの根元を一気に切り上げた。止せばいいのに空中高く跳ね上がった枝を空中で見事に三つに切り捨てた。周りの客達が引く。その時、「おいっ、何をするんだ。痛いじゃないか。」「ぼやっとし てるからだ。見てりゃ避けれるだろう。」「何だと。」血気盛んな男が剣を抜いて切りかかる。見ると首のところにまだバラの棘が二、三本刺さって血が滲んでいる。痛かったに違いない。争っていると庭守達がやって来た。「さあ、止めて止めて。こんないい日に暴れては駄目です。出てもらいますよ。」周りにはバラを見るより面白いと思ってか人が集まってきている。「はっはっは。冗談だよ。」いきなり明るい声で笑うと男は首の棘をそのままにして立ち去ってしまった。皆あっけにとられている。「王女様、王女様は見ませんでしたか。」お付きの者が慌てている。「どうしたんです。ターニャはあちらの金のバラの方に行きましたよ。」「それが来ないんです。人の動きが急になって見失ってしまったんです。」「そう言えば、皆が喧嘩に気を取られているとき豚みたいな人が王女を連れてゆきましたよ。暴漢が出たと言うので私も隠れようと思ったんです。」痩せた老人が傍から声を掛けた。「やられた。イノブーだ。誘拐されたんだ。」こんな騒ぎをよそに公園は平和で屋台が五台もいる。<次々と咲き重なりて枝しなる>2016.4.6



論文新ティマイオス

2014,11,11

新ティマイオス

正五角形と生命の起源の数学的モデル1

第一章 この論文の目的

ずっと昔から人類は生命の起源について関心を示してきました。その結果、生命の歴史、生命の構造、生命のはたらき、生命の分布、生命の戦略、生命の増殖、生命の発達、生命の病気、生命の間の関係については多くの知識があります。この分野には今も大量の資金が投じられ、発展しています。しかし、その基本である生命の起源についてはまだ定説がありません。ここでは、この生命の起源について意外な方向から一つのモデルを提案したいと思います。それは、正五角形が生命を作るというモデルです。具体的には、生命発生のためには正五角形構造の分子が必須であるという考えです。これについては、ギリシャのプラトンがその著作ティマイオスの中で後一歩のところまで迫っていました。ここでは正五角形構造なしには生命は発生しないという考えから出発して、最初の生命分子にたどり着くまで考えを進めていくつもりです。

第二章 序論

生命の発生についてアリストテレスの考えから始めましょう。彼は生物には親から生まれるものと物質から直接生まれる者とがあると考えたようです。ここでは生命の起源は考えられてはいませんが生命が自然に発生する余地は与えられているわけです。その後しばらくの間、生命の起源について大きな発展はありませんでした。西暦二十世紀に入り、オパーリンが“大気中や海中で分子が化学反応をおこして複雑な分子になり、やがて生命ができた”という説を提案しました。彼は生体膜の重要性も示しました。その後、DNAの構造が発見され、さらにミラーによってアミノ酸が生物なしでできることが実験的に示されました。このことはやはり生命の起源が自然発生である可能性を示しています。では、DNAはどのようにして自然発生したのでしょうか。現在、議論はここで止まっています。DNAが自然発生したとする合理的説明がないのです。DNAは人では三十億塩基対もあり、自然発生で生じるには余りに巨大です。話は行き詰まっており、人は生命に学んで、生命の作っているものを人工で作る研究に全力を注いでいます。これは病気治療にとても役に立ち様々な医薬品が開発されています。その一方、生命の起源については余り研究されることもなく、今では、“生命は宇宙から来た”という宇宙に起源を求める考えにも向かっています。しかし、宇宙でどのようにして生命が発生したのかという疑問は残ります。地球と違う条件を考えることで問題を解きやすくしたといえます。現実には宇宙では生命が見つかっておらず、見つかる保障もないのです。確かなのは、宇宙ロケットを打ち上げるたびに、その目的の一つに宇宙での生命発見のためとして、大いに夢が語られており、今では宇宙に生命がいるかのような錯覚を皆が持っているように思われます。宇宙生物学を考えたのは全て地球での生命発生のよいモデルを思いつかないからであって、それを思いつくならば宇宙に行く必要はないともいえます。

第三章 ギリシャに返る

さて、前に世界史でヨーロッパ人がアイデアが枯渇したときギリシャのアイデアを参考にしたという話を聞いたことがあります。昔の話を聞くことは新しい考えを進めるときとても参考になるようです。文献を探して見ると、アリストテレスより四十年ほど前の時代のプラトンという人がティマイオスという本の中で物質(substances)ではなく特性(qualities)の名前として、火(fire)、空気(air)、水(water)、土(earth)の四つの元素(element)を挙げています。そして、プラトンはこの四つの元素にそれぞれ正多面体を対応させました。火には正四面体を、空気には正八面体を、水には正二十面体をそして土には正六面体です。ところが、正多面体についてのギリシャの議論ではもう一つ正十二面体があるのです。ここで、プラトンはこれを 「神様が全体の統一のために動物の姿のパターンをその上に作るのに用いた。」と理解しました。(the god used it for the whole,making a pattern of animal figures thereon.translated by Cornford)これはいかにも唐突ですが、彼の三角形へのこだわりからすると、こう理解するしかなかったのでしょう。そのため、後世の人々はプラトンによる正十二面体の理解への違和感から五番目の元素(フィフスエレメント)というものを様々に夢想するようになりました。最初にアリストテレスがエーテルという名前を付けて、宇宙にあるとしました。さらに、二十世紀初頭にはエーテルは光の媒質として考えられましたが、アインシュタインの相対性理論はこれを完全に否定しました。従って、アリストテレスの考えは否定されたと思われます。しかし、最近ダークマターという物がフィフスエレメントであるという考えが見受けられます。これは否定するのに相当掛かりそうです。それに、否定してもまた次の候補が現れるかもしれません。私はそれならばいっそ、地球上で証明できるものを考えてみようと思いました。ここまで全てプラトンの考えに引きずられてはいますが、エレメントは五つとしてしまえばギリシャ以来のこの議論は決着するわけです。ギリシャから学ぶことは全て終わり新しい時代に入ると言えます。ギリシャ人は真実を経験から学ぶことを離れて、言葉の力(哲学)によって何が得られるかを十分に証明しました。確かにその中には多くの間違いも発生するのですが、時として真実も得られることがあるのです。ピタゴラスは音階の理論にみられるように、自然と人間を結ぶ最も強力な手段は数学であることも示しました。彼は更に、宇宙は数学からできているという極端な考え方まで示しました。これは宇宙を有限の時間内に理解するには数学を用いるしかないという意味だと思われます。確かに数学には無限の操作を有限の時間で解決する工夫がよくあります。私はこの議論でやはり数学から出発します。ギリシャ以降、一般的数学(哲学)より個々の実験(観察)の方が確実であるという考えも普及しましたが、やはり訳の分らない複雑な現象に対するときは、数学が思考を整理してくれます。それにしても、ギリシャの文献が戦争によって失われたのは物事の根本を考えようとするときには大きな痛手でした。その点ではユークリッドの「原論」が残っていたのはせめてもの幸いと言えます。

第四章 正五角形の性質

正五角形について様々なことが調べられています。ここでは、必要な範囲で纏めてみます。一つの内角は108°です。正五角形を平面に敷き詰めようとすると始めから困難が発生します。平面内で三つの内角を合わせると角度の合計が324°になり360°まで36°が残ります。四つ目の正五角形は前に置いたものに重なってしまいます。もう一つの平面を重ねて置き、それを使うと、立体的になりますが置けます。その作業を続けていくと、螺旋状の構造物ができ、3枚の平面に十個の正五角形が乗って、次の正五角形は、始めと同じ

状況になります。つまり、周期性が発生します。ところで周期性といえばDNAは螺旋状で周期性を持っていますが、これは十塩基対で一回転するものです。正五角形をこのように組み立てることはできるでしょうか。それには、初めから正五角形同士に重なりを認めればできます。二つの正五角形を重ね合わせ、一つを角の周りに36°回転させます。そして次々に十個の正五角形を36°ずつ回転して重なるようにします。このようにしてできる螺旋はDNAと同じ周期を持っています。但し、この場合は正五角形を置く平面は十枚必要です。この場合、三つの正五角形がずれて重なった形になっています。これで正五角形を敷き詰めてゆくには平面ではなく螺旋状になることが分ります。これが正五角形と正三角形、正四角形、正六角形との違いです。次に、有名な黄金数φとの関係です。φは値が(1+√5)/2であり、約1.618です。これは一辺が長さ1の正五角形の対角線の長さになっています。正五角形ではφが様々なところに現れます。先程の螺旋の入る筒を考えると、その半径はφとなります。ところで、正五角形を紙の上に並べていくと分りますが、辺どうしを接した十個の正五角形はリングになります。これは正五角形の一つ置きの辺どうしのなす角が36°になるからです。しかし、正五角形十個以外にもリング構造は無数にあります。最も小さいものは六つの正五角形でリングになります。その中で対称性の良いもの(十回対称性を持つ)がこれです。この構造は紙面内では並進対称性はありませんが、紙面に垂直な方向に重なることで並進対称性を持つようになります。結晶というものが並進対称性で特徴づけられるなら一次元分だけ結晶と言えます。

第五章 正五角形を集めた擬結晶

先程のリング(十個の正五角形でできているのでR10と名付ける)を核にして擬結晶を作ってみます。R10の外側に正五角形を付けようとすると、付ける位置が単一には決まりません。様々な付きかたが可能で、空隙も発生します。つまり、安定した構造を持つ結晶というより、様々な不純物を含む塊となります。一方、R10の内側では空間が狭いため、正五角形を重なりを許さずに密に付けていくと、始めまず三つ入ります。ここで縦方向に並進対称性を作って行きます。そのために、R10を重ねてチューブにしていきます。すると、四つ目の正五角形が一つ上の層に始めの正五角形と重なるようにして入ります。このようにして、十個の正五角形が三層の中に入って、初めの状態と同じになり、後はそれが積み重なって行きます。これは、構造が安定しているので結晶と言えます。次に正五角形の重なりを許すことにして正五角形十個で一回転するDNAタイプの螺旋構造を考えると、この構造もチューブの中を連続的に成長できます。これは三つ目と四つ目の正五角形の間に段差がなく、結晶としての安定度は前のものよりも増すと思われます。つまり、現実のDNAはこのモデルで説明するのが良いと思われます。では、始めの三つが一層に入るタイプの構造は何になるかというと、RNAタイプになると思われます。このようにして生物の基本であるDNAとRNAは同じものが同じ時期に異なる環境(チューブの内と外)で出来た擬結晶であるということになります。当然、DNAの結晶としての安定性がRNAよりも勝ることになります。

第六章 擬結晶の構成要素

 さて、R10の外側での擬結晶の構造については、上に述べたように正五角形で構成してゆくと正五角形が付く位置が不規則になります。そこで安定な構造にするためにもっと大きな要素を使うことにしてはどうでしょか。ここで思いつくのが正五角形を三つ合わせた基本構造です。R10の内側では不安定ということで採用しませんでしたが、外側で採用することにしてみます。正五角形ができるだけ多く入るように並べるのが安定だとすると、これは、構造が安定しているので結晶と言えます。一般に鉱物が鉱床として産出すると言うことから、同じ物質はできるだけ凝集する性質があることが分ります。この構造は正五角形単独で行うより密になり安定度が増すことが分ります。実は正五角形をDNAタイプで組み合わせたものを使うと更に安定度が増すのですが、それではRNAのはたらく余地が無くなってしまうので、現実に合わせてこれで話を進めていくことにしましょう。 つまり生物ではDNARNAが両方はたらいているという事実に合わせたわけです。勿論このR10の外側の擬結晶は内側の擬結晶より不安定であることになります。当然、DNAの結晶としての安定性がRNAよりも勝ることになり、現在の細胞内における役割、DNAが設計図としてはたらき、RNAがアミノ酸運搬にはたらくことの基本概念として使えるものと思われます。

さて、この正五角形が三つ組み合わさった基本構造はどういう分子なのでしょう。三つといえば「トリプレット」です。tRNAにおいては、三つのヌクレオチドが暗号となってアミノ酸を決定することになっています。R10の外側にあるこの構造はこの意味からもRNAと密接に関係づけられることになります。更に言うならばアデノシン三リン酸も「トリプレット」であり、三個のヌクレオチドもリンを三つ含んでいることから正五角形はリンと密接な関係があることが予測されます。このことは、RNAが安定化したATP 誘導体であることを推測させます。大量に発生したR10の内側ではDNAがどんどん成長し、R10の外側ではトリプレットP(TP)が正五角形としてできてきます。このTPは不安定であってPを放出してDPなります。この時に発生したエネルギーによってP原子は運動エネルギーを持ち、周りの核酸塩基をリン酸化してゆきます。その結果できたRNAはTPほど不安定ではなくR10の周りに擬結晶化してゆくのでしょう。その結果R10の周りの塩基濃度が低下してPHが中性化した環境の中でR10がつぎつぎとRNAを生み出すのでしょう。このようにして見てくると、生物が例外なくリンを含みタンパク質だけでできた生物がいないことを考え合わせて、正五角形がリンであり、それが更に他の構造を誘起して生物体になったことが推測されます。ヌクレオチドの中にある五角形構造は全てリンに誘導されたものではないかとさえ思えるのです。そしてこの構造こそが生物を創造するために不可欠なものだったのではないかという結論になります。

第七章 プラトンの第五元素

ここでもう一度ギリシャに戻ります。ティマイオスによると、元素には火、空気、水、土の他に、神がキャンバスとして動物を描くのに使ったという、あのプラトンの五番目の元素があります。プラトンはこれにそれ以上の意味を与えることができませんでしたが、この元素は生物なのでしょう。ギリシャ人が、ミクロの測定器具を持たないために、理論だけで考え出した最終結論は、「元素には火、空気、水、土、生物の五つがある。」となります。そうなるとフィフスエレメントはこれ以上探す必要が無くなります。あの荒唐無稽とも思えるティマイオスの議論が息を吹き返してくるのです。このことは、ギリシャからの議論が繋がったことにより、この理論を更に進める根拠にもなります。この議論を進めて分子から生命の発生まで説明できれば、ダーウィンの進化論で現在の生物まで説明し、更にその先へと進む手掛りが得られるのではないでしょうか。この議論のもう一つの結論として、地球で既に生命の発生が担保されたとなると、今まで、生命の構造の複雑さ、化学反応の精妙さから生物の地球上での発生は証明できないとして、その起源を宇宙に求めた宇宙生物学は必ずしも必要でなくなるでしょう。

第八章 生命の起源の数学的モデル作成の意義

 上に述べたように、正五角形を元にして、生物の発生について考えてきました。これはギリシャの考えと現代を繋ぐものとして使えると思います。古代ギリシャはマケドニアに征服された後イタリアでルネッサンスとして日の目を見たことがありましたが、あくまで古典という意味づけでした。ここで述べた観点が正しければ、ギリシャは一つの方法論の提案者ということで復興することになります。数学的な考え方が新たな宇宙へ結びつく(万物の根源は数である)と言うピタゴラスの哲学はアインシュタインによって、宇宙の起源を解き明かす相対性理論へと結実しましたが、これが生命の起源へも結びつくなら実に爽快です。勿論、この考え方は確かに危険な一面を含んでいます。理論によって現実を解き明かすというのは、実験の裏付けのない限り荒唐無稽なものとなる危険を常にはらんでいます。それに対して、実験によって築き上げられた事実は確実な進歩を約束します。生物の起源についての現在の状況が全く手掛りのない状況だからこそ、この数学的方法は有効だと言えます。正五角形から出発して、何か生命の起源の実験的研究の手掛りが得られたなら、我々は直ちに実験的手法に移行するべきでしょう。しかし、それまではもう少しこの話を続けてみましょう。上の議論では①DNAとRNAが存在する理由、②tRNAが三つのヌクレオチド(三つの正五角形)を用いている理由を説明しました。生物の様々な基本構造がこの理論でどの程度説明できるのかについて更に研究を進めたいと思います。生命が今あることを考えると、研究の方法論さえ確立すれば時間をかけることで網羅的に調べて生命の起源に到達できることでしょう。最後に生物の起源を調べる理由について考えます。増殖する時限爆弾がみつかったとします。これが故障したとき、どうやって直せばよいのでしょう。切れている配線を繋いで時計が元のように動けば修理は完了です。しかし、時計の時間を変えてはいけません。爆弾が爆発する可能性があります。この爆弾がどのようにして何の目的で作られたのか知る必要があります。現実に戻りましょう。遺伝子組み換えによって生物は新しい種になります。遺伝情報の読み取りに影響を与えるような変更が起こっていれば、それは、時計の時間を変えたような効果を持つかもしれません。よくあるように、99.99%の確率で問題が起きないようにコントロールされたシステムでも、0.01%の確率で問題は起きます。それが1万倍に増殖すれば事件は発生します。もしかしたら生命そのものがこのようにして発生したのかもしれません。従って、生物の起源を調べる理由があります。昔、生物の人工交配を行い、収量の良い作物を作る必要があったとき、それが神の意志に反しないことを示すために進化論が作られました。つまり、神は生物を進化するように作ったという考えです。従って、人間がその手伝いをしても問題は起きないということになります。そして、マルサスの杞憂は払拭されました。現在はどうでしょうか。同じような問題が発生しています。既に遺伝子組み換え作物は実用化されています。新たな進化論が必要とされているのではないでしょうか。この論文はそのための提案の一つです。上に述べた「正5角形が生物の基本である」という理論が正しいにせよ、間違っているにせよ、何らかの理論は必要で、人類には正しい理論を作る義務があるのです。少なくとも爆弾が爆発する前に、と、私は思います。

                 (2014年11月11日)

                            ―続くー

新ティマイオス9

ソクラテスが読んでいる間にも回りはだんだん騒々しくなってゆく。

「そう言えば、この正十二面体は宇宙に通じているという話を聞いたことがあります。」

そう言われてよく見ると、ギリシャ神話の描かれた面の一つがかすかに光を放っている。

「あの面に飛び込んでください。私がこのおもりを井戸に落とします。」

その時、地下室の入口から兵が、マケドニア兵が更に侵入してきた。反撃がないのをいいことに食料品、像などを勝手に入口まで運び始めた。

「ソクラテス、引き上げましょう。危ないです。」

光宏が行った時ちょうど兵がソクラテスの本を取り上げたところだった。剣で切られそうになって辛くも逃げてくる。

「あの面まで登りましょう。アルテミス、大丈夫ですか。」

「はい、準備はできています。急いでください。」

二人は、螺旋階段を上って行った。そして上の面にたどりついたときアルテミスがおもりを井戸に投げ込むのが見えた。すべての面が著しくゆがみ、二人は気を失ってしまった。

第三章 失われた哲学

二人が気がついたとき、既に日は傾き、パルテノン神殿は夕陽を背に浮き上がって見えた。

「大丈夫、ソクラテス。何とか無事に戻ってこられたようだけど、私達は夢を見ていたのかな。」

「二人で同時に夢を見るものならね。それはともかく、とてもよい経験だったよ。この本にかいてあることがよく分ったような気がする。」そう言いながらソクラテスは持っている本を開いた。本は表紙が少し痛んだような気がするが、まだしっかりしている。

「それであの古代ギリシャのティマイオス続編はどうだったんですか。」

「あれには正五角形、正十二面体についてのことがかなり書いてあった。神、デーモン、生命がどのようにして生まれるのかが書かれていた。想像力が溢れているのは観察力がない所為だとはよく言うが、まさにそれだったね。微生物を知らない生物学者が精いっぱい考えた様子がよく分るよ。ピタゴラスから始まった数の魔法を徹底的に追求した結果だったね。そして遂に、生命の発生の秘密にあと一歩というところまで到達したんだね。この研究が侵略で完全にストップしたのは返す返すも残念だった。」

「そんなに生命の秘密に迫っていたのですか。」

「確かに五番目の立体という概念は素晴らしい。時間さえかければ、恐らく生命理解の突破口になったことだろう。現在、生命の発生について何のアイデアもないのはまさにそこが止まってしまったからだと思われるのだよ。」ソクラテスは古代ギリシャの哲学者のように夕陽を浴びながらため息をつくのだった。

「もしマケドニアが攻めてこなければどうだったのでしょうか。」光宏は現代のギリシャ人がどう考えているか知りたくて尋ねた。哲人は夕陽から目を返した。

「恐らく、古代ギリシャがあれほど壊滅することはなかっただろう。類まれなギリシャの語りが滅びることもなかっただろう。確かに、書物にすることもなく進んでいたこの文化は侵略によって消えてしまったのだ。その中でもいくつかの文献に残され、プラトン、アリストテレスの哲学は生き残ったが、多くの言葉はエーゲ海に消えてしまった。海の泡となった言葉は微かに断片として残ったものの、多くの貴重な言葉はそれこそ水の泡となったのだ。その後のローマ帝国はギリシャ文化を敷衍して文化を作ろうとしたのだが、かろうじてローマ神話を作り、いくつかの哲学を断片的に収集したのみで終わったのだ。その断片からでさえ、十四世紀ルネッサンスは芽を出したのだが、所詮全貌は伝わらなかった。それ程に、古代ギリシャは徹底的に葬り去られていたのだ。しかし、今まで生命の絶滅は五度あったと言われているが、今でも生命は存在している。どんなに過酷な破壊も完全ではないのだ。現にここにティマイオスのカタログがあり、ティマイオス続編が語られているのもその現れなのだ。私は確信する、生命がどのようにして発生したかを古代ギリシャ人は考え、ミクロな存在を知らずに、ただ想像力と幾何学だけで構想しようとしたのだ。何という無謀な企てだろう。失敗するのも無理はないが、それをしようとして遮二無二頑張ったのだろうね。それが記録にほとんど残らなかったのは良かったのか悪かったのか。少なくとも数学はギリシャの影響を受けて生き残り、現在も発展を続けている。しかし、科学は、ギリシャの科学は生き残らなかった。完全に崩壊してしまったのだ。その後、顕微鏡をはじめとしてミクロな物体を見る技術が整ってもそれは新たな科学を生み出しはしたものの、イタリア以西でしか発展しなかった。ギリシャは完全に忘れられてしまったのだ。しかし、私、ソクラテスは科学においてもギリシャは世界の中心だったと思う。それがこの生命の起源に現れているのだ。」そう言うと、ソクラテスは深いため息をついた。

「分りました。私も協力しましょう。確かに、ダーウィンの進化論が世界を震撼させた後、世界は哲学を捨ててしまいました。ギリシャのような語り口は多くの詭弁を生んでしまいます。語る言葉の対数個しか真実が出ないようでは、もはや語ることは無駄になります。それだったら何も語らずに真実をのみ探し求める方が効率が良いと我々は思っています。それが現代文明です。次々と実験結果を出し、役に立つものを作り出すことで社会は大きく成長しました。初めのうちは自分たちで考え出していたのが、ついにとんでもない究極の思考節約術を思いつきました。少ない人間が考えるより、圧倒的に多数の生物に考えさせるというのがそれです。微生物が自らの生存のために作り出した抗生物質を人間が見つけだしてから八十五年、今では百種類もが使われています。この手法はあらゆるところに使われ始め、生物が三十八億年かけて獲得した物質を探すのに人類は全力を傾注しています。現代はまさにその頂点にありますが、その一方でソクラテス、あなたが言うように人類が世界を理解するという考えはしばらくお休みということになっているのが将に現代です。ソクラテス、そんな時代にギリシャの賢明を忘れず、生命理論の根本を考えるのも素晴らしいと思います。あのティマイオスそしてティマイオス続編を更に進めて何が得られるのか非常に興味があります。ダーウィンがバクテリアから哺乳類までの進化の基礎を提案したのに続いて、無生物分子からバクテリアまでの進化を説明することができれば人類の叡智は一段と進んだと言えます。私はまずこれに挑戦してみましょう。」

「光宏さん。貴方にあえてよかったです。私は偶々ティマイオスの続編があることを知り、ただ興味だけで新しい本を作りこの続編が正しかったという結論が出るのを祈るばかりです。ギリシャの先人が打ち立てながらも戦争のために壊滅したこの哲学が復活するならば、私はこれまで生きてきたかいがあるというものです。」そう言うとソクラテスは持っていた本を渡した。そうだこの本は神殿の入場料の代わりに光宏の物になっていたのだ。まだこれから見るべき遺跡は数多くあるが、自分の見た夢とこの本と恐らくソクラテスが語るであろうティマイオス続編の内容を纏めればこの旅行に来た意義は十分にあるような気がするのだった。ギリシャ人はなんでも基本から分ろうとする人達だった。ユークリッドが幾何学で見事な成果を上げ、ピタゴラスは音楽が整数を用いて構成できることを示した。しかし、彼は正五角形でつまずいてしまった。それは一筋縄ではいかない難しさを持っていたのだ。そしてプラトンはユークリッドの幾何学とピタゴラスの数論を合わせて宇宙そのものが幾何学で構成できることを示そうとした。ところが、何としたことか正二十面体つまり正五角形の面でプラトンも失速したのである。それに見合うような元素は遂に発見できなかった。全てはそこで止まったままだ。現在、光宏が関わっている科学はもっと現実的なものだ。宇宙の真実を探すのではない。分りもしない真実を追い求めるのではなく、現実の生物たちは何をしているのかを観察するものだ。何故そうしているかわ分らなくとも、どのようにして生き延びているのかを知り、その模倣をするもしくはもっとうまく模倣することで人間も生き延びることができる。少なくとも生物が三十八億年かけて作り出してきたものを全て学びとるには、現実の生物の一万倍の速さで作り出して行っても三十八万年かかる。人類がこの試みを始めてまだ二百年、まだまだ先は長いのだが、ふとした旅の徒然に「生命は分子からどのようにして発生してきたのか」を考えてもいいような心のゆとりを持てただけでもギリシャに来たかいがあると思う光宏であった。しかも来てみれば、昔の哲学者と同じ名前で既に本まで出している人がいる。そうだ、このギリシャの文化を現代に伝えてみよう。現代人はこの文化を継承できるのだろうか。確かに、忙しい現代に真実など探している暇があったら、よりよい生活を求めて働くべきではあろう。しかし、生物というのは多面的である。主流もあれば支流もある。多くの流れが流れていく中に未来が見えて来るのだろう。分子から生命の基本バクテリアまでをギリシャ流に構成すれば、それは第一にとても面白いことだろう。第二に現代科学の流れとの比較はとても興味深い。現代科学は生命進化について一つは宇宙生物学として地球以外の惑星を探し、もう一つは深海熱水活動起源説とあるが、ここにもう一つ純粋幾何生命発生学説を持ちこむことは科学とは言えないが、ギリシャ文化の延長とは言えるのではないだろうか。ホテルに向かうバスの中で地中海とオリーブ畑を見ながら、アルテミスやソクラテスそして夢の中のヒロティウスのことを思い出す光宏であった。

新ティマイオス8

ることが大切だ。そうでなかったばっかりに家に帰ったとき奥さんからバケツの水を掛けられた人が昔いたらしい。

ヒロ:まさかそんなこと我々には起きないでしょう。古代ならともかく現代は生命の発生は科学の大問題として広く研究されています。確かに生命の起源についての理解は現代でもあなた方古代ギリシャとたいして変わらない状況にあるとは言うものの、宇宙で発生したという説と海底の熱水噴出孔で発生したという説が対峙しているのです。それについて考えることが…」

その時、いきなり建物が揺れ始めた。水差しの蓋が外れ机から落ちそうになっている。水差しも落ちそうである。それよりも何より建物がきしみ出したのだ。どこからか女の甲高い声が聞こえる。まさか奥さんが来たのか。ソクラテスはもう逃げだしている。光宏がもたもたしていると女がドアを激しく叩きながら叫んでいる。ドアが叩き破られた。その衝撃で光宏は目を覚ました。「早く起きて、マケドニア兵が攻めてきたの。この地下室が見つかるかどうか分らないけど、必要な資料は早く調べないと。」巫女アルテミスがドアの外で言っている。寝室の外に出るとソクラテスも出てきた。どこから光が入ってくるのか通路は明るくなっている。

「とにかく昨日の本を見てみよう。この明るさなら大丈夫そうだ。」

二人は正十二面体の部屋に光が当たって神々しいまでに輝いているのを見た。

「おお、明るいね。これはいい。」

確かに斜め上から入ってくる光は地下とは思えないほど明るい。

「あの面に光を集める螺旋がしつらえてあるのです。」ふと見ると巫女のアルテミスの白い服に光が映えて美しい。ソクラテスは早速本を調べ始めた。光宏は部屋の構造を見ようとして階段を上って行った。階段は十二個の面を回って上に続いている。一番上の面は空いていて階段は上にでて行っている。いつの間にかアルテミスが、やってきた。

「こちらへおいでなさい。」階段を更に上がっていくと、バルコニーから見下ろすように回りながら明るい壁暗い壁が交互に連なっている。きなり見晴らしのいいところに出た。神殿の上である。どうやらレリーフの人物の中らしい。目のところから下を見ると、マケドニア兵らしい姿が見える。どうやら神殿は完全に包囲されているようである。

「この神殿はどうなるのでしょう。破壊されてしまうのですか。」アルテミスが心配そうに聞いてくる。

「大丈夫です、この神殿は破壊されることはありません。二千年後でも立派に残っているのですから。でも残念なことにここにある大量の図書は失われてしまいます。

「そうですか、安心しました。私たちの努力は報われるのですね。」アルテミスの表情には巫女としての役割を果たせるという気持ちが溢れて輝いていた。

「図書の方は失われてしまうのですよ。」光宏は意外な気がした。この神殿もそうだが、むしろここにある著作の方が後世には遥かに役に立つのではないかと思えたのだ。

「分っています。勿論どちらも残って後世に伝えられるのがよいのですが。でも、この神殿は神の館としてずっと残ってほしいのです。たとえ私たちギリシャ人がマケドニアに支配されることになろうとも、私たちの神は私たちを守って下さるでしょう。でもこの図書は多くのギリシャの賢人達が表したものです。たとえ破壊されても、アカデメイアの伝統を受け継いだ方々によって再現されることでしょう。」アルテミスのまなざしは希望に溢れていた。しかしこのとき同時に光宏はこのまなざしが曇ることを予感していた。このギリシャ文明は確かに残るのであるが、図書がなくなったおかげでギリシャ文化は、特にその最も先鋭的な部分でついえてしまうのである。彼の知識では、失われたギリシャ文化を求めて多くの人々が模索するのである。その最も有名な端緒はシュリーマンのトロイアの発掘であった。これによってそれまでは単なる神話と思われていた文明が存在したことを示す証拠が得られたのだが、図書類が殆ど失われていたために、文化については遂に再現されることがなかったのだ。プラトンであれアリストテレスであれ現代社会に影響を与える人物とは目されていない。ソクラテスにいたっては単なる酔狂なじいさん以外の何物でもない始末なのだ。彼らがいてもいいが、いなくても現代社会は影響を受けないで進歩してゆくというのが常識になっているのだ。果たして本当にそうなのだろうか。

「一度失われれば、この図書は再現されないかもしれませんよ。」光宏はぽつりと言った。

「私たちはどうすればいいのでしょう。あのマケドニアが攻めてこなければ、私たちは神にさえ仕えていればよかったのに。ああ、戦争がうらめしい。」その時の憂いを見せるアルテミスの表情は神々しいほどであった。

「いいですか、ここの書庫については出来るだけ秘密にしておきましょう。もしこれらの図書が失われないで済むならそれに越したことはありませんから。しかし、どうしてもだめなら命を賭けるほどではありません。あなた方はこの地を守って下さい。この神殿が破壊されようとしたら必死に守って下さい。それは上手く行く筈です。」

「分りました。あなた方はこのギリシャの文化を守って下さるのですね。私たちはこの神殿を守ります。でもあなたはギリシャの方ではないのでしょう。どうして、そこまでして私たちの文化を守って下さるのですか。」

「私の時代においては、世界はものすごく広がっているのです。あなた方はこの後何度か再評価されます。それでも、最後に分らないのは人間がどのようにして生まれたかです。私たちはそれについてとても多くのことを考えましたがまだ決定的なものがないのです。」

「神々が生んだのではないのですか。それは大した問題なのでしょうか。私たちは親から生まれた。すると最初の親がいるわけでしょう?その親は神々が生んだということで何の問題もないように思っていました。それがこの後何千年も問題になるのですか。」その時のアルテミスの純粋な表情に光宏は感動した。確かにその通りだ。その神々はどうして生まれたかとか考えずに素直に人間を認め、その後どう生きるかを考える方がはるかに自然なような気がする。

「アルテミス…。」

「何も知らないのに、勝手なことを言ってごめんなさい。」

「いやそうではない。私たちはこのギリシャ文化から隔たって、全く、別のことを考えているのです。それは、全てを根源に戻して考えると言うやり方で、それによって我々の文化文明は大きく進歩したのです。おそらく、たった一つ、生命の根源は何かという問い以外全てにギリシャを凌駕してしまったのです。それにしても敵はどんどん増えてきていますね。」遠く海岸の方からこちらを目指して兵士が増えてきている。

「そうですね完全に囲まれてしまいました。この丘は市内を見渡す絶好の場所なのです。」

その時明るい面が急に変った。太陽の高度に応じて最も光を集める面が切り替わるらしい。

「降りてみましょう。そろそろ、ソクラテスが何かを見つけたか、聞いてみましょう。」

「もしこの図書が失われるべきものだったら、持ち帰っては如何ですか。ここの図書の中に他にはない一冊があるなら、それを守ってはどうでしょう。」

しかし光宏はそれは出来ないと分っていた。この空間は現実空間ではない。仮想亜空間である。確かに巫女アルテミスを見て感情は動くが持ち帰ることは出来ない。図書についても同じである。図書を読んで感情を動かすことはできるが持ち帰ることはできないのだ。

「ありがとう。あなたにそう言って貰って嬉しい。しかしとにかく戻ってみましょう。」

二人は階段を下りて行った。登るのに比べて降りるのは難しかった。時々、アルテミスを支えながら降りて行く二人は正十二面体の各面にステンドグラスのようなレリーフを見て行った。このギリシャ神話を題材にした絵をアルテミスは説明してくれた。「あれはダーフニスとクローエ。もう花になりかかっているわ。あのとても美しい花に。」光宏は今まで聞いたことはあるものの余り興味のなかったギリシャ神話が急に手に取るように分ってきた。この中には人の感情の多くの物がちりばめられているのだ。それが分ったのはある一つの窓でであった。その絵に込められた感情がアルテミスの説明でいきなり分ったのだ。確かにこの神殿の巫女をしているだけあって、説明は明快で理知的であったが、それだけではなく余韻のようなものが感じられた。ようやく階段下までたどり着いたとき、ソクラテスが丁度上を見上げていた。

「ありましたか。」

「いや見つからない。どうやらこの書庫にはないようだ。」ソクラテスが気落ちしたように言う。

「そうですか。ここまで来ながら残念です。でも仕方ありません。戻りましょう。」

その時アルテミスは光が降り注ぐ上を見ながら言った。

「あなた方にはお分かりにならないかもしれませんが、もしティマイオス続編があるとしても、それは公然と読めるものではないのですよ。多分正十二面体について書くことになるのですが、それは神々のカンバスであるということなのです。神々のカンバスに描かれるべきものは物質にしてしまうと一つしかありません。」

「知っていますよ、それは天体でしょう。確か昔の天文学は正多面体を頼りに惑星の軌道を決めたと聞いたことがあります。」

「違うのです。その一つとは、ああ恐ろしいことです。私にはそれを認めることも、否定することもできないものです。でもあなた方は未来からいらした。そして、ティマイオス続編を探しておられる。ということは確かにこのままでは続編は完全に歴史から消えてしまうに違いありません。」

そう言うとアルテミスはすっくと立ち上がった。白いドレス姿の彼女は何かを守るために心を決めたときの、あの透き通った雰囲気を表していた。その時階段から兵士が入ってきた。彼らは本には目もくれず食料庫、武器庫を漁り始めた。「仕方がありません。この梃子を思いっきり引っ張って下さい。」アルテミスの言葉に従って、ソクラテスと光宏は二人掛かりで思いっきり引っ張った。床面の正五角形が開き、何冊かの本が現れた。

「これは禁断の書です。ギリシャの到達した異端の学が書いてあります。これがあなた方の探しているティマイオス続編です。くれぐれも扱いには気を付けて下さい。この部屋は崩れますよ。」見ると上の方の面がゆがんだかと思うと大音響とともに崩れてきた。ついで周りから壁が崩れてきている。壁面のギリシャ神話を描いたステンドグラスが目の前に落ちてきて二人は思わず後ずさりした。ぽっかりと空いた穴からは神殿の柱が見える。

「さあ上がりましょう。あの柱の中に入ればいいのですよね。あなた方はそこからいらした。」アルテミスは崩れた正十二面体の横に空いた通路に入って行った。通路は螺旋となって上に続いている。上からさす光はときに明るくときに暗くなって道を照らしている。

「確かにこれは続編だ。素晴らしい。あのプラトンのティマイオスの続きがここまで出来ていたとは。私の書いた新ティマイオスが恥ずかしくなるような内容だ。」歩きながら読んでいたソクラテスは明らかに興奮していた。

「全部読んだのですか。」

「いや、古い言葉なので、現代ギリシャ語と違ってよく分らないところもある。この本を持って帰れれば良いのだが歴史を変えることになる。」ソクラテスは困ったような顔をしてアルテミスの方を見た。

「私も、先ほど話を聞いて、どうせ失われるなら…と思ったのですが。」

「確かに、持ち帰りたいようだがそれは出来ないでしょう。となればここでもう暫くこの本を詳しく調べてみてはどうでしょう。」光宏は時空を越えることでこの本が失われることが確かでないならばいちかばちか持ち帰ってみればよいのかなと思いながらも危険を冒す度胸は今ひとつないのだった。「この本を守って下さい。私に出来ることなら何でもしますわ。」アルテミスはもう書物をソクラテスに託したいような様子だった。神殿は残り、書物は失われるという予言を聞いてから彼女は何としてもこの書物を後世に残したいと言う気持ちが強くなってきたのだった。

「それにしてもアルテミス、この正十二面体はすばらしいステンドグラス構造でしたね。外からの明かりが絶妙に差し込んでくる。ここで本を読んでいると思わずいつまでも読んでいたいと思えてくるほどです。」ソクラテスは意外とのんきなことを言っている。

「ソクラテス、たぶん急がないといけないでしょう。今、階段の上の覗き窓から見たのですが兵たちがもう神殿に入りかかっています。それで、ティマイオス続編にはどんなことが書いてあったのですか。実は私は昨晩夢を見たのです。」光宏は夢のことを話した。

「素晴らしい。貴方もそう考えていたのですか。ティマイオスの第五の元素に生命をあてはめるとは。多分同じことを言おうとしているのでしょう。まだ、全てを読んだわけではないのですが、この本の中では神々に対する十分な考察と、おそらく神々を否定したり出来ないので様々な工夫を考えて何とか天球世界に閉じ込めようとしています。正十二面体は神々の絵を描くキャンバスであるというアイデアを大事にしたのでしょう。そして生命が元素だとするとどういうことが起きるのか慎重に考えているようです。顕微鏡がなく岩石にしか見つからないこの構造のために立方体の中から正十二面体を生み出すのに苦労しているようです。」

「私達神に仕えるものの間ではこの本は決して読んではいけない物として伝わってきました。この本が開かれるときギリシャは基礎を失って崩壊すると言われてきました。今マケドニアの兵が来たのはまさにその証でしょう。噂は聞いています。ギリシャ最高の知性を教師として学問をおさめた王が武器の力で全土を支配してゆくのです。

「うかうかとはしてられないようですね。ソクラテス、この書物を現代に持ち帰ることができるかどうか分りません。とにかく読める所まで読んではどうでしょうか。私はその間、ここからの脱出の方法を考えます。」

「その通りだ。とにかく読んでみましょう。」