蒼いマンゴーが堕ちたら -5ページ目

蒼いマンゴーが堕ちたら

フィリピンを舞台にした単なるフィクションストーリーです。多分フィクション・・・・

その店は下が駐車場になっていて上が店舗という造りだった。駐車場横に短い螺旋階段があり、階段口の階段には店の名前とタレントの写真があった。



ヴィーナスというのが店の名前らしい。貼り出されているタレントの写真は二年以上前の日付になっていた。


螺旋階段を昇り、入口に手をかけるとドアが閉まっている。店内の照明が灯いているから誰かがいるのは間違いない。開店時間には早いのかと思った時に店の奥からネクタイ姿の男が現れた。男はドアの鍵を開けると



すみませんでした。ミーティングが今終わったので。どうぞ、いらっしゃいませ。



男はオレを店内に案内した。レトロな造りの店内は映画に出てくる70年代キャバレーの様だった。

形も色も古いソファーに座ると、男が店長だと自己紹介した。


オレの持つイメージの店長にしては若い。店長の男にそれを訊ねると、経営者の二代目で最近店長になったばかりだと言った。


初めての来店の為、女のリクエストは無いからと伝えると、店長はトイレ横のカーテンが引かれた部屋に入って行き、店の女全員をオレの前に列べた。


どの女も若く、タレントに見える。店長に訊ねると全員がタレントだと言う。入官の締め付けが厳しいのに全員がタレントと言う。店長は、多分これが最後のタレントだと笑いながら言った。


必然的に誰か選ばなくてはいけなくなったみたいだ。


オレは店長に一番日本語が下手なタレントをリクエストした。店長は一番最近に来日した女を指差し、残りのタレントをカーテンの部屋に戻した。


女はオレの横に座り言った。



ハジメマシテ。ライカデス。



オレは最近覚えたフィリピン語でライカに聞いた。



クムスタ ポ カヨ?



ライカはびっくりしていた。しかし、これ位までがオレの今のレベルの為、その後ライカが何を言ったか判らなかった。

言葉が判らないのがもどかしい。ライカとの会話は簡単な英語とお粗末な日本語がメインだった。



ワタシ ニホンゴ ゴメンナサイ。



一生懸命に伝えようとしるライカにオレもおどけて言った。



ワタシモ フィリピンゴ ゴメンナサイ。



ライカは恥ずかしそうに笑った。その笑った顔がアシュリーとダブって見えた。二時間でオレはチェックをして席を立った。ライカに携帯電話の番号を聞くとまだ電話を持ってないと言う。かわりにオレの番号を教えてくれと言った。オレはライカに電話番号を教えて店を後にした。


車に乗りしばらく走ると知らない電話番号で着信があった。電話に出るとライカだった。



サッキ アリガトナ



短い会話だったがライカの一生懸命さに好感が持てた。ただ、ライカの店まではちょっと遠いのが難点だった。この時オレはライカとの出会いが単なる暇潰しから立ち寄った店のタレントと客の関係だけ位にしか思っていなかった。



この時は・・・・・
電源を切った携帯をソファーに放り投げてベッドに横になった。多分、リリィからの留守番電話とメールが入ってるのだろう。

オレはベッドの上で天井を眺めながら考えていた。リリィとの事は単なる遊びではないとは思っている。それとは同時に何時かは別れる時が来ると思っていたのも事実だった。安い言葉を借りてくるなら価値観の違いと言うものだろう。


ベッドの横にある机のPCは壁紙をリリィとアシュリーの三人でSMに行った時に撮ったものに替えてある。三人とも愉しそうな顔が今は妙に腹立たしく見える。

気が付いた時は既に朝だった。
そのままオレは眠ってしまったらしい。携帯電話の電源を入れるとメールが2通だけ来ていた。


ikaw nande okoteru?



もう一通が



ippai arigato na.karada daijing site.kokoro itai pero sikatanai.



見事に自己完結しているメールにオレはまた苛立ちを感じた。


神経を逆撫でされた気分で仕事に出かけた。

リリィの性格で一番気に入らないのが謝らない所だ。挙げ句に自己完結する。幾度となくこれを繰り返してきた。その度にオレが折れてきたがもう我慢の限界だ。オレはリリィの電話を着信拒否にした。



忙しい時間帯が過ぎ、遅い昼食の時間にリリィからの着信があった。何度かの着信の後にメールが入った。



nande denwa denai?atarasi babae aru.paroparo na nihonjing.sikatanai ikaw ganbate.



今度は逆ぎれのメールにうんざりした。



仕事が終わり、当ては無いが車に乗り込んだ。
気がつけば県境まで来ていた。


山手の細い国道を進むと急に拓けた町に出た。コンビニに車を入れて缶コーヒーと煙草を買う。外に出ると、目の前の交差点から100メートル向こうに黄色とピンクの看板が見えた。オレはその看板に誘われる様に歩いて行った。


ポケットの中の携帯の電源を切った。


黄色とピンクの看板の文字が読み取れる距離までくるとフィリピンパブの文字が目に入った。

オレはコンビニまで引き返し、車に乗り込んだ。国道を跨ぎフィリピンパブの駐車場に車を入れた。
リリィが到着口から出てオレを見つけるまでそう時間は掛からなかった。


リリィはフィリピンに帰国した時と同じ位の荷物を持って帰って来た。ほとんどが店のババエの衣装だと言う。プロモーターに荷物を渡して店のスタッフが乗って来た車に向かう。オレも車に乗せられて店に向かった。


車中、リリィとの会話はパルパロのチェックとヴィサヤの家族の事に集中していてオレが聞きたかったアシュリーの話は微塵も出なかった。



店に到着するとリリィは小さめのキャリーバックだけを持って店の階段を上がって行った。ドアが開くとちょうどショータイムの為だろうか音楽が一際大きく聞こえた。



ライトがステージに集中している。スタッフに誘導されたのは何時ものブライベートルームだった。リザーブの札が置かれており、店側のサプライズでテーブルの上には、お帰りなさいリリィと書かれたカードが置かれていた。


リリィの客が何人か来ているみたいだ。結局、リリィがテーブルに来たのは1セット終了間際だった。



オレは不機嫌を隠しもせずにリリィに言った。



迎えに行って店に来ても他に客が来てるならオレが来る必要は無かったんじゃないか?



リリィは恋人なら当たり前だと言う。
いきなり喧嘩と云うのも嫌な話だ。納得はしていないがそれ以上は触れずに話題を変えた。



アシュリーのその後を聞くと知らないとあっさり答えた。愉しかったのはリリィも同じだった筈だ。何故知らないのだと言うと、リリィは苛立った顔で



アシュリーは私のファミリーじゃない。だから知らないは当たり前。フィリピンスタイルはファミリーが一番大事。イカウとアシュリーはファミリーじゃない。何でアシュリーの話した。関係ない。


オレは不機嫌が怒りに変わる瞬間を体験した。リリィに向かって



じゃあオレとお前もファミリーじゃ無いから関係ないな。自分のファミリーだけ大事にすればいい。お前のファミリーもオレには関係ない。


面食らったリリィは無言だった。オレはスタッフにチェックを伝えて席を立った。リリィは黙って泣いていた。


店の外までリリィは見送りに来たがオレは一切リリィには目もくれずタクシーに乗り込んだ。


今までリリィとは何度も喧嘩をした。些細な事での喧嘩もあった。しかし今回ばかりは終わりの予感がした。


家に着くまでの間、携帯電話が震えていた。


オレは電源を切った。