3月8日放送 NHK 日本のこれから、学力 その1 | 続・教育のとびら

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主宰 福島 毅(どんぐり)

番組内容の紹介と私見(※で表示)です。

今回のテーマ設定では、なぜ学力低下が起きているか、どうしたらいいのかということでした。
教育問題は、生徒本人、学校、教師、家庭、地域、国と複雑に絡み合っているため、どういう状態がベストな解決策かというのは悩ましい問題です。
 NHKでは、あえて2元論の設問をして、問題を切り分けていこうという作戦(例えば”ゆとりか学力か”とか”教育は上位か下位のどちらを大切にすべきか”)だったようですが、教育問題は複雑系ですから、2元的な切り口で犯人捜しをしようとしていても、限られた時間では難しいかったのでは・・・という印象が残りました。 オープンエンドで終わるのは仕方ないとしても、何らかの解決の糸口は見つけていくという強い意志が番組企画に合って欲しいとは思いました。それはライブでやりながら見つけていかねばならないので、司会としても力量が試される難しい作業ですが・・・
 
科学的に見ると、こうした複雑な問題(一種の複雑系)を扱っていくには、問題の構造を理解し、整理していく作業が必要です。そうした認識で番組は構成されていたのかな?と思いました。また海外でのうまくいっている事例などをもっと豊富に紹介してもよかったかなぁと思いました(まぁこちらはクローズアップ現代でのVTRがそろっているでしょうから)。人間は手本をみながら、学んでいくというのが学びの原点にありますので、お手本を見るというのは大事であります。あまり海外事例を先にみせてしまうと「じゃあ、日本もああいうふうに・・・」という進行を避けたかったのかもしれません。
 
それと、番組途中で三宅アナウンサーも気づいていたようですが、小学校低学年などで必要な教育スキル、体制と中学生・高校生での必要な教育スキル、体制は、やはり分けて議論しないとかみ合わないなと思いました。これを切り分ければ、もっと議論はすっきりしたのではないでしょうか。例えば先生への授業評価、小学生も高校生も同じやり方、同じ項目ではできないはずです。九九のように小学校の基礎段階では強制も必要でしょうし、学年が上がれば自由度が増えていって当然です。これも一緒に議論できるものではありません。三宅アナウンサーは番組途中で気づかれたようでしたが・・・
さて、以下では番組の紹介と私見を※印でコメントします。願わくばNHKや教育を扱う方々の目にとまることを密かに期待していますが・・・

○2800人 男女の世論調査
 低下している 69%

※PISA調査がだいぶ世の中に知られるようになり、こうした世界的学力調査の結果から客観的に日本の立ち位置を検証していくことが重要だと思います。私も教育現場にいる人間として学力低下は感じますが、いつからどの時点で(ゆとり教育が始まって?)というのは難しいところです。
○中学・高校生の街の意見
・学力低下には大人にも責任ある。
・ケータイ・パソコンの普及が読み書きを減らしているのではないか? 

※学力と深く関連するものとして広義の読解力の問題が横たわっています。読解力は単なる漢字が読めて文章を読めるということではなく、人の話を能動的に聴いたり、問題の本質を見抜いたりする総合力なども最近は読解力などと言ったりします。こうした能力は、身につけさせたい力が適切に分析され、児童・生徒の教育的発達レベルに応じて戦略的につくられた教材そして教育カリキュラムが保証されることが前提になろうかと思います。それを国家的戦略として取り組んだのがフィンランドなどです。

○ゆとり教育と学力 学力とは何なのか
・ゆとり教育のおかげで学力下がった(スタジオ)
・ゆとりをやめたら本来の学力は確保できるのか?(スタジオ)

※ゆとりか学力かという2元論ではなく、基礎的知識+応用力といった車の両輪が大事という話は当サイトでも繰り返し主張してきました。ゆとり教育はこのうち応用力の伸張をねらったものだったのですが、如何せん、教師が効果的なカリキュラムや授業をデザインをする余裕や力量が無かったことや外部サポート(適切な研修)などがなかったために、すぐれた実践のできる学校や教師の元でのみ小規模に成功したという経緯が正直あったと思います。小グループでの討論や実験・実習・生徒プレゼンを豊富に入れると大きな教育効果があがることはPISAの学力上位国の実践例からも明らかなのですが、これを支えているのは、授業をコーディネートする教師の質を高める教職系大学・大学院などのサポートです。この部分が日本は圧倒的に弱い。これは番組の議論で漏れていたので指摘しておきたいと思います。
○主要教科の時間を増やすことで学力向上するか?
 思う・・・詰め込むのに必要な時間確保が必要
 思わない・・・時間だけ増やしてもモチベーションは下がる
  賛成・・・81%

※「もっと、生徒が興味を持つような授業内容を」という意見が中継している高校生などから出ていました。確かにただ、教科書をなぞるような授業を行っている教師は多く、生徒の興味・関心を引き出そうという能力・技術が低い公立学校教師は多いかもしれません。しかしながら、元教師でサイエンスプロデューサー米村でんじろう先生が公立高校を退職されたように、楽しい実験をみせたからといって、そこから生徒が自分自身でいろいろ調べて学ぶようになるかというとそうではなかったわけです。では何が足りないかというと、小さい頃に好奇心が喚起されるような体験的な学びが少ないことが原因にあるのではないかと私は思っています。高校生からこれを呼び起こすのはなかなか時間的にも難しい。人の好奇心というものは、案外小さい頃の体験が重要ではないかという、これは脳の発達過程においてそのうち明らかになるかもしれません。

       その2に 続きます。