夫の実家の村に帰るため、休業しているバスの代わりにタクシーを予約した。これまでチャンディガール市からヒマーチャル・プラデュ州の実家までの相場は一台4,000ルピー(約6,000円)。
でもここ最近、いくつか便利なカーシェアリングのアプリが登場した。ロックダウンおかげかも?そこでは片道料金が2人で1,500ルピー程に。
さてタクシーの中。夫はここでも1時間半ほどWebミーティングだった。
後から判明したのは、もう1人のシェア相手も夫と同じバルサー村が目的地。でも何故かそれを1つ手前の村名と勘違いしていたドライバーさん。「△△村までしか行けない」と前日夫に伝えていたらしい。
ミーティング中の夫、途中で乗ってきたシェア相手と再度確認することもなく、(私もドライバーさんとシェア相手の会話はチンプンカンプン)、手前の△△村で降りるしかないと思い込んでいる。
だから夫は実家の村のタクシーを△△村に迎えに来るよう予約してしまっていた。ミーティングが終わった夫が会話に加わってはじめて、
「え?君もバルサー村に行くの?僕たちもだよ!。。てかドライバーさん!」
ということになる。でも△△村はもう目と鼻の先。笑
△△村に来てくれたのは、いつものバルサー村のタクシーおじさん。トゥクトゥクと同等のエンジンと永遠に閉まらない窓がチャームポイントの、スッカスカの軽みたいな車でウィーーーンと田舎道を走る。
どんな早朝でも急な夜中でも必ず駆けつけてくれるおじさん。笑
実家に着くとお義母さんは庭の真ん中の椅子に座って、可燃ごみを燃やしているところ。マスク、外せずにご挨拶。
義弟とお嫁さんの姿は見当たらない。畑の方で農作業をしているらしかった。到着早々、お義母さんはヒソヒソ声で近況報告を始める。
夫は、母親の話にはよく付き合うタイプ。結構な威圧感とラスボス感を醸し出すお義母さんに、義弟などは反発ざかりで会話に加わるのを嫌がる。
夫は聞き流しながらあたかも興味深く聞いているかのように、アチャー、アチャーと律儀に合いの手を入れるのだ。ま、たまの親孝行だもんね。笑
荷物を部屋に移動しながら夫が教えてくれたのは「お義母さん、お嫁さんがここ10日間全然家事をしてくれないって文句言ってた」と。「お嫁さんは体調を崩しているらしいよ」って。
なるほどー、と思うも、この時は「家事」がどの程度の内容なのか全然分かっていない。ヒソヒソ声の人の話は本能的に受け付けないので、言葉が分からなくてラッキーと思う。笑
夕暮れ時、あらゆる種類の鳥たちが美しいさえずりを始めていた。親指ほどの小鳥からクジャクまで、1日の終わりを呼び合うハーモニーに耳を澄ませる。
残雪のあるヒマラヤを望む高地なので、チャンディガールの街と比べると空気は冷涼。空には雲が美しい模様を広げていた。
中庭の簡易ベッドに腰掛けて再び雑談していると、お嫁さんのミーナが熊手を背負って畑から戻り、やけにゆっくりと歩いて来るのが見えた。
少し遠くから手を振ってみるも、反応ナシ。
ん?
ミーナの姿を目の端で捉えた瞬間お義母さん、「ミーナ!オー、ミーナ!晩御飯はまだなの?」と大声でで叫ぶ。
ミーナ、再び無言、それなのにゆっくりとした足取りでバスルームの方に歩いて行き、扉を閉じた。
ん?
何か怖っ?!
10分後、おそらく農作業の汚れを洗い流し終わった彼女がバスルームから出て来るとお義母さん、再び大声。
「ミーナ!晩御飯は何作るのって聞いてるの!」
「。。。。」
見かねて夫、「いいよ、そんなに急がなくて。お腹すいてないから」と義母をなだめる。無言のミーナはどうもお冠のよう?まぁ、義母との間で嫌な事があっただろう事は、私にも容易に想像できた。
蚊が増えたのでお義母さんの部屋へ移動。お義母さんはまたヒソヒソ声で何か夫に言たり、ミーナが夕飯の支度をするキッチンの方を見て眉をひそめたりしている。表情が分っかりやすいなー。ヒソヒソの意味。笑
私はひたすらテレビを見るフリね。(ターバンの人たちのロマンスドラマとか全く興味ないw)
台所にいるミーナに顔を出しに行ってみると、ニコっと笑って挨拶してくれた。やっぱり義母だけに怒っているっぽい。後で夫がコッソリ「母さんと口を利いてないんだって」と教えてくれる。
夕食は義弟のサンニが部屋まで運んでくれた。ターリーと言うお皿に野菜カレーとチャパティ。お水のカップ。きゅうりのスライス。北インド定番の家庭メニュー。
サンニは義母、夫、私それぞれのタイミングを見計らい、ミーナが焼いている焼きたてのチャパティを運んで来てくれる。
冷たい食事は出さない、焼きたてをサーヴするのがこちらの家庭の礼儀でありルール、そしておもてなしの形でもある。
一家の主婦は台所で作業をして、皆が食べ終わってから食事する。私はそれを見ていて申し訳ない気持ちになる。でも決して男尊女卑ではなく、この土地の文化であり役割分担なのだと理解した。
そんなお・も・て・な・しの気持ちにも隙間風が吹くような、互いの心が別の方向を向いているのをヒシヒシと感じる第一日目の夜だった。