木青
この状態は、「青い木」ではなく、「木に青」と言ったほうがいいだろう。たまたま最近は、いろんなものに勝手に名前をつけようキャンペーン実施中なので、この木にも名前をつけなくてはいけない。これは、義務であり必要であり強制だ。「木に青」な状態だから漢字で「木青」。偶然にも「木青」という漢字は存じ上げないので、読み方がわからない。「つばき(椿)に見えるよね」とか「地上のさば(鯖)」って読んでもいい。
公に密かに募集をかけたところ、木→黄と考えて「黄に青」で「みどり」、と読むのがよいという意見が多数を占めたとのことなので、「木青」とかいて「みどり」と読んでもよいことにした。これはただの許可なので、そう読んでも読まなくてもよい。
「えっ、何言ってるの?」
僕の発言を嘲るように、彼女が言った。その頬には、いつものごとくえくぼができている。愛らしい。その光景をいつまでも黙って見続けていたかったが、それが僕がさっき言ったことに対して、共感の気持ちからできたものではないことはわかっていたので、いつもなら愛おしくうつるその凹凸が、しだいに霞んでいった。もともと、理解してもらおうと言ったわけではない、僕はただ、体の中心部分からずぃーんずぃーんと音をたててこみ上げてる感情を、どうにかして言葉で表したかっただけだ。だから、この欲求に近い衝動をうまく抑えることができず、彼女が今どんな顔をして僕を見ているのか確認しないまま、同じ言葉を再び呟いていた。
「横断歩道って、シマウマみたいだね。」





