ハードボイルド・ノーリターン
昔は750ccですら、高嶺の花だった。
自分への褒美だとか、何かの記念だとか、
買うには理由が、いや、買うには勇気が必要だった。
〈こいつが似合う男になりたい、いつか、きっと〉
ハタチやそこいらの若造だった私にとって、
その存在は男のステイタスそのものに思えた。
だのに、何だ。
こんなに安くなっちまった。
誰でも、いつでも、構えることなく手が出せる。
威厳も風格も色褪せてしまった。
あのころ感じていたオーラは、いったい何だったのだ。
しかもリッターサイズでその値段だって?
ミスターハードボイルド、
悪い夢でも見ているようだぜ。
アルコール度数で計算したら、焼酎並みじゃないか。
あのころお前に費やしたカネ、まとめて返してもらいてえな。