トニー賞作品賞受賞作品。原作は映画『迷子の警察音楽隊』

 

ブロードウェイで観た時の感想はこちら。

 

 

とても良かった。イスラエル人もエジプト人も流暢ではない英語で話すという部分など、どうやって翻訳版を演じるのかな?と思っていたが、最大限うまくそのあたりも表現していたと思う(翻訳版への懸念については下記の記事で書いた)

 

 

ミュージシャンが無理なく役者として舞台上で馴染んでいて、もしかしたらブロードウェイ版よりも芝居と音楽の融合は上手くいっていたかもしれない。濱田めぐみと風間杜夫の繊細で渋い演技もブロードウェイ版より大人っぽく色香があり、日本版の方がウェルメイドな印象を受けた。ものすごく丁寧に細かく作り上げていった作品という感じで、演劇として非常にクオリティが高い。賞も狙えるんじゃないだろうか。

 

ただ、色気やハートフルな要素や流麗さが増した一方、ブロードウェイで観た時に感じたもののいくつかがなくなっていたのも事実。それはある種の緊張感だ。

 

エジプトとイスラエルの関係が特に良かった時期、さらにエジプト側が政権に近い人間たちなので、ブロードウェイ版も対立構造はほとんど見えなくなっていた。しかし、「NYの劇場」で、「トランプ政権下」で、「イスラエルとエジプトの物語」を鑑賞したという環境は、それだけで緊張感を醸成していた。あの場にいた誰もが、中東問題や宗教の問題が脳の片隅に常にある状況で「国境を越えた人間たちの交流」を観ていたのは確かだ。

 

しかし、日本で見る「バンズ・ヴィジット」において、中東問題や宗教問題を念頭に置きながら観ていた人がどれだけいただろうか?2018年のNYでは念頭に置かざるを得なかった。しかし、2023年の日本では念頭に置く必要は多分ない。その違いは、作品自体とは関係がないようで、かなり決定的な違いだった気がする。どちらがいいとか悪いとかいう話ではなく、メタ的なコンテクストによって大きな変化が起こりうるという発見があった。

 

コンテクストが違っても、作品の力が衰えるわけではない。少し違う響き方をしただけだ。特に、若い夫婦にまつわるストーリーは日本版の方がグッと来た。楽器で赤子をあやすところでどうしようもなく泣いてしまった。NYでもそのシーンで泣いたのだが、刺さり方が違ったのはなぜなのだろう。

 

あと、最初に家庭の食卓に音楽隊2名を招くシーン。NYでは父親が酒をすすめて「あ、そっか無理か。(ムスリムだから)」と、「無神経にすすめてすいません」感を出したやりとりがあった気がするのだが、日本版ではなかったような。それに加えて、ディナがトゥフィークにワインをすすめて、トゥフィークが「いまはいらない」と断るというシーンが出てきたのだが、NYではなかったような。エジプトは9割がムスリムなので、音楽隊もムスリムである可能性の方がずっと高いと思うのだが、なんで酒を飲む/飲まないによって宗教の違いを描くシーンを消しちゃったのかな?と少し不思議だった。「いまはいらない」じゃなくて「飲めない」と返した方がいいのでは……(私が見逃していただけだったらごめんなさい)

 

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