先日のアメリカ旅行で鑑賞した3本のミュージカル。


『The Band's Visit』
『FROZEN』(アナと雪の女王)

『A BRONX TALE』

※それぞれの感想はリンクにて。

 

日本で翻訳上演される可能性を考えた。

 

まあ、まず間違いなく日本版が上演されるだろうと思うのは『FROZEN』(アナと雪の女王)。原作の知名度は抜群だし、ディズニーミュージカルだし、ほぼ確実に劇団四季で上演されるだろう。そこまで突拍子もない特殊演出があるわけでもないので(プロジェクションマッピングにお金はかかりそうだけど)、これといった障害も見当たらない。

 

問題は、他の2作だ。

 

『The Band's Visit』は出資者にホリプロが名を連ねているので、日本版の上演が想定されているのだと思う。ただ、ここまで翻訳版が想像できない作品もないな、というのが正直な感想。

 

エジプトの警察音楽隊がイスラエルの田舎町に来てしまったという設定なわけだが、民族の設定と時代背景が微妙なわけで。アラブ諸国の中で唯一イスラエルとの和平交渉に踏み切り、アメリカから多額の援助を手にしたエジプトだが、国民感情は決してイスラエル寄りではない(それまでガンガン戦争していた両国なわけで、当たり前だが)。ただ、この作品で描かれている1990年代初頭というのは特に和平ムードが高まっていた時期ではあり、今の状況とは全く異なるのも確か。しかも、本作に登場するエジプト人たちは警察音楽隊なわけで、いわば権力側の人間。エジプトの一般市民の感情ともまた少し違うはず。ささやかでほっこりした内容とはいえ、かなり微妙なバランスの元で起きている状況を描いた作品なのだ。

 

また、言葉の問題もある。イスラエル人を演じている役者も、エジプト人も演じている役者も、それぞれルーツは持っているものの英語ネイティブな人が多い。そんな彼らが、訛っているどころではないブロークンイングリッシュで会話していく。歌になると突然発音が流暢になってしまう役者もいたが(特に若いキャスト)、この感じを日本語で表現するのは結構難しそう。まあ、でもこれは何とかなるかな。

 

上演すること自体は、何の問題もなくできると思う。食堂の女主人は濱田めぐみ、音楽隊の楽長は市村正親で完璧だし、クオリティは高いものになるだろう。ただ、想像ができない。表面上のストーリーに表れていない色々なことを、どうやって表現すればいいのか。例えば、私は『鎌田行進曲』をアメリカ人キャストで上演するのは想像できるものの、『パッチギ!』は想像できないのだが、それと似ている。

 

だからこそ、どんな舞台になるのか観てみたい。きっとチャレンジングな作品になるだろう。(地味すぎるので集客はやや心配だが)

 

なお、『A BRONX TALE』は十分に日本語版が想像できる。もちろん、前提となる状況は色々ある。白人コミュニティの中でもイタリア系移民は差別されていたため、黒人居住区と隣接した地域に住んでいることが多く、特に黒人に対する憎悪が深い……などなど。それを十分に表現するのは難しいかもしれないが、そういった差別や地理的条件はストーリー上に出てくるので分かりやすい。

 

対して『The Band's Visit』は、イスラエルとアラブ諸国の関係や歴史的背景について全く触れられないので、下手したらそういったことを完全にスルーして、単なる人情物語としか受け取ってもらえない危険性がある。また、イスラム教の戒律を前提にした言動などもあり(セリフでは触れられない)、「表面で出てこないこと」が鑑賞に際する肝になっている部分が大きいのだ。

 

招聘公演では流石に集客が厳しいと思うので、やるならば日本語上演しかないと(私だったら)判断するが、果たしてどうなるか?多くの人に観てもらいたいと思うからこそ、今後の展開に期待したい。