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(ŎᴗŎ)シカハタビ
ブログカテゴリー「弓と弦楽器、日本とカザフ」では、これらの企画をお送りする予定です。
 
《TURAN ethno-folk ensembleと日本の文化財のクロスオーバー》
《アメノウズメとаруақ(先祖霊) 〜太鼓と琴と大地〜》
《鳴弦はどこから来たのか》
《弓道とэ т н о с о л ь ф е д ж и о (エスノソルフェージュ)》

これらの企画が日本とカザフスタンのコミュニケーション・ギャップを越える一助になれれば幸いです。

そしてブログカテゴリー「弓と弦楽器、日本とカザフ」では、日本とカザフスタンの文化財を取り上げる予定であります。
その意見はあくまで『太平洋の斜め上な島国に住む考察厨のブログ』の意見であり、文責はブログ主うみひぢ_あしべが負います。
文化財の所蔵者、並びに文化財の研究者、これらの方々と当ブログは全くの無関係であります。
これらの方々のお考えと、当ブログの意見は全く無関係です。
その上で、当ブログの素人丸出しな考えをご笑覧くださいませ。


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(ŎᴗŎ)シカハタビ 
企画《TURAN ethno-folk ensembleと日本の文化財のクロスオーバー》の第1回である
【TURAN ethno-folk ensemble のBaurzhan  Bekmukhanbetさんと古代日本の弾琴男子埴輪のクロスオーバー】
のシリーズを投稿しております。

今回は日本の伝統楽器の和琴(ワゴン、ヤマトゴト)とそれ以前に存在した和琴の祖型のzitherの奏法が、ユーラシアやアフリカの楽器lyreの奏法に類似していることについての投稿です。

⊂O–O⊃あしべ
前回の投稿で紹介した,海外の音楽考古学の名著楽器の歴史 クルト・ザックス著(The History of Musical Instruments by Curt Sachs)』を今回の投稿で取り上げます。
そのなかの和琴とlyreについての部分を引用が中心になりますが、まずはその前にこの本の日本語翻訳版のP4にある「訳者のことば」にある文章をご覧ください。

「読んでいただくとすぐ分かることだが、中国や日本の項には明らかな誤りがわずかに含まれている。それはザックスが日本および中国の資料を翻訳で読んだことから起こった誤りで、我々にとっては気になる点ではあるが、もちろんこの本全体のすぐれた価値がそれによって左右されるものではないと思う。」

とあるんですよね。
これから紹介する引用の日本語翻訳版での「箏」や英語原文版の«koto»の部分ですが、和琴の弦の数や奏法を知っていれば、これは和琴のことだと考えるはずです。
楽器の歴史 クルト・ザックス著(The History of Musical Instruments by Curt Sachs)は日本で長い年月をかけて重版されています。
ですので、和琴の奏法がlyreの奏法に類似していることを知っている日本人は多いはずなんです。

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(ŎᴗŎ)シカハタビ 
以下引用

楽器の歴史 [上]
クルト・ザックス(Curt Sachs)著
柿木吾郎 翻訳
全音楽譜出版社 出版
1965年9月10日 第1版第1刷発行
2002年1月20日 第1版第9刷発行

第2部 古代
第6章 ギリシャ,ローマ,エトルリア
ライア Lyres

P124
我々は日本の箏の奏法から、こういったテクニックについて学ぶことができる。「右手には牡牛の角またはネリモノで作った小さな爪をつけ、この爪で6本の弦全部を第1弦から6弦の順に、この楽器の右端近くにある高い柱(ジ)(ブリッジ)の付近をすばやくかき鳴らす。そして左手ですぐ弦を押さえ、更に声を伴奏する小さなメロディーが左手の小指で鳴らされる。この「スクイ scratch」はリズムの合間に入れられる。(Piggot)

引用以上。

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(6∀6)シカタケル
このCurt Sachs博士の著書「楽器の歴史」の英語原文版がKindleにあったので、上記に対応する部分を引用する。

The History of Musical Instruments by Curt Sachs, 1940
SECOND PART - Antiquity
6. Greece, Rome and Etruria

We can form an idea of this technique from the playing of the Japanese long zither, koto: “In the right hand a small slip of ox-horn, or other hard material, is held, with which all the six strings are scratched rapidly, from the first to the sixth, close to the long bridge at the right of the instrument. The strings are then at once damped with the left hand, and a little melody accompanying the voice is tinkled out with the left little finger, the ‘scratch’ coming to mark the pauses in the rhythm” (Piggott). 

引用以上。

⊂O–O⊃あしべ
引用した文章はlyreの奏法を説明するために日本の「箏(koto)」を例にあげている部分です。
「箏(koto)」の奏法は、lyreの奏法の説明が可能だというわけです。
ですが、
6本の弦全部を第1弦から6弦の順に、この楽器の右端近くにある高い柱(ジ)(ブリッジ)の付近をすばやくかき鳴らす。そして左手ですぐ弦を押さえ
という部分を見れば、これが和琴の話だというのはすぐにわかります。
和琴の弦は6本です。箏の弦は13本か17本です。
そしてこの後に続く奏法の説明は、和琴の主な奏法がまさしくそれです。
つまり、和琴とlyreの奏法は類似しているわけなんです。

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(ŎᴗŎ)シカハタビ
ちなみに和琴がこの本の中で取り上げられていないわけではありません。その部分を引用しましょう。

第2部 古代
第8章 極東
長いチター Long Zither
P183

日本と朝鮮には弦数の少ない箏が残っている。日本には(※中略)これらの変種のうち最も重要なものはヤマトゴトあるいは和琴で,これは中国の影響を受ける前から日本にあったものといわれている。

引用以上。

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(6∀6)シカタケル
その部分に対応する英語原文版を引用する。

SECOND PART - Antiquity
8. The Far East
Japan and Korea have preserved chengs with a smaller number of strings; Japan, 
(※中略)
 The most important of these varieties is the six-stringed yamato-koto, or wagon, which is said to have existed in Japan before the times of Chinese influence.

引用以上。

⊂O–O⊃あしべ
このように、Curt Sachs博士の手元にあった資料には和琴についての情報はあったわけですから、本来は和琴の奏法の説明だった情報が、箏の説明としてあちらへ届いてしまったに違いないとワタシは推測します。

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(6∀6)シカタケル
では、lyreの説明に使われるような和琴の奏法はどのようなものなのか?
あしべ説明しろ

⊂O–O⊃あしべ
『日本音樂史1 田邊尚雄 著』という本を参考にして、和琴の奏法を大雑把にまとめます。

・右手に琴軋(ことさぎ)というピックを持ち、左手は指先を使う
・和琴の弦数は6弦で、奏者側を第一弦とする
・「三(さん)」という奏法で、右手の琴軋(ことさぎ)で第六弦から第一弦まで弾き鳴らし、その後で左手の5本の指で第三弦以外の全ての弦に触れて音を消し、第三弦の音だけを余韻で残す
・「四(し)」という奏法で、右手の琴軋(ことさぎ)で第一から第六弦まで弾き鳴らし、その後で左手の5本の指で第四弦以外の全ての弦に触れて音を消し、第四弦の音だけを余韻で残す
・「折(おる)」という奏法で、左手の指先で定められた弦を一本ずつ鳴らしていく
・「摘(つむ)」という奏法で、両手で定められた弦を弦を一本ずつ鳴らしていく

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(6∀6)シカタケル
「三」と「四」の奏法が、「楽器の歴史(The History of Musical Instrument)」のlyreの部分にあった奏法に対応するわけだ。
しかしずいぶんと説明をはしょったなー。
参考にした本にはもっと詳しく書いてあったぞ。

⊂O–O⊃あしべ
しょうがないですよ、ワタシは素人ですから。
下手な説明よりYouTube動画で実際の演奏を閲覧者の方にみていただく方が話は簡単です。

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(ŎᴗŎ)シカハタビ
和琴で最も知られている曲に『菅搔(すががき)』という曲があり、和琴の奏法を
「三・折、三・三・四、三・三・四、三・折、三・摘・三」
と演奏する曲です。

『菅搔(すががき)』は格式の高い曲であり、神前で演奏が行われているのを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。

平成30年 和琴「菅搔」二齣二返 一松神社 高画質版




こちらのYouTube動画のチャンネル主である『一松神社』さまについては、残念ですがYouTubeチャンネルの概要欄からは社名以上の情報がわかりませんでした。

⊂O–O⊃あしべ
この奏法は英語では「blocking」と呼ぶようですね

参照
Anglo Saxon Lyre Notes Approaching the Instrument
PRODUCED BY
Dr Andrew Glover-Whitley 
http://www.andyglover.co.uk/resources/Anglo%20Saxon%20Lyre%20Notes%20Approaching%20the%20Instrument.pdf

⊂O–O⊃あしべ
では、和琴の祖型のzitherでもlyreの奏法が使われていたのかどうかについてですね。
こちらは鳥取県青谷上寺地遺跡出土の1 世紀頃(弥生時代中期後葉)頃のzitherを復元した画像です。

画像提供
鳥取県 地域づくり推進部 文化財局 とっとり弥生の王国推進課 青谷かみじち史跡公園準備室
https://www.pref.tottori.lg.jp/yayoi-suishin/

Copyright(C) 2006~ 鳥取県(Tottori Prefectural Government) All Rights Reserved

無断転載厳禁 

この復元されたzitherは長さ40.2cm、幅9.6cmと小型ですが、復元実験では右手でも左手でも和琴と同様の奏法が可能であったことが確かめられています。

参考
青谷上寺地遺跡発掘調査研究年報2021
IV 青谷上寺地遺跡の琴について
-活用に向けた評価と復元- 
門脇 隆志 著
https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/1319650/koto.pdf

これはあくまでワタシの個人的意見ですが、祖型のzitherもlyreに類似する奏法を使っていたと想定してよいのではないかと考えます。

/")/") 
(ŎᴗŎ)シカハタビ
念のため繰り返します。
これはブログ主の個人的な意見です。
青谷上寺地遺跡の研究者の方々が、実際にlyreについて言及している事実はありません。
文責は全てブログ主のうみひぢ_あしべの上にあります。

/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
全てうみひぢ_あしべの個人的な意見であることを前提にして話を進めるので、このブログを読んでいる閲覧者はそのつもりでいてくれ。
lyreの奏法又は楽器のlyreが日本にもたらされたルートについては前回の投稿で説明したが、あしべは北ユーラシアから朝鮮半島経由のルートを想定している。
だが、すぐにこの想定にたどり着いたわけじゃあなかったんだよな。

⊂O–O⊃あしべ
ロシアにSiberian lyreと呼ばれる楽器、現地ではнарс-юх、またはанквылтапと呼ばれるlyreがあるのは知っていましたが、これが日本の祖型のzitherと同じくらい古いかどうかわかりませんでしたので、このSiberian lyreをもってlyreの北ユーラシアルートの証明にはできませんでした。
強いて考えるなら、アフリカにはlyreが多くありますので、可能性としては日本の南方からのルートがありうる?
くらいのことしか、当時のワタシには言えませんでした。

/)ЧЧ/)
(6∀6)シカタケル
一度はあきらめたあしべだが、しかしその後lyreの北ユーラシアルートを示すデータを見つけることができたんだよ。
しかもなんとTURAN ethno-folk ensemble の祖国カザフスタンで!

⊂O–O⊃あしべ
それがDzhetyasar(Жетіасар)のqossaz(қоссаз)でした。


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