透析とリンのお話:なぜリンが高いとPTHが暴走するの?
皆さん、こんにちは! 腎臓病や透析について、日々色々な情報を目にされているかと思います。「リン」や「PTH」といった言葉、よく聞くけれど、具体的にどんな関係があるんだろう? と疑問に思っている方もいらっしゃるかもしれませんね。
今回は、透析患者さんの体の中で何が起こっているのか、そしてリンとPTH(副甲状腺ホルモン)がどのように絡み合っているのかを、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。
そもそも「リン」って何? なんで透析患者さんは高くなるの?
まず、私たちの体にとってリンはとても大切なミネラルの一つです。
骨や歯の主成分になったり、エネルギーの代謝に関わったり、細胞が正常に働くために欠かせません。
健康な腎臓は、体内の余分なリンを尿として体の外に出してくれます。ところが、腎臓の働きが悪くなると、このリンを排出する能力が低下してしまいます。 食事から摂ったリンが体の中に溜まってしまい、血液中のリンの濃度が高くなってしまうのです。これが「高リン血症」です。
高リン血症は、かゆみ、骨の痛み、血管の石灰化(血管が硬くなること)など、様々な問題を引き起こす可能性があります。特に血管の石灰化は、心臓病のリスクを高めるため、リンの管理はとても重要なんです。
リンが高いと「PTH」が暴走!?
さて、次に登場するのが「PTH(ピーティーエイチ)」と呼ばれる「副甲状腺ホルモン」です。
このホルモンは、首のあたりにある小さな副甲状腺という臓器から分泌されます。
PTHの主な仕事は、血液中のカルシウムの濃度を一定に保つこと。カルシウムが足りなくなると、PTHは次の3つの方法でカルシウムを増やそうとします。
-
骨からカルシウムを溶かし出す: 骨はカルシウムの貯蔵庫です。PTHは骨を少し分解して、必要なカルシウムを血液中に供給します。
-
腎臓からカルシウムが捨てられるのを防ぐ: 腎臓で、尿として排泄されるはずだったカルシウムをもう一度体内に吸収させます。
-
腸からのカルシウム吸収を助けるビタミンDを作るのを促す: 腎臓で活性型ビタミンDが作られるのを助け、ビタミンDが腸からカルシウムを吸収しやすくします。
「リンも骨から溶出する」ってどういうこと?
ここで大切なポイントが一つ。PTHが骨からカルシウムを溶かし出すとき、実はリンも一緒に溶かし出してしまいます。
骨はカルシウムとリンが結合した状態で存在しているため、骨を分解すると両方が血液中に出てくるのです。
慢性腎臓病になると、リンがうまく排泄されずに増え、さらに活性型ビタミンDが作られにくくなるため、血液中のカルシウムが不足しがちになります。体は「カルシウムが足りない!」と判断し、副甲状腺からPTHをどんどん出させます。
PTHが出すぎると、骨からカルシウムだけでなくリンも大量に溶かし出してしまうため、もともと高いリンがさらに高くなるという悪循環に陥ってしまうのです。これが「二次性副甲状腺機能亢進症」と呼ばれる状態です。
PTHが高い状態が長く続くと、骨がもろくなったり、血管の石灰化をさらに悪化させたりするため、このPTHを適切にコントロールすることが、リンと同じくらい重要になります。
PTHを下げる注射薬の役割
そこで登場するのが、皆さんが耳にするかもしれない「パーサビブ」や「ウパシタ」といったPTHを下げる注射薬です。これらの薬は、副甲状腺に直接働きかけて、PTHの分泌を強力に抑えることができます。
「あれ? リンが高いのが問題なのに、なんでPTHを下げる薬なの?」と思うかもしれませんね。
この注射薬は、直接リンを体外に出す作用はありません。 しかし、PTHを抑制することで、骨からの余分なリンの溶出を抑えることができます。つまり、PTHを下げることで、間接的にリンの値を安定させる手助けをしているのです。
もちろん、リンの管理の基本は「食事療法」と「リン吸着剤」の服用です。
食事でリンの摂りすぎに気をつけ、食後にリン吸着剤を飲むことで、食べ物から吸収されるリンを減らします。それでもリンやPTHのコントロールが難しい場合に、このような注射薬が使われることがあります。
まとめ
-
健康な腎臓はリンを排出しますが、腎臓が悪くなるとリンが溜まり「高リン血症」になります。
-
リンが高いと、血液中のカルシウムが足りなくなり、それを補おうと「PTH(副甲状腺ホルモン)」が過剰に分泌されます。
-
過剰なPTHは、骨からカルシウムと一緒にリンも溶かし出すため、さらにリンが高くなる悪循環に。
-
「パーサビブ」や「ウパシタ」といった注射薬は、PTHの分泌を抑えることで、間接的に骨からのリンの溶出を減らし、リンの管理をサポートします。
透析患者さんにとって、リンとPTHの管理は、快適な透析生活を送る上で非常に大切です。疑問に思うことがあれば、遠慮なく医師や看護師、薬剤師に質問してみてくださいね。