長野県の諏訪湖には昔からニゴロブナに似たフナ類がいることが知られ、ナガブナと呼ばれている。

 

今回の秋の遠征で諏訪湖に立ち寄った10月の中旬に、流入河川下流部でヘラ釣りスタイルでナガブナを狙ってみた。

 

初日は細めの流入河川に入り、午後の三時間ほどを釣ったが、底に藍藻が生えていて水質が悪いなと感じた通り、タモロコ系とギルしか釣れなかった。

 

翌日は、早朝から一つ隣の川に入ってみたが、すでに下流に一人先行者がいた。その後もう一人私たちの間に入った。

 

十五尺のバランスの底釣りで始める。緩い流れがあったがドボンにするほどではなかった。エサはニゴロブナの時とほぼ同じで、野釣りグルテンの代わりに野釣りグルテンダントツを使った。ハリは5号ハリス0.5号で10センチと15センチ。

 

半時間ほど打ち続けているとアタリ!乗ったが強烈な引きに竿を立てて踏ん張っているうちにハリを伸ばされ、バレた。

 

その後はアタリがパッタリと遠のいたが、魚がいないわけではなく、真ん中の真鮒師は尺越えのフナを二尾、矢継ぎ早に釣り上げていた。

 

その後、二人とも帰られたので、フナが上がったスポットへ釣り座を移動させた。

 

後でわかったが、このスポットは下流に向かって少しカケアガリになっているので、回遊しているらしいフナはここで少しとどまるようだった。

 

ほどなくして、明快なアタリがあり、良型が掛かった。だが寄せてきた魚の背中には美しい曲線を描く長い背びれがあった。

 

案の定、ギンブナだった。

 

その約40分後、また良型が来た。こんなに尺越えばかりが来るとは思っていなかった。硬中硬の竿だったので手前にボサがほとんどなかったのはラッキーだった。

 

その、なんとか寄せてきたフナを上から見ると、あの豪華な背びれはなく、小さな背びれが少し後方に付いているので、なんだかやたらと体の前半が大きく感じられた。

 

タモ入れする頃には期待は確信に変わっていた。やった、ナガブナだ!

 

初めて釣った諏訪湖のナガブナ、約35センチ、メス。

 

諏訪湖の初ナガブナ別影

 

初諏訪湖ナガブナの俯瞰

 

初諏訪湖ナガブナの腹側

 

初諏訪湖ナガブナの頭部近影と正面。亜種同士になる可能性の高いニゴロブナとは違い、口は小さい。

 

初諏訪湖ナガブナの背びれ。分岐軟条数は12で、14から18本とされる範囲を2本も下回っていた。ギンブナに比べてとても小さく、後方に位置している。

 

初諏訪湖ナガブナの左第一鰓弓。鰓把数は50で、45から57本とされる範囲内に確かに収まっていた。

 

さらにその約40分後には、二尾目のナガブナが来た、サイズアップして!

 

二尾目のナガブナ、約39センチ、メス。

 

二尾目のナガブナの俯瞰

 

二尾目のナガブナの腹側

 

二尾目のナガブナの頭部近影と正面。やはり口は小さいが、初ナガブナに比べてよりギンブナに近い形態をしていた。

 

二尾目のナガブナの背びれ。分岐軟条数16と、ナガブナの範囲内に収まっていた。

 

二尾目のナガブナの左第一鰓弓。鰓把数は53で、やはりナガブナの範囲内に収まっていた。

 

この後、できればオスを釣って見てみたいと思い、夕暮れ近くまで粘ったが叶わなかった。この間、三尾のギンブナが釣れたので、結局ナガブナ二尾、ギンブナ四尾という結果だった。外道はやはりタモロコ系とギルだった。

 

同時・同所的に釣れた約36センチのギンブナ。ナガブナに比べて体高があり、大きな背びれがより前方から始まっている。

 

初日にボウズをくらった時には、やはり春のノッコミ時期しか釣れないのかなと思ったが、無事に二尾釣れ、ニゴロブナと違って諏訪湖のナガブナは秋にも流入水路の方に居着きの個体群がいることが確認できた。琵琶湖と違って諏訪湖は最深部でも7.2メートルしかないことも理由の一つかもしれない。

 

諏訪湖の他に、福井県の三方五湖にもナガブナがいることが知られているが、その他に、ナガブナと呼ばれているフナ類は東北・北海道にもいて、釣ったことがある。そこで、これまでに釣った個体を北から順に下に挙げてみた。

 

なお、日本淡水魚類愛護会がまとめたに基づいて、ニゴロブナ並に体高が低く、背鰭分岐軟条数14-18、鰓把数45-57の範囲に収まるものをナガブナ型、収まらないあるいは未計測だが形態的にナガブナの可能性があるものをナガブナ様(よう)とした。

 

石狩川水系の農業用水路から6月初旬にアカムシを使って同時・同所的に釣れたナガブナ様フナ類。いずれも口が斜め上を向き、また吻の上反りと外翼状骨(フナ類のページ参照)の張り出しが目立っていた。

 

上記の個体が釣れたスポットから約300メートル下流で後年8月下旬に釣った3個体。

上:全長約14センチ、メス、背鰭分岐軟条数14、鰓把数41

中:全長約13センチ、オス、背鰭分岐軟条数15、鰓把数47

下:全長約12センチ、メス、背鰭分岐軟条数14、鰓把数37

鰓把数についてナガブナ型に収まるのは中の個体のみだったが、体高があってナガブナらしくなく、一方、一番ナガブナ らしかった上の個体の鰓把数は41しかなかった。

 

石狩川水系の某水域から6月下旬に釣れたナガブナ様のフナ類2尾(上2枚は同一個体)。

上:背鰭分岐軟条数15か16

下:背鰭分岐軟条数おそらく14

 

上記の2個体と同じ水域から7月下旬に釣ったナガブナ型フナ類。全長約20センチの抱卵中のメスで、背鰭分岐軟条数16、鰓把数49。釣り上げた時はシイラのようにうっすらと緑がかった黄色味を帯びていた。

 

上記の個体と同所的に8月中旬に釣った個体。全長約21センチの全体的に赤みがかっているメスで、背鰭分岐軟条数は14。

 

石狩川水系の別の某水域からマッシュとグルテンのミックスで8月下旬に釣ったナガブナ型フナ類とその左第一鰓弓。全長約15センチのメスで背鰭分岐軟条数15、鰓把数48。

上の個体と同時・同所的に釣れた他の2個体のナガブナ型フナ類。

上:全長約16センチのメスで、背鰭分岐軟条数14、鰓把数48。

下:全長約17センチのメスで、背鰭分岐軟条数15、鰓把数50。

 

7月下旬に上記3個体と同じ水域からスレで釣れた別のナガブナ型フナ類2尾。

上:全長約20センチ、背鰭分岐軟条数16、鰓把数47。

中・下:全長約16センチのオス、背鰭分岐軟条数13、鰓把数49とその精巣。

 

上記2個体と同時・同所的に釣ったナガブナ様フナ類。全長約17センチのメスで、背鰭分岐軟条数13。口が非常に大きかった。

 

8月上旬に同じ水域から釣ったナガブナ様フナ類(全て同一個体)。全長約18センチ、背鰭分岐軟条数15。

 

上の個体と同時・同所的に釣った別個体2尾。背鰭分岐軟条数と鰓把数未計数。

上:全長約16センチ

下:全長約13センチ

 

上の個体と同時・同所的に釣ったオスの1尾とその精巣および鰓蓋・胸びれ上の追星。背鰭分岐軟条数14、鰓把数45以上。

 

道央南部の非・石狩川水系で2016年7月下旬に釣れたナガブナ様の背鰭分岐軟条数14の個体と、後年同じエリアから釣った全長約18.5センチのほぼ同サイズのメスの似た個体とその左第一鰓把。下の個体は背鰭分岐軟条数14、鰓把数45と、ナガブナ型に当てはまったものの、その鰓把は短く、下端近くでは内側の鰓把と形態が対称的に相同といった特異な形質を持っていた。同時・同所的に釣った他の2個体も同様だった。

 


2018年5月に秋田県内のある池から釣れたナガブナ様フナ類三尾。

 

2021年9月に秋田県内のため池から釣れたナガブナ様フナ類

 

2022年9月に同じため池を再訪し、三尾を解剖した結果は以下の通り。#3のみナガブナ型に当てはまった。なお、釣った11尾中、全長が15センチを超える個体はいなかった。

 

#1:全長約11センチ、メス、背鰭分岐軟条数14、鰓把数37

#2:全長約11センチ、メス、背鰭分岐軟条数14、鰓把数36

#3全長約12センチ、メス、背鰭分岐軟条数15、鰓把数45

 

新潟県の山中の池から釣れたナガブナ様フナ類。上から3枚はこの日(2018年9月中旬)の最大個体で、背びれ分岐軟条数は15か16、口がヘラブナのように大きかった。体高比2.78。下はその前に釣れた個体で、やはり口は大きく、背びれ分岐軟条数は14か15だった。

 

2022年10月初旬にこの池を再訪し、釣った三尾を解剖した結果は以下の通り。形態的にニゴロブナに酷似しており、背びれ分岐軟条数と鰓把数もニゴロブナの範囲にあることから、どうやらこの個体群は移植されたニゴロブナのようだ。

 

#1全長約19.5センチ、メス、背鰭分岐軟条数15、鰓把数55

#2全長約20.5センチ、メス、背鰭分岐軟条数15、鰓把数58

#3全長約17センチ、オス、背鰭分岐軟条数15、鰓把数53

 

こうして眺めてみると、諏訪湖・三方五湖以外でナガブナと呼ばれているフナ類には、口が大きく顎の張ったニゴロブナに似たタイプと、諏訪湖ナガブナに似たタイプの二つに大まかに分けられるようだ。

 

末筆ながら、この記事を投稿するきっかけとなった、ナガブナに目を向けさせて下さったコメント主の方に感謝いたします。