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今だから話せるウルトラクイズ裏話

17年にわたって放送された「アメリカ横断ウルトラクイズ」。構成作家として最初から最後まで関わってきました。放送出来なかったエピソードや裏話を思い出すままに綴っていこうと思います。

リカ横断ウルトラクイズのクイズ問題を振り返ると、世情が実に良く解ります。
「ああ、あの時代にはこの人が活躍していたのだ」とか「この様な流行だったのだ」と、世の中の動きがクイズ問題として、採用されています。
我々は、この種の問題を総称して「流行」と言う分野で、問題作者に依頼をして作ってもらっていました。
テレビ番組ですから、その時代が感じられないと視聴者が納得してくれない、という事情もありました。

同じ問題でも、時代に即さない問題は問題選考会議で「没」という冷たい声で否定されてしまうのです。
私は、期限内に問題の数を揃えなければならない立場でしたから、何とかこの種の問題を救済するために、問題の振りの文章にその時代と関係付ける言葉を挟んで、問題として成立させる努力をしていました。

えば
「山は動いた」という名文句を残した政治家は誰?
という問題がありました。
しかし、別にその年に話題となった言葉という訳ではありません。勿論、これだけでは問題選考会議は通過しないのは火を見るより明らかです。
そこで私はこの問題作者に、同じ人物の別の言葉をもっと探すように注文しました。
作者は早速調べて「ダメなものはダメ!」 「やるっきゃない!」という同一人物の別の言葉を探し当てました。
しかも、作者に取っては都合良く、その年の6月21日にご当人が辞任を表明したのです。
そこで、この問題は旬の問題として生き返ったのでした。

第15回のハワイで出題された問題です。
・今年6月に辞任を表明した「ダメなものはダメ!」「山は動いた」「やるっきゃない」という名文句を残した政治家は誰?

ハワイ


・土井たか子

解説
元々は憲法学者だった土井たか子さんは、1969年の総選挙で初当選しました。
この時は「おたかさんブーム」という流行語を生み、衆議院議員を12期歴任しています。
その間、1986年日本社会党の第10代委員長に就任し、憲政史上初の女性党首となり、女性議員の旗手的存在になりました。

その後、女性としては初の衆議院議長の座にも付いています。
たまたま問題として取ㇼ上げたい人物が、その年に話題になった場合は、「今年」と前文に入れるだけで、採用の可能性が高まるのです。
「何故、今その問題?」という否定的な意見に対して、
「今年の旬の話題だから!」 私の決まり文句でした。
メリカ横断ウルトラクイズがテレビで放送されていた時代には、今ほどサッカーに人気があったわけではありません。
93年に日本にリーグが誕生したのをきっかけに、全国的にサッカー人気が高まってきました。
以来、全国に少年サッカー・チームが誕生し、華やかなプロのサッカー選手を目指す少年少女が増えてきたのは最近の傾向といって良いでしょう。
お蔭で、今年はワールドカップの話題で持ち切りになりました。
日本チームは残念ながら決勝リーグに進めず、日本中に落胆の渦が巻き起こったのはつい最近の事でした。

その様な中で、世界中の人々を感動させる出来事がありました。
それは日本人サポーター達が、試合の行われた競技場で敗戦後に取った驚くべき行動です。
彼らは応援に使ったビニール袋に、会場のゴミを拾って、綺麗に後片付けを始めたのでした。
普通は、負けたチームのサポーターはやけくそになって、ゴミをばら撒く、暴れる、と言った乱暴な行為を行うのが世界の流れでした。
その様な中で日本人が行った美しい行為は、世界中のマスコミによって報道され、絶賛されたのはニュースでご存じの通りです。

ごみを拾う日本人


以前にも、東日本の大震災で、あのような災難が起これば他の国の場合、暴動が起き、商店やスーパーが荒らされるのが常識になっています。
しかし、日本ではその様な不届きな事件は1件も発生しなかったので、不思議な国民性と、日本人のマナーの良さが絶賛された事があります。
今回のワールドカップでも、日本人のマナーが、世界から褒められた事になります。
日本人は、マナーの良い国民で、安全な国という有難いイメージが高まっています。
これを日本人の気質と呼んで良いと思います。

さて、ウルトラクイズの問題の中にも、これに似た日本人気質のお手本のような問題がありました。
それは第15回のロサンゼルスで出題されました。

・「自分の葬式で交通渋滞を起こしたくない」という遺志を持ち、今年8月に亡くなりながら葬式をしなかった、日本のF1界の父と言えば誰?

本田宗一郎


・本田宗一郎

解説
本田技研工業の創設者で、数々の名車を世に送り出した、日本の自動車産業の代表者的な存在ですね。
その方が、多分盛大な葬儀になるのを予測して、交通渋滞を心配する、この辺が偉人の凄いところと言えるでしょう。
このエピソードは、日本の道路交通の歴史に刻むべき、出来事だと思います。本来であれば、小学校の教科書に記載されるような善行だと思いますよ。
でも、現在の文科省はその様な事、考えも付かないでしょうね。
クイズの問題の中には、知って得する こうした情報も沢山ありました。
メリカ横断ウルトラクイズを作っていた時代には、私自身が毎日のように、クイズ問題のネタ探しをしていました。
その習慣は何となく身に沁みついてしまい、今でもニュースを見ると時々クイズのネタになりそうと考えてしまいます。
その様な中で、最近のメディアで多くの話題を提供しているSTAP細胞の小保方晴子さんに注目しています。

彼女が最初に登場した時には「世紀の大発見」のように、全マスコミが大々的に紹介しました。
ところが、何故か論文に不正があった、というような疑惑が立ち登り、昨日までのマスコミのスター的な存在から、あっという間に疑惑の人物としてテレビ、新聞をはじめメディアは小保方さん叩きに変身したのです。
酷いものは研究の「捏造」といった表現で、彼女を攻撃しています。
更に、某週刊誌では「小保方晴子逮捕か?」といった見出しで、勝手な予想記事を発表し、それをきっかけにインターネットでは好き放題な噂話が駆け巡るようになりました。

この問題は、未だ何の解決も見ていないので、クイズ問題の材料としては使えないでしょうね。
しかし、小保方さんの登場で一躍世の中の脚光を浴びたのが、彼女が登場した時に着用していた割烹着の存在です。

どうやら、これは彼女のイメージ作戦として、最初から計算された演出の1部だったようです。
「祖母からもらった割烹着」という言葉が、人々の記憶に強く残りました。
今、ウルトラクイズがあったなら、今年の問題に割烹着を外すわけにはいかないでしょうね。

そこで、わずかな記憶を頼りに過去の問題を調べたところ、クイズ問題にありましたね。
第15回のロスアンゼルスで、出ていました。

・戦前大日本国防婦人会がユニホームとして採用した衣服は何?

割烹着


・割烹着

解説
当時、調査した解説文には次のような説明が書き込まれていました。
発案されたのは1882年で、日本橋の赤堀割烹教場の生徒の作業着として考案された。
作者は創始者の赤堀峯吉である、との説明です。

現在はインターネットで、調査も簡単になったので、さらに調べたところ次のような事が判明しました。
割烹着は衣服の汚れを防ぐために羽織って着るエプロンの一種。日本で考案されたもので、着物の上から着用できるので便利と喜ばれた。女性が家事労働をする際に、着物を保護するために、明治、大正、昭和の女性たちに愛用されました。

割烹着は、小保方晴子さんが着たために注目されましたが、実はすでに昨年の秋頃から若い主婦層に人気があったのだそうです。
理由は、汚れを防ぐだけでなく、エプロンと違って羽織るだけで暖かい、電気代も上がっているので暖房効果にもなる、と言うのだそうです。
おかげで通販の人気商品になっていたのだそうです。
理化学研究所はその様な世の中の動きも察知して、イメージ作戦に、この割烹着を採用したのでしょうね。
何しろ緻密な研究をする会社ですから、宣伝にも世の動きを読むのは当然です。

理化学研究所


割烹着業者の情報によると、小保方さん効果で、最近は3割も売り上げが伸びているという情報もありました。
追記として、発明者について更に詳しく判明したので、補足します。

赤堀峯吉さんは日本で初の料理専門学校を創設した江戸時代から続く料理人でした。彼の創設した赤堀割烹教場は現在の「赤堀料理学園」で、創立130年を迎えています。
この学校の制服が今年から割烹着に変更、 という話は全くありません。

メリカ横断ウルトラクイズでは、森羅万象の出来事からクイズ問題を作りました。但し、意識的に避けていた分野がありました。
それは、現在の皇室に関するクイズ問題です。
別に、皇室を問題にしてはいけない、という決まりがあるわけではありません。
クイズ番組は娯楽番組ですから、その素材に皇室の問題は避けるべき、と我々が自己規制していたのかも知れませんが、皇室の問題というのはあまり記憶にありません。
ただ、日本人として皇室をゲームの素材に使うのは如何なものか、と思うのは自然の流れと言えるでしょうね。多分、我々もその様な気持ちで、問題選考会議で、皇室の問題を外していたのかも知れません。

のような古い人間は「不敬罪」という言葉を知っているので、それであえて避けていたのかも知れませんね。ついでに言えば「不敬罪」そのものは、1947年の刑法改正により廃止されていますので、現在はそうした罪名はありません。
ただ、歴史上の出来事として、天皇を扱ったものは、クイズは知識を競うゲームなので、当然沢山あったと思います。
そんな中で、珍しく現代の天皇制を問題にしたクイズがありました。
それは第15回のエルパソで出題されていました。

El_Paso 


・昭和時代の天皇陛下は「昭和天皇」。では、現在の天皇陛下は何天皇?

皇室 


・今上天皇(きんじょうてんのう)

解説
これは日本人としての基本的な常識を問う問題として採用されました。
「昭和天皇」という名称は、天皇の崩御後に生前の功績をたたえて贈られた称号で、生前はその様に表現されないというのが、日本人の常識でした。
辞書にも今上天皇は「現在位に付いている天皇の呼び名」と記されています。

最近は、皇室を扱うメディアの姿勢も随分変化し、噂話やゴシップの類が週刊誌の市場をにぎわせています。報道の自由、民主主義という観点から見れば当然の流れかもしれませんが、私のような古い日本人から見ると、眉をひそめたくなる記事に驚きを覚えます。
出来れば皇室の問題は避けた方が良い、私は 古過ぎでしょうかね。

メリカ横断ウルトラクイズで、沢山のクイズ問題を作りましたが、正解の解説を更に詳しく調べようと百科事典で確認する事があります。
すると、解説の文章の方が日本語としてややこしく、分かり難いというような説明になってしまうのです。
つまり、百科事典の説明の方が、難解な文章で分かり難いという事なのですね。
そこで、この説明文を問題として、答えを求めるという手法で沢山の問題が作られました。
第4回のソルトレークシティーでのばら撒きクイズで次のような問題が出されました。

リハーサル_バラマキクイズ


・足の保護、歩行走行、労働能率などの向上のための働きをし、衣服とつりあった美観を保持し、足を包み込む閉鎖性の履物を何という?

解説
文章でゆっくりと読めば誰でも正解に辿り着くことが出来る易しい問題でしょうね。
履物と言えば、靴か下駄か、草履というのが子供でも知っている常識です。その中でわざわざ閉鎖性と断わっているのですから、通常の意識であれば間違える人などいないはずです。
ところが、ばら撒きクイズのように、走って問題を拾って戻り、更に次の問題を拾いに走らなければならない、体力と時間に迫られて頭がパニック状態になっていると、このややこしい説明が何のことやら判断が付かなくなってしまうのです。
正解は単純な
なのですが、それも思いつかないような状況なのですね。
正解を聞いたお茶の間の皆さんは大笑いなのでしょうが、挑戦者にとっては真剣に悩んでしまうような問題だったのです。

ハズレ


他にも百科事典の説明文を読んで見ると、この様な記述がありました。
空間を二分した時の一方の側。その人が北を向いていれば、東に当たる側。
その答は何でしょう?
ややこしくて、難しい説明ですね。この答えはなのです。
同じようにを辞書で引けば、文章は途中まで同文です。
違うのは、その人が北を向いていれば、西に当たる側。東が右ですから反対の西が左になるので、説明に間違いはありません。
事ほど左様に、辞書の説明文はややこしいのですが、この様な単純な問題が多く使われたのが「ばら撒きクイズ」でした。
視聴者は子供でも解る。でも、パニック状態の挑戦者の頭の中は混乱する、その様な問題は辞書の中に沢山隠されていたのです。

百科事典