『e視点』―いともたやすく行われるえげつない書評― -24ページ目

【映画】『モンスターズ/地球外生命体』(ネタバレ)

モンスターズ / 地球外生命体 [Blu-ray]モンスターズ / 地球外生命体 [Blu-ray]
スクート・マクナリー,ホイットニー・エイブル,ギャレス・エドワーズ

東宝

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★★★☆☆

あらすじ



地球外生命体のサンプルを採取したNASAの探査機が、大気圏突入時にメキシコ上空で大破。その直後からナゾの生物が増殖し、メキシコの半分が危険地帯として隔離される。
6年後、メキシコでスクープを狙うカメラマンのコールダーは、上司から現地でケガをした社長令嬢をアメリカ国境まで送り届けろとの命を受けるが……。

感想

死ぬまでに観たい映画1001本』掲載の映画より、『モンスターズ/地球外生命体』。
(関連記事:『死ぬまでに観たい映画1001本』を、死ぬまでに観てみるという軌跡のもくじ。

制作費が1万5000ドル(約120万円)と超低予算映画ながら、低予算映画の代名詞的な「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」や「パラノーマル・アクティビティ」なんかと比べると、映画としてかなりしっかり作り込まれている印象を受ける作品。
実際、ギャレス・エドワーズ監督は、この映画の評価によってハリウッド版ゴジラの次回作を任されることが決まったとのことだが、高評価も納得の作品だった。
(ま、ハリウッド版ゴジラの続報は全然入ってこないんですけど。。)


何がすごいって、あくまで「低予算にしては」の評価にではあるものの、130万円という予算で“あの世界観”を作り込んだこと。
この手のUFO・宇宙人モノ(厳密には宇宙『人』ではないので「モンスター映画」というべきかも)の映画に必須ともいえる「モンスターが人を襲う」シーンをほとんど見せないことで、逆に「モンスターが当たり前に存在している世界の日常」の空気感を感じさせるという作りは見事だ。

まあ、モンスターがほとんど登場しないうえに、現れたと思っても画面内に映るのはほんの一瞬。さらに、現れるのは決まって夜というところに「低予算」ゆえのショボさを感じたりもするし、全編を通してコールダーとサマンサの2人が廃墟と化したメキシコを歩くだけというのは、ロードムービーとしてもかなり単調な部類にはいるのも事実だ。

ただ、これは完全に僕の嗜好なんだけど、「今、生きている世界とは違う世界の中での”当たり前”」、つまりは「“非日常”の中の“日常”」を描いた作品っていうのが僕は大好きでして。

「日常の中の非日常」つまり「現実世界で起こる変なこと」と、「非日常の世界の日常」つまり「非現実世界(パラレルワールド)で起こる普通のこと」は、同じくエンターテイメントとして成立するということ。
この「非日常の日常」というエンターテイメント性っていうのは、ラーメンズ・小林賢太郎の言葉で、彼のインタビュー記事を読んで気づかされたことなんだけど、「非日常の日常」は、まさに僕のツボなのだ。
(この「非日常の日常」の最たるものが、大友克洋の短編アニメ『大砲の町』で。僕はこの作品がすげー大好きで、先日行った「GENGA展」でも、大砲の町のセル画にしびれてしまったわけです!)

本作はまさに、この「非日常の日常」を淡々と、そしてかなり丁寧に描いた作品。
本来なら、この手のSF映画の最大の見所であるべき「モンスター襲来」や「モンスター退治」のシーンすら無く、大きな見所は皆無といってもいい映画なんだけど(ま、予算の都合で派手なシーンを作れなかったってのが実情なんだろうけど)、会話の端々、そして「看板」や「ニュース」といった細部から“世界観”がこぼれ出しているかのよう。
結果、その世界の“日常”を違和感なく受け入れることが出来るし、脅威から逃げることしかできない“無力な普通の人”である主人公にしっかりと共感することもできるのだ。
(「宇宙戦争」みたいに、普通の人が逃げていたらいつのまにか宇宙人が死んでた。。。みたいな謎展開に陥ることもないですし。)

言うなれば、モンスターが存在する世界の“特別ではないある一瞬”を切り取っただけの作品なんだけど、個人的に「それがイイ!」と思える“日常”感。
「すごい!」とか「巧い!」と言っていいのかわからない部分もあるものの、ただただ「大好き!」な世界観演出で、それだけで個人的に満足な映画なのだ。

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そして、この手のSF映画の醍醐味は、何と言っても「ストーリーの裏側に隠された意図(寓意)」にこそあったりするんだけど、その点でも本作は高水準。

本作の寓意は、端的に言うと「世界の警察『アメリカ』様による人類のための空爆こそが、モンスター以上に現地の人の生活を苦しめている」ということで、「モンスター=テロリスト」と捉えると、必然的に中東あたりの国のことが思い起こされる。
さらに、ガスマスクが必要なのはアメリカ軍による生物兵器の使用を示唆しているし、そもそもNASAの失態によってモンスターが野に放たれたわけなのに、自衛のための城壁はしっかり作ってしまうアメリカ様。。。
寓意としてはやや安直で直球すぎる気もするけれど、「低予算だからといって、はじめからB級を目指して作られた作品」とは一線を画すような志の高さを感じる。
そんな「志」の一点だけを見ても、「素晴らしい!!!」と思えるのだ。


さらに本作は、2010年の公開時ではなく「今」観たことにより、製作時には意図されていなかったであろうテーマ性まで持ってしまっているということも無視できない。

「国内に“立ち入り禁止区域”が出来てしまう」という、それまでに想像し得なかった事態は、今、僕たち日本人が直面している現実と非常に共通点が多い。
「地球外生命体を回収して帰還中のNASAの探査機が、メキシコ上空で爆発モンスターが野生化したため、アメリカとの国境に高い城壁を建設してメキシコを隔離→しかし、モンスターは城壁内に侵入しており、安全地帯は実は安全地帯ではなかった」という本作の世界観。
“人為的ミスにより野に放たれ”“人間の手に余るモノ”になってしまったモンスター。
やがて“土地ごと封鎖するしかない”状況になったが、それでも人間の生活を脅かし侵蝕して来るというストーリーは、そのまま「モンスター=原子力」と捉えるべき映画に思えて仕方ない。

アメリカ国境間近、長大な城壁を前にコールダーが口にする「アメリカは外からだと違って見える。すぐ外から眺めているだけなのに。」というセリフ。
公開時には、“自由の国であるはずのアメリカが、外から見ると「檻の中に閉じ込められている」ように見えること”の揶揄だったであろうセリフが、今となっては「日本は外からどう見えているんだろう?」という秀逸な問題提起になっているのが非常に印象的だ。

同じく、道中でのコールダーのセリフに、このようなものがある。
「 知ってるか? モンスターに殺された子供の写真は5万ドルで売れる。 笑顔の子供の写真はゼロだ。 だから俺は悲劇を撮る。 ただ現実を記録する。 生活のためだ。」。
このセリフも、震災を通じた日本の報道のあり方に対し、考え直させられる面を含んでいる気さえしてしまうのだ。

この映画は震災前に製作・公開されているんだから、製作者の意図にはないメッセージを勝手に受け取っているだけなんだけど、それでも“メッセージ”を受け取らざるをえないほどに、あまりにも良くできた寓話なのでした。

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とういわけで、僕の個人的嗜好という意味でもかなり高評価の映画ながら、気になる点もいくつかある。

恋愛要素の部分がピンと来なかったり(ダメダメすぎるコーグナーにサマンサが惹かれた理由がイマイチ理解できない。クラゲを見て欲情するサマンサには「え?」って感じだし、女を連れ込んだことを後々になってグズグズと言い訳するコーグナーにも「え?」。。。)
オープニングの映像がエンディングの直後であるという倒置の構造も、あまり効果的とは思えなかった。

そして何より、(これまた超個人的な趣味なんだけど)せっかくだから「クローバーフィールド/HAKAISHA」や「ミスト」程度にはモンスターの姿も見たかったなぁ~という気がしないでもない。
(不用意に『ミスト』の名前を出してしまったことで、あの“オチ”を思い出して鬱な気分にさせてしまったとしたら申し訳ありません。。。)
映画やDVDが安くなるわけではない以上、見る側にとっては予算の多少は関係ないわけですしね。

そして何より、本作の公開より1年前の2009年に、低予算(と言っても本作と比べると十分に多いですが。)ながらも「物語性」「メッセージ性」そして「映像(VFX)」の面において、大作映画と比べても何ら遜色なく、SF映画史に間違いなく名を残す傑作第9地区なんてものが公開されてしまっていて。
全ての面において『第9地区』の劣化版に思えてしまうっていうのも、これまた正直な気持ち。

僕は「非日常の日常」が大好物なのはもちろんなんだけど、日常を丁寧に描いた上でさらに劇的な盛り上がりも感じる『第9地区』という作品は、やっぱりとてつもない傑作で。
それと比べてしまうと、あまりに何も起きない本作は、ちょっと退屈すぎるかな~とも思うのでした。
(ま、『第9地区』を多少劣化させたところで、超スゴイ作品の枠内なんですけど。)

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とまあ、気になった点はもろもろあるものの、「低予算ながら」しっかりと芯のある作品で存在感があり、“モンスターを出さない”というアプローチに「超低予算SF」の将来性をも感じる映画。
制作者の意図しない部分も含めた“メッセージ性”もブレてない傑作SFだった。

かなりの名作続きの『死ぬまでに観たい映画1001本』。
これまでの映画に比べると「うーん。。。」と思う気もあるけれど、“超低予算”の枕詞をつければ、本作も「観るべき映画」 で間違いないのでした。

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