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【映画】『神々と男たち』(ネタバレ)

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★★★★★

あらすじ



1990年代、アルジェリア山間部の小さな村にある修道院。
イスラム教徒の村人たちにとってそこは診療所であり、修道士たちは共に働き援助の手を差し伸べてくれる頼れる存在だった。
しかし、信頼と友愛を尊び、厳格な戒律を守って慎ましく暮らす修道士たちにも、アルジェリア内戦の余波で頻発するテロの脅威が迫る。
非暴力を唱える修道院長クリスチャンは軍の保護を辞退するが、ある晩、過激派が修道院に乱入する。

感想

死ぬまでに観たい映画1001本』掲載の映画より、『神々と男たち』。
(関連記事:『死ぬまでに観たい映画1001本』を、死ぬまでに観てみるという軌跡のもくじ。

『死ぬまでに観たい映画1001本』を見るまで、僕はこの映画の存在すら知らなかった。
まったく!こんな素晴らしい映画に出会えるなんて、「『死ぬまでに観たい映画1001本』を死ぬまでに観てみる」なんてことを考えた数ヶ月前の自分に感謝したい気分。
派手なシーンはほとんどなく、印象的なシーンは全て“静か”に語られるんだけど、その穏やかさがひたすらに美しくて、激しく心を揺さぶる映画だった。

さて、そんなド真ん中の名画『神々と男たち』だけど、僕にとっては存在すら知らない映画だったわけで、もちろんストーリーなど知る由もなかったんだけど、この映画は「実話」を元に作られた映画。
1996年のアルジェリアで起きた、原理主義者によるフランス人修道士誘拐・殺人事件という、残酷衝撃的恐ろしくヘビーな実話を題材とした映画だった。

恥ずかしながら僕は、「歴史」「宗教」といった話題に疎く、この「フランス人修道士誘拐事件」については、映画を観終えた後にネットで調べた程度の知識しか持っていないわけなんだけど、「修道士7人は誘拐された後、全員首を切断されて殺された」という強烈なエピソードがあったり、「修道士たちは、実はアルジェリア軍に殺された」なんていう陰謀説があったり。
そして、そもそも「事件の真相はまだわかっていない」と言われていて、いまだに事件に関する新たな証言が報道されたりしているようなセンシティブな出来事が、この「フランス人修道士誘拐事件」らしい。

フランスの植民地から独立を果たした「アルジェリア」という舞台の特異性も事件を理解し難くしている。
アルジェリアの知事が「フランスの植民地政策」について愚痴るシーンから示唆される、元・本国「フランス」との関係性
教会に乱入してきた過激派に対し修道士が語る、コーランの引用が示す「キリスト教」と「イスラム教」の関係性
事件の背景にある要素は、日本人の僕にとってはかなり難解で複雑だ。

まあ言ってしまえば、「歴史」も「宗教」もよくわかっていない僕は、結局のところ「フランス人修道士誘拐事件」なる事件のことだってよくわかっていないんだろうけど、こういう「事件」が過去に起こり、今なお世界のどこかでは「事件」が起きているという気づきを与えてもらったという意味で、間違いなく「観てよかった」と思えてくる。

ちなみに、こうやって、映画の元になった事件の「背景」を調べていくほどに、「この映画は素晴らしかった!」という想いがどんどんと積み上がっていき、感動が倍増していくのもこの映画の魅力の一つ。
“あの結末”を迎えるとわかっているからこそ、何気ない日常のシーンが愛おしく、“あの決断”の気高さが冴え渡る。
それが非常に美しく、いつまでも心の中に残り続けるような感覚を覚える映画だった。

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まあ本来であれば、この映画を観る多くの人が「フランス人修道士誘拐事件」のことを知っていて、初見の時点で「日常シーンの愛おしさ(かけがえのなさ)」「修道士たちの決断の気高さ」に感動できたはず。
そういう意味では、映画を観た後で「そういうことだったのか!」と振り返るような見方は、この映画の正しい見方ではないのかもしれない。
でも、映画って「その映画のことを思い出す度に、映画への愛が増す」性質があったりもするわけで、「映画を観たことで事件を知る→事件を詳しく知ることで映画のことを思い出す」というサイクルを繰り返すほどに、どんどんと映画への愛着が増している気がする。
題材になっている「事件」を知らずに観たからこそ、何度もこの映画のことを思い出して。
何度も映画のことを思い出したからこそ、この映画のあらゆるシーンが僕の中ですごく印象的になって。
結果的にこんなにも心に残る映画になったと言えるのかもしれない。

そんなことを考えながら、これまで観た映画を振り返ってみると、「観る前に予備知識を入れずに観た映画」ほど、後に「大好きな映画」になることが多い気がする。
結局、「初見でよくわからなかったから後から調べてみる→その映画のことを何度も思い返すことになる」というサイクルこそが、大好きな映画を生んでいるのだ。

僕も30代になり、年齢を重ねるほどに保守的になって、「つまらないものを見て時間を無駄にしたくない!」なんてことを考えて、映画を観る前に下調べをしてしまうことが多いんだけど、本当にステキな映画と出会いたければ、ヘタなことはしないで未知の映画へ飛び込むべき。
これからも、なるべくそういう出会いを増やしていきたいもんです。
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さて、だいぶ話がそれてしまったけど、『神々と男たち』の感想に話を戻します。

本作は実話ベースということもあり、序盤~中盤は劇的なことはほとんど起こらず、フランスからあるジェリアに派遣された修道士たちの日常が淡々と描かれる。
これが「退屈」かと思いきや全然そんなことはなくて、「何も起こらない日常」の描き方がとても魅力的。
この魅力っていうのは、きっと、ほぼ無宗教戦争を知らない日本人の僕にとって、修道士の生活があまりに非日常的だからこそ感じるものだろう。
先日、『モンスターズ/地球外生命体』の感想でも書いた「非日常の日常はおもろい」の法則が発動して、「自給自足をしながら定時が来たら歌を歌う」というおっさんたちの不思議な生活のディテールがいちいち魅力的だった。

また、本作のメインテーマともいうべき“ある『決断』”
この「決断」に至る過程が、これまた魅力的。
映像として派手な部分はまったく無いんだけど、繰り返し“話し合い”を続けるだけの映像から、何故か目が離せないのだ。

映画というのは「動画」、つまり「動く画」なので、「動きのあるシーン(アクションシーン)」こそが“映画”の“映像表現”としての最良の表現に思えるけれど、不思議なもので“話し合い”という動きの少ない(もしくは、動きのない)シーンと「映画」の相性ってすごく良いのだ。
(これは、「法廷モノ」の映画が繰り返し作られていることや、「潜水艦モノ」などの閉ざされた空間を舞台に登場人物の会話主体で進行する映画が数多く存在することからも間違いない!)

本作では、本国フランスからの帰還命令が下った修道士たちが、「命令に従いフランスへ帰還する(ともに過ごしてきた住人たちを見捨てる)」べきか、「アルジェリアに留まる(戦争に巻き込まれて死ぬ可能性が高い)」べきかを繰り返し議論し、議論の末に全員一致での“選択”をするんだけど、“静かな画”で描かれる“選択”が、ものすごく印象的だった。

結局、「人間としての尊厳」と「修道士としての使命」に殉じる道として、「留まる」ことを選んだ彼らのもとに原理主義者の一行が現われ、拉致・連行という最悪の結末を迎えることになる。
雪の降りしきる山道の中、連行されていく修道士と連行していく原理主義者たち。
共に無言の彼らを映した長回しの映像で、映画は終わりを迎える。

一行がフレームアウトし、最後の最後に映される「画」は、ただ雪が振り続けるだけの映像。
ヒラヒラと雪がちらついているとはいえ、ほとんど「静止画」に近い一コマなんだけど、その静止画が“極めて印象的な映画の一コマ”になってしまうんだから、改めて「映画って奥が深いよな~」と思うのでした。

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もう一点、この映画の印象的なシーンが、“最後の選択”を終えた後の食事のシーン。
これはおそらく、映画化の際の脚色なんだろうけど、食事の際に「チャイコフスキーの白鳥の湖のレコードを流す」という演出が入る。
「白鳥の湖」の旋律の美しさもさることながら、「王子とオデットが湖に身を投げ、来性で結ばれる」という曲の内容の悲劇性が、これから起こる悲劇を示唆していて、危うい美しさを生み出しているようにも感じられる。
映画の魅力の重要な要素に「音楽」があるなんて今更言うまでもないことだけど、改めて映画における「音楽」の力を思い知らされた。

最後にもう一点。
中盤あたりで修道士メンバー全員で写真を撮るシーンがあって、このシーンにどういう意味があるのかがわからなかったんだけど、実在している修道士たちの集合写真を再現したシーンだったようだ。
おそらく、現地では繰り返し報道されたこの「事件」の象徴的な写真なのだろう。
何気ない日常の一コマに見えて、実は何よりも「後の悲劇」を連想させる演出で、今となっては、この映画に無くてはならないシーンの一つだ。

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<左:映画の中で再現された写真撮影のシーン。 右:実際の集合写真>

というわけで、静かで重く、見終わった後にも息苦しさを引きずるような映画『神々と男たち』。

なかなか気楽に観ることが出来るような映画ではなかったけれど、「美しい画」としての魅力、音楽による脚色の魅力、実話であるが故のエピソードの魅力など、映画を魅力的にする“要素”がふんだんに用いられていて、映画としての魅力の密度がとてつもなく高い作品だった。

内容的にも演出的にも重い映画のため、とても一つの映画を観ただけとは思えないほどの疲労感を覚える映画ではあるんだけど、濃密で息苦しい映画だからこそ、きっと「忘れられない映画」になるのだろう。
なかなか抜け出せないほど気分が落ちる映画ではあるものの、「この映画に出会えてよかった。」そう思える映画なのでした。
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